オフショアという言葉は、使われる分野によって、少しずつ意味が異なっている。そのため、どういう意味なのか混乱したり、誤用していないか気になったりする人も多いだろう。
この記事では、オフショアとは何を意味するのか、金融・ITなどのビジネスシーン別に紹介していく。
目次
オフショアとは?
オフショアの意味は、「オフ」と「ショア」に分けると理解しやすい。オフ(off)は「~から離れて」という意味で、ショア(shore)は海や湖、沼などの岸という意味だ。
つまり、オフショアの意味は「岸から離れて」と考えられる。
そのため、海に出て釣りをすることをオフショアといったり、サーフィンで岸から海に向かって吹く風をオフショアと呼んだりする。
最近はビジネスシーンで用いられることも増えてきた。
ビジネスにおけるオフショアの意味
ビジネスシーンにおいてオフショアは、海外や海外市場という意味で使われることが多い。「ショア」の意味する海岸を国の境界線として解釈すれば納得がいくだろう。
新興国や発展途上国を意味するオフショア
オフショアは、特に新興国や発展途上国をさして使われることが多い。例えば、自社の業務を海外に委託するシーンなどで、オフショアという言葉が使われる。現在、コスト削減の観点から、一部の業務を海外に委託する動きが活発化している。委託される業務には、コールセンター業務やバックオフィス業務などがある。
今後、オフショアという言葉を耳にしたり使ったりする機会は、増えていくかもしれない。
金融業界のオフショア
金融業界でオフショアというときは、一般的なビジネスシーンと異なるため、注意が必要だ。金融業界では、自国以外の金融市場や、自国以外で行われる金融取引をオフショアという。例えば、日本国内から日本の投資先に投資する場合や、日本国内から海外の投資先に投資する場合などは、オフショアには該当しない。
海外から海外の投資先に投資する場合は、オフショアに該当する。オフショアは、タックスヘイブン(租税回避地)で行われるケースがある。タックスヘイブンとは、外国人や外国企業に対する税率が極端に低く設定された地域さす。
経済の国際化が急速に進む中、もともと基幹産業のない国や地域が外国企業や富裕層を誘致し、経済を活性化するために税制上の優遇措置を提供しているのだ。
IT業界のオフショア
IT業界では、システムの開発業務を海外企業や海外の現地法人(子会社)に委託する際に、オフショアという言葉が用いられる。一般的なビジネスシーンでの使われ方とほぼ同じといえるだろう。
IT業界でオフショアが行われるのは、開発コスト削減のためだ。ベトナムやインドネシアなどの発展途上国は、労働力が豊富で人件費が安い。現地のエンジニアに開発を委託することで、大幅に開発コストを下げられる可能性がある。
しかし、コミュニケーションがうまくいかず、開発に遅れが生じたり、品質に問題点が見つかったり、契約上のトラブルに発展するケースも少なくない。
このような課題をふまえ、発展途上国だけを委託先として選択するのではなく、世界中から最適な委託先を探す「グローバル・ソーシング」の考え方も広まりつつある。
また、発展途上国の経済成長にともない人件費の水準が上がり、IT業界におけるオフショアのメリットが薄くなっているという。さらに、下請け開発を担う発展途上国のエンジニアが、やりがいを失うといった問題点も指摘されている。
しかし、経済成長で人件費の水準が上がることは、市場としての魅力が増すことでもある。もともとはオフショアで、日本国内向けサービスの開発を発展途上国に委託していた企業が、現地向けサービスの開発に舵を切った事例も登場し始めた。
このような動きが活発化することで、現地エンジニアの技術力・接客力も向上していく可能性がある。これからの時代は、コスト削減にとらわれず、海外市場の可能性を見いだしていく姿勢が求められているのかもしれない。
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オフショアの関連用語3つ
オフショアをベースとした関連用語がいくつかある。オフショアに対する理解を深めるために、関連用語の意味も確認してみよう。
関連用語1.オフショアリング
一般的なビジネスシーンで使われるオフショアの関連用語にオフショアリングがある。
オフショアリングの意味は、業務の一部もしくは全部を海外に委託することだ。アウトソーシングの中でも、特に海外を対象としたものに関して、オフショアリングという表現が用いられる。
オフショアリングが活発化する背景には、インターネットの普及によって、リアルタイムでコミュニケーションをとりやすくなったことがある。時差を利用することで、昼夜を問わず稼働できる体制も実現可能だ。うまくいけば生産性向上や業務効率化も期待できる。
オフショアリングの使用例は下記通りだ。
・当社もオフショアリングを検討している
