情報通信技術の急速な進化に伴い、スマホ・タブレット端末・SNS・クラウドなどが幅広く普及し、ライフスタイルやワークスタイルのさまざまな場面で大きな変化が見られている。
しかし、情報通信技術の進化が社会に多くのインパクトを与えている一方で、デジタル化の流れに取り残されている情報弱者も存在する。情報格差を意味するデジタル・デバイドの課題や発生原因、解決策について解説する。
目次
デジタル・デバイドとは
インターネットやPCなどのICT(情報通信技術)を活用できる人とできない人の間に生まれる格差のことを、デジタル・デバイドという。「デジタル・ディバイド」と呼ばれることもある。
情報通信技術を十分に活用できない人は「情報弱者」と呼ばれ、インターネットが世界的に普及している昨今の世の中において、さまざまな場面で不利益を被ることが問題視されている。
情報格差の種類は主に3つ
デジタル・デバイドは、格差の種類を「国際間」「地域間」「個人・集団間」の3つに分けて論じられることが多い。
国際間デジタル・デバイドは、先進国と発展途上国の間に生じやすい情報格差である。インフラや国家予算だけでなく、国家間における教育の差が影響を与えているとの分析もされている。
同国内の都市部と地方部に生じる情報格差が地域間デジタル・デバイドである。ITインフラの整備が遅れている地域は、都市部との格差が発生しやすい。
個人・集団間デジタル・デバイドは、年齢・性別・学歴などの違いにより生じる情報格差である。高齢者やITC教育が不足している人は、情報弱者になりやすい。
デジタル・デバイドの問題点5つ
デジタル・デバイドの問題点は、主に以下の5点である。
1.教育・経済・社会における格差の拡大
2.緊急時の対応遅れや犯罪が起こるリスク
3.高齢者の孤立
4.企業における人材の不足・流出
5.グローバル化への遅れ
具体的にどのような問題があるかを確認しよう。
1.教育・経済・社会における格差の拡大
国際間や地域間のデジタル・デバイドは、教育の質に影響を与える可能性がある。ICTを活用した教育では質の高い教育を提供できるため、優秀な人材が育ちやすいだろう。
経済や社会における情報格差は、貧富の差となって表れやすい。情報化が進む現代社会では、ICTスキルに明るい人や企業ほど、収入が高くなりやすい傾向がある。同国内の貧困層や発展途上国の人々がICTに疎いままでは、貧富の差が益々広がっていくだろう。
2.緊急時の対応遅れや犯罪が起こるリスク
自然災害・疫病拡大・テロなどの緊急時には、ICTによる高い情報収集能力があれば状況を的確に判断できるため、適切な対応をとりやすい。しかし、情報弱者は自分の状況を把握しにくいことから、緊急時の対応遅れで被害を受けてしまうこともあるだろう。
また、情報弱者はITリテラシーの低さにより、インターネットを介した犯罪に遭うリスクも負っている。
例えば個人情報が流出すれば、ストーカー被害やクレジットカードの不正使用といった犯罪に巻き込まれる恐れがある。ICTにより商品やサービスを比較できないことから、高額商品を売りつける詐欺被害に遭うなどのリスクも考えられる。
3.高齢者の孤立
シニア層のインターネット利用者は、年を追うごとに増えてきている。ただし、多くの高齢者はITリテラシーが低いため、膨大な情報量から信頼性の高い情報を選択することが困難である。
また、地方に住む高齢者の中にはいまだにIT端末を所有していない人も多い。インフラが整備されておらず、使いたくても使えない現状を反映している。
SNSの普及で常に誰かとつながっている環境を構築しやすい年齢層との距離を感じやすく、孤立感を強める高齢者も少なくないだろう。高齢化社会における高齢者へのIT支援が遅々として進まないことも、デジタル・デバイドが抱える大きな課題である。
4.企業における人材の不足・流出
発展途上国のITインフラを整備したり、高齢者向けのIT支援を促進したりするためには、企業支援が不可欠である。しかし、IT分野では、業界全体にわたり慢性的な人材不足が続いている。
希少なIT人材の国外への流出も、デジタル・デバイドが抱える問題点の一つである。優秀な人材はIT分野が発展した国へ流れやすいため、一部の国のみIT化が進み、より格差が広がる原因となっている。
5.グローバル化への遅れ
国際間デジタル・デバイドにより情報技術分野で後れをとっている国は、グローバル化の波に乗れず、国際競争力が低下する恐れがある。
