「ものづくり日本」と古くからいわれているように、日本のものづくりにおける技術力や精巧さは世界でも定評がある。その「ものづくり」の代表ともいえるのが伝統産業だ。しかし伝統産業は、衰退の一途をたどっている。
伝統産業には、工芸品そのものの魅力や大手企業が模倣できない産業としての価値があり、政府や地方公共団体も伝統産業の保護・活性化に向けたさまざまな取り組みを行っている。それらの状況・取り組みを紹介するとともに日本の伝統産業の再生について考察していく。
目次
伝統産業とは
伝統産業とは、古くから受け継がれてきた技術や技法を使い、日本の文化および人々の生活に根ざした産業だ。このなかで生み出されたものが「伝統工芸品」である。とはいえ、ただ古い技術や技法を使って作られたものというだけではない。
経済産業省では「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、以下の5つの要件を指定している。これらを満たし経済産業大臣の指定を受けたものが伝統工芸品である。
- 主として日常生活の用に供されるものであること
- その製造過程の主要部分が手工業的であること
- 伝統的な技術又は技法により製造されるものであること
- 伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること
- 一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること
ちなみに3と4の要件のなかにある「伝統的な」という期間は、具体的に「100年以上の歴史を有している」こととされている。また5の要件に「一定の地域において」とあるが、伝統産業は原材料や技法など地理的条件を活かして産地集団を形成し製造するという地方的色彩の強い産業でもある。
このことから伝統産業が地場産業と呼ばれることもあるが、実際には両者はイコールではなく地場産業のなかに伝統産業が含まれるイメージだ。
伝統産業の例
前述したように伝統産業は、地方的色彩の強い産業だ。生み出される伝統工芸品のなかには、その特定地域の名称(地名)が付いたものも多い。いくつか例を紹介しよう。
・南部鉄器
南部鉄器は、岩手県盛岡市周辺で作られている金工品だ。江戸時代中期に南部藩で作られはじめたことから「南部鉄器」と名付けられた。熱が均一に伝わり保温性に優れている、さびにくく長持ちするなどの特長を持つ南部鉄器は多くの人々の生活に用いられ、現在にいたっても愛用者は多い。
・江戸切子
江戸切子は、東京都で作られているガラス工芸品である。江戸切子と聞いて青、赤、黒色など色被せガラスに切子(カット細工)を施した華やかなグラス等を思い浮かべる人も多いだろう。これは、天保5年(1834年)に、江戸大伝馬町でビードロ屋を営んでいた加賀屋久兵衛が金剛砂を使ってガラスに彫刻を施したのが始まりといわれている。
・京友禅
京友禅は、京都府一帯で作られる染織品だ。江戸時代に扇絵師として人気の高かった京都の宮崎友禅斎が、自分の画風をデザインに取り入れ、模様染めの分野に生かしたことで「友禅染め」が生まれたと伝えられている。豊かな色彩で花鳥・草木・山水などの絵画調の模様を着物に描き出す友禅染は、町人文化の栄えた江戸時代中期に盛んに行われるようになった。
・丸亀うちわ
丸亀うちわは、香川県丸亀市周辺で作られているうちわ。江戸時代初期に四国の金毘羅参りのお土産として朱色に丸金印入りの渋うちわが考案されたのがはじまり。江戸時代中頃に丸亀藩士の内職としてうちわ作りを奨励したことが、今日の丸亀うちわ製造の土台となったとされている。現在では国内のうちわ生産量の約90%を占めている。
伝統産業が置かれている厳しい現状
紹介した以外にも日本各地で伝統産業が根付いており、全国で240品目(2022年11月時点)の伝統工芸品が指定されている。しかし経済産業省の資料によると、生産額も従業員数も逓減しており、衰退傾向にあるのが実情だ。
【伝統的工芸品の生産額・従業員数の推移】
グラフを見てもわかるように2001年度(平成13年度)に2,000億円程度だった生産額が、2010年度(平成22年度)には1,000億円へと約半減し、2016年度(平成28年度)には1,000億円を下回ることとなった。その後も減少傾向は続き、2020年度(令和2年度)には870億円まで落ち込んでいる。
生産額の減少度合いに比べると緩やかではあるが、伝統工芸品づくりを担う従業員の数も減少傾向だ。1998年度(平成10年度)に約11万5,000人だった従業員は2020年度(令和2年度)に約5万4,000人と半数以上も減少していることがわかる。
伝統産業が衰退傾向にある理由
伝統産業が衰退傾向にある要因にはさまざまなものがある。主な理由として「需要の減少」「後継者不足」「原材料・用具等の不足」の3つが挙げられる。