本物の 「 上司力 」 ~「役割」に徹すればマネジメ ントはすべていく
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

(本記事は、前川孝雄氏の著書『本物の 「上司力」 ~「役割」に徹すればマネジメントはすべていく』= 大和出版、2020年10月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

部下に「仕事の目的」を伝えることの重要性を重ねてご説明してきましたが、「伝える」ときには「どのように話すか」が問題になります。話し方が稚拙だと、仕事の目的が部下に適切に伝わらない可能性があるでしょう。リーダーとしては、部下に「伝わる」話し方を学ぶことも必要です。

私は、リーダーの話し方において重要なのは「思い」「思いやり」「わかりやすさ」の三つだと考えています。

「思い」と「思いやり」については、少々、精神論のように聞こえるかもしれません。しかし「話し方」をトレーニングし実践していくうえで、「思い」と「思いやり」はつねに根底にあるべき重要なものです。安易な「話し方のテクニック」に走らないようにするためにも、強く意識しておく必要があります。

一つめの「思い」では、上司自身がチームを運営するうえで強い思いを持っているかどうかが問われます。

そのポイントは「主体性」です。「私はこう考える」「私はこう思う」「私はこうしてほしい」というように、「私」を主語にして話せるかどうかだと言い換えてもいいでしょう。

もしも、「こうしなさい!」「こうするように!」といった問答無用な話し方、「会社の方針だからこうしてほしい」といった伝書鳩のような話し方、「こうしておけばいいんじゃない?」「こうしておかないとまずいと思うけど」といった他人事のような話し方をすれば、部下はみなさんの「思い」を感じ取れないでしょう。部下の心を動かすためには自分の言葉で語ることです(図9)。

本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく
(画像=『本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』より)

二つめの「思いやり」は、部下やチームやお客さまへの思いやりを持っているかどうかが問われます。

近年注目を集めているクラウドファンディングという手法について、考えてみてください。ただ「自分がこれをやりたいからお金を出してほしい」という人は、多くの共感を集めることができません。

一方、「誰かのためにこれをやりたいからお金を出してほしい」と訴える人に対しては感動や共感が集まりやすく、寄付をしようという人も出てくるものでしょう。

自分のことはさておき、誰かのために行動しようとする姿勢に人は感動するのです。これこそが職位によらない影響力となり、リーダーシップの源泉でもあります。「他者への思いやり」は、人を動かす立場の上司として必ず持っておくべきものといえます。

思いやりを持って伝えるときのポイントは「愛他性」にあります。
部下に話をするときは、期待や配慮もあわせて伝えるように心がけましょう。
期待を伝えるというのはたとえば「なぜなら、あなたにこうなってほしいから」「なぜなら、お客さまはきっとこうなれると思うから」といった話し方のことです。

配慮については、「私もこんなふうにサポートするから」「困ったことがあればいつでも相談に乗るから」「どうしても難しい場合は一緒に別の方法を考えよう」といった言葉を添えることで伝わっていきます(図10)。

『本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』より本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく
(画像=『本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』より)

三つめの「わかりやすさ」はテクニカルな部分です。
どんなに良い話も、相手に伝わりやすく話す、言い換えれば「わかりやすく話す」力がなければ、なかなか伝わりません。

リーダーは、言葉によって部下を動かしていくことが求められますから、わかりやすさとはどういうことかを考えて実践していく必要があります。

わかりやすく話すためのテクニックの解説は世にあふれていますが、基本的には起承転結を意識してストーリー性を持って伝えることが大切です。

あれもこれもと内容を詰め込みすぎないこと、話が本来伝えたい内容から大きく脱線することがないよう留意しましょう。

私が営む会社の研修やセミナーで、リーダー向けによくお伝えしているのは「PREP法」です。

PREP法とは

①P= POINT(結論)
②R= Reason(理由)
③E= Example(事例、具体例)
④P= Point(結論を繰り返す)

という順番でメッセージを伝える手法のことをいいます。

具体例として、少し古いですが、私が「これこそPREP法だ」と感じた、あるドラマの場面をご紹介したいと思います。

以下は、NHK大河ドラマ「龍馬伝」第23話で、操練所から逃げ出してしまった仲間について、周囲が放っておくよう述べたときに福山雅治さん演じる坂本龍馬が反論するシーンのセリフを引用したものです。

①P= POINT(結論)
「わしらは、たった200人しかおらんがじゃ! たったの200人で、この日本の海軍をつくろうとしとるがじゃ!」

②R= Reason(理由)
「アメリカ、フランス、イギリス、ロシア。異国は日本がばらばらになるがを待ちゅう! 日本をのっとる準備ができちゅう! けんど、そうはさせん! そうはさせんと心に決めたもんらがこの海軍操練所に集まっておるがじゃ! おらんでええという人間はここには一人もおらん!!」

③E= Example(事例、具体例)
「蒸気船は一人で動かすことはできんがじゃ!帆を張る者、柵をひく者、釜を炊く者、風を見る者、海図を読む者、見張りをする者、旗を立てる者、飯を炊く者、壊れたところを直す者、誰一人、誰一人欠けたち、船を動かすことはできんがじゃよ!」

④P= POINT(結論)
「わしらは、日本の海軍ゆう大きい大きい船を動かそうとしゆうがじゃ!」

上司の方々は、期初のミーティングなど、チームの方針を部下に向けて説明する機会が多々あると思います。

そのような場面では、PREP法の枠組みに沿って話す内容を構成すれば、部下に自分の考えをよりわかりやすく伝えることができるようになるでしょう(図11)。

本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく
(画像=『本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』より)
本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく
㈱FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
前川孝雄(まえかわ・たかお)
人材育成の専門家集団(株)FeelWorksグループ創業者であり、部下を育て組織を活かす「上司力」提唱者。兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て 2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、独自開発した「上司力研修」「上司力鍛錬ゼミ」「 50 代からの働き方 研修」、eラーニング「上司と部下が一緒に学ぶ、パワハラ予防講座」などで 400 社以上を支援している。 2011 年から青山学院大学兼任講師。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の 9 割は部下の成長に無関心』( PHP 研究所)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『 50 歳からの逆転キャリア戦略』 (PHP 研究所 、『コロナ氷河期』(扶桑社)など30冊以上。

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