テクノロジー・教育・労働・政治・観光など、さまざまな面において情報格差が発生することにより、国際経済や国際社会が抱える大きな問題へ発展することもあるだろう。
これらの国では、国際機関などと連携し、ブロードバンド計画や国際競争力の強化など、国家としての政策目標が掲げられているケースが多い。
デジタル・デバイドが発生する原因8つ
デジタル・デバイドの問題を解決するには、なぜデジタル・デバイドが発生するのか原因を知っておくことも大切だ。ここでは、主な原因を7つ紹介していく。
1.教育・学歴・収入の差
学歴が高いほど高収入を得やすく、収入が高ければICT端末を入手しやすいことを考えれば、学歴や収入の差がデジタル・デバイドを生む一つの原因になり得るといえる。
また、一般的に、教育水準が高いほどインターネット利用率は高くなる。所得水準が高くても教育水準が低ければ、情報弱者になる可能性は高い。
国によっては、これらの差に加え、人種間の格差がデジタル・デバイドの原因になることもある。
2.ITインフラ・IT人材不足
インフラ整備が遅れている国や地方部では、財政難などの理由から十分な通信環境が整っていないため、端末を持っていても有効活用できない状態が続いている。
発展途上国や地方部でIT人材が不足している場合は、予算があってもシステム開発できないケースが考えられる。
3.都市部と地方部の差
離島や山間部などの地方部には、地形的な理由から、インフラ整備に余計なコストがかかりやすいという課題がある。
たとえインフラを整備できたとしても、トラブル発生時の対応に時間的・金銭的なコストが発生しやすいため、都市部に比べどうしてもハンデを背負ってしまうことになる。
4.身体的・精神的な障がい
日本の身体・知的・精神障がい者は、人口のおよそ8%を占めることが、内閣府の調査で公表されている。これらの人たちは取得できる情報が少なくなってしまうため、デジタル・デバイドが発生しやすい。
5.若年層のSNS依存とフィルターバブル
現代は、情報チェックもスマホ一つでいつでもどこでもできるようになった。特にSNSの進化によって生の情報を発信したり、チェックしたりと常にスマホ片手にSNSをチェックしている若者も多い。ただSNSに依存するあまりTVのニュースや新聞などの情報ではなく自分の望む情報ばかりをより分ける「フィルターバブル」が起こっている。
本来、デジタル・デバイドは、情報を得られない(得るのが難しい)ことによって発生するが、あえて多くの情報を得ないこともデジタル・デバイドの原因といえるだろう。
6.自分や周囲の高齢化
ネット環境下があればどこでも情報を収集できるスマホやタブレット端末は、現在の情報化社会において欠かせないツールといえる。しかし、高齢になるほど携帯端末の普及率は低くなっているのが現状である。
また、地方部など周囲に高齢者が多い状況では、インフラ整備が後回しにされやすいため、自分自身の意識が高くても環境が追い付いてくれないケースも考えられるだろう。
7.動機の希薄
デジタル・デバイドは、物質的な問題だけではない。これは、特に高齢者に多いことである。しかし情報通信機器を利用していない高齢者の約半数は「自分の生活には必要ない」「そもそも興味がない」と動機のなさが内閣府の調査でわかっている。
動機がなければスマホやタブレット端末を入手できたりインフラが整っている環境があったりしてもデジタル・デバイドは生じてしまうのだ。
8.エコーチェンバー現象による断絶や不和
エコーチェンバー現象とは、インターネット上で自分と同じ意見や考えを持つ人々とのみ交流し、異なる意見に触れる機会が減ることによって生じる現象を指す。
この現象は、自分の信じたいことを信じるという心理的特性、「確証バイアス」に基づいている。例えば特定の政治的意見を持つ人が、同じ意見の人々のグループに参加し、そこで交わされる情報や意見に囲まれることで、自分の考えが正しいと強く信じるようになる。
エコーチェンバーは、ソーシャルメディアやインターネットのアルゴリズムによって強化される。これらのプラットフォームは、利用者の興味や過去の行動を分析し、関心を持ちそうな情報を優先的に提供するためだ。その結果、利用者は自分の興味や意見に合致する情報に囲まれる「フィルターバブル」に閉じ込められることになる。
