矢野経済研究所
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3月30日、ルネサスエレクトロニクスは火災により生産停止中の那珂工場について「1か月以内に生産を再開する」としつつも、被害を受けた製造装置の台数を11台から23台に修正、「火災前の出荷水準の回復には3-4か月かかる」との見通しを発表した。しかし、使用不可となった製造装置の納入時期は「現在、交渉中」とのことであり、世界的な半導体不足の中、大幅な生産調整を余儀なくされている自動車業界の不安が解消されたとは言い難い。

そもそも自動車メーカー向けの世界的な半導体不足はなぜ起こったのか。原因の一端は、やはり米中対立と新型コロナウイルスである。米国は中国の半導体受託生産メーカーに制裁を適用、これにより注文は台湾メーカーに集中した。一方、台湾メーカーは世界的な感染拡大を受けて自動車需要の低迷を想定、社会のリモート化や5G投資の拡大を見込んだ生産計画を立てた。ところが、中国市場がけん引する形で自動車向け需要が急回復、結果、極端な需給ひっ迫状態に陥った。そこに北米の寒波、停電が追い打ちをかける。

こうした状況を受け、米国や日本、ドイツなど各国政府も外交ルートを通じて、台湾政府経済部に車載半導体の増産を要請、台湾側も半導体受託生産メーカーに対応を指示してきた。メーカー側もこれに応じ、「生産能力のフル稼働を維持するとともに自動車向けを優先する」と表明している。とは言え、最大手の台湾積体電路製造(TSMC)でも自動車向けの比率はもともと数%程度に過ぎない。主力の需要先はスマートフォン、ゲーム機、PC、データセンター向け高性能サーバーである。そもそも取引条件が厳しく、利幅の薄い自動車メーカーは彼らにとって “上顧客” ではない。自動車メーカーに先んじて発注をもらった大事な顧客を後回しには出来ない、というのが本音であろう。

電気自動車(EV)、先進運転システム(ADAS)など、テクノロジーの進化とともに自動車産業は大きな構造変化の渦中にある。変化とは、単に内燃機関の技術をもった下請企業がエレクトロニクス関連のそれにとって代わるだけではない。やがてサプライチェーンにおける最上位の地位そのものが危うくなるということだ。半導体不足による減産はクルマを頂点とした産業ピラミッドの “綻び” と言って良いだろう。トヨタは、2018年のアニュアルレポートで「クルマをつくる会社から、モビリティカンパニーに変革する」と宣言、「CASE、MaaSの時代の競合相手はGAFA」と明言した。「100年に一度の大変革」とはつまりそういうことであって、今、目の前で起こっている事態は決して一過性のものではない。

今週の“ひらめき”視点 3.28 – 4.1
代表取締役社長 水越 孝