1月18日、JR西日本は新幹線による貨物輸送の事業化を目指すと発表した。JR東日本と連携し、金沢から首都圏向けに鮮魚などを運ぶ。また、JR九州とも連携、鹿児島-新大阪間における実証実験にも着手する。
新幹線を使った貨物輸送は、これまでも物産展のためのイベント運行として実施されたことがある。しかし、今回の実験は高速輸送を将来の成長分野と位置付けたうえでの取り組みであり、戦略的意味は異なる。
貨客混載の実証実験はJR北海道が先行、佐川急便をパートナーに在来線(宗谷本線)では一昨年の4月から、北海道新幹線(新函館-新青森)での実験も今月からスタートする。JR九州も昨年8月26日に佐川急便と提携、九州新幹線(博多-鹿児島中央)を活用した速達貨物需要の開拓を目指す。ただ、両社はいずれも自社の営業線内で完結しており、JR西日本の取り組みは会社間を跨ぐ高速物流ネットワークの構築に向けての第1歩である。
苦境に喘ぐ航空業界も貨物輸送の強化に舵をきる。日本航空の2020年4-9月期は売上収益が前年同期比74.0%減という大幅減収となったが、貨物郵便セグメントの収入は同18.4%増となった。コロナ禍による旅客便の運休、減便は同時に貨物スペースの容量も縮小させた。結果、航空貨物の運賃は高止まり状態にある。もちろん、パンデミックによる旅客売上の減少をカバーするにはまったく足りない。とは言え、航空各社は旅客機を貨物専用便に転用するなど貨物便の運航強化で経営の下支えをはかる。
ヒトの移動が大きく制限される状況にあって、モノの動きは拡大を続ける。社会のデジタル化とリモート化がこれを後押しするとともに、小口化と多頻度化への要求はこれまで以上に高まる。こうした環境変化を前提とすれば高速公共交通の強みであるスピードと定時性は十分にコストを吸収できるはずだ。航空機、新幹線といった高速輸送ネットワークと在来線、トラック網、ラストワンマイル自動走行を統合した物流MaaSの実現は、“地方” の可能性を引き出すプラットフォームとなるだろう。とりわけ、鉄道事業者の本格参入は「駅」のモビリティハブ化を促す。そして、そうなった時、駅は再び “町の中心” としての輝きを取り戻すはずだ。“中心の再生” は町そのものの求心力向上につながる。官民一体となった取り組みが望まれる。
今週の“ひらめき”視点 1.17 – 1.21
代表取締役社長 水越 孝