12日、経済産業省は「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」報告書を発表、繊維業界に対して人権侵害に関するリスクをサプライチェーンから排除するための指針を急ぎ策定するよう求めた。
製造工程をグローバルサプライチェーンに依存するアパレル産業は、かねてより安全衛生、不当賃金、児童労働、有害化学物質などサプライチェーンに内在する人権侵害や環境リスクに対する責任が問われてきた。今回の報告書もこの文脈の延長線上にあるが、新疆ウイグル自治区の強制労働問題が喫緊の課題として意識されていることは言うまでもない。
一方、報告書は国内の外国人技能実習生や女性就業者に対する不当待遇や不平等の実態も取り上げる。当社発刊の「繊維白書」等を引用しつつ、市場規模が縮小する一方で供給数が増加、過剰在庫と値引き販売が常態化する中でアパレル業界全体が疲弊していったことが問題の背景にあることが示唆される。つまり、“利益がとれない” 業界構造が人権やジェンダーに関するリスクの根底にあると言え、本来であればサプライチェーンの管理者となるべきアパレル企業にそのコストを引き受ける余力がない、ということだ。
要するに問題は構造的な低収益体質にあると言え、すなわち、問われているのは成長戦略である。報告書はサステナビリティ経営の実現に向けて、“大量生産・大量消費を前提とする直線型経済(リニア・エコノミー)から資源価値を最大化し、廃棄量を最小化する循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が求められている” としたうえで、デジタル技術を活用した産業構造改革の必要性を訴える。
異論はないし、個々の企業ベースでみれば既に取り組みも始まっている。ただ、産業全体における資源生産性の劇的な向上は、すなわち生産部門から販売部門に至る業界全体のダウンサイジングを意味する。実現すれば国内の雇用はもちろん途上国経済への影響は不可避だ。
とは言え、だからと言って目の前で起こっている不正義を放置する理由にはならない。新たな価値の連鎖を構築し、健全な成長を実現することが問題の本質だとすれば、サプライチェーンの不健全さの解消はまさにその第一歩であるのだから。
今週の“ひらめき”視点 7.11 – 7.15
代表取締役社長 水越 孝