農水省がコメ先物本上場申請めぐり堂島商取から「意見聴取」
(画像=農水省がコメ先物本上場申請めぐり堂島商取から「意見聴取」)

農林水産省は8月5日、東京・霞ケ関の同省で、(株)大阪堂島商品取引所(中塚一宏社長)に対する「意見聴取」を実施した。同社によるコメ先物本上場申請を不認可とする方向で、農水省は判断を明らかにしており、これに対し、申請者である同社に「釈明のための証拠の提出と、意見書を受け取る」ための場。したがって論議は一切なかったものの、異例なことに農水省側から質疑が投げかけられ、同社が応じている。意見聴取を終えた農水省は、6日にも認可または不認可を通知する。

「意見聴取」は、大臣官房新事業・食品産業部の長野麻子新事業・食品産業課長が(大臣の名代としての)「主宰者」となって始まった。農水省側の出席者は他に、三浦那帆課長補佐、渡邉泰輔商品取引室長の2氏。堂島商取側は、中塚社長、大房弘憲取締役、馬場優司取締役の3氏。

【(株)大阪堂島商品取引所「意見書」】
〈当方の理解〉
先般受領した「通知」では、意見聴取を行う理由として、「生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であると確認できない」旨が記載されている。また、この点に関する補足説明として、御省担当課より、「本上場の認可審査基準である〈1〉『十分な取引量が見込まれること』〈2〉『生産・流通を円滑にするために必要かつ適当であること』のうち、前者は満たしているが、後者に関しては、当業者の参加数・利用意向の2点が十分でない。意見の聴取では、これらの点について確認したい」旨伝達頂いている。これを踏まえ、当該2点に関する意見を申し上げる。

〈指摘事項に関する意見〉
○コメ取引に参加する生産者数は、試験上場第1期の取引開始(平成23年8月)以降、第5期の現在に至るまで10年間一貫して増加。流通業者数も当初より安定した水準を保持。

(参考)当業者数の推移
(画像=(参考)当業者数の推移)

○市場で実際に建玉を建てるか否かは、時々の相場の状況や各々の事業状況等にも左右されることを踏まえれば、当業者の参加数については、各期(2年間)毎の数字のみを切り出して判断するのではなく、実際の口座開設数も考慮することが適当と言える。

▽この点、コメ先物取引に係る委託者口座数(受託取引参加者からのヒアリング結果集計)は、平成25年時点で2,486口座(うち、当業者は93口座)であったが、足許の令和3年時点では3,609口座(うち、当業者は249口座)と大きく進捗している状況にある。

▽更に、大手商品先物業者における試験上場開始以来の当業者口座数の推移をみれば、その増加傾向はより顕著に表れている。

大手商品先物取引業者におけるコメ先物取引当業者参加数の推移
(画像=大手商品先物取引業者におけるコメ先物取引当業者参加数の推移)

※大手商品先物取引業者から、当業者〔生産者(個人の生産者を含む)・流通業者(集荷・卸業者)〕の試験上場来当業者参加推移(口座を開設し取引を行った者)をヒアリング、集計したもの(毎年度6月末集計)。

○また、足許のコメ先物取引参加者の構成を建玉ベースで確認しても、当業者の割合は相応の割合を占めている。例えば、最も取引のある新潟コシでは、当業者の占める割合が約5割を占める状況となっている。価格変動リスクに備えるための先物市場の活用が、生産・流通に携わる当業者において浸透しつつあると言える。

取引参加者の構成[当業者・非当業者の割合](令和2年3月〜令和3年2月の各月末の平均値)
(画像=取引参加者の構成[当業者・非当業者の割合](令和2年3月〜令和3年2月の各月末の平均値))

○現物受渡しも、取引量に関わらずコンスタントに活用されている。これは、コメ先物取引が販売・仕入れを円滑化するために生産・流通現場でも活用されていることの証左である。

(参考1)取引開始以降のコメ受渡実績
▽令和3年6月末までの実績で30,734tのコメが現に受渡しに供されている。これは、平成29年6月末までの実績13,846tと比較すると2倍以上の積上げ。

(参考2)産地ヒアリング(本年6月実施)での主な意見
▽生産者は現物の販売先として、集荷業者や卸売業者などの流通業者は販売先・仕入先として先物取引を活用。▽清算機能が確立されているため、与信管理を気にせずコメの取引ができることは大きなメリット。

