創業計画書,テクニック
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

「法人設立の登記手続が終わって会社を立ち上げた!」、「新しい事業を立ち上げよう!」、「そのためには商品を購入して人を集めなければならない、そうなると元手がいる、お金が必要だ、だから融資を受けよう。」そう思っていざ銀行に行ったとしましょう。

日本政策金融公庫では以下のような創業時の融資制度があります。

ピックアップしてみますと、

・新創業融資制度
・新規開業資金
・女性、若者/シニア起業家支援資金
・中小企業経営力強化資金

と4種類があります。

その中から創業時融資の種類を決めると、諸々の書類と共に創業計画書が渡されます。

日本政策金融公庫では、ホームページ上にその申請書と記載例がアップされています。

自分で考えるのも面倒だし、この記載例を丸写しして持って行けば何とかなるだろうと思ってはいませんか?

実際はそう簡単には行きません。

記載例を丸写しして銀行に持って行っても融資は受けられないのが実情です。

日本政策金融公庫は政府系の金融機関ですから民間の銀行より審査は緩いと思われるかもしれません。

確かに創業時の融資は一般的には受けられやすいです。

ですが一説によると創業時融資を受けられるのは、申込みの30%~50%と言われています。

このように思った以上に厳しい現実があるのです。

その意味で創業計画書は新規事業で融資を受ける前に立ちはだかる最初の大きな壁です。

では、どうすればいいの?そもそも創業計画書って何?そしてどうやってこの創業計画書を書けば融資は受けられるの?ここではその書き方について日本政策金融公庫の創業計画書を中心に紹介していきます。

創業計画書って何?

ではこの創業計画書って何なのでしょうか?同じようなものの一つに事業計画書というものがあります。

事業計画書という言葉はよく聞きますし、実際に目にした人もいるでしょう。

ニュアンス的には同じなのですが、事業計画書は既に事業を始めている方を対象にした書類です。

これに対して創業計画書は、これから事業を始める方を対象にしています。

2つとも「事業」という言葉を使うので似たような響きを持っていますが、どう違うの?と思われても仕方がないですね。

ただ、この2つにはもう一つ大きな違いがあります。

まず事業計画書の方は、事業を既に始めているので実績や売上があります。

これを数字にして銀行に語ることができますが、他方の創業計画書は事業をこれから始める段階にありますので、実績に裏打ちされた語る数字がありません。

そこが大きな違いとなって現れてきます。

借りる側の思いと貸す側の思い

ところで、日本政策金融公庫は政府系の事業者を対象とした金融機関ですが、銀行は銀行です。

融資をしたのに焦げ付いてしまったら銀行の担当者は責任を取らなければいけません。

ですから「この人はキチンとお金を返してくれるのだろうか?」という視点から書類と人を見ていきます。

他方でこれから融資を受けたいと考えている人は、資材を調達したり人を集めたりしなければいけない、そのためにはお金が要る、自分にはこんな大きなビジョンがある、そんな野望があるから成功は間違いない、この話を聞けば銀行も賛同してお金を貸してくれるだろう、と夢をふくらませて銀行の扉をたたくのです。