・バックオフィス業務については、オフショアリングを進めていかなければならない
関連用語2.オフショアマーケット
オフショアマーケットは、税制面で優遇されている国際金融市場であり、自由で活発な取引を目的として設立されている。種類は、内外一体型・内外分離型・タックスヘイブン型の3つだ。
租税回避を目的としてペーパーカンパニーを設立するのは、タックスヘイブン型の方法だ。オフショアマーケットのすべてが、租税回避を目的としているわけではない。
オフショアマーケットは、アメリカやシンガポール、香港、マレーシアなどさまざまな国・地域で開設されている。
日本でも金融の自由化・国際化のため、東京オフショア市場が開設された。東京オフショア市場は、内外分離型であり、財務大臣の承認を得て取引を行う必要がある。
オフショアマーケットの使用例は下記の通りだ。
・オフショアマーケットの概要を学んでいる
・新しくオフショアマーケットが生まれた
関連用語3.オフショア開発
IT業界では、オフショア開発という言葉が使われる。オフショア開発とは、開発を海外に委託することだ。
現地でのコミュニケーションを円滑に行い、しっかりと意思疎通することが重要だ。国内と現地の橋渡しをする技術者は、ブリッジSEと呼ばれる。
オフショア開発の使用例は下記の通りだ。
・オフショア開発の方向性を見直さねばならない
・オフショア開発で大事なことは育成の視点だ
オフショア投資とは
オフショア投資とは、タックスヘイブンの国や地域に証券口座を開き、その国の投資信託などを購入する投資方法だ。高い利回りや節税効果が期待できる一方で、その国の政治や経済によるリスクを覚悟しておく必要がある。またある程度の語学力が求められ、オフショア投資をサポートしてくれる海外IFAと契約する必要があるなどハードルは低くない。
ここでは、オフショア投資のメリットやデメリット、さらにはオフショア投資の始め方について紹介する。
オフショア投資とは
オフショア投資とは、海外の法律に基づいて組まれた投資信託や保険などを海外の金融機関から購入する投資方法のひとつだ。オフショア投資における「海外」とは、香港やシンガポールのようなタックスヘイブン(Tax Haven)を指す。タックスヘイブンとは、税金がゼロか極めて低かったり、金融規制がゆるかったりする国・地域のことだ。
「海外の金融機関から購入する」と述べたが、実際は海外金融機関と投資家を仲介する海外のIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)経由で購入する。海外の投資信託や保険を購入する方法として海外の金融機関から直接買うオフショア投資のほかに日本の証券会社を通じて買う方法(海外投資信託)がある。
海外投資信託の場合、日本国内の証券会社に口座を開くがオフショア投資の場合は海外に口座を開くことが特徴だ。
オフショア投資のメリット
オフショア投資のメリットには、以下のようなものがある。
・複利効果が期待できる
海外で組まれる投資信託商品は、配当の分配方法に「自動再投資型」を採用しているものが多い。自動再投資とは、分配金を投資家に支払わず元本に組み入れて投資に回すものだ。分配金が組み込まれるたびに元本が増えていくため、雪だるま式に利益が増える「複利効果」が期待できる。なお国内で組まれる投資信託商品には「毎月配当型」を採用しているものが多い。
毎月配当型は、毎月決算が行われるたびに分配金が支払われる方式である。
・タックスヘイブンの税率の低さ
日本は「居住地国課税」という制度を採用している。そのため日本に住む人は、国内外のどこで所得を得ても日本の税制に従って税金を払わなければならない。しかし国によっては、そこに住んでいない人でもその国で所得が生じれば税金を払う「源泉地課税」制度を採用しているところがある。日本人が海外の証券口座で配当金を得ると日本と口座を開いている国の両方で課税されるのだ。
タックスヘイブンに口座を開いている場合、配当金に対して税金がかからないか税率が低く設定されているため、海外での課税負担が軽くなるメリットがある。ただし日本の税制に従って所得税・住民税が課せられるため、注意が必要だ。
オフショア投資のデメリット
オフショア投資には、海外であることを理由とするデメリットがある。
・国の経済や政情リスク
オフショア投資の対象となる国によっては、経済や政情が不安定な国がある。そうした国に口座を開いて投資を行う場合は、国が破たんするリスクを考慮しなければならない。利回りのよさと国の安定度の両面から口座を開く国を選ぶことが重要だ。
・外国語にある程度強くないと正確な情報が得られない
オフショア投資は、日本の証券会社が間に入らず海外の金融商品を購入するため、外国語のパンフレットや契約書を読みこなせないと商品の内容を正確に把握できない。また一般的に、商品を購入する場合は、海外IFAと契約することになるが、直接交渉する場合はやはり語学力が必要になる。
