政府の方針で労働時間が短縮される中、タイムマネジメントの重要性が増している。タイムマネジメントは単なる時間管理ではなく、業務の進め方を工夫して生産性を高める手法だ。どのような施策が望ましいのか、本記事では最適化のためのポイントを紹介する。
目次
タイムマネジメントとは生産性を高めること
タイムマネジメントとは、業務への意識を変えて生産性を高めることだ。簡単に言い換えると、これまで1時間でこなしていた業務量を、工夫やスキルによって2倍や3倍に増やす施策を意味する。
直訳では「時間の管理」だが、業務に費やせる時間は平等かつ限られている。そもそも時間自体は管理できないため、タイムマネジメントでは「業務のやり方・進め方」を変えることになる。
なお、納品などの予定に合わせて時間を調整することは、一般的に「スケジュール管理」と呼ばれる。
タイムマネジメントの重要性
タイムマネジメントが重視される背景には、「情報技術の発展」と「労働時間の短縮」がある。
さまざまな情報技術が発展したことで、従業員ひとり一人がこなす業務には変化が生じている。顧客対応と同時にデータを入力したり、専用の端末で在庫管理や発注をしたりなど、当然のようにマルチタスクをこなすようになった。マルチタスクは効率的な方法に見えるが、あまりにも作業プロセスが複雑化すると、現場が混乱してしまう場合もある。
また、2005年に「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」が成立して以来、政府はさまざまな業界で労働時間の短縮を図っている。労働時間が減ると従業員の負担は軽くなるが、企業にとっては労働力の損失につながるだろう。
参考:厚生労働省「労働時間等の設定の改善」
情報技術の発展と労働時間の短縮は、今後もあらゆる業界で進むことが予想される。特に人材を雇用する余裕がない企業にとって、タイムマネジメントの改善は喫緊の課題ともいえる。
タイムマネジメントを最適化する方法
タイムマネジメントを改善するには、会社でどのような施策を進めればよいだろうか。ここからは、タイムマネジメントを最適化する5つの方法を解説しよう。
1.目標設定を正しく行う
施策の方向性を誤らないために、まずは目標設定を正しく行う必要がある。「なぜタイムマネジメントをするのか」が明確になっていないと、優先順位の低いタスクに力を入れたり、効率を求めて質が低下したりなどの弊害が生じるためだ。
タイムマネジメントの改善はあくまで手段であり、ゴールとなる目標は別の部分にある。目標の例としては、たとえば「1人あたりの作業量を30%減らす」「人材コストを20%削減する」などがある。
チームや部署で業務を行う場合も、組織単位で明確な目標を設定しておきたい。目標にはできるだけ数値を盛り込み、関係者全員がイメージしやすいように工夫しよう。
2.優先順位の高いタスクにリミットを設定する
優先度の高いタスクにタイムリミット(時間制限)を設定すると、作業全体の品質と効率を上げる効果が期待できる。
多くの場合、従業員がこなすマルチタスクには優先順位がある。たとえば、コンバージョン(売上)につながる商談用の資料と、社内イベントに関する資料の作成では、明らかに優先順位が異なるはずだ。
しかし、単にマルチタスクを与えるだけでは、こなしやすい業務から手をつける従業員もいるだろう。本来であれば品質が求められる作業や、スケジュールの差し迫った作業などを優先しなければならない。
このような時間の使い方ができる仕組みを整えるだけで、タイムマネジメントは改善される場合がある。
3.特に優先度が高い場合はタイムブロッキングをする
タイムブロッキングとは、特定のタスクに割く時間を確保するために、ほかの業務を一定期間ブロックすることである。ブロックされている期間はひとつのタスクに集中できるため、うまく活用すれば業務の質を高められる。
従業員の全タスクを管理することは難しいが、タイムブロッキングは対象のタスクとリミットの設定だけで行える。
4.勤務時間を従業員に決めさせる
フレックスタイム制など、勤務時間を従業員に決めさせる方法もタイムマネジメントの改善につながる。脳や身体の働きが最も活性化する「ピークタイム」は、個々の従業員によって異なるためだ。
