コロナ禍で2度目の緊急事態宣言が出された。政府は、飲食店に対して午後8時までの営業時間短縮を要請し、応じない店舗の飲食店を知事が公表できるようにした。飲食業界からはやり過ぎとの声もあるが、一方で店名公表が誘客効果につながるケースも出てきそうだ。
今回の緊急事態宣言による飲食店への時短要請の内容について
日本政府は1月7日に東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県を対象区域とする緊急事態宣言を出し、1月13日に大阪府・京都府・兵庫県・愛知県・岐阜県・栃木県・福岡県の7府県を対象区域に追加した。2020年4月に続く2度目の緊急事態宣言だ。
今回の緊急事態宣言では4つの対策が柱となっている。その中に飲食店の「午後8時までの営業時間短縮」が含まれており、対象区域の各店舗に対して営業時間を短縮するよう求めた。
しかし、営業時間の短縮についてはあくまで要請であり、実際に政府の要請に応じるかの判断は、各店舗に委ねられる。そこで政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法の政令を改正し、各知事が営業時間の要請に応じない飲食店の店舗名を公表できるようにした。
実際にはどのくらいの店舗が時短営業の要請に従わないのか
飲食店向け予約・顧客管理システムを開発・提供するTableCheck社が1月7~10日にかけて実施したインターネット調査(対象:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県内の飲食店関係者)によれば、営業時間短縮の要請には87.9%が「応じる」と回答している。
一方、飲食店からは「飲食店イジメ」「賃料負担が大きく事業の継続が更に困難な状況」といった声も上がり、「応じない」と回答した店舗も割合は少ないが0.9%は存在する。要請に応じない飲食店の店舗名はその都道府県の知事によって公表される可能性がある。
そして、店名公表については「あくまで要請であるのに店名公表はおかしい」「飲食店のくくりが明確でない中の店舗名公表はとても脅威」といった声もあるが、この記事で注目したいのが「公表することによって人が集まると思う」といった意見だ。
時間短縮要請に応じていない店舗ということは、逆に言えば午後8時以降もその店舗で飲食などができるということだ。感染を気にしない人などにとっては、店名公表は逆に営業している店を知ることができて好都合ということになる。
新型コロナウイルスの感染を避けたいという客であれば、これらの店舗を訪れないかもしれないが、店名公表にはこのような弱点もあるわけだ。
1回目の際は営業しているパチンコ店に長蛇の列も
それでは、2020年4月に出された1回目の緊急事態宣言の際には、店名公表はどのような状況を招いたのか。例えば、パチンコ店についてみてみる。宣言を受け、東京都や千葉県などはパチンコ店などの一部施設に休業を要請した。しかし、中には休業要請に応じない店舗もあった。そしてその店舗には、長蛇の列ができるほどのパチンコファンが訪れ、テレビや新聞でその様子が大々的に報じられると、さらにその店舗の存在を知った人が遠方からも訪れるという事態となった。
このように、休業要請に応じない店舗名を公表すると、逆にその店舗にとっては誘客効果が出てしまうことが1回目の緊急事態宣言で分かっており、今回の緊急事態宣言でも営業時間短縮に応じない飲食店が逆に潤うといった現象が起きる可能性がある。
もちろん、飲食の場合はパチンコなどと異なり、コンビニで夕食を買ったり、自宅で料理をしたりと、店舗を訪れなくても空腹を満たすという目的は達成できる。そのため長蛇の列とまではいかないかもしれないが、満席・盛況といったことは起こり得るだろう。
誘客効果をさらにうまく活用する動きも
このような誘客効果をさらにうまく活用しよう、という動きも出てくるかもしれない。
例えば、営業時間短縮の要請には応じないものの「お1人様専用」といった独自対策で営業している店舗は、コロナ禍においても工夫に努めて営業した店舗として、イメージアップにつながるかもしれない。
最近では、自律走行技術を搭載した配膳ロボットなどを開発・販売している企業も増えている。このようなロボットの導入でホールスタッフを完全無人化して営業する形を取れば、逆に先見性がある店舗としてテレビや新聞から注目を集めるかもしれない。
このようなことを考え、コロナ対策をしつつも営業時間短縮の要請に従うか、それとも独自路線で営業を強行するのか、いまなお悩んでいる店舗は少なくないはずだ。
店名公表で飲食店へ多くの客が押し寄せる事態に?
この記事では、2回目の緊急事態宣言による飲食店への営業時間短縮の要請について説明した上で、店名が公表された場合の誘客効果などについて考察してきた。
すでに、要請を受けて営業時間を短縮している店舗もあれば、一方で応じていない店舗もある状況である。1月18日時点で要請に応じない店舗の公表はまだ行われてないようだが、実際に店舗名が公表されればどのような状況となるのか、大いに関心が集まりそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)