〈どんな大豆加工品でも含有量80%を維持〉
佐賀大で育種された、高オレイン酸大豆「佐大H01号」の栽培が、佐賀県武雄市で令和2年産から本格的に始まっている。
食品用非遺伝子組み換え大豆で、オレイン酸含有量を80%まで高めたのは、世界で初めて。オレイン酸は血中の悪玉コレステロールを減らし、一方で善玉コレステロールを適正に保つといわれる。「佐大H01号」を使った大豆製品が広がれば、健康な社会づくりに寄与する期待がある。
「佐大H01号」を国内で唯一販売できるのは、九州において食品用大豆取扱量で圧倒的なシェアを誇り、長年佐賀大と取り組んできた森光商店(佐賀県鳥栖市)だ。また、カナダのサプライヤーの強い要望により、同社が種子を提供し、「佐大H01号」とカナダ大豆の遺伝子をかけ合わせた高オレイン酸大豆(非遺伝子組み換え)が、オンタリオ州で栽培されており、その日本向けについては、森光商店が独占的販売店契約を締結した。
「佐大H01号」の開発に成功するまでの長い道のりや、特徴、今後の可能性について、森光商店の橋爪秀敏・常務取締役、江上雄大・食料事業部課長代理に聞いた。
約40年前に、大豆加工品メーカーの要望を受け、たん白値が高く皮切れせず、さらに白目という「オールマイティ大豆」の開発を、佐賀大農学部の高木教授に依頼したことから始まった。その後、脂肪酸組成に特徴のある種子が見つかったと報告を受け、高オレイン酸50%の大豆が育種されたが、「オレイン酸含有量がぶれ、固定化が弱く、商品化には至らなかった」(橋爪常務)とふり返る。佐賀大農学部の穴井教授により、ようやく育種されたのが、今回のオレイン酸80%含有の「佐大H01号」だ。種子の親は、国産大豆の中でも生産量・品質に評価が高い「フクユタカ」と「むらゆたか」で、オレイン酸80%の固定化にも成功した。
農業試験場における3年間の試験栽培を経て、昨年から本格栽培を開始し、佐賀県武雄市の圃場40ヘクタールで作付けした。今年の作付面積は230ヘクタールと、大きく増加。8月の大雨の影響が懸念されるも、収穫量は300tを見込んでいる。橋爪常務は、「体に良く、日持ちも良く、生産者はその特徴を理解してくれて、生産に意欲的だ」と話す。
〈うま味・コク強い、青臭みなく低トランス、広域メーカーにも供給可能〉
「佐大H01号」の特徴については、一般的な大豆のオレイン酸含有量が20%程度であるのに対し、オリーブ油と同等の80%であること。一方で、製造過程で変化してトランス脂肪酸になり、不快臭の要因にもなるリノール酸は8~10%と極めて低い。
佐賀県工業技術センターによる豆乳の食味分析では、フクユタカよりもうま味・コクが強く、酸味や渋みは弱いという良好な結果が得られた。また、メーカーによる加工試験では、豆乳、豆腐、オイル、納豆、きな粉など、どの大豆加工製品においてもオレイン酸含有量は約80%をしっかりキープした。湯葉だけは製造過程で減少するも、一般的な大豆の湯葉と比較すると8倍以上のオレイン酸含有量だった。
実需者の「佐大H01号」への関心は高く、現在は、豆腐プリン、豆乳、豆菓子、大豆コーヒー、大豆餡などが商品化され、主に武雄市内で地産地消されている。高オレイン酸で低糖質なミックス粉などにも適しており、製菓・製パン素材としても注目されている。また、昨今話題の植物肉にも広がる可能性がある。
今年は、武雄市で300t、同社が種子を提供したオンタリオ州では高オレイン酸大豆が1,000t(日本向け)収穫の見込みであり、今後は、佐賀県以外の大豆加工品メーカー、広域メーカー、搾油メーカーにも供給できる土台が整いつつあるという。
しかし、食品ゆえにパッケージに効果をうたうことが難しく、訴求の仕方でメーカーが悩むケースがあるという。江上課長代理は、「当社では、パッケージデザインや表示についてもサポートしている」と話す。加えて、佐賀大医学部では、「佐大H01号」の加工品を使った試験を始めており、好結果が得られれば、トクホや機能性表示の可能性もあると期待を込めている。
〈大豆油糧日報2021年8月25日付〉