実際には、日本人スタッフがいる海外IFAを選ぶか、海外IFAを紹介する代理店に依頼してサポートを受けるかすれば語学力がなくても心配はない。しかし自身で情報収集を行う際、語学力がハンデになることはリスクとして覚えておこう。
・代理店の見極めが難しい
現実的に契約する海外IFAを自力で探すのは、容易ではない。多くの場合、海外IFAを紹介してくれる日本の代理店を通して契約することになる。上述した2つのデメリットを補うには、サポート体制の整っている代理店を探すことが重要だ。しかし代理店に関する情報は十分とはいえずどの代理店を選べばよいか判断が難しい。
オフショア投資の始め方
オフショア投資を始めるには、すでに述べているように海外IFAと契約を結ぶ必要がある。オフショア投資において海外の投資信託などを購入する仕組みを見ながら投資の始め方を紹介していく。オフショア投資にかかわる人や業者は、以下の通りである。
・投資家
・プロバイダー:海外で投資信託などの商品をつくったり販売したりする会社
・海外IFA:プロバイダーの販売代理を行う業者。投資家の運用サポートを行う
・代理店:投資家に海外IFAを紹介する
1 代理店を探す
投資家は、プロバイダーから直接商品を購入することはできない。代理店を通じて海外IFAと契約し、海外IFAが扱っているプロバイダーの商品を購入する。つまりオフショア投資を始めるには、代理店を探すことが必要だ。代理店を選ぶポイントは、どんな海外IFAとつながっているか、現地に駐在するスタッフがいるかといった点である。
2 代理店が紹介するなかから契約する海外IFAを選ぶ
海外IFAを選ぶ際は、資産運用方針やサポート体制、取扱商品についてしっかりと確認しておきたい。特に運用方針が投資家の希望と異なるとトラブルになる可能性もある。またどのような国に顧客を抱えているかといった実績もチェックしておきたい。
オフショア開発とは
前述したように「オフショア開発」とは、IT業界で使われる言葉だ。システムやアプリケーションなどの開発業務を主にアジア地域の企業に委託することである。日本国内のIT人材不足を解消する方法のひとつとして近年積極的に取り入れられている傾向だ。ここでは、オフショア開発の概要とメリット・デメリット、オフショア開発に適した事業、オフショア開発の課題や解決法について紹介する。
オフショア開発
オフショア開発とは、システムやアプリケーションなどの開発業務を海外に委託することだ。委託先は、高いITスキルを持った人材を多く輩出しているインドやベトナムが多い。オフショア開発が積極的に行われる背景には、社会全体のIT需要に対して日本国内のIT人材不足が挙げられる。人材不足ゆえに開発が進まないことは、社会にとっても大きな損失だ。
また国内で開発を行うと人件費などのコストが高くなるという事情もある。この2つの問題を解決するために活用されてきたのがオフショア開発だ。しかし近年は、開発を担う国々の技術力が向上し開発力そのものも評価されている。長期的に見るとコストメリットは、次第に下がっていくだろうが高い開発力とノウハウを備えたアジアの国々への委託は今後も増えると見られる。
オフショア開発のメリット
オフショア開発のメリットには、以下のようなものがある。
・優秀なIT人材の確保
日本は、労働人口自体の減少もありIT人材が不足している。一方、インドやベトナムをはじめとするアジア地域には、高いスキルを持ったIT人材が多い。特にベトナムは、高度なIT人材の育成を国策に掲げ毎年一定人数の人材を輩出している。ITエンジニアは、待遇が良いことから優秀な人材からの人気が高い傾向だ。
多くのエンジニアを必要とする大規模プロジェクトは、人材が集まらないと動き出せない。優秀な人材を多数確保しやすい国に開発を委託することで、速やかなプロジェクト開始が期待できるだろう。
・人件費の抑制
アジアの国々に開発を委託すれば日本に比べて人件費が抑えられるのも大きなメリットだ。ひとつのプロジェクトに限らず中長期的に委託契約を結び、自社の開発チームとして仕事を委託できる。また短期間で終わるプロジェクトよりも中長期的な契約を結んでオフショア開発を活用するほうが自社の開発に関するノウハウが蓄積されやすい。
オフショア開発のデメリット
オフショア開発には、メリットだけでなく当然デメリットもある。
・意思疎通の難しさ
言葉や文化の違いから日本語の微妙なニュアンスが伝わりにくかったり品質などの認識のズレが起こったりすることがある。また「残業をしてでも納期に間に合わせる」といった仕事に対する考え方が日本と委託先の国とでは異なることも多い。そのため仕事を進めるうえで意思疎通の難しさが壁になることもある。
コミュニケーションがうまく行かなくなると当然プロジェクトの進捗速度は落ちてしまう。
・管理の難しさ
