韓国の国際法違反行為で足並みそろわぬ米日韓協力関係 進展のカギを握るのは?
(画像=barks/stock.adobe.com)

2021年1月の米政権交代以来、新政権が日韓関係改善に向けて繰り返し協力を呼びかけているにも関わらず、3ヵ国の足並みがそろう気配は感じられない。3月中旬には米日韓協力関係発展の指揮をとる、アントニー・ブリンケン米国務長官の日韓訪問が予定されている。これにより何らかの進展が期待される反面、過去数十年で最低水準に悪化している日韓の関係が、そう簡単に改善するとは到底思えない。

「日韓関係改善がバイデン政権最優先事項の一つ」の理由

執筆時(2021年3月14日)に公表されているスケジュールによると、ブリンケン米国務長官は3月16日に、茂木敏充外務大臣と会談を行った翌日、韓国を訪問する予定だ。

バイデン政権は発足後、米国が間髪を入れずに茂木敏充外務大臣および韓国の鄭義溶外相と電話会談を行い、さらに3ヵ月ごとの対面会談を提案するなど積極的に取り組んでいる姿勢から、「日韓関係の改善は米国にとって優先事項の一つである」というのが大方の見解だ。「中国、北朝鮮は日韓の亀裂を標的にしている」と、オバマ政権の元防衛計画担当者が指摘した通り、日韓の「機能的な信頼」の回復は、アジア太平洋地域の安全保障を維持する上で、重要な課題だと米国は捉えている。

それと同時に、米国が再び「世界のリーダー」の地位に返り咲くためのチャンスでもある。「米国第一主義」というより、むしろ「米国唯一主義」だったトランプ政権下で、米国の世界における主導的地位が著しく低下した。日韓を協力関係に駆り立て、3ヵ国の足並みをそろえることで、中国の台頭と北朝鮮の核問題で手腕を発揮できれば、国際社会における指導力の回復につながる。

一方、EU(欧州連合)からは、米国が期待しているような対中協力を得られる可能性は低い。ロイターの報道によると、2月に行われたEU外相とのビデオ会議では、「米・EU共に中国を押し返し、団結力を示す必要がある」というブリンケン国務長官の発言に対し、EU側は直接的な反応を示さなかった。EU側としては2大経済大国のいずれにも肩入れせず、中立的な立場を維持したいというのが本音だろう。

特に中国と貿易関係の深いドイツにとって、対中強硬姿勢をとることはあまりにもリスクが高い。また、「EUは米中から独立し、日豪印などインド太平洋諸国との関係を深めたがっている」という関係者の証言もある。

文在寅大統領「日韓関係改善したい」 2つの思惑

最近の文在寅大統領の対日本姿勢緩和は、このような米国の要求に積極的に応える姿勢を反映したものだ。「韓国は日本と対話をする準備ができている」「(東京五輪は)韓日、南北、日朝、そして朝米対話の機会になりうる」「(元徴用工訴訟を巡り、日本企業の資産が)強制執行で現金化されるのは韓日関係にとって望ましくない」と公の場で発言し、日本側にも関係改善に向けて歩み寄るよう求めている。

文在寅大統領の手のひらを返したような発言に対し、「打算や思惑が絡んでいる」との見方も多い。主な狙いは2つある。1つ目は、対北朝鮮融和政策の発展だ。韓国政府関係者の証言によると、北朝鮮は米国との対話を重視している。しかし、日韓関係が改善しない場合、バイデン大統領が北朝鮮との対話も含め、韓国に協力する可能性は極めて薄い。つまり、韓国にとっては南北関係を進展させる上で、日本との関係改善は避けて通れないということだ。

2つ目は、2022年の次期総選挙である。任期終了を控えた文在寅大統領としては、それまでに何としてでも朝鮮戦争の正式な終結を確保し、民主党への国民の信頼を回復したい。現政権の不正事件の捜査を巡り、2021年3月4日に辞任した前検察総長、尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が次期大統領候補として勢力を拡大している今、その気持ちはさらに高まっているはずだ。

韓国社会世論研究所による直近の世論調査では、尹錫悦氏の支持率が32.4%と、文在寅を擁立する革新系与党「共に民主党」候補の京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)氏(24.1%)や前首相の李洛淵(イ・ナギョン)氏(14.9%)を大きく上回っている。

また、ソウル国立大学のパク・チョルヒ教授は、文在寅政権の政策の一部である反日ナショナリズムが、色褪せて来た点についても指摘している。これ以上日本を叩いても、国民からの信用回復には効果を発揮しないといった空気が、国内に流れているという。

日本「断固として受け入れない」 韓国の出方待ち?

一方、日本の対応からは大きな温度差が感じられる。米当局関係者がアジア・タイムズに語ったところによると、菅首相はバイデン大統領との電話会談で、「韓国の行為が1965年に結ばれた日韓請求権協定に違反している」ことを理由に、国際法に基づき適切な措置を韓国に求める意向を示した。

さらに、国家安全保障事務局(NSS)の高官は、「北朝鮮の非核化問題で北朝鮮と中国に圧力をかけるのであれば、3ヵ国間の安全保障協力は重要だ」とする一方で、安全保障協力は日韓の歴史的問題とは完全に切り離して取り組むべきであり、「歴史的問題に関しては基本的に日韓間で取り組む必要がある」と述べた。

菅首相はバイデン政権発足直前の1月上旬、韓国の元慰安婦への賠償支払い判決を巡り、韓国の国際法違反行為を「断じて受け入れることはできない」との声明を発表した。このようなスタンスは安倍前首相が示したものと一貫しており、日本の正当な立場を主張し続ける構えだ。

日本としては米国が介入して来たからといって、文在寅大統領の言葉をそっくりそのまま鵜呑みにすることはできない。関係改善に向けて具体的に交渉し始めた途端、韓国の態度が豹変し、振出しに戻るというシナリオも想定される。

「信頼関係の回復に向けて行動で示す」が、進展のカギ?

3ヵ国がそれぞれの思惑で「連携強化」に取り組む中、本当に足並みをそろえるためには、相当の時間と忍耐、そして妥協が必須となるだろう。そこにはもちろん、韓国側が条約を順守し、両国間の信頼関係の再構築に向けて、言葉だけではなく行動で示すことも含まれる。そして日本がそれを受け入れ、協力し合って国交正常化の実現を目指すことができるか否かが、進展に向けた最も重要な、そして唯一のカギではないだろうか。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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