▽播種前に新米価格を先物売りした集荷業者は、先物価格をベースにした現物契約を生産者と締結することで、収穫前に粗利を確定させている。

▽合意早受渡しは、受渡し当事者が合意した内容で受渡しができるため、かなり利便性の高い受渡方法だと思っている。

(参考3)なお、今般の本上場認可申請を巡る意見聴取を前に、コメ産地の大規模生産業者からは、「かねてよりコメ先物取引を活用している。足許では前期よりも取引量も増加しており、今回当然本上場になるものと見越して取り組んできたところであり、今後コメ先物取引が利用できなくなるのは困る。」旨の意見も当社に寄せられているところである。

○また、2年前の御省の自民党農林部会提出資料では、利用意向に関し、下記のとおり記載・評価頂いているところ。こうした状況が当期に急転することは到底考え難く、産地セミナー(2021年6月)では、多くの生産者からの口座開設の要望が寄せられているなど、利用意向はむしろ着実に広がりを見せていると認識している。さらに言えば、上記のコメ先物取引に係る当業者の口座数の増加は、その利用意向の高まりを端的に示すものとも言える。

≪御省の自民党農林部会提出資料(令和元年)での記載≫
▽「利用者を対象とした意見聴取の結果によれば、生産者の8割弱は経営安定上有効と評価し、9割強は今後も利用意向があると回答。」

▽「生産者・流通業者は、販売先又は価格変動リスクの軽減等に先物取引を活用。また、その98%は、先物価格があることで自らの事業等に支障はなかったと回答。」

○市場の基本原理として、市場流動性と取引参加者は、いわば表裏の関係(流動性が増せば取引参加者も増す、取引参加者が増せば流動性も増す)にあることに鑑みれば、市場参加者数など一時点の状況のみを切り出して、その是非を判断することは、必ずしも適当とは言えない。

○なお、足許でも大手業者や単位農協の中には、本上場を機に参加検討を予定している旨の声があるほか、2022年春頃を目途とした当社商品先物の取扱意向を公表されている大手ネット証券においては、2万超の農林水産分野の既存口座保有者(法人・個人)が存在すると承知している。本上場を契機として、より一層の取引参加者の拡充が期待される旨、併せて申し添える。

〈おわりに〉
認可判断には裁量の余地があることは承知しているが、生産者の取引参加は着実に増加、流通業者業数も安定した水準を保持し、現にこれを実需利用する者も相応に存在する。仮に、不認可となれば、現にこれを利用する生産・流通業者の今後の利用の途を閉ざしてしまうのみならず、「日本にはコメ先物取引は不要」とのメッセージを内外に与えることにもなる。こうした点も踏まえた上で、最終的に「生産・流通を円滑にするために必要かつ適当ではない」とご判断されるのであれば、過去10年にわたり、当該市場の運営を担ってきた当社の立場として、「生産・流通を円滑にするために必要かつ適当」と認められる利用者数・利用意向の水準をご教示賜りたい旨、本「意見の聴取」における当社の意見として申し上げたい。

【意見聴取最後の中塚社長発言】
それでは、私からこれまでの意見に加え所感を述べさせていただきます。

これまで10年の長きに亘って試験上場を続けてまいりましたが、この間に賜りました農林水産省のご指導に心より感謝と御礼を申し上げます。本当にどうもありがとうございました。10年一昔といいますと、私自身はこの4月より株式会社化後の代表取締役に就任したわけでありますが、この10年の間の先人関係者のご苦労に思いを馳せるとき、この場でこうやってお話をさせていただくことは誠に感無量であります。

試験上場が始まったのは2011年、東日本大震災より約半年後のことであり、福島第1原発事故の影響による米供給不足の懸念から、買い注文が殺到して東京穀物商品取引所では初値がつかず、波乱の中でのスタートとなりました。その後も様々なことがありましたが、これまでのご指導にまずもって感謝と御礼を申し上げたいと思います。また私どもといたしましては、そのご指導に忠実に従ってきたつもりでございます。この10年の間、米先物取引に対しまして各界・各層より様々なご意見ご指摘をいただいて参りましたが、その背景には米を巡る政策の変遷があり、そのことに触れざるを得ません。

