矢野経済研究所
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2021年4月
Xビジネス 主席研究員 松島勝人

コロナ禍で、行政およびマスコミが口を揃えて、不要不急の外出「自粛」、大人数での宴会「自粛」・・・と事あるごとに国民に「自粛」を求めているが、「自粛」には、刑法上の遵守義務はなく、あくまでマナー・モラルレベルの話であって、「自粛」しなかったからといって罰金、懲戒等の懲罰は伴わない。しかし、その「自粛」を求める政治家、官僚、更には社会に影響力がある芸能人等が、大人数で宴会したりしているのが暴露されたとたん、まるで刑法に抵触する「犯罪者」のように報道され、社会的に抹殺されてゆく風潮は如何なものか?また、マスコミがドンちゃん騒ぎをしている若者集団を取り上げる視線はまるで、反社会集団や、あおり運転者を取り扱っているようなトーンであり、これも極めて危険な風潮と私は思う。

そんな中、矢野経済研究所Xビジネス事業部では、2021年1月、在宅勤務(リモートワーク/テレワーク)を行っている会社勤務者1,000人にアンケート調査を行い、コロナ惨禍での2020年の年末年始のリアルな行動および思考を調べた。
その結果、「娯楽のための旅行・観光」を実施した人が11.3%、「(直接人が集まる形での)忘年会・新年会・飲み会」を実施した人が10.6%、マスコミの報道姿勢を「大した病気でもないのに恐怖を煽り過ぎている」と回答した人は11.2%等となった。
この調査では、他にも多くの項目で、10%前後の人が、マスコミ(または世間、行政)が言うところのマナー・モラルの外にいることを伺わせる回答をしていた。別の角度から解釈すると、「自粛」をお願いするということは、常に、10%前後のマナー・モラルを逸脱する人を社会的に「許容する」、ということと同義だと分かる。
3密を避けるようにしよう(=マナーだから)、外食先でもマスクをしよう(=マナーだから)、高齢者の昼カラオケは避けましょう(=マナーだから)、と言ったところで、それぞれ10%程度は、そこから逸脱する構造になっているのである。
お花見での宴会はなるべく避けてください、5人以上での会食は避けてください、といったところで、単に「自粛」を求める状況では、常に10%程度は、その行動規範に従わないことが予想され、当然に、新型コロナウィルスが伝播・拡散してゆくことは防ぎようが無いのである。

こんなことではコロナ禍が収まらないから、自粛を破る10%の人たちに対してもっと強い罰則を、という意見も聞かれるが、日本が、民主主義国家であり、多様性を認め、自分と違う考えを持つ人を排外しない国の一員であろうとするならば、マナーを逸脱する10%を積極的な肯定とまではいかなくとも、少なくとも許容しなければならない(=バッシングしてはならない)と思う。
これまで「多様性を受け入れる社会を」と提言してきた評論家や政治家が、自粛を破る人に「もっと罰則を」のような発言をしているのは強烈な矛盾と言わざるを得ない。

10%の逸脱者を、0%にしたければ、「自粛」ではなく「命令」「強制」しかないが、感染が死を意味するような、エボラ出血熱でもない限り、そんな必要性はあるのだろうか?民主主義や多様性を抱擁してきた社会をそんなに簡単に捨ててしまいたいのか?もっと冷静に考えましょうよ、と言いたい。
「宴会」やめられない派の10%は、日本が素晴らしい国であることの象徴的存在である、と言い切ると、今度は私がバッシングされるのであろうか?怖っ。