【特集|withコロナ時代 変わるビジネス】リーダーに問われる力
(画像=GLOBIS知見録)

withコロナ時代、ビジネスはどのように変わるのでしょうか。テーマごとにグロービス経営大学院の教員がオピニオンを紹介します。本記事のテーマは、リーダーシップです。

混迷の時代だからこそ問われるリーダーの「信じる力」
筆者:竹内秀太郎 (グロービス経営大学院 教員)

未曾有の危機の中、経験則は役に立たない。リーダーに求められるのは、むしろ前例に囚われない判断だ。たとえば、どんな時でも仕事優先で有名な日本電産会長兼CEOの永守氏。リーマンショックの際でも「会社のために働こう」と言い続けた永守氏が、今回は「自分と家族を守り、それから会社だ」と言い、過去50年やってきた自身の経営手法を改めようとしている。

前例なき試みの成否は、それを担う仲間によっても左右される。コロナ対応でコールセンター500人の全面在宅化を実現したことで注目されているのがチューリッヒ保険だ。セキュリティ面も考慮した通信機器などを貸与、通常とは異なる手順を覚えてもらうための在宅業務研修を1カ月かけ全オペレーターに実施、自宅での仕事の不安を払拭した。特筆すべきは、コールセンターで働いている人の大半を同社が直接雇用し、オペレーターの健康確保と雇用継続を最重要視していることだ。その背景には、ダイレクト販売専業の同社にとって、顧客との接点を担うオペレーターこそがサービスの根幹を支えているという経営の考えがある。永守氏が「収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする」と言っていることにも通底する。

先が見えないと人々は不安になる。前例のない状況下でも自身の判断を信じ、また仲間の力を信じられるリーダーこそが不安を希望に変えられる。

withコロナの時代のリーダーに問われる2つの要素
筆者:芹沢宗一郎 (グロービス経営大学院 教員)

1)自社の存在意義や社会への価値提供のあり方を再定義せよ

これまで当たり前であった日常や常識がなくなる有事には、自社は社会から何を必要とされているのか?本業でどのような価値貢献ができるのか? その存在意義を突き付けられる。

コロナという有事によって、仕事は会社に行かないと成り立たないといった従来までの常識が一挙に打ち破られ、テレワークが普通にできるようになった。オンライン診療にしてもオンライン教育にしてもしかり。三密という制約のなかで基本欲求を何とか満たしながら生存していくため、われわれは進化するテクノロジーを使い、知恵を働かせればそれを乗り越えられることを知ってしまったのだ。

この一挙にワープして変化した時代の流れは、もう後戻りすることはないだろう。このパラダイムシフトを前提に、リーダーは今後の自社の価値提供のあり方を再定義する必要がある。

2)リーダーの価値観や倫理観がより厳しく問われる

有事や時代の大きな変化点においてリーダーの最も重要な仕事は、先が見えない中で決断することだ。事業継続か休業か? 雇用継続か解雇か? 自粛か経済優先か? 国は損失補填まですべきか否か?などなど。絶対的な正解などないなか、どちらかの選択肢を断たなければならない。そうしたぎりぎりの決断をする際に、リーダーは葛藤し、判断軸となる自らの大事にする価値観や倫理観が厳しく問われ試されることになる。

多くのステークホルダーに影響を与える有事の難しい意思決定だからこそ、万人が納得する解などありえないのだ。その判断に共感する人はリーダーを信頼してついていくし、そうでない人は離反していくだろう。それも含めすべての責任を背負うことがリーダーの決断である。

「存亡の危機」を通過点にする洞察と信念
筆者:鎌田英治 (グロービス経営大学院 教員/知命社中 代表)

コロナ禍は、人々の健康と生命を脅かし、労働とその対価が循環する経済活動をも浸食する。まさに「存亡の危機」だ。

危機時こそ「リーダーとは見られている存在」だ。これはリーダーが認識すべき自己定義であり、脇の甘さ・迂闊な言動から“自爆”してはならない。もう一つの土台は、考動の起点となる「状況認知」だ。「場を読む力」にも通じる。特に、危機時にはリーダーの「状況認知」が巧拙を分ける。これは『ビジョナリー・カンパニー②』にある「厳しい現実を直視する」というコンセプトだ。厳しい状況下で人は、自分に都合の良いように現実を捉える「確証バイアス」に陥りがちだが、ジャレド・ダイアモンドが『危機と人類』で語るように、危機解決には「公正な自己(自社)評価(Honest self-appraisal)」が不可欠なのだ。「悲観論者は全ての好機に困難を見出す。楽観論者は全ての困難に好機を見出す」とチャーチルが両論の重要性を語ったように、事実に向き合う上で複眼的思考やバランス感覚も重要だ。2つの土台、つまりリーダーの基盤に「俯瞰性」や「客観性」が不可欠である。

同時に、意思や想いといった主観も大事にしたい。危機時には、想いを載せた考動こそが人に届く。一言で言えば「より善い社会、明るい未来を創りたい」という想い、それが定まれば、「存亡の危機」であっても乗り越えるべき通過点に過ぎなくなる。限界があるとすれば、それは頭の中に勝手に作られた思い込みに過ぎない。起きている危機を嘆いても事態は変わらないのだから、現実を受け入れ、危機を奇貨と捉え直す。危機の経験は人類を確実に強くする。個人、集団、社会は進化し前進するものだ。これは、リーダーが持つべき信念であり、目指すべき理想だと思う。ただ、理想(ビジョン)を現実にするには、人々を巻き込む力が必要だ。その鍵は、コロナ禍終息後のNewNormal(新常態)が何かに対する洞察だろう。これを考え続けることが、混迷の中で一層重要になる。

危機克服の渦中にあって様々な変化が起きている。例えば私権の問題だ。将来の疫病危機への備えも考えると、私権(移動の自由、個人情報の保護)の制約と全体の協調、国家的介入の在り方を巡る議論は不可避ではないか。また、生命の安全確保と、経済の安定確保の両立という問題にも直面している。社会の自己復元力を根こそぎ奪ってしまっては、社会の安定、ひいては生命の安全を脅かすからだ。更に、SDGsが世界標準の議論となりつつあるが、コロナショックはこの議論を一層加速するだろう。個別(各個人、各企業、各国家)と全体(社会全体、産業全体、世界全体)のバランスのとり方、協調の在り方、相反する考え方をどう昇華するのか。そのことを考え続け、新しい枠組み、新しい原理原則を打ち出す思考が、これからのリーダーには求められている。

(執筆者:竹内 秀太郎・芹沢 宗一郎・鎌田 英治)GLOBIS知見録はこちら