イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

原宿、渋谷、新宿…若者熱狂の都心型店舗

スウェーデン生まれの家具チェーン、イケアが今、大きく変わりつつある。これまでは郊外を中心に展開してきたが、去年から都心の一等地に進出しているのだ。

原宿駅の目の前のIKEA原宿で目立つのが若者たち。お目当てはオリジナルの雑貨だ。

カップルが手にしたのは手のひらサイズの置き時計(299円)。安いだけではない。回転させると温度が表示。タイマーやアラームにもなる1台4役のすぐれものだ。

売れ筋ベスト3を見てみると、第3位は大きなサメのぬいぐるみ「ブローハイ」(1999円)。4年前の発売以来、日本で30万個が売れた大ヒット商品だ。人気の理由はインスタグラムなどのSNS。同じサメのぬいぐるみで面白写真を競い合う現象が広がった。

2位はかわいい模様のついたジッパー付きの「フリーザーバッグ」(299円/50枚入り)。種類も豊富でサイズやガラ違いなど20種類が売られている。

そして1位は原宿店・限定のエコバッグ「スルキス」(129円)。確かに店の周辺を見てみると、この白いバッグを持った人があちこちを闊歩している。

都心型店舗で扱う商品は雑貨を中心におよそ1000種類。そのほぼ全てがオリジナル。地方から来た若者にとっても、イケアはちょうど手が届く憧れの店なのだ。

これまでのイケアは、郊外の駅から離れた場所に巨大店舗を構え、大きな家具も客が自分で持ち帰る販売スタイル。必然的に客層は車を持っているファミリー層が中心だった。

2006年の日本上陸以来、こうした店を全国に9店舗作ってきたが、去年、新路線を打ち出す。6月に原宿、11月に渋谷、そして今年5月には新宿と、東京の中心に3店舗をオープンさせた。都心型イケアの2店舗目となったIKEA渋谷は駅前のスクランブル交差点から目と鼻の先の繁華街にある7階建て。IKEA新宿は5月1日、緊急事態宣言の中でオープン。入場制限もあったが、大勢の客が訪れた。

都心型店舗を仕掛けたのはイケア・ジャパン社長のヘレン・フォン・ライス。都心の一等地を攻め始めた理由を「イケアは郊外にあるので、これまで都心に住んでいる人には気軽に来てもらうことができませんでした。そうしたお客さま、特に若い人にたくさん来てもらいたいと思ったんです」と語る。だから従来の郊外型とは店作りも変えている。

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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スウェーデンコンビニ&おひとりさま仕様

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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都心型イケアの特徴1。

IKEA原宿の雑貨売り場の横には、おいしそうな香りが広がるコーナーが。店内で焼き上げたパンやスイーツが並んでいる。イケアカラーの「イケアドーナツ」(149円)の青い部分はソーダ味。「北欧風ブルーベリーデニッシュ」(180円)はスパイスのカルダモンが効いている。売り場の一番人気はスウェーデン生まれの「シナモンロール」(100円)だ。

このフロアの名称は「スウェーデンコンビニ」。日本のコンビニを参考に生活全般の商品をそろえた。スイーツだけでなく飲料のコーナーもある。

カラフルな缶はスウェーデンの缶ビールだ。赤いのは、コケモモを使った甘酸っぱいクラフトビール「オムニポロ」(450円)。スウェーデンのビール会社から取り寄せている。他にもブルーベリーやローズヒップなど、北欧らしいフレーバーが4種類。このビールを日本で買えるのはイケアだけだ。

さらに原宿店の2階はカフェになっていて、スウェーデンの伝統料理が味わえる。

都心型店舗だけの限定料理は「ツンブロードサーモン」(500円)。クレープのような生地にタルタルソースを塗り、レタスなどの野菜とスウェーデン名物のサーモンのマリネをくるめば出来上がり。小麦やライ麦の薄いパンとサーモンマリネのコンビで北欧にいざなう、イケアらしいファストフードだ。