ですが銀行側はその夢に共感を抱きつつも違う視点から融資を審査していきます。

両者の思惑は、ここにズレがあることを、まずはしっかりと認識しておいて下さい。

創業計画書の書き方

それでは創業計画書を見ていきましょう。

まずは総論として創業計画書の書き方を説明し、それから個別の書き方について解説していきます。

創業計画書は手書きで書こう

ここ最近はどこを見ても、ワープロ等で入力した文書で満ちあふれています。

その方が見栄えがいいし、読みやすいからです。

そんなご時世だからこそ、手書きの方がインパクトはあります。

そうはいってもワープロと違って手書きだと失敗したらまた書き直さなければいけないし、時間もかかる、第一面倒くさいし、字も下手くそだと色々理由はあることでしょう。

ですが、このご時世で必要なのはきれいに飾られたものだけではありません。

時に求められるのは、ご自身が持っているオリジナリティなのです。

ご自身のオリジナリティを表現したいのであれば、手書きで書くべきです。

その方が受け手となる銀行員にもインパクトを与えて伝わるものがあるでしょう。

何度も書き直さなければならない手間を省くには、一度パソコンで入力して仕上げたものを印刷して、紙に書き写していけばミスは減らせるでしょう。

わかりやすい言葉で書く

業界には色々な言葉があります。

専門的な用語から略語まで様々です。

中には一般的に広まった言葉もあるでしょうが、専門的すぎて特定の業界内でしか伝わらない言葉もあります。

そういった言葉を多用した書類を作って自分は業界経験が豊富であるとPRするのも一つの方法です。

例えば最新のテクノロジーの言葉を並べてこういうことを知っている、そして今後はこういう技術を導入した事業を展開していきたいということが考えられます。

ですが、人は自分が理解できるものにしか関心を示しません。

担当者が理解できなければ、決裁権のある上司はなおさら理解できないかもしれません。

ですので、ここはなるべくわかりやすい言葉で計画書の文章を作るように心がけましょう。

どうしても書類を作っていく中で、専門用語を書かなければいけないような場合は補足資料などを用意しておく方が、相手に伝わりやすくてわかりやすい書類になります。

何度も見返す

創業計画書等の長い文章を作る場合のコツですが、いきなり全て完璧な文章を書くことは現実的ではありません。

長い文章を作成するには、自分はこれからどういう文章を書くのか、どういうことをPRしたいのかを考えて結論を導き出し、それを構成の段階でちりばめていくのです。

あとは構成で考えたことを文章にしていくのです。

そうすると一つの筋の通った文章ができあがるでしょう。

それを何度か読んでみます。

するとこういうつもりではない、ここが間違っているということに気づくことがあります。

あとはそれを手直ししていくのです。

場合によっては他人に読んでもらうのもいいでしょう。

自分の頭の中では完結していても他人にはわからないことがあります。

その点を指摘されたら、またそこを手直しする、そういったバージョンアップを繰り返していくのです。

そうすると最初は荒削りでも、何度か手直ししていく中で練り上げられた見応えのある創業計画書ができあがります。

創業計画書の各項目を見ていこう

創業計画書,テクニック
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

ここまで創業計画書を書く際の、心構えのような話をしてきました。

それでは次に創業計画書の具体的な中身を見ていきましょう。

日本政策金融公庫の創業計画書に沿って、ここからはお話を進めていきます。

ちなみに創業計画書のページを以下に記しておきます。

※日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html

動機

・自分の思いを書く
これは言うまでもなく事業を始める出発点は何ですか?という質問ですね。

「一発当てて金儲けがしたい」「自分の持っている腕を世に問うていきたい」など、皆さんは色々なきっかけがあって起業の道を選択したのです。

その思いをここにどう表現するのかが求められているのです。

起業を決めた原点となる思いをここに書いていきましょう。

・文章で書く
ここで気をつけたいことは箇条書きをやめて、文章で熱く自分の気持ちをPRして欲しいのです。

箇条書きはコンパクトで読みやすいし、実際日本政策金融公庫のホームページではあっさりした記載例がアップされているのですが、これでは熱意は伝わりにくいのが実情です。

もし、モチベーションは同じで熱意を持って文章を書いた人と箇条書きで書いた人の二人が選考に残ったとしたら選ばれるのはどちらの方でしょうか。

行間を読んでもらう、そういう考えもありますが銀行員も時間に追われて書類を見ているのであり、そこまで深く考えてくれることを期待するのは無理があるでしょう。

また、面接時にPRすればいいという考えもありますが、緊張して言いたいことが何も言えないということになればあまりにももったいないですので、事前に準備するに越したことはないです。