例えば特定の政治的立場を支持する人が、その立場に賛同するニュースや意見ばかりをオンラインで見るようになり、異なる立場の情報にはほとんど触れなくなるといったことが、エコーチェンバー現象である。
このような状況は、社会的な断絶や不和を生む原因となる。異なる意見を持つ人々との対話が減少し、理解や共感の機会が失われるため、社会全体が極端な意見に傾き、分断されることになる。
高齢者の抱えるデジタル・デバイドの原因と考えられる対策
高齢者の間で見られるデジタル・デバイドは、テクノロジーへのアクセス不足や使用スキルの欠如に起因している。この問題に対処するためには、高齢者がデジタルデバイスの利便性を理解し、興味を持つことが重要だ。以下に、そのための具体的な対策を紹介する。
体験型の施策による興味喚起
デジタルデバイスの利用がもたらす便利さを実感してもらうためには、これまでの教室型の支援だけでなく、体験型のツアーやワークショップが有効だ。例えば、まずはスマートフォンを実際に触って便利さを知ってもらうためのスマートフォン体験ツアーがあるといいだろう。
さらに、地域のコミュニティセンターでスマートフォンやタブレットを使った写真撮影やビデオ通話のデモンストレーションを行うことも有効である。またインターネットを利用した買い物やニュースの閲覧、健康管理アプリの使用方法など、日常生活に密接に関連する内容を取り入れることで、高齢者の関心を引き付けることができるだろう。
このような施策は、自治体と民間企業で協力して取り組むと効果的だろう。
デバイスの貸し出し
デジタルデバイスに対する興味を持ってもらうためには、実際にデバイスを手に取ってもらうことが重要である。興味喚起の方法としては、デバイスの貸し出しも有効だ。地域の図書館やコミュニティセンターでタブレットやスマートフォンの貸し出しサービスを提供することで、高齢者が自宅で気軽にデバイスを試用できるようになる。
この取り組みにより、デバイスに対する不安を減らし、日常生活での活用方法を自然に学べる。具体的な取り組みとして、渋谷区では65歳以上の区民を対象にスマートフォンを無料で貸し出す実証事業を行っている。(2023年12月17日時点で申し込みは終了)加賀市では、マイナンバーカード対応スマートフォンの購入助成を実施し、スマートフォン相談所を開設している。
デバイスの購入助成
デジタルデバイスの価格が高齢者にとっての大きな障壁となることがある。この問題を解決するために、デバイス購入の助成制度を設けることも有効だ。自治体や非営利団体が、高齢者向けにスマートフォンやタブレットの購入費用の一部を補助するプログラムを実施することで、経済的な負担を軽減し、デジタルデバイスの普及を促進できる。
また、助成制度と併せて、初心者向けの使い方講座やサポート体制を整えることで、高齢者がデバイスを安心して利用できる環境を提供することも重要だ。これらの対策を通じて、高齢者がデジタル社会に積極的に参加し、その恩恵を受けることができるようになることが期待される。デジタル・デバイドの解消は、高齢者がより豊かで充実した生活を送るための重要なステップとなるであろう。
デジタル・デバイドの解消に関する公的機関の取組事例
ここからは、デジタル・デバイドの解消に向けた公的機関の取り組み事例を紹介しよう。
総務省
総務省では、情報格差解消への取り組みとして、「デジタル・ディバイド解消に向けた技術等研究開発(情報通信利用促進支援事業費補助金)」を実施している。事業内容は、高齢者や障がい者を含め、誰もがICT(情報通信技術)機器による恩恵を享受できる通信・放送サービス充実に向けた研究・開発を行う民間企業に対し研究開発資金の一部を補助するというものである。
採択には公募制が採用されており、2017年度から毎年数件の企業が採択されている。2023年度の公募期間は、3月1日(水)14時~4月28日(金)17時だった。毎年同時期に1ヵ月間程度の公募期間があるため、応募したい企業は、対象となる研究開発や応募要項、期間などをチェックしておこう。
総務省|高齢者・障害者向けの新たなICT機器等の研究開発に対する補助金 「デジタル・ディバイド解消に向けた技術等研究開発」対象事業の公募
東京都
東京都では、デジタル・デバイドの是正に向けた取り組みとして「東京デジタルフォローアップ官民連携連絡会」や「高齢者向けスマートフォン利用普及啓発事業」などを実施している。
