矢野経済研究所
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2021年6月
理事研究員 相原光一

飲料のパッケージとなるPETボトルやガラスびんには、「キャップ」が当たり前に付いている。アルミ缶はプルタブ式が主体であるが、PETボトルへの需要シフトが続いたこともあり、現在はコーヒー飲料などでキャップ付きのアルミ缶が用いられるようになった。
キャップのない容器として、いわゆる「紙パック」がある(以下、矢野経済研究所の呼称として「紙カートン」「紙容器」と呼ぶことにする)。紙カートンは牛乳・加工乳のスタンダード容器であるほか、ヨーグルトなどの発酵乳、果汁系飲料等に採用されている。最近でこそ、これらの中味の飲料においてキャップの採用が増えているが、ここで起きているビジネスモデルの変化について述べたい。
なお、紙カートン入りアルコール飲料には古くからキャップが付いている。日本酒や焼酎などのアルコール飲料では長期保存や風味保持等でバリア性が求められるため、紙カートンの内側にはアルミ箔をはじめとするバリアフィルムが用いられている。同紙カートンは内容物の保護のため高い密封性を有しており、通常の紙カートンのように屋根部から開封することはできない。消費者の利便性向上も含め、紙カートン入りアルコール飲料ではキャップの付与が定着している。以後の記述はアルコール飲料向けを除く紙カートンについて述べることとする。

紙カートンにおけるビジネスモデルの変化は2010年以降から2度あった。ひとつめはドリンクヨーグルト向けで、もうひとつは牛乳・加工乳向けである。
以前からドリンクヨーグルトは「明治ブルガリアのむヨーグルト」が一強で、高いブランド力を誇ってきた。当時の紙カートンはキャップの付いていないタイプであったが、明治では2012年に「明治ブルガリアのむヨーグルト」シリーズにおいて、従来の屋根型容器からキャップ付きのボトル型紙容器「テトラトップ」(TT)の採用に切り替えた。2012年4月に200ml容量のTTが採用され需要が急増、2013年9月に1L容量、同年12月には480ml容量でも採用されるなど、容量バリエーション展開が進んだ。
紙カートン業界のビジネスモデルは、紙カートン、充填機、メンテナンスの三位一体型の展開が主流であるが、なかには紙カートンのみの専業メーカーもある。通常の屋根型容器の場合、飲料メーカーやパッカーの使用する充填機に適合すれば、紙カートンはどのようなメーカーのものでも問題ない。しかし、「明治ブルガリアのむヨーグルト」の場合は専用となるTTとなるため、他の紙カートンメーカーは供給できない。さらに、「ドリンクヨーグルト=TT」というイメージが強固になったこともあり、他の乳業メーカーもドリンクヨーグルトでTTの採用に切り替えている。

さらに、明治は牛乳類市場トップシェアである「明治おいしい牛乳」ブランドにおいて、2016年9月から「テトラブリック・ウルトラ・エッジ」(TBUE)を使用した「明治おいしい牛乳(900ml)」を九州で発売を開始、その後は2017年3月に関西と中四国、同年10月に中部、同年11月には関東にまでTBUEの採用を広げた。東北及び北海道は2018年3月に切り替わり、これにより全国的に「明治おいしい牛乳(900ml)」のパッケージはTBUEに統一された。2019年4月には「明治おいしい低脂肪乳(900ml)」「明治おいしいミルクカルシウム(900ml)」のラインナップが追加されたことで、「明治おいしい牛乳」シリーズの「顔」はTBUEに統一された。
2020年1月にはTBUEを使用した「明治おいしい牛乳(450ml)」が中国、四国、九州地区で先行発売、同年9月には北海道、東北、関東地区でも発売となり全国展開となったほか、同月には「明治おいしい低脂肪乳(450ml)」もTBUEの採用に切り替わっている。
これまで明治の牛乳・加工乳では複数企業の紙カートンが採用されてきたが、これによりオセロゲームのごとくTBUEに切り替わっている。

ドリンクヨーグルトにおけるTTの採用では、他の紙カートンメーカーにはそれほど動きがなかった。しかし、牛乳・加工乳といったマスマーケットにおいてキャップが採用された影響は大きい。赤字ビジネスである牛乳・加工乳において、「乳業メーカーが設備投資額の大きいキャップ付き紙カートンの導入に踏み切るとは考えられない」としていた時代がほんの10年前のこととは思えない。これを受けてなのかは不明であるが、国内紙カートンメーカーは2016年に入り海外メーカーとの連携を相次いで発表、デザイン性に優れた新型容器の展開が本格的に始まっている。

「たかがキャップが付いただけですよ?」とある紙カートンメーカーは言った。しかし、キャップが付いたことによって、他の紙カートンメーカーが足を踏み込むことができない紙カートン及び充填機の独占販売が可能となった。紙カートンは完成された容器であり、主なユーザーである乳業メーカーは設備投資の余力がないため変化はそれほど見込めないとも言われてきたが、こうしたオールドビジネスであってもやり方によってはゲームチェンジが起きる可能性があることを示唆している。
なお、紙カートンは脱プラの受け皿としての期待のほか、乳業メーカーにおける牛乳・加工乳事業の単独黒字化などの話題もあるが、いつか機会があればこの点についても触れたい。