ミャンマー情勢が懸念される。軍事クーデターから130日余り、市民に対する残虐行為は止むことなく、経済活動も低迷したままだ。
大規模な抗議デモは押さえ込まれた。しかし、抵抗は続く。民主派が「統一政府」の設立を宣言、少数民族と連携し “国民防衛隊” を発足させると声明したのが4月16日、軍事政権は直ちにこれをテロ組織と認定、以後、少数民族の勢力地域を中心に軍事攻勢を強める。国軍と民主派の対立はもはや「内戦」の体を帯びつつある。
一方、政権の “既成事実化” を急ぎたい国軍と域内の不安定化を懸念するASEANが接近する。6月4日、議長国ブルネイの代表が国軍司令官を訪問、7日に重慶で開催された外相会議も国軍が任命したワナ・マウン・ルゥイン氏を “外相” として受け入れた。これに対して「統一政府」は軍事政権を追認するものとしてASEANを非難、対立の図式は少数民族問題や国際社会を巻き込みつつ複雑化しつつある。
こうした中、軍事政権は国民に対する監視体制の強化、徹底をはかる。通信の傍受、遮断はもちろん、市井の協力者たちを組織化、民主派の動きを探り、摘発を促す。
筆者は公開中の映画「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」(アンドレアス・ドレーゼン監督)を観た。主人公は “東ドイツのボブ・ディラン” と呼ばれたミュージシャン、炭鉱労働者として働きながらバンドを率いて歌う。しかし、彼にはもう一つの顔があった。秘密警察 “シュタージ” の協力者として、反体制思想を持つ者を探り、密告する。そして、そんな彼もまた仲間からスパイされていた、、、。
独裁や強権を志向する政治がもたらす社会は常にこうなる。批判、反論、異説は封じられ、ねじ曲げられ、隠蔽され、排除される。
8日、衆議院本会議はミャンマーの軍事政権に対して、「暴力の停止、スー・チー氏を含む政治犯の解放、民主制の回復」を求める決議を採択、そのうえで政府に対してあらゆる外交的資源を使って問題の解決をはかるよう要請した。
これを受けて政府も「国際社会と連携しつつ、ミャンマー側に働きかけてゆく」と応じた。ただ、“国際社会との連携” の本意が “様子見” や “横並び” であっては残念だ。期待したいのは国際社会をリードする主体的な “働きかけ” であり、かつ「軍事政権の正統性は認めない」との毅然とした姿勢である。
今週の“ひらめき”視点 6.6 – 6.10
代表取締役社長 水越 孝