我が国の米は戦後、食糧管理法下において国が決定する価格により、全量買入、売渡が行われてきました。さらにペナルティを伴う強制的な生産調整により、米価の維持が図られてきたのであります。しかしながら、これらの政治運営に伴う膨大な赤字や不公平感の累積の中、1993年の不作とガット・ウルグアイラウンドの合意を契機として、固定価格による国の買入や厳格な流通統制を確保する食糧管理法は廃止をされました。さらに1995年からは食糧法下において、価格は市場に委ねることになっております。また1999年に制定された食料・農業・農村基本法においては、「国が消費者の需要に即した農業生産を推進するために、農産物の価格が需給事情および品質評価を適切に反映して形成されるよう必要な施策を講ずるものとする」と規定されました。これを受けて2002年に発表された「米政策改革大綱」においては、米をとりまく環境の変化に対応し、消費者重視・市場重視の考え方にいたって、需要に即した米づくりの推進を通じて水田農業経営の安定・発展を図ると謳われ、2003年の食糧法改正により、米の流通と価格形成は全面自由化されたのであります。2004年度から、生産調整も面積配分から生産数量目標配分となりました。2018年度からは行政による生産数量目標配分を廃止をされ、産地自ら需要に応じた生産に取り組むようになっております。こうした改革、政策の変遷の流れがあって、米の先物取引もその延長線上にあるものと思いますが、実際には「主食である米の価格は国が安定を図るべき」との考え方と、「市場を活用してあるべき米づくりを進めるべき」との対立する考えが事あるごとに現れて、混乱をもたらしているのでないでしょうか。その有様は、まさに幕末の土佐藩主・山内容堂の「酔えば勤皇、覚めれば佐幕」の如くであります。

大阪堂島商品取引所では、この直近2年間を「米先物の本上場に向けた過去を含む10年の集大成」と位置づけ、意欲的な取引量の目標を掲げ、市場関係者の協力を得て、これを成し遂げてまいりました。同時に生産者を始めとする農業者の皆様に対しましては、セミナー開催や勉強会開催といった従来から継続実施して参りました啓発活動などを通じて、決して先物価格が米関係者にご迷惑をかけるようなものではなく、むしろ価格指標として経営の一助となることを説明し、そうした理解も着実に浸透してきているところであります。すなわち、先物市場で形成された価格は、需給の実態、市場の予測を的確に反映したものであり、米の円滑・公正な取引のために有意義な情報を提供するものであって、特に生産者がマーケットを見ながら自らの経営判断で生産を行うにあたり、先物市場はその基盤の一部を提供し、米政策の方向性に沿ったものとしてご理解いただいているところであります。特に大規模農家や単位農協においては、水田の集約が進もうとするなかでコストを踏まえた経営判断が今まで以上に重視され、先物の利活用に向けた関心が高まってきているのであります。これに対して、米先物の慎重派の唱える声は、10年前の試験上場開始時から一貫して「先物価格が現物取引に悪影響を及ぼす」「価格が乱高下する」といった根拠のない論調に終始しているように見えます。試験上場開始から10年、終ぞ価格の乱高下は見られなかったところです。また、本上場を果たしたあと取引がさらに拡大したとしても、私どもは値幅制限や建玉制限を通じた市場管理上の盤石な諸制度を整えており、万が一、異常事態が発生したとしても、農林水産大臣からこれらの措置や取引停止を命じることができるスキームとなっておりますのはご高承の通りです。

私どもは、先物取引は産業インフラとして意義のある仕組みであり、市場参加いただいている当業者の方々はもとより、取引に参加せずとも先物価格を参照することで利活用されている方々にご理解いただいているものと確信し、本上場の実現によって国の認めた安心感のある市場として認知されることを期待して参りました。また、大手業者や単位農協のなかには「本上場になったらぜひ使ってみたい」と、市場参加の検討を予定している方々もたくさんいらっしゃり、こうした市場参加者の拡充要素は市場流動性の向上を通じて、より使いやすいマーケットへの進化を約束するものと確信いたしております。