・東京デジタルフォローアップ官民連携連絡会
都と会員企業(団体)で都事業や国内外先進事例の共有、官民連携事業の推進、意見交換などを行うものだ。2023年12月17日現在、21企業(団体)が会員となっている。NTTやKDDI、ソフトバンクなどの携帯キャリアや、シャープなどの大企業も会員リストに名を連ねている。デジタル・デバイドの是正に関する取り組みなどの活動をしている(活動を予定している)企業や団体であれば対象だ。
随時会員企業の募集もしているため、関心がある場合は応募してみるといいだろう。
・高齢者向けスマートフォン利用普及啓発事業
行政手続きやサービス利用のオンライン化が進む昨今においてスマートフォンを活用できるように、スマートフォン体験会や相談会を実施。歩数や脳トレ、食事などの機能を持つ「脳にいいアプリ」の紹介、利用体験なども推進している。
愛媛県
愛媛県では、高齢者のデジタル・デバイド解消のために、楽天グループと日本郵便と協働している。この取り組みは、愛媛県・市町DX推進会議が進めている「オール愛媛」デジタルデバイド対策事業の一環である。
主な取り組みとしては、愛媛県内の100局の郵便局に「愛顔のスマホ相談窓口」を設置。相談窓口では、オンラインを通じて専門の相談員にマンツーマン形式でスマホの操作などの相談ができるサービスを提供している。2022年8月23日から運用を開始し、2023年3月末現在で5,000人以上の愛媛県民が利用しているという。利用者の年齢層は70代が最も多く、口コミによる利用者も増加している。
また、愛媛県内20市町各地の地域団体と連携し、コミュニティ型のスマホ教室も実施中だ。これらの教室では、地域ならではの課題に応じた内容を提供し、その後の個別相談にも対応している。例えば、西予市渡江地区では、スマホ教室を通じてインターネットの活用方法を学び、みかん農家が販路拡大やPRをインターネットで行えるようになっているという。
「愛顔のスマホ相談窓口」の利用者に対するアンケートでは、96%の方が満足しており、リピーター率も上昇しているという結果が出た。参加者はスマホの基本操作から日常生活で便利なアプリ、コミュニケーションツールの使い方など、多岐にわたる内容について相談しているという。
民間企業に期待される情報格差を解消するための取り組み
公的機関との協働はもちろん民間企業独自でもデジタル・デバイド解消に向けた取り組みはできるはずだ。最後に民間企業に期待したい取り組みを紹介しよう。
1.IT業界全体の人材増加
デジタル・デバイドの解消には、IT業界全体の人材を増やすことが大きな課題の一つである。まずは先進国や都市部で人材を育成し、発展途上国や地方部に人材を派遣する方法が、現実的に実行可能な対策として考えられるだろう。
IT後進地域でスクールなどを設立すれば、現地で人材を育成することも可能となる。インフラの整備が進むことや、後進地域への企業進出が活発になることが期待できる。
2.ITスキル教育の推進
外部のIT専門家に頼るだけでなく自社内でITスキルに長けた人材を育てることも大切だろう。例えばITツールの使い方やセキュリティリスクといったITに関する知識は、デジタル社会で企業存続していくためにも必要不可欠である。そのためには、自社社員のITスキルを養ったり高めたりするための教育も大切だ。
ITスキルの研修会やITスキルに関する資格取得を推奨するような福利厚生を取り入れるのもいいだろう。
3.デジタルデバイスを利用したサービスの提供
先にフリマアプリの出品教室などでスマホ利用に興味を持たせる愛媛県の事例を紹介したが、実際に体験してみることでICT利活用に興味を持つ人は多いはずだ。実際に複数の民間企業が協働して「スマートフォン体験ツアー」や「目的別講座」を展開している事例もある。コロナ禍で自宅からオンラインで料理教室や音楽教室などの展開を始めた人も少なくない。
しかし既存の民間サービスとデジタルを組み合わせた体験型のイベント・サービスの提供が増えることが期待される。通信技術に関する専門知識はなくても「ICT機器を使っていかに自社のサービスを多くの人に利用してもらえるか」といったアイデアは考えられるのではないだろうか。
4.高齢者のICT利活用支援
高齢化社会においては、高齢者のICT利活用支援も重要な対策である。高齢者向けのスクールを増やしたり、高齢者でも使いやすい端末の開発を進めたりすることで、年齢によるハードルを下げられることが期待されている。
