日本郵政と楽天が資本提携を結んだことで、楽天の株価は24%高と急伸し、時価総額が大幅に高まった。両社の資本提携は楽天の通信事業を急成長させる可能性を秘めており、いずれは時価総額1位のトヨタを抜くかもしれないと思えるほどのインパクトだ。
楽天と日本郵政の業務提携について
楽天は2021年3月12日、日本郵政グループとの資本・業務提携に合意したと発表した。その狙いは、物流やモバイル、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などの領域で連携を強化し、特に通信事業を大きく成長させることにあるとされる。
物流分野における業務提携の概要
物流分野では、共同で使用する物流拠点を構築するほか、共同の配送システムや受け取りサービスも展開する。両社が保有する物流に関するさまざまなテーマも共有し、物流のDXプラットフォームの共同事業化も進めるという。
日本郵政側には、国内最大規模のECサイトを展開する楽天と提携することで、楽天ECサイトで注文があった商品の配送を優先的に引き受けたい狙いがある。簡単に言えば、資本提携によって宅配事業の売上高を伸ばしたいというわけだ。
モバイル分野における業務提携の概要
モバイル分野では、郵便局内のイベントスペースなどで楽天モバイルの申し込みカウンターを設置することが柱だ。楽天モバイルの主な顧客層は若い世代だが、郵便局を訪れる中高年や高齢者にもアプローチできることは楽天にとって非常に大きな意味を持つ。
また、今回の業務提携では「数の力」も発揮される。郵便局は現在、全国で2万4,000ヵ所ある。日本にこれだけ多くある郵便局で、楽天モバイルの申し込み受け付けが可能になれば、当然、楽天モバイルの加入者数は飛躍的に増えるはずだ。
このほか、「日本郵便の配達網を活用したマーケティング施策の実施」も掲げている。詳細はまだ明らかにされていないが、郵便物を届ける配達員による楽天モバイルの勧誘などを視野に入れているのかもしれない。
DX分野における業務提携の概要
DX分野では、以前からDXに注力している楽天が、日本郵政グループのDXを支援する形となる。具体的には、楽天から日本郵政にDXに精通した人材を派遣したり、人材の派遣以外でも日本郵政のDX推進に協力したりするという。
両社はほかにも金融やECの分野でも協業を検討するとしており、幅広い事業でタッグを組むことを明確にしている。
楽天の日本郵政のタッグは競合各社の驚異に
今回の楽天と日本郵政のタッグは、国内の通信各社と物流各社にとっては驚異的だ。
通信会社からすれば、楽天の顧客獲得力がアップすることで、将来的に現在のシェアを維持することが難しくなるかもしれない。物流会社にとっては、楽天のECサイトの配送を日本郵政が多く担うことになれば、取扱量の低下で売上減に結びつきかねない。
ただし、このように書くと楽天が日本郵政との資本提携で今後の成功が約束されたように感じるかもしれないが、楽天の経営状況は決して順風満帆とは言えないことも知っておきたい。楽天が展開している携帯電話事業では競合他社が増え、販売店の拡充や基地局を増やすための投資コストが膨らみ、いまや楽天の経営を圧迫するまでになっている。
そのような状況で、今回の資本提携では日本郵政が楽天に1,500億円を出資する形となった。共同事業によるシナジーの創出だけが狙いではなく、楽天側には資金増強という目的もあったと考えられる。
楽天がトヨタの時価総額を抜く日はやってくるのか
このような事情が楽天にあると考えられるとしても、楽天の株価が急伸したことは確かだ。それだけ、日本のレガシー的な企業である日本郵政とネットベンチャーの先駆けである楽天の提携は、多くの株式投資家に大きなインパクトを与えた。
今後もし、楽天の株価が上がり続けた場合、どれくらい株価が上がれば時価総額1位のトヨタに届くだろうか。2021年3月26日時点のトヨタの時価総額は約27兆2,000億円、楽天の時価総額は1兆9,100億円だ。つまり楽天の株価が現在の14倍強になればトヨタに届くことになる。
また、時価総額2位のソフトバンクグループの時価総額は約19兆3,000億円で、ソフトバンクグループを抜くには楽天の現在の株価が10倍強になる必要がある。(※編注:ちなみに時価総額は「株価×発行済み株式数」で計算される)
株価が10倍になった銘柄のことを「テンバガー銘柄」と呼び、テンバガー銘柄は決して多くはない。しかし、楽天が2万4,000ヵ所の郵便局という拠点を最大限生かし、さらには資金増強でさまざまな事業を大きく成長させられれば、これからテンバガーを記録するのも夢ではない。
いまは、楽天がトヨタの時価総額を抜くという話は夢物語のようにも聞こえるかもしれないが、将来は誰にも分からない。今後の楽天の三木谷浩史社長の手腕に注目だ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)