日本と物理的に距離があるため、品質やプロジェクト進捗の管理が難しい点もデメリットだ。現地から報告がなくても実際は問題が起きていてプロジェクトが計画通りに進まない場合も出てくる。
・コスト削減効果が低いケースもある
オフショア開発では、日本と委託先をつなぐ専門知識を持ったコミュニケーターが必要だ。小規模のプロジェクトの場合、コミュニケーターの人件費が発生することでコストメリットを十分得られないことがある。
オフショア開発の活用と適した事業
オフショア開発を活用することでメリットが得やすい事業とそうでない事業がある。一般的に以下のような事業がオフショア開発に向いているだろう。
・ロジックがシンプルなシステムやアプリケーション
念入りなコミュニケーションがなくても海外エンジニアの理解を得やすく想定外のものができあがる事態になりにくい。例えばAI開発や研究開発のようにデータ分析や計算が中心となるものとオフショア開発は相性がよい傾向だ。
・現地でも知られているプロダクト
ECサイトやソーシャルアプリなど発注先でも利用されているものは、なじみがありスムーズに開発が進むことが予想されるため、オフショア開発に向いている。
・作業量が多く長期的なプロジェクト
一人が1ヵ月で行う作業量が大きいほど、また期間が長いほどオフショア開発によるコストメリットを受けることができる。なぜなら国内で多くの人材を長期間動かすと高額の人件費がかかるからだ。逆にオフショア開発に不向きなのは、日本独自のルールを取り入れたシステムや発注先ではあまりなじみのないプロダクトの開発だ。
エンジニアが仕様などをうまく理解できず想定していたものとは異なるものができあがるリスクがある。
オフショア開発の品質課題と解決法
「オフショア開発によるプロダクトは品質に不安がある」と考える人もいるのではないだろうか。そういった不安の原因は、コミュニケーションの不十分さにあることが多い。日本語による要求定義や要件定義を委託先の言語に翻訳する際、日本語のあいまいさが理由で誤った訳になることもある。またミーティングやメールでのやり取りでも日本人はあいまいな表現が多い傾向だ。
あいまいさの蓄積が認識のズレにつながることで最終的に想定していたものと異なるものができあがってくる原因となりかねない。不十分なコミュニケーションを防ぐには、以下のような日本語特有の感覚の排除が必要だ。
・あいまいな表現
・言わなくてもわかる
・行間を読む
要求定義や要件定義からメール、会議にいたるまで、すべてのコミュニケーションで「言葉に出していないことは言っていないことと等しい」と肝に銘じよう。複数の解釈の余地が生まれる記述や発言をしないよう心がけるようにしたい。あいまいな表現を少なくすることがプロダクトの品質向上につながるのだ。
オフショアとオンショア・ニアショアの違い
オフショアと関連して使われる言葉に、オンショアとニアショアがある。オフショアと対比しながらそれぞれの意味を解説していく。
オフショアとオンショアの違い
オンショアとは、オフショアの対義語で「岸に接して」という意味だ。
IT業界でオンショア開発を使う場合、自国内で開発を完結させることをいう。オンショア開発のメリットには、コミュニケーションをとりやすいこと、品質を担保しやすいことなどがある。
金融業界で使われるオンショアマーケットは、取引における当事者の一方または両方が自国内の会社や投資家である市場だ。例えば、日本国内から日本の投資先に投資する場合や、日本国内から海外の投資先に投資する場合などが該当する。
オフショアとニアショアの違い
ニアショアとは、日本国内の人件費が安い地域で業務を行うことをいう。例えば、人件費の高い首都圏ではなく、比較的人件費の安い地方都市で人を雇い、システム開発やシステム運用を委託するといったケースをさす。
ニアショアはオンショアの中に含まれる概念に近い。金融業界で使われることはなく、主にIT業界で使われている言葉だ。
ニアショア開発は、地方活性化や国内雇用創出の観点からも注目を集めている。近年、リモートワークの普及も活発化した。ニアショア開発の動きは今後も広がっていくだろう。
オフショアの意味や使い方に迷ったら?
オフショアは、ビジネスの分野によって異なる意味を持つため、使い方に悩むかもしれない。
また、ビジネス用語に限らず、言葉の意味は使われ方とともに変化していく。今後、まったく違う分野でオフショアという言葉が使われたり、オフショアを含む新しい言葉ができたりすることもあるだろう。
もとの意味である「岸から離れて」というニュアンスを理解しておけば、分野が変わっても意味や使い方を推測できる。
悩んだときは、オフショアの原義に立ち返ってみるとよいだろう。
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文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)