
内部監査とは、組織が適切に運営されているかを調査することだ。内部監査はなぜ必要で、内部監査によって企業にはどんなメリットがもたらされるのだろうか。この記事では、内部監査の定義、実施する時の流れ、注意点などを具体的に解説していく。
目次

内部監査とは
内部監査とは、会社が任意に設置する内部監査人や内部監査部門による社内の業務監査だ。会社の内部統制を機能させることで、社内における経営目標の達成や不祥事の防止を図る。
内部監査の内容を直接定めた法令はないが、関係機関からは内部監査に関する定義や内部監査人の役割などが示されている。
内部監査の定義
内部監査について直接定義した法令はないが、定義としてよく用いられているのは、一般社団法人日本内部監査協会による内部監査基準の内容だ。
内部監査とは、組織体の経営目標の効果的な達成に役立つことを目的として、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で、ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメントおよびコントロールに関連する経営諸活動の遂行状況を、内部監査人としての規律遵守の態度をもって評価し、これに基づいて客観的意見を述べ、助言・勧告を行うアシュアランス業務、および特定の経営諸活動の支援を行うアドバイザリー業務である。
内部監査の目的はあくまで、組織の経営目標の達成だ。そのために、ガバナンスやリスク・マネジメントの観点から、業務の遂行状況や組織体制を調査・評価する。
たとえば「部門間で適切な情報連携がされているか」「法令に準拠した業務プロセスになっているか」「合理的で効率的な業務フローが整備されているか」「見落とされている業務上のリスクはないか」といった内容が想定される。 内部監査では、結果を踏まえて、改善に向けたアドバイスを実施することも多い。
(引用)一般社団法人日本内部監査協会:「内部監査基準」
内部監査人の役割
内部監査は、組織内で行われるため、内部監査を実施するのも従業員だ。この従業員を内部監査人と呼ぶ。一人で行う必要はなく、内部監査を担う部署を組織し、複数人で内部監査の業務にあたることもある。また、内部監査を実施する時だけ、適切な人材を選ぶという方法もある。
内部監査人の役割は、次のように定められている。
内部統制の目的をより効果的に達成するために、内部統制の基本的要素の一つであるモニタリングの一環として、内部統制の整備及び運用状況を検討、評価し、必要に応じて、その改善を促す職務を担っている。
内部統制とは、業務の効率性・財務報告の信頼性・法令順守・資産保全という4つの目的を達成するための、全従業員が行う業務プロセスのことだ。モニタリングとは、内部統制が機能していることを継続的に評価するプロセスのことだ。
つまり内部監査人の役割は、内部統制が正しく機能するよう、継続的に調査・評価・提案することと言える。
(参考)金融庁:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」
内部監査を実施するメリットと注意点
2006年に会社法が改正され、株主の利益を守る観点から、大企業では内部監査の実施が義務化された。中小企業の場合、内部監査を実施するかどうかはあくまで任意だ。
続いては、内部監査のメリットと注意点について解説する。
内部監査を実施するメリット
義務化されていないとはいえ、リスク・マネジメント等の観点から、自主的に内部監査を実施する中小企業も少なくない。
内部監査は、業務プロセスや経営上のリスクを客観的に把握する上で役に立つ。しかし、多忙な経営者が業務プロセスを一つひとつ検証し、リスクを予測するのは現実的ではない。
内部監査人の報告・提案をもとに業務改善を実施することで、効率的に組織を成長発展させられるだろう。
内部監査を実施する時の注意点
内部監査を効果的に実施するには、優秀で信頼できる内部監査人を選ぶ必要がある。また、公平な判断を下すため、内部監査人は他の部署から独立した立場で業務にあたることが望ましい。
さらに、内部監査を実施したあとは、調査・評価・提案の内容をもとに、速やかに経営改善に活かすことが大切だ。内部監査を実施しても、それが改善につながらなければ意味がない。改善につながってこそ、内部監査人や従業員の信頼の獲得にもつながる。
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内部監査の流れ
内部監査をすることで、予想されるリスクに対処し、効率的な事業活動を行えるようになる。続いては、内部監査の一般的な流れを紹介していく。
内部監査計画
最初に内部監査計画を立てる。内部監査の対象とする業務範囲、内部監査の方法、考慮すべき点などを洗い出し、内部監査の実施期間を決める。
経営者の承認を得たら、各部署に内部監査の実施日等を連絡する。なお、不正が疑われる時は、事前連絡なしに内部監査を実施するなど柔軟な運用をすることも大切だ。
内部監査計画を立てるのとあわせて、内部監査マニュアルを整備しておくと、次回の内部監査でも役に立つ。内部監査の結果を踏まえて、マニュアルも少しずつ改善していくといいだろう。
予備調査
いきなり内部監査を始める前に、予備調査を実施することが一般的だ。予備調査では、各部署の業務内容を理解したり、資料の保管場所等を確認したりする。責任者との面談が必要な場合、面談のスケジュール調整も行う。
なお、初めての内部監査の場合、予備調査をした上で内部監査計画を立てるのも1つだ。
内部監査
計画に基づき、実際に内部監査を実施する。予備調査に対して、本調査と呼ばれることもある。
マニュアルの規定通りの運用がなされているか確認したり、整合性のないデータがないかチェックしたり