コメ先物「最後の」本上場申請の是非を検証するシリーズ。3回目にして、要件の洗い出しに入る。
我が国における商品先物は、監督官庁による認可制だ。今でこそ「試験上場」と「本上場」に分かれているが、かつては今の本上場にあたる「上場」一本しかなかった。ハードルが高すぎるため、言わばバイパスとして「試験上場」制度が導入され、その際に「上場」を「本上場」に改めたに過ぎない。つまり、この頃までは、国は商品先物の振興に前向きな姿勢を示していたのである。
ところが2007年(平成19年)、商品先物取引所法(現在の商品先物取引法)改正によって、いわゆる「不招請勧誘」が禁止された頃から、国の姿勢は商品先物に対して冷淡になっていく。結果、2004年(平成16年)から2019年(令和元年)の15年間で世界の商品先物取引高(出来高)は約10倍に増えたのに、日本だけが約8分の1に減っている。発祥の地である日本が、だ。
それはともかく、監督官庁が上場申請を認可または不認可する際の要件は、明確に定められている。商品先物取引法に、試験上場だと「先物取引を公正かつ円滑にするために十分な取引量が見込まれないこと及び生産及び流通に著しい支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあることに該当しないこと」と明記してある。
この法解釈として、内閣法制局との間で合意したのは、 〈1〉十分でなくとも一定程度当業者の利用の意向があるかどうか 〈2〉生産・流通・価格政策と整合的であるかどうか 過去、コメ先物の試験上場申請に対する判断として、結果がどうあれ、前者「一定程度当業者の利用の意向」が俎上にのぼったことは一度もない。常に後者「政策との整合性」だけが云々されてきた。2005年(平成17年)には「整合的でない」、2011年(平成23年)には「整合的である」と解釈されたわけだ。
一方、本上場となると、ハードル(要件)がぐっと上がる。「申請に係る上場商品の先物取引を公正かつ円滑にするために十分な取引量が見込まれることその他上場商品の取引の状況に照らし、当該先物取引をすることが当該上場商品の生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であること」。本上場申請に対する判断の場合、試験上場と逆で、後者「生産・流通円滑化に必要かつ適当」が俎上にのぼったことはない。常に前者「十分な取引量」だけが云々されてきた。もちろん、だからといって後者「生産・流通円滑化に必要かつ適当」がクリアされていた、とは言えない。
事実、2019年に本上場申請を不認可とし、試験上場申請を認可した当事者だった塩川白良食料産業局長(当時)は、直後の食品産業新聞のインタビューに、こう応じている。「検討していないと言うと語弊がありますが、『十分な取引量』に達していない時点で、『不認可』判断に至らざるを得なかったので、今回の判断では勘案していません。『十分な取引量』と『必要かつ適当』は、両方ともクリアしなければならない並行要件なので、片方が引っかかった段階でもう片方を勘案する必要がなくなったという判断です」。この箇所の検証は後に譲る。
ここでは、本上場申請の是非を検証する場合、最初に来る要件が「十分な取引量」にある点のみ強調しておく。ところが、にもかかわらず「十分な取引量」の具体的な数量要件は、存在しない。それどころか出来高(取引高)なのか取組高なのか、枚数なのか実t数なのかすら明らかにされていない。
農林水産省は試験上場の延長を認可する際、「(食料産業)局長通知」を発出しており、2013年(平成25年)には「過去に本上場に移行した商品の取引水準を判断の要素とすることを基本とする」、2015年(平成27年)には「法律上の認可基準を厳正に運用することとし、生産者や集荷業者等の幅広い参加を得ながら、安定取引の拡大といった今後の米政策の方向にも沿ったものとなっているかどうか、また、取引の公正を確保し、委託者を保護するために十分であるかどうか等についてゼロベースで検証を行うこととする」としている。
さらに2017年(平成29年)は横槍を入れた自民党の申入書のなかに「生産者の取引参加は増加が見られるものの依然として少なく、その参加動向等市場の状況を更に見極める必要があることに加え、平成30年産米の生産及び流通の動向を見定めることが必要な状況にある」と出てくる。
以上から、「十分な取引量」とは、取組高でなく「出来高」で、実t数でなく「枚数」が、 〈1〉他の先物商品が本上場した際の取引量 〈2〉コメの過去の取引量、を上回っていることが要件 ――と整理できる。
〈米麦日報2021年4月13日付〉