鉄コーティング種籾を播くドローン
(画像=鉄コーティング種籾を播くドローン)

(株)神明(藤尾益雄社長)らは5月21日、山口県萩市内の圃場で、鉄コーティング種籾のドローンによる直播を実施した。

空中から播かれたのは大粒・多収で業務用適性が高い品種「大粒ダイヤ」で、神明が種籾の権利を独占的に持っている。視察に訪れた山口県農協は「県内初の試みで我々も楽しみにしている。営農センターと協力しつつ、県内生産者に情報提供していきたい」と期待を込め、神明担当者も「慎重に検証を重ねながら、もしも技術の効果が確認できれば、大粒ダイヤの普及と並行しながら他産地にも提案・横展開していきたい」と意欲を見せた。

前日の大雨から一転、萩市下小川の山間に位置する(農)本郷原(美原喜大理事)の水を湛えた圃場は、青空をバックに飛ぶ1機のドローンを映し出していた。ドローンの下部タンクから散布されているのは、鉄粉をコーティングした「大粒ダイヤ」の種籾だ。

散布した、鉄粉コーティング「大粒ダイヤ」の種籾
(画像=散布した、鉄粉コーティング「大粒ダイヤ」の種籾)

鉄粉でコーティングした種籾は水に沈み、鳥などに食べられる鳥獣害リスクも極めて低い上に、鉄の殺菌効果によって減農薬にも繋がる。しかし一般的な直播の場合、播いた種籾は土壌の表面に留まるため、根の張りが弱く倒伏しやすい(収量減)などのデメリットがある。そこで実証対象として白羽の矢が立ったのが、耐倒伏性の高い大粒ダイヤだった。

鉄コーティングをしたのは種苗会社・ピーエスピー(株)(山口県下関市、重岡伸一社長)だ。神明とともに山口県内で大粒ダイヤの普及を目指しており、県内酒蔵が作った大粒ダイヤの日本酒「薬師」「美橋」などを販売してもいる。もともと、花きなどの分野で鉄コーティングのノウハウを持っており、今回は、JFEスチール(株)が開発した鉄コーティング用鉄粉資材「粉美人」を代理店のキンセイマテック(株)から購入し、加工した。

ピーエスピー 重岡伸一社長
(画像=ピーエスピー 重岡伸一社長)

実証当日は、「Skyfarm」ブランドでドローン関連サービスを手掛ける(株)グローバルリング(長野県信濃町、阿蘇秀樹代表)がドローンオペレーターを担った。使用するドローンは世界シェアトップのドローンメーカー・DJI社製「Agras MG-1」だ。「風速10mでも安定して飛ぶ。条件さえ揃えば自動航行も可能だ」というドローンには容量10kgのタンクが積まれており、鉄コーティング直播の場合、10aあたり7.8kg(種籾自体は約5kg、鉄コーティング後は約1.3倍=7.8kgに)の種籾を播くことができる。高さと速度はドローンのAIが自動でコントロールし、コースの微調整をオペレーターが行う。

この日は播種のバラつきを抑えるために、ドローンが時速7kmで圃場1枚ごとに数往復した。かかった時間は約5反(50a)でわずか1時間程度だった。なお、出来秋の収穫後は神明が全量買い取る。

実証の中心を担ったピーエスピー(株)の重岡社長は、「人手不足の一方で作付面積を拡大する必要があるなか、当社は種苗会社だが、育苗・移植は生産者の作業負担が大きく、省力化・自動化にも限界がある。稲作の完全自動化という夢の実現のため、鉄コーティング種籾のドローン直播技術を確立し、普及を図っていきたい」と本紙「米麦日報」に語った。

〈米麦日報2021年5月25日〉