文章は下手でも良いのです。

主語と述語がしっかりしていて、自分の言葉で書けば相手に必ず伝わります。

経営者の略歴

・プロフィールを書こう
これも動機と同じように具体的に書いていきます。

箇条書きではどこか義務的な印象を与え、自分をPRできたとは言えないでしょう。

行数が足りない場合は、補足の資料を付け加えて自分をアピールしましょう。

・業務経験がない場合
ここで注意したいのは、起業する事業分野で業務経験のない場合です。

例えば今まで自動車の販売の仕事をしていたのに介護の仕事を始めるような異業種への起業です。

このような場合、経験がないという理由で融資を断られる可能性が高くなります。

実際、今までの経験が活かせるのか未知数ですので今後の事業運営でも厳しいものがあるでしょう。

ですので、このような場合は介護の資格を取得したとか、起業する前に一定の期間、介護の施設で働いてみたなどのPRできる材料を作りましょう。

それも難しいというような場合は経験者を入れて共同経営をするのも一つの方法です。

・営業経験等をPRしよう
また、これまで営業や経理、人事等の仕事をしていた人はそれを全面に押し出して下さい。

営業等の経験は大きな武器になります。

銀行員はどんぶり勘定の人を嫌います。

そんな人にお金を貸したら返してもらえないかもしれませんから。

ですから、数字の読める経理や会社の業績を左右する営業のような経験は非常に重要ですし重宝されます。

例えば営業経験は何年間で、こういうことをしていた、その結果、社内で表彰されたことがあるなど、ありったけのことを書いていきましょう。

また、先ほどの話と関連しますが、起業に際して資格を取得したということも大きなポイントになります。

取扱商品・サービス

・商品やサービスを記載しよう
内容としては、皆様がお客様に提供しようと考えている商品やサービスを書いていきます。

これも抽象的に提供しようとするものを列挙するのではなく、具体的な内容を記載していきます。

単に「ケーキの販売」と書くよりも「フランスの地方都市につたわる方法で作ったケーキの販売」など、イメージできるものにしていきましょう。

この際、注意するポイントは一般には流通してない商品やネットサービスを提供する場合です。

あまりにもニッチなものなどになっていくと銀行員に理解してもらえず、融資にストップがかかるかもしれません。

そうならないようにイメージできる何か、例えばチラシや説明できる資料を用意した方がいいです。

・セールスポイントは何か
これから起業する多くの人は、すでに巷にあふれているサービスや商品を扱うことがほとんどです。

その中から、自分だからこそこういうことができる、同業他社とはここが違うというアピールができなければならないのです。

言い換えればお客様に「あなただから買いに来た」と言われる何かを生み出して文章にして伝えることができれば、それは大きな強みとなるでしょう。

とはいえ、だからといって「前人未踏の商品を開発する」とか「世界にたった一つのモノ」というややオーバーな表現は避けた方がいいでしょう。

と言いますのも、人は自分に理解できないものには共感を示しません。

現実離れした話を聞くと、銀行員としては開発に時間がかかり軌道に乗るまで厳しいかもしれない、下手をすればホラかもしれないと疑念を抱くことにもなりかねないからです。

ちょっと話がそれましたので、先ほどのセールスポイントの話に戻りましょう。

セールスポイントが強みだからといって、自分の商品やサービスの差別化を見いだすことは難しい問いかけです。

既に先んじて事業を始めている方にとっても難しい問題であり、経営者にとっては永遠の課題なのかもしれません。

ですが、これを語れないということは他の中に埋没していくことを意味します。

時間が経てば、その強みも変わっていくかもしれません。

まずはこうしたい、こうありたいという思いから自分の強みを見つけていくことが大切です。

または同業他社の強み・弱みを分析して、そこから自分の強みを磨くのも一つの方法です。

・販売ターゲット・販売戦略
次に販売ターゲットの戦略も重要です。

商品が決まりましたら、誰にどのように売るのかという問いです。

自分はどのような人に、モノを買ってもらいたいのか、客層や年齢等を記載していきます。

また戦略としては店頭で販売する、ホームページやSNS、チラシを使うなど色々な方法があります。

ここにテストマーケティングというやり方があります。

自分の提供する商品等をどうPRして売っていくのか、その商圏や商品に左右されるところが大きいのですが、一律にこれが当たるというものではありません。

このような場合、ひとまず色々な販売方法を期間限定で試してみるのです。

その結果、反響の大きかった媒体で今後は販路を開拓していくというやり方です。

またテレビやラジオは反響の大きい媒体ですが、捻出する金額も高額になります。

ただ時間帯によっては手頃な価格帯になっており、交渉次第では一つの選択肢になる可能性もあります。

また、顧客戦略も重要になってくるでしょう。