手頃な北欧グルメを目当てに来店する客もいる。こうして買い物客以外も呼び寄せているのだ。

都心型イケアの特徴2。

従来の郊外型イケアの家具売り場は、部屋を模したディスプレーになっている。部屋ごとにテイストを変えた家具が置かれ、よその家を訪ねた気分で見て回れる。ファミリー向けの2LDKや3DKのディスプレーだ。

一方、都心型イケアにも部屋のディスプレーはあるが、随分とコンパクト。若者の一人暮らしを想定しているので、ワンルームマンションや6畳のアパートのイメージだ。部屋の入り口には「この部屋の家具、全部でなんと3万7000円以下」というキャッチコピーがついていた。

どれも狭い空間を生かす家具ばかりだが、その方向性には裏付けがある。

「実際に都会に住んでいる人の家を訪ね、問題点を調査してきました。そこから都会では何が必要かを分析し、その暮らしに合わせた商品をそろえているんです」(ヘレン)

ヘレンは都心型店舗と同時に、これまではなかった日本仕様の商品も開発した。例えばワゴン「ロースコグ」(4999円)。世界中で売られている通常サイズに比べて、日本仕様のワゴンは二回り小さい。

「通常サイズは日本の部屋には大き過ぎます。小さくすれば場所を選ばず、テーブルの下にもしまえます」(ヘレン)

日本には日本の住宅事情があると、商品サイズを見直し、狭い部屋にフィットする家具を再設計した。全体のおよそ2割はこうした日本仕様の家具だ。

こうしたさまざまな仕掛けで、今までイケアには来ていなかった若者の呼び込みに成功。去年はコロナの中でも売り上げを伸ばし、過去最高となる867億円を叩き出した。

「まだイケアを知らない若者は大勢います。彼らは郊外にある店までなぜわざわざ行くのか、分からないのです。でもここに来れば、イケアが生活に根ざしたブランドだと感じてもらえるはずです」(ヘレン)

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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CEOが日本で迷子?~都心型店舗誕生秘話

都心型イケアにはもう一つ大きな特徴がある。それは「家具を店舗で買わない」。オンラインストア、つまりネットで買うのだ。

従来の郊外型イケアにはセルフサービスエリアと呼ばれる倉庫があり、客は天井に届くほど高く積まれた在庫の中から、商品番号で欲しい家具をピックアップしてレジまで運ぶというスタイルだった。一方、都心型イケアの店舗は「家具を選ぶショールーム」となっているのだ。

買い方は、まず値札のQRコードをスマートフォンで読みとる。すると、商品の販売ページが表示される。そこに名前や住所、クレジットカードの番号などを打ち込めば手続き完了。後日、自宅に商品が届けられる(配送料5300円/メインエリアのみ)。

「都心で暮らす若者の多くが、想像以上に狭いスペースで生活しています。だからこそ、狭い空間を有効活用できる家具の提案が重要になるんです」(ヘレン)

都会の暮らしを徹底的に調べ上げ、そこに暮らす人に寄り添う店を作ったヘレン。実は都心型店舗の誕生の影に、知恵を絞った驚きの攻防があった。

スウェーデン人のヘレンは、中国・深センの店長やアメリカ法人の副社長など、海外でキャリアを積み重ね、2016年に来日、日本法人の社長となった。

しかし、この頃のイケアは低迷期。それまで売り上げを堅実に伸ばしていたのだが、2016年、初めて減少に転じると、その翌年も下降。この傾向は日本のみならず、世界中のイケアで見られた。原因はネット通販の台頭。手軽な購入法が広がり、実店舗の売り上げを脅かし始めていた。

そこでヘレンが考えたのが都心型店舗。オンラインの売り上げにつなげようとしたのだ。 毎月開かれていたスウェーデンの本部とのリモート会議で、構想を提案した。グローバルに展開するイケアのトップ、インカ・グループのジェスパー・ブローディンCEOに直接訴えたのだ。