ピークタイムに合わせて勤務時間を選べるようになると、従業員はより集中しやすくなり、ストレスも軽減されることが予想される。ただし、チームとしての稼働が求められる業務もあるため、フレックスタイム制などの導入範囲は慎重に検討したい。
タイムマネジメントを行う5つのステップ
実際にタイムマネジメントを行う場合、どのようなプロセスを経るべきだろうか。筆者は、以下の5つのステップを踏むことをおすすめしている。
1.目標設定
タイムマネジメントの最初のステップは目標設定だ。目標設定をせずに「効果的な」タイムマネジメントを行うことは困難である。目標を設定しその実現のためのタスクを考えスケジューリングするのが基本だ。目標が設定されていないと、そもそもタスクを何のために行うのか分からなくなり、いたずらに時間を浪費してしまうことになりかねない。
目標は、自分の仕事やキャリアに直結する傾向のため、戦略的な目標と戦術的な目標を設定するのが賢明だろう。戦略的な目標の例を挙げれば、「1年後に顧客の数を倍にする」「売上を倍にする」といったものがある。戦術的な目標ならば、「ウェブサイトへのアクセスを25%以上増加させる」など週ごとや月ごとに設定してもいいだろう。
目標設定のステップでは、「SMARTの法則」と呼ばれるフレームワークを活用する方法もある。
Specific(明確性):第三者が見てもゴールをイメージできるか
Measurable(計量性):計測可能な数値が盛りこまれているか
Assignable(割当):それぞれの従業員に割り振れるタスクか
Realistic(実現性):実現できるリソースや時間はあるか
Time-bound(期限):いつまでに達成するか
目標が具体性に欠ける場合は、上記の要素を書きだして整理してみよう。
2.タスクのリスト化
次のステップは、タスクのリスト化である。戦略的な目標と戦術的な目標を実現させるためにやるべきことをリストアップするイメージだ。上の例でいえば「集客用のブログを立ち上げて運営する」「ホワイトペーパーを作る」「セミナーを開催する」など、考えられるタスクをできるだけ具体的に書きだしていく。
タスクの洗いだしでは、業務をツリー上に分解する「ロジックツリー」と呼ばれるフレームワークが役に立つ。たとえば、「顧客との商談」というタスクは、「資料の作成」と「営業トークの準備」に分解でき、「資料の作成」はさらに「データ収集」「顧客へのヒアリング」などに分けられる。
業務の理解にもつながるため、社内教育などにロジックツリーを導入してみよう。
3.タスクの優先順位付け
3つ目のステップは、タスクの優先順位付けだ。緊急性などを見てランキングにするのもいいが筆者はアイゼンハワー・マトリックスを使うことをおすすめしている。アイゼンハワー・マトリックスとは、アイゼンハワー米国大統領が在職中に使っていたとされるマトリックスで以下の4つのカテゴリーで構成されている。
- ①Do First:最も緊急性が高く、今すぐやらなければならないタスク
- ②スケジュール:今すぐやる必要はないが、スケジュールに記載していつか行うタスク
- ③アサイン:緊急性は高いが、あなた自身がやる必要がなく誰かにアサインできるタスク
- ④拒否:緊急性もなく、重要でもない、拒否または軽減しても構わないタスク。あるいは仕事が終わったらやる趣味など
ここでのポイントは、④拒否のカテゴリーにできるかぎり多くのタスクを入れ、できるだけ無駄な仕事をしないこと。なぜならタイムマネジメントの要諦は、「いかに有用なことに時間を使うか」にかかっており、無駄なことに時間を浪費しないことだからだ。各カテゴリーに分類したタスクは、それぞれに優先順位をつけておき毎日アップデートできるようにしておくといいだろう。
4.スケジューリング
タスクの優先順位付けが終わった後は、スケジューリングを行う。無地のカレンダーやスプレッドシート、後述する専用ツールを使ってもいいだろう。
- ①Do Firstのカテゴリーから記入
- ②スケジュール、③アサインと続けて記入する