業種にもよりますが新規を開拓するよりも顧客を大切にする方が業績は安定していきます。

その顧客をどう見つけ、自社の所につなぎ止められるか、その辺りは検討する必要の大きいところです。

・競合・市場など企業をとりまく環境
これから事業を行おうとしているエリアを見てみましょう。

漫然と地図を眺めるのではなく、その地域が持つ地形や交通状況、地域ならではの特殊性に着目するのです。

人の流れに注目するのもいいかもしれません。

その中で同業他社はどれくらいいて、どこにあるのか、そしてどのような方法で事業を展開しているのかを分析していくのです。

また、手がかりになるものとして国民生活白書などがあります。

国民生活白書は2008年以降発行されておりませんが、地域別の所得や消費内容等を取り上げており、一つの分析指標になりえます。

そこから客観的にみて自分の置かれた状況とひとまずの到達点を決めて、そこから逆算して自分に何ができるのかを考えていくのです。

今の立ち位置と将来の理想との間にあるブランクを埋めること、それを文章にして表現すればしめたものでしょう。

取引先・取引関係等

創業してこれから事業を進めていくのに取引先などないと思われるかもしれません。

ですが、ここを空欄にしておくということは取引先がなくてしばらく仕事もない会社とマイナスに受けとられかねません。

ですので、ここは空欄にせずに中身を埋めて提出するようにしましょう。

銀行で融資を受けてから営業活動をしなければならないと決まっているわけではないのです。

法人であれば法人設立登記を法務局に提出したときが法人になったときですから、そこから営業活動を始めてもいいのです。

もし取引先があるのであれば記載するのはもちろんのこと、見積書や契約書等も面接時に持参するのがいいでしょう。

もし、ケーキ屋のように継続的な取引先等を書くのが難しいのであれば、前述の販売ターゲットや販売戦略の中身をふくらませ、場合によっては前職の経験等をアピールするのも方法です。

必要な資金と調達方法

ここから主に数字の話になってきます。

まず大きく分けて左側に必要な資金の欄が、右側に調達方法の欄があります。

ここで気をつけたいのは、必要な資金の合計と調達方法の合計金額が一緒にならなくてはなりません。

ここに大きなズレがあると融資を受けられないか、又は大幅に減額される可能性があります。

・設備資金と運転資金
まずは設備資金からです。

設備資金とは自動車や機械、什器備品やテナントなどを使用したりするときに必要なお金です。

どれ位の資金が必要なのかを考えてみましょう。

事業を始めようとなると商品や資材を購入し、従業員を雇い入れることが必要になってきます。

ここでどんぶり勘定になってはいけません。

確かに数字は面倒くさいです。

これから始めることに数字をつけるのは無理だ、だから適当な金額を書いてしまおう、そう思われるかもしれません。

ですが相手は銀行員、お金のプロなのです。

同業他社のデータなどを豊富に揃えていて相場を知っているのです。

見積もりもとらずに適当に思いついた金額を書くのは止めて、出てきた見積書に書いてある金額を正確に書いていくように心がけましょう。

次に運転資金です。

これは開業費用に事業をするに際し必要となる経費、そして創業してから軌道に乗るまでの一定の期間に必要となる資金のことです。

いわゆる「つなぎ資金」です。

一般的には見通しの経費総額の3ヵ月程度の資金が必要となります。

こちらも上記の必要資金等から導き出した正確な金額を計算して記載していきましょう。

以上の2つの合算が必要な資金となります。

・調達の方法
資金調達の方法について検討していきます。

まずは自己資金から。

自己資金は会社設立の場合に調達した資本金等がそれに当たります。

言い換えれば返す必要のないお金のことです。

既に備品を購入したりしていて、その金額が通帳にないという方もいらっしゃるでしょうが、お金が物に変わっただけであり、履歴事項全部証明書に記載された資本金の金額を記入して差し支えありません。

次に親や兄弟、知人友人からの借入ですが、これは親類縁者との間の話ですので、とかく口約束で済ますことが多いのが実情でしょう。

ですが借入であるならば契約書に残して他人に説明できるようにしておきます。

借入であるのに第三者に説明できなければ贈与とみなされて、融資の希望金額が減らされるリスクがあるからです。

これら2つを合算して、必要な資金との差額を見てみましょう。

それが融資を受けるのに必要となる金額になります。

また、他の金融機関からの借入もある場合は、この欄に記載して下さい。

もし、書き漏れや意図的に記載しなかった場合は、金融機関の照会にかけられたときに瞬時にわかってしまいます。

それで印象が悪くなっては意味がありませんので、ここも正確に記載していきます。

もう一つ注意するポイントがあります。

さきほど、左側の金額と右側の金額が一致しなければならないとお伝えしました。

これが合わない場合、大きくずれている場合はどうなるのでしょうか?

