本物の 「 上司力 」 ~「役割」に徹すればマネジメ ントはすべていく
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

(本記事は、前川孝雄氏の著書『本物の 「上司力」 ~「役割」に徹すればマネジメントはすべていく』= 大和出版、2020年10月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

戦後高度成長期〜平成に確立した「日本の管理職」

時間管理を前提とする不毛

日本の労働法制は時間管理をベースとしています。これは、戦後高度成長期に工場でのブルーカラーワーカーの働き方を前提として法整備が進められてきたからです。工場の仕事は、均質なオペレーションの仕組みさえできればトレーニングされた人の間で生産性に大きな差が生まれにくく、時間による管理は有効だったと言えます。

しかし現在の日本の産業構造を見ると、およそ7割をサービス業が占めています。サービス業では、労働時間と仕事の成果は必ずしも一致しません。長時間働いても、お客さまの利用がなければ売上が立たないこともあるからです。

もちろんサービス業に限らず、労働時間とパフォーマンスが連動しない仕事はたくさんあります。たとえば製造業においても、生産計画を立てたり製造工程全体を管理したりするホワイトカラー業務が増えており、労働時間だけでパフォーマンスが計れるはずがありません。

日本の労働法制がベースとする時間管理の考え方はすでに古びており、日本企業の実情に合わなくなっています。しかし企業は法律を守らなければなりません。働き方改革でも、時間管理を前提として「いかに残業させないか」「どうやって休日出勤を減らすか」といった議論になりがちです。企業は社員が何時から何時まで仕事をしているかを管理せざるを得ず、上司は部下を監視する必要性に迫られているわけです。

これは非常に不毛な状態だと私は思います。

日本型雇用は果たして機能しなくなっているのか

もう一つ理解しておきたいのが、「メンバーシップ型」と呼ばれる日本型雇用が機能しづらくなっていることです。人材マネジメントの世界では、雇用のあり方を欧米流の「ジョブ型雇用」と日本流の「メンバーシップ型雇用」に分けて論じられています。

ジョブ型とは、企業が仕事に見合った能力を持つ人を採用し、職務内容を事細かに定めて、仕事に応じた賃金を支払う方法です。

入社する時点でどのような仕事をするのかが明確に示されており、その仕事がなくなれば雇用契約を終了することもめずらしくありません。

一方のメンバーシップ型は、企業が長期にわたって雇用を保障し、人事異動やOJTを通じて人材を育て、能力の向上に応じて賃金が高まる仕組みです。

入社時にどのような仕事をするかは決まっておらず、求められるのは会社の「メンバー」になることへのコミットメントです。ジョブ型が本来の意味での「就職(職に就く)」なら、メンバーシップ型は「就社(会社に就く)」雇用のあり方だと言ってもいいかもしれません。

ジョブ型とメンバーシップ型は、給料の決まり方にも大きな違いがあります。ジョブ型の場合、業務に応じた対価は都度もらえます。「給与の即時払い方式」といえます。一方、メンバーシップ型は新卒の段階では給料が低く抑えられており、勤続年数とほぼ比例して職能等級が上がることで給料が徐々に上昇していく仕組みです。給与体系は退職金まで受け取ることを念頭に組み上がっているので、「給与の後払い方式」をとっているとも言えます。

メンバーシップ型には、ジョブローテーションなどを経ながらしっかりトレーニングしてもらえるというメリットもあります。しかし新卒で入社した会社で定年まで働く終身雇用が当たり前ではなくなった今、メンバーになることへのコミットメントを求め、給与を後払いするやり方がうまく機能しづらくなっているのは当然と言えるでしょう。

またジョブ型の場合、企業は社員と「どのような職務についてどんなパフォーマンスを上げるか」を取り決め、それを達成するプロセスは社員に任せます。少々乱暴な言い方をすれば、「やるべきことさえやっていればいい」わけです。

一方、メンバーシップ型の場合、どのような業務をするのか、どの程度のパフォーマンスを上げればよいのかは曖昧にされることがほとんどです。これは、上司が部下を何で評価すべきかが明確でないということでもあります。その結果、上司は部下のそばで仕事をする様子を見て、「頑張る姿勢」や「無理をしてでも仕事をやり遂げようとする態度」があるかどうかを見るしかなかったのです。