また、来年春には国内最大手のネット証券が、私ども大阪堂島商品取引所への接続を表明しており、実現の暁には約600万t高の取引にアクセスできることになります。そのうち、農林漁業関係の口座数、当業者として期待できる口座数は、合計で約2万2,000口座にものぼります。他のネット証券各社とも接続のための交渉を行っているところであります。加えて私どもはこの4月に、経営基盤を強化するため株式会社化し、海外金融法人からの出資も積極的に受け入れました。こうした海外金融法人を通じた海外からの注文発注も期待されるところであり、農産物の輸出振興という国策にも合致するものと確信いたしておるところであります。マーケットの進化が市場価格としての信頼性をさらに高めることに繋がり、将来の米輸出事業の展開と米の産業化実現に必要不可欠なものであることは言うまでもありません。日本の米価格が海外市場で決定されるのではなく、国内市場において形成、発信されるのを担保することがすなわち、米先物市場が確立することは、国内農業の強化に資するのではないでしょうか。

このように米全体像の構築に向けては、試験上場ではなく本上場が必然となることは明白であるものと考えているところでありますが、今回の「米穀の生産及び流通を円滑にするため、必要かつ適当であると確認できない」といった農林水産省のご指摘は全く当たらないものと思います。農林水産省の公表資料にもあります通り、生産者の取引参加は着実に増加しており、流通業者についても試験上場開始当初から安定した水準を保持しております。また申し上げました通り、本上場移行を契機として、なお一層の取引参加者の拡充が期待できるところであり、将来を含めて「全国の生産及び流通を円滑にするために必要かつ適当である」と思います。また「当業者の参加数が少ない」という指摘がありましたが、他の商品先物取引、貴金属や原油などと比較して、米の先物取引ほど当業者が参加している市場はありません。何を根拠に、何と比較して「当業者の参加数が少ない」と指摘されているのか、農林水産省は明らかにするべきであります。加えて「参加者が少ない」と指摘されるのであれば、一体どれほどの参加者数が適当であるのかも明らかにしていただきたい。兼業農家が大層を占める日本の農業において、価格に敏感な米の農業従事者の数は限られていると思いますが、プライスコンシャスな農業従事者の数を、農林水産省は今後、将来を含めてどのように見積もっておられるのか、それに応じてどれほどの参加者が必要であるのか、是非とも明らかにしていただきたのであります。

また昨日、農林水産省が与党の会議に提出した資料を拝見いたしますと「当業者の今期の利用意向は、『活用したい』との回答が減少」との記載がございますが、どのような方を対象に、どのような方式で調査をされたのかを明らかにしていただきたいのであります。公明正大な議論のためにも、是非ともお願い申し上げます。

大阪堂島商品取引所は6月末に3か年の事業計画を公表し、そのなかにおいて「米先物の本上場認可後は、米先物銘柄を全面的に再構築すること」を表明をいたしました。米商品設計の抜本的見直しとして、生産者・当業者と総合的な米市場構築に向けて議論することを掲げ、生産者や集荷・流通・卸そしてJAの皆さんに、より使い勝手の良い市場とするため、積極的に関係者の意見を取り入れて、商品性をゼロから見直すと表明したところであります。併せて、総合的な米市場のイメージとして現物市場との連携も盛り込んでおります。ただし、そのためにはシステム開発を含め、莫大な投資が必要となります。予め期限を区切った試験上場のもとでは取り組むことなどできません。

本日の意見陳述をもって、本上場認可をいただけるものと確信いたしておりますが、万が一認可されない場合には、私ども大阪堂島商品取引所は、断腸の思いではありますが、米先物取引より撤退することとなります。色々と申し上げて参りましたが、食料の需給・安定供給のための施策を否定するものでは全くありません。問題はそれでもなお変動する価格のリスクをどう回避するのか、ということであり、様々な政策と米の先物取引は共存することができるものと思います。10年間の試験上場はそのことを明確に示しているのではないでしょうか。経営リスクと向き合いながら、日々奮闘されている農業従事者から、リスク管理のツールである先物取引を取り上げることのないよう、切にお願いを申し上げます。

「酔えば勤皇、覚めれば佐幕」と揶揄された山内容堂公は、それでも「幕末の四堅候」と呼ばれ、新しい日本の扉を開きました。どうか農林水産省におかれましては、誤りのない判断をいただきますよう、心よりお願いを申し上げ、私の意見とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

〈米麦日報2021年8月6日付〉