調達した資金、右側の自己資本等が多ければ、そもそも融資を受ける必要がないと判断されてしまいます。

また、必要な資金、左側の方が調達した資金より何倍も開きがあるのであれば、必要な資金の計算もできないどんぶり勘定の経営者として不適格と判断されるかもしれません。

融資の申込みに際して断られる理由の一つに自己資金の低さがあります。

どれ位の自己資金が必要なのかは、日本政策金融公庫総合研究所が2013年度にまとめた統計によりますと割合は27%となっています。

この数字を満たさないと融資を受けられないわけではありませんが、参考にして下さい。

ここまで一通りの金額が出そろったら、慎重に右と左の合計を検討してみましょう。

事業の見通し

次は、事業の見通し(月平均)です。

ここで利益がどれ位になるのか、経費はどれ位になるのかを考えていきましょう。

まだ事業が始まってない、または創業して間もないのに利益などわからないよと思われるかもしれませんが、相手となる銀行員にとっては大きな関心事です。

といいますのも、この利益から会社の経費や税金、そして借入金の返済に充てていくのですから。

貸したお金がちゃんと返せるのかが、この欄をみてわかるようになっているのです。

ですので、ここが創業計画書の最大の山場と思って準備を進めて下さい。

この項目は、売上高、売上原価(仕入高)、人件費、家賃、支払利息、その他の経費の項目、そして利益を記載する欄があります。

それでは順に主立ったものを見ていきます。

ここでは数字を単に記載するだけでなく計算の過程も記載していきます。

・売上高
売上高とは事業である商品やサービスを提供して結果、得た代金のことです。

例えばケーキ屋であればケーキやお菓子を売って得たお金のことです。

・売上原価
売上原価とは売上高を生み出すために必要となった経費のことです。

先ほどのケーキ屋であればケーキを作るのに仕入れた卵や砂糖などの材料費やケーキをつくるために雇ったパティシエの給料などがそれに当たります。

・経費
経費の主立ったものを見ていきます。

a.人件費

これは文字通り従業員を雇うに際し、必要となる給料等のことを指します。

ケーキ屋では工場でケーキをつくる人の人件費は売上原価に記載しますが、作ったケーキを販売する人はここの人件費の項目に記載します。

b.家賃

テナントを借りたりした場合に払う賃料を記載します。

c.支払利息

借入金額に対する返済額を記載します。

正確には、借入金額の年間支払額を12で割った数字をこの欄に記載します。

d.その他

水道光熱費や電話代などの通信費、消耗品費や旅費交通費などを記載していきます。

業界の平均値より突出していないか、気をつけて下さい。

中小企業庁の統計資料等を見れば一つの目安となります。

・利益
売上高から売上原価、経費の合計を控除した金額を記載します。

この計算で出てきた数字が利益になります。

経費には事業にかかる直接の経費だけでなく諸々の税金や生活費も加味して計算して下さい。

ここで売上よりも経費の方が多いという結果になりますと返済ができないということになり、融資を受けるのは難しくなるでしょう。

もしこのような事態になるのであれば、可能な範囲で事業規模を縮小するなどして、ここの数値とのバランスを取るようにしていきます。

また、左側は創業当初の欄で、右側はそれから12ヵ月後の見通しを記載します。

ここまで売上等について見てきました。

ここで気をつけておきたいことがあります。

前述の経費と同じように各項目の数字が同じ業界の他社の平均値より異常に高くなっている、あるいは逆に低くなっていないかということです。

この数値が平均値より極端に離れていると、どこかに異常な要素があるということです。

では、どこが平均値なのでしょうか?参考になるものとして日本政策金融公庫のホームページ上にある「小企業の経営指標」というものがあります。

※日本政策金融公庫
https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_findings2.html