5.インターネット利用目的の見直し
デジタル・デバイドは決して人ごとではなく、誰の身にも起こり得ることである。インターネットを趣味や連絡手段のためだけに使い続けていると、いつの間にか周囲や社会との格差が生まれているという状況にも陥りかねない。何のためにインターネットを利用しているのかということを見直し、デジタル・デバイドが引き起こす身近な問題から関心を持ってみることも重要である。
6.無料利用可能な端末の設置
収入が低い世帯や未成年者は端末を手に入れにくいため、情報弱者になりやすい傾向がある。このような人たちのために、無料で使える情報端末を各店舗に設置すれば、機会が少ないことによる情報格差は生まれにくくなるだろう。
7.国際間におけるIT交流の活発化
国際間デジタル・デバイドを解消するには、発展途上国と先進国の間でIT人材の交流を活発に行う必要があるだろう。IT分野が未開の地でインフラ整備を先行投資すれば、現地でビジネスが拡大し、大きな見返りを受けられる可能性も秘めている。
デジタル・デバイド(情報格差)の問題による企業への影響
企業もデジタル・デバイド(情報格差)の問題と無関係ではいられない。多くの企業では、OAツールの導入が進んでいるが、いまだに紙の書類をやり取りしていたり、一部の従業員のみITツールを使っていたりする企業もある。ここでは、デジタル・デバイドが企業に与える影響を順番に見ていこう。
1.デジタル知識がない層の孤立化
大きな問題の一つは、デジタル知識がない層とデジタル技術を使いこなしている層の分断だ。特にデジタル知識を持たない層は減少しつつあり、孤立化のリスクも出てきている。多くの場合、デジタル技術を使いこなせる人材は若い年代が多い。デジタル知識がない上司は肩身の狭い思いをする一方、部下はITツールを使いこなせない上司の対応に追われて、自身の仕事に影響が出るケースもあるだろう。
こういった状況が続くとデジタル知識がない層の孤立化が進行し、業務に深刻な影響を及ぼしかねない。
2.所得格差の拡大
ITツールを使いこなせないと、昇給にも影響が出て所得格差が発生する可能性もある。ほかの面で優秀な能力を持っているのに、デジタル知識がないばかりに業務を効率よく進められなければ、仕事で高い評価を得にくくなる。例えば管理職でプロジェクトの進捗管理をする場合でも、エクセルやパワーポイントなどのツールを使えないと始まらない。
3.DX化の遅れ
DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、デジタル技術を利用してビジネスや製品を変革し、顧客価値を高めることを指す言葉だ。DX化の遅れは、そのまま企業価値の低下も招きかねず、早急に取り組みたい課題ではないだろうか。しかし、現在DX化が必要だと叫ばれているにもかかわらず、社内にデジタル・デバイド問題を抱えているとDX化が進まない。
全社員がデジタル技術への理解と使いこなす能力を持っていないと、デジタル技術の利用やビジネスの変革まで行きつくことができないのだ。
4.セキュリティリスクの発生
デジタル知識がない層が一定数いると、どうしてもセキュリティリスクの発生する可能性が高くなる。個人情報の漏えいや機密情報の流失、ランサムウェアのように悪質なコンピューターウイルスの感染は、デジタル知識の薄い従業員ほど発生の可能性があるともいえるだろう。
セキュリティインシデントが発生すると、企業の社会的信用の失墜だけでなく損害賠償の問題や再発防止策にかかる費用増大など、経営に打撃を与えるケースもある。このようにデジタル・デバイド問題を放置すると、企業にとって良くない影響が出る可能性が高まってしまう。では、企業内のデジタル・デバイドをどのように解消するとよいのだろうか。
企業内におけるデジタル・デバイド解消方法
企業内で発生するデジタル・デバイドを解消するには、以下の方法が有効だ。
- 全社員へのDXリテラシー教育の実施
- 全社員が理解しやすいIT環境の構築
具体的にどのような方法なのかを順番に見ていこう。
全社員へのDXリテラシー教育の実施
DXリテラシーとは、デジタル技術についての理解とそれを活用する能力にプラスして、組織・ビジネスにデジタル技術がもたらす変革を理解する能力を指す。DXリテラシーは、IT部門の従業員だけでなく経営層から一般社員まで、ビジネスパーソン全員が身に付けるべき能力とされている。