- ④拒否のタスクは記入してもしなくてもどちらでもいい
ここでのポイントは、①Do Firstのタスクで優先順位の高いタスクは、できるかぎり自分の「ピークタイム」にスケジュールすることだ。なお「ピークタイム」については次章で説明する。
5.評価と見直し
タイムマネジメントの最後のステップは評価と見直し。いずれも日、週、月の終わりの段階で行い戦略目標や戦術目標の変更なども行う。タスクが実行できなかったときなども記録しその原因などをメモしておくといいだろう。このプロセスを重ねることでタイムマネジメントの質が向上しアウトプットやスループットも改善してくる。
タイムマネジメントを成功させるポイント
ここからはタイムマネジメントを成功させるポイントや、必要な準備について解説する。
10分以上かかるタスクを見える化する
全従業員のタスクをすべて洗いだすと、それだけで膨大な手間がかかってしまう。一方で、重要なタスクの見落としも避ける必要があるので、目安としては「10分以上かかるタスク」に絞って見える化を進めたい。
タスクの見える化とは、ひとり一人が任されている業務を文字などで可視化することだ。第三者が見てもわかるようにしておくと、急なスケジュール変更にも対応しやすくなる。見える化したタスクはカレンダーなどに書き込み、チーム全体で共有しておこう。
休憩でタスクを区切る
タスクとタスクの間に休憩を入れると、脳を休ませたりアイデアを考えたりする時間が生まれる。また、業務と向き合う時間を作ることで、内発的動機づけ(※)によるモチベーションアップも期待できる。
(※)「キャリアアップをしたい」など、内面から自発的に業務への意欲をだすこと。外発的動機づけ(報酬や罰則など)に比べると、モチベーションが維持しやすいとされている。
タスクの業務量が多い場合は、30分刻みのように時間で区切る方法も有効だ。また、短い休憩だけでは脳が休まらないこともあるため、業務量に応じて休憩時間も調整したい。
整理整頓する
自分のデスクやオフィスを整理整頓することも重要なポイントだ。デスクやオフィスが散らかっていると書類などを探す時間が増え時間の浪費につながる。デスク以外にもパソコンのデスクトップなども整理整頓しファイルなどがすぐに見つかるようにしておくといいだろう。
タイムマネジメントに便利なツール3選
最後にタイムマネジメントツールを3つ紹介する。
Backlog
https://backlog.com/ja/
契約者数が1万を超える国産のタイムマネジメントツール。「誰が」「何を」「いつまでに」するのか設定でき、タスク管理が非常に簡単にできる。カンバンやガントチャートなどでプロジェクト管理も可能だ。Windows、MaCOSに加え各種のスマートフォンにも対応している。
Clock it!
https://clock-it.com/
タスク管理とタイムマネジメントを同時に行えるタイムマネジメントツール。リストアップしたタスクに関して「作業にかかった時間」と「実際にかかった工数」をストップウォッチで計測できる。またタスクに見積時間を登録でき、タスクの進捗状況から推定残り作業時間を割り出す機能も付いている点は魅力だ。
Trello
https://trello.com/
コラボレーション、プロジェクト管理に強いタイムマネジメントツール。チームメンバーのタイムマネジメントをする際に効果を発揮する。非常に分かりやすいユーザーインターフェースで初めての人でもすぐに利用できる点はメリットだ。
適切なタイムマネジメントで生産性の向上を
適切なタイムマネジメントの実施は従業員の生産性を向上させ、モラルとモチベーションを高めることにつながるだろう。特に上述したようなリモートワークや在宅ワークの環境下においてはより効果が期待できる。
新型コロナウィルスのパンデミック収束後もこうしたワークスタイルがある程度一般化していく可能性は高い。タイムマネジメントも同様にある程度一般的になってくることが予測できる。
- 1日24時間をどう使い、何のバリューを生み出すのか
- どのような戦略的および戦術的目標を設定し、実現させるのか
今一度、考えてみよう。
文・前田健二(ダリコーポレーション ライター)