飲食店一つをとってもレストランや一般食堂など細かく分類されています。

その指標と数値を比較して、自社との間に大きなズレがないのか一度確かめて下さい。

創業計画書の他にも書類を準備しよう

創業計画書,テクニック
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

これまで創業計画書の書類の中身を見てきました。

これだけでも十分大変な作業になりますが、他にも用意しておくべき書類を以下に説明していきます。

必要となる書類としては、履歴書、創業の動機についての書類、販売戦略についての書類、資金繰り表が挙げられます。

ここでは順に説明していきます。

履歴書

創業計画書の中にも経営者の略歴等を記載する欄がありました。

ですが、ご自身をたった6行でPRするのは難しいのではないでしょうか。

そこで自分のプロフィールを別添の資料をつけることで充実させていくのです。

営業の経験がある、表彰を受けたなどは前述の創業計画書にも工夫をすれば書けるでしょう。

ですが、どこでどういう営業活動をしていたのか等をアピールするには紙面の関係から難しいです。

そこでこの履歴書を使って自分を売り込んでいくのです。

また資格の取得は銀行の受けが良くなりますので、是非記載して下さい。

創業の動機についての書類

これも創業計画書に記載する箇所がありました。

とはいえ、4行で全てを記載するのは難しいかもしれません。

そこで、創業に至った経緯を別紙にアピールするのです。

例えば、ケーキ屋を始める方を例に考えてみましょう。

大学生の時に、フランスのアルザス地方を旅行した。

そこで王冠のような形をしたクグロフに出会い、関心を持った。

会社員になるつもりだったが、手に職をつけたいと思った。

できることなら、本場フランスで修行したいと思った。

大学を辞めて、フランスに修行に出た。

数年後帰国してからは、東京のスイーツの店で経験を積んだ。

一般的なスイーツではなく、アルザスのケーキを作りたいと思うようになった。

都市部ではなく、地方都市でフランスの洋菓子の普及に務めたいと考えるようになった。

自分の店を持ちたいと思うようになった。

創業した。

といったようなことを時系列に書いていくのです。

この例で見ていきますと創業計画書の4行では到底書ききれるものではありません。

また最初の方で書きましたが、事業計画書と違い、創業計画書は具体的な数字が未だありませんので、融資するかどうかは熱意がどれだけ相手に伝わるかにかかっている部分も大きいのです。

そういった意味でも、こちらの熱意を伝える意味で創業までの経緯を詳細に書いて用意しておくべきでしょう。

販売戦略についての書類

創業計画書の中に販売ターゲットと戦略を書く欄がありました。

それをさらに詳細に書いていくのが、この書類です。

先ほどのケーキ屋で見ていきましょう。

地方都市で開業するとしても立地によって客層は大きく変わってきます。

県庁所在地で駅前のオフィス街であれば会社員等を対象にしたものとなり、扱う商品も贈答用のクッキー等が多くなります。

そうするとどうPRするかですが、チラシや新聞広告、場合によってはローカルテレビでのCMやラジオ等を使うことが多くなるでしょう。

これに対して郊外の住宅街で店を構えるような場合ですと、自然と客層は主婦や子供など家族層になります。

この場合は誕生日のケーキ等が多くなります。

広告手段としては前述の新聞広告よりはチラシやSNSを使って、その地域での親密さをPRしていくことになるのでしょう。

同じ地域のケーキ屋はどのような所で店を構えているのか、どのような商品をどのような客層に売っているのかを分析しつつ、自分はこのようなところが既存の店舗とは違う、そしてこういう販売戦略で事業を展開していくということを、創業計画書より具体的に踏み込んだ形で書いていきます。

また、いくらで売るのかも重要なポイントです。

近年は価格破壊という形で事業展開をしていく所もありますが、よほどの資金力があるのでなければ得策とは言えません。

長続きもしないでしょう。

お客様も安かろう悪かろうでは直ぐにそっぽを向いてしまいます。

高品質のモノをどう価格に色づけしていくのかが重要です。

ケーキでしたらアルザスとはどのような所で、どんな味がするのか、材料にはどのようなものを使い、パティシエにはどのような思いがあるのかを付加価値として伝えていくことが大切なのです。

資金繰り表

銀行側は創業計画書等で、返済ができるのかを判断していきます。

しかし、実際はこれだけの情報量ではその可能性を予測できず、減額されることもありえます。

そこで自分の所はこういう計画を立てている、だから返済は滞りませんということを資金繰り表で補足していくのです。

資金繰り表に特に決まった要式はありません。

3年分の入金と返済を含めた出金の見込みをここに記載して補強材料として提出しましょう。

この表は今後、事業を運営していく上で数値を把握するのに重要な指標となります。

銀行との交渉材料にもなりますので、数値を読み取れるようにして下さい。

最後に

さて、ここまで創業計画書を見てきました。

事業を行っていく上で大切なものは何か?その問いに会社の根本的なことを定めた定款という意見もあれば、従業員との規律を定めた就業規則という意見もあります。

しかしそれらは会社の事業が軌道に乗ったからこそ活きてくる話です。

事業を軌道に乗せるには、そこに脈となる血流を通さなければなりません。

この血の流れこそがお金であり、その調達方法の一つが銀行からの融資なのであります。

ここまで述べてきた創業計画書はあくまで銀行の融資を受けるための話です。

ですが、この書類は会社のこれからのストーリーを考える上での大切な羅針盤ともなりうるものなのです。

銀行から資金を調達するのはあくまで入口です。

棚卸ししてできた自分の思いの詰まった創業計画書を活かして自分の夢を実現させていって下さい。(提供:ベンチャーサポート税理士法人