だが、遠く離れたスウェーデンに日本の事情は伝わらず、「都心? 船橋に店があるじゃないか。都心も船橋も変わらないだろう」と、ヘレンの提案は通らなかった。

「都心に店舗が必要だという説得の材料が足りなかったんです」(ヘレン)

ヘレンは思い切った手を打つ。CEOを日本まで呼び寄せたのだ。そして乗せたのが、通勤ラッシュで混み合う朝の山手線だった。あまりの混雑から、降りた駅でCEOが迷子になってしまうほど。「これが東京なんだな。君の言いたかったことがやっと分かったよ」と、都心型店舗のゴーサインを取り付けたのだ。

「今でも忘れないわ。金曜の夜、自宅で知らせを聞いた時は思わず『イエス!』と叫んだの」(ヘレン)

イケアの都心型店舗1号店は、東京ではなくスペインのマドリードに生まれ、大成功。日本初の都心型店舗がオープンしたのはそれから2年後のことだった。都心型店舗はその後も広がっており、現在は4カ国で8店舗を展開。ヘレンのアイデアが世界のイケアを変えている。

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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うらやましい働き方~全従業員が正社員

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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イケアは1943年、スウェーデンで創業。創業者のイングヴァル・カンプラードが掲げた経営理念は「より快適な毎日を、より多くの方々に」だった。この言葉は客だけでなく、従業員にも向けられている。

創業者の理念は今に受け継がれる。イケアは7年前にパートやアルバイトを撤廃し、全従業員を正社員化。全員が同じ給与体系で働ける環境をつくった。正社員はフルタイムと働く時間を選べる短時間正社員の2種類がある。

IKEA港北の物流チームのリーダー、佐藤真紀は4年前に入社した。入社した時は子どもが小さかったため、融通がきく短時間正社員を選び、育児をしながら勤務。去年、子どもを保育園に預けられるようになると、フルタイムの勤務に変えた。入社4年だが、今では管理職。去年、立候補して採用された。

異動や昇進は立候補制。イケアでは、世界中で管理職の空き状況を確認でき、募集があれば誰でも手を挙げることができる。働き方も、昇進のチャンスも平等なのだ。

従業員全員を正社員にして良かったことについて、ヘレンはスタジオでこう語っている。

「最大の成果は離職率が40%も減ったことです。長く働いてくれる人が増えて、商品知識が豊かになり、接客が向上しました」

また、立候補制がうまくいく理由については、次のように語る。

「誰でも自分の才能を発揮をする機会を求めています。そして会社に貢献したいとも思っています。そうした人がどんな仕事に向いているかを、たった一人の上司が判断するなんてナンセンスです。それぞれの才能を伸ばせると信じ、その機会を与えるのが会社なんです」

※価格は放送時の金額です。

イケア・ジャパン代表取締役社長・ヘレン・フォン・ライス,カンブリア宮殿
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~村上龍の編集後記~

「理念」こそが、イケアの強さだ。採用面接では職歴・学歴は問われない。どんなに偉くても「偉い人オーラがない」すべてファーストネームで呼び合う。 スーツ、タイの着用は禁止。すべて飛行機はエコノミークラス。世界のマネージャーの半数は女性。日本でも女性登用が目立つ。都心型でも基本は変わらない。わたしはイケアの創業者の故郷に思いを馳せる。痩せた土壌、質素な暮らし、限られた資源を有効に使う。すべて今のイケアに通じるものがある。

<出演者略歴>
ヘレン・フォン・ライス 1969年、スウェーデン・マルメ生まれ。1998年、IKEA Communications入社。2007年、同社執行役員就任。2011年、中国・深センのストアマネージャーに就任。2013年、アメリカ法人副社長就任。2016年、イケア・ジャパン代表取締役社長に就任。

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