なおリモートワークが普及する中、メンバーシップ型からジョブ型にシフトすべき、という意見が大勢になりつつありますが、私は部分的に賛成という立場です。欧米のように転職市場が整備されていない日本でジョブ型にシフトすると、即戦力ではない若者の失業者が溢れると考えるからです。社会不安の増大も招きかねません。メンバーシップ型の日本企業の強みは長期視野での人材育成です。この強みを活かし、一人前まで育ったあとはジョブ型にシフトするハイブリッド型こそ日本型企業が目指す方向だと考えます。

まじめで優秀な「現代日本の管理職」

話を戻しましょう。このような日本社会固有の背景の中、今、管理職に就いている40〜50代の方々は、日本経済の停滞の中で平成の30年間を過ごしてきました。

私たちは10年以上にわたって、多くの企業の管理職の方たちのトレーニングをしてきましたが、現代の管理職層は非常にまじめで優秀な方が多いという印象を持っています。

50代のいわゆる「バブル世代」は層が厚いため、部下を持つ管理職になれるのはごく一部の優秀な方々です。一方の40代はというと、上の世代の採用数が多かったことからポストは限定されており、やはり一定の評価を受けなければ管理職にはなれません。

いずれにしても、プレイヤーとして成果を上げ、会社から高い評価を受けた人が今の管理職の方々だということです。 そしてこのような方々は、職責意識が非常に高く、「会社から求められる業務はやり遂げなければならない」という責任感が強い傾向があります。

しかし、日本企業を取り巻く環境は激変しています。
終身雇用が崩れた今、部下である若年層の社員は会社へのコミットメントが弱くなっています。「上司から命令されれば部下は素直に従うのが当然」という考えは、もはや過去のものです。長期的な雇用が保証されない中、「我慢していればいつかはそれなりの処遇を受けられる」という期待を持てないのですから、それも当然でしょう。

一方、今の管理職は8〜9割がいわゆる「プレイングマネジャー」です。プレイヤーとして自分の業務で忙しい中、価値観の大きく異なる部下と向き合い自分自身が戸惑うことも多いでしょう。

そこに襲ったコロナ禍により、上司たちは慣れないリモートワークを強いられて、部下の様子が見えない中で部下の管理をするよう求められることになりました。

つまり、労働法制のもとで部下の時間を管理しながら、ジョブ型も取り入れて「仕事の成果」を管理する必要性に迫られているわけです。自分たちが若手だった頃に見聞きし経験してきた「日本の管理職」のマネジメント手法では、とても対応できないことは明白です。

ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、著書『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社)で大企業が新興企業に遅れをとる理由について分析しています。その中核となるメッセージは、大企業は自らが優れた製品を持つがゆえにその改良にとらわれて持続的イノベーションに終始し、新興企業がもたらす破壊的なイノベーションの価値を見逃してしまうものだということです。

私は、今の日本企業社会では「マネジメントのジレンマ」が起きていると感じています。自分の中に過去の成功体験があり「マネジメントの常識」が根付いている人は、時代や環境が変化してもその「常識」の延長線上で戦おうとしがちであり、それがう

本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく
㈱FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
前川孝雄(まえかわ・たかお)
人材育成の専門家集団(株)FeelWorksグループ創業者であり、部下を育て組織を活かす「上司力」提唱者。兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て 2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、独自開発した「上司力研修」「上司力鍛錬ゼミ」「 50 代からの働き方 研修」、eラーニング「上司と部下が一緒に学ぶ、パワハラ予防講座」などで 400 社以上を支援している。 2011 年から青山学院大学兼任講師。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の 9 割は部下の成長に無関心』( PHP 研究所)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『 50 歳からの逆転キャリア戦略』 (PHP 研究所 、『コロナ氷河期』(扶桑社)など30冊以上。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
『本物の「上司力」 「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』シリーズ
  1. 今こそ、上司の「本当の真価」が問われている――
  2. リモートワークで部下の仕事ぶりがわからない上司の悲鳴
  3. まじめで優秀な「現代日本の管理職」が感じる「マネジメントのジレンマ」
  4. 働き方改革の結果、社員のモチベーションが低下する悲惨な現実
  5. 事なかれ上司が「部下から嫌われたくない」と逃げることで起きる事態
  6. リーダーは「思い」「思いやり」「わかりやすさ」の三つを意識して会話せよ