経済産業省は、DXリテラシー標準を定め、日本全体のDXリテラシー底上げに力を入れている状況だ。DXリテラシーに関する教育や教材も多く開発されつつあり、全社員がDXリテラシーを身に付けやすい環境は整いつつある。
DXリテラシー教育では、デジタル技術と社会のかかわりや、基本的な技術を体系的に学べる仕組みになっているため、教育を推進することで社内のデジタル・デバイド解消に役立つだろう。
全社員が理解しやすいIT環境の構築
DXリテラシー教育の推進と並行して、社内のIT環境を整備していくことも重要な施策である。この場合、注意したい点は、どの従業員でも使いやすいシステムやツールを導入する点だ。オンライン会議ツールやチャットツール一つとっても製品によって使いやすさには差がある。
IT環境構築の際は、普段あまりITツールを使い慣れていない従業員を対象に、試験的に使用してもらうなどして誰もが操作しやすいツールを採用するようにしたい。また外回りの多い企業の場合、スマートフォンで操作できるアプリタイプのツールが便利など各部門によって使い勝手に差が出ることも考え、複数部門で確認を取るようにしていきたい。
利用しやすいIT環境を構築することで、従業員もツールを使用するようになり、その便利さを理解しやすくなる。
デジタル・デバイドに関するQ&A
Q1.デジタル・デバイドとはどういう意味?
A.デジタル・デバイドとは、インターネットやPCなどのICT(情報通信技術)を活用できる人とできない人の間に生まれる格差のことだ。「デジタル・ディバイド」と呼ばれることもある。情報通信技術を十分に活用できない人は「情報弱者」と呼ばれ、インターネットが世界的に普及している昨今の世の中において、さまざまな場面で不利益を被ることが問題視されている。
Q2.デジタル・デバイドの特徴は?
A.IT技術を利用できない人が不利益を被るケースが多く見られることが、デジタル・デバイドの大きな特徴だ。デジタル・デバイドは、格差の種類を「国際間」「地域間」「個人・集団間」の3つに分けて論じられることが多い。
Q3.デジタル・デバイドはいつから発生したか?
A.「デジタル・デバイド」という言葉が初めて公式に使われたのは、1996年、当時米国副大統領だったアル・ゴア氏の演説だといわれている。その後2000年7月に開催された九州・沖縄サミットで採択されたIT憲章のなかで「デジタル・ディバイドの解消に向けた取組について各国首脳が共通の認識を持って取り組んでいく」とされた。
日本では、2007年10月から「デジタル・ディバイド解消戦略会議」を開催し、以後さまざまな取り組みを続けている。
Q4.デジタル・デバイドはなぜ起こるのか?
A.デジタル・デバイドは、さまざまな要因によって起こり得る。例えば教育および学歴、ひいては収入の格差。また国や地域によっては、ITインフラが整備されていなかったり、IT人材が不足していたりで世界のなかで後れを取っているところもある。逆に発達した通信環境にあったり機器を購入できる経済的な余裕があったりしても動機のなさによってデジタル・デバイドが生じることもあるだろう。
Q5.デジタル・デバイドの説明は?
A.デジタル・デバイドは、インターネットやPCなどICT(情報通信技術)を活用できる人とできない人の間に生まれる格差のことをいう。情報通信技術を十分に活用できない人は「情報弱者」と呼ばれ、世界的にデジタル社会が進行する状況のなか、さまざまな場面で不利益を被ることが問題視されている。
なおデジタル・デバイドは、格差の種類を「国際間」「地域間」「個人・集団間」の3つに分けて論じられることが多い。
Q6.デジタル・デバイドの具体例を知りたい
A.デジタル・デバイドの具体例としては、以下が挙げられる。
- デジタル技術を活用できる人とそうでない人の間で貧富の差が拡大
- デジタル技術を使いこなせない高齢者世代の孤立化
- 情報技術の開発・対応をする人材の不足
情報格差による課題を理解しよう
デジタル・デバイドとは、「国際間」「地域間」「個人・集団間」における情報格差のことである。さまざまな理由で発生し、多くの課題をもたらしている。企業にとって、デジタル・デバイドはビジネスチャンスにもなり得るため、公的機関の取り組みや、情報技術の普及率が低い国や地方部へのアンテナを常に張っておくことが重要である。