2月24日、政府は、今国会での承認を目指すべく東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定案を閣議決定した。RCEPはアジア15ヵ国が参加する広域経済連携協定で中韓と日本が締結するはじめてのEPAでもある。発効すれば世界のGDPの3割を占める経済連携協定となること、デジタルデータに関する域内流通や進出企業に対する技術移転要求を禁じるといった共通ルールに中国が参加したことの意味は小さくない。
同じ日、その中国は、環太平洋経済連携協定(TPP)加入に向けて加盟国と非公式折衝を開始したことを明らかにした。TPPについては昨年11月に習近平氏自ら「積極的に検討する」旨の声明を出しており、今回の発表はそれが実務レベルで進んでいることをアピールしたものと言える。とは言え、知的財産、労働者の権利、環境、国有企業条項を含むTPPは中国にとってハードルは高い。しかし、検討そのものが米国復帰への牽制との見方もあるし、TPP加盟国の中には中国との関係が深く、かつ、RCEPに参加する国もある。中国はこうした国との水面下での折衝を通じて、一定の例外規定を取り付けることの可能性を探っているのかもしれない。
そして、米国。やはり同日、バイデン氏は半導体、鉱物資源、電池など重要部材の供給網を見直す大統領令に署名した。日本、台湾、韓国、豪州などアジアの同盟国と連携し、中国への依存度を引き下げる。バイデン氏は「価値観を共有できない国に調達を依存すべきでない」と発言、脱中国の姿勢を鮮明にする。
トランプ氏が去り、国際社会への復帰を急ぐ米国であるが、対中国のスタンスは変わらない。対立が先鋭化すればするほど、“ディール” における損得が基準であった前政権より、大義や原則により忠実な現政権の方が “後に引けない” 状況に陥り易いかもしれない。
こうした中、新疆ウイグル自治区における中国の人権問題への批判が高まる。欧米企業に続き、日本企業も少数民族の弾圧に関与した現地企業との取引を中止する、との報道があった。RCEPへの参加で更なる成長が期待された “アジア最後のフロンティア” 、ミャンマーの混乱も続く。米国は国軍によるクーデターを直ちに非難、一方の中国は「ミャンマー国内の内政改革」との立場を貫く。
自由、民主主義、人権、ジェンダー、環境、そして、安全保障。多国間経済連携の枠組みは経済合理性を越えた “価値観” を軸に実質的な再編に向かいつつある。未来のシナリオはもう一段複雑になった。
今週の“ひらめき”視点 2.21 – 2.25
代表取締役社長 水越 孝