【所長たちのホンネ座談会 Part1】独立、承継、職員の一斉退職…所長の苦労を語る
(画像=プロパートナーONLINE)

職員の先頭を走り、自ら道を切り拓いていく所長たち。
「経営者としてのモチベーションは何か?」
「モチベーションが下がったらどうする?」
「所長の仕事とは?」など、
普段は聞けないホンネに迫る座談会を開催。

税理士法人SS総合会計の鈴木宏典氏、
社会保険労務士法人リライエの石田隆利氏、
税理士法人阿比留会計事務所の阿比留一裕氏、
スクエアワン株式会社の石川和司氏の4名が語り合います。

〔司会〕株式会社アックスコンサルティング コンサルタント

独立・事業承継の思い
継ぐか? 独立か?最初の決断のきっかけ

司会 まず、いつ頃から独立しよう、
所長になろうと考えていたかを聞かせてください。

阿比留 私は、小学6年生のときに父が税理士事務所を開業したので、
「継いだらラクができる」と思ったのがきっかけです。
親の助言もあり、「大学4年で公認会計士試験に合格して、
修行を5年してから帰ろう」と、その当時に決めました。
と言っても結局、法人として申告は一緒にしていますが、
実質的には別事務所です。

石川 私の場合、学生時代から資格を取って事務所を開こうと考えていたので、
就職活動もしていません。
結果、試験に合格するのに6年かかってしまいましたが。

石田 私は20歳のときに悪徳不動産会社から痛い目に遭い、
法律に興味を持ったのがきっかけです。
それで、この先10年で10個の国家資格を取って独立しようと決めて、
一番独立しやすそうだった社会保険労務士として開業しました。
顧問契約書のつくり方も知らない状態からのスタートだったのですが、
当時は頼れる人がいなくて、
二代目の経営者をうらやましいと思ったこともあります。

司会 鈴木先生は二代目ですよね。

鈴木 はい。親からは「自分の好きなことをしてほしい」
と言われていましたが、大学が法学部で、
大学院にも行き、やっぱり税理士になろうかな、と。
あと、父の影響はあります。
仕事熱心で、「あれだけ情熱をかけられる仕事ならいいな」と思いました。
また、もともと講師業や教師に憧れていたので
「税理士は経営の先生だよ」という母の言葉も大きかったですね。
実際には領収書ばかりの世界でびっくりしましたけど(笑)。

石川 なかには継ぐのが嫌な方もいらっしゃるのでしょうか?

阿比留 継ぐのは難しいですよね。
私の場合、父の事務所の職員は私が生まれたときから知っている方ばかりで、
一緒に働くのはなかなか難しいなと思って。
それもあり、物理的には分けています。

鈴木 うちは親子でぶつかった経験があるので、
継いだ人の気持ちはよくわかります。
小さなことにこだわりすぎず、潔癖になりすぎないことが大事ですよね。

開業後の苦労
まさかの全員退職…二代目ならではの悩みも

司会 独立後は、大変な苦労もあったのではないでしょうか?

石川 縁もゆかりもない所で開業したので、
「大変だったね」とよく言われますが、
自分とお客様のために100%の力を出せることがすごく楽しくて。
日々良くなっていくだけなので、簡易書留を出す作業も楽しかったですね。
守るべきものが増えた今のほうが、何かと恐怖があるかもしれません。
例えば、開業して5年目の頃、
ある不動産会社による売上げが全体の7割を占めるようになったんです。
1社に依存しているのが怖くて、
別の不動産会社や銀行と取引しようと動いたのですが、
すでに先輩の先生方が固めていて。
そこで、お付き合いの多かった税理士の先生とタイアップする
『会計事務所サポートサービス』を始めました。
私はすぐに調子に乗ってしまうタイプなのですが、
不安や恐怖に直面することで、成長へとつながっているように思います。

司会 石田先生も、ベースがないなかでの独立だと思いますが、
特に苦労した時期はありますか?

石田 仕事は順調に増えていたのですが、
開業3年目のある日、4名いた職員全員が一斉に退職してしまったんです。
退職届を突きつけられて、引き継ぎもなく、パソコンのデータも……。

鈴木 すごいですね……。どうやって乗り切ったんですか?

石田 すぐにハローワークからパートさんを紹介してもらい、
今では記憶がないくらいに働きました。
あまり社労士のいない地域で、私が辞めたらお客様が困ると考え、
「やるしかない」という気持ちです。
事業拡大のために広い事務所に移転を決めた矢先の出来事で、
さみしい日々を過ごしました。

司会 ほかの先生方は、つらいときに
どのように思考を切り替えてこられたのでしょうか?

阿比留 私は開業当初、事業再生やM&A業務だけをするつもりでした。
でも、一人目のスタッフを雇った直後に民主党政権になり、
金融円滑化法が出て事業再生の仕事がゼロになったんです。
このときはきつかったですね。
それで、「まじめにやらなきゃ」と税理士業務へ方針転換して、
美容院と飲食店に特化しました。
もともと、自分じゃなくても良い「その他大勢」になるのが嫌で、
特徴のある存在でいたいという気持ちが強いため、
思い切った方針転換ができたのかもしれません。

鈴木 皆さんは開業という不退転の決意があったと思いますが、
私は決意しきれない、自立しきれない二代目特有の悩みがありました。
「まったく性格の違う父と一緒にやっていけるのか」
「税理士として自分のスタイルをつくりたい」と悩み、
父に反発していた頃が一番つらかったですね。
恵まれているのに感謝できなくて、職員を不安にさせていました。

司会 どのように気持ちを切り替えたんですか?

鈴木 一般社団法人才能心理学協会の北端康良先生に
プロファイリングをしてもらったことで変われました。
自分の思いを理解して、父にきちんと話せるようになったことで、
引き継ぎもしてもらえるようになりました。
結局のところ、二代目で一番重要なのは
〝二代目であることを受け入れて、親の土俵で踊れるか〞だと思います。
某家具会社のように親を公の場で公開処刑するなんてもってのほか。
やっぱり、親に認められないと、高く飛ぶことはできないんですよ。
今では後継者向けの経営塾をやっていますが、そこでもこの話をしています。

Part2へ続く


※月刊プロパートナー2021年5月号より抜粋

プロフィール
鈴木宏典氏
税理士法人SS総合会計 代表税理士
2017年、事業承継により代表に就任。60名超のスタッフを率いる。MAS監査の導入や後継者向け経営塾「経営輝塾」などで顧客を幅広くサポート。パートスタッフ育成にも定評があり、会計事務所向けセミナーでの講演実績も多数。

石田隆利氏
社会保険労務士法人リライエ 代表
20歳からの10年間で社会保険労務士のほか、建築士や土地家屋調査士など10の国家資格を取得。2009年に30歳で社労士事務所を開業。顧問先の従業員向け研修などを提供するほか、「田舎の社会人学校」など地域の発展に貢献するサービスを展開。

阿比留一裕氏
税理士法人阿比留会計事務所 代表社員
税理士・公認会計士。大手監査法人、地方銀行に勤務後、2009年に開業。個人事業の美容業・飲食業に特化し、融資サポート、パッケージ型の税務サービスを展開。小規模事務所でも高い生産性を実現する独自のビジネスモデルを構築。

石川和司氏
スクエアワン株式会社 代表取締役
司法書士・宅地建物取引士。2001年開業。「会計事務所サポートサービス」を開発し、多くの会計事務所と連携。行政書士業務、社労士業務、M&Aアドバイザリー、不動産コンサルティングなど複合的なサービスで幅広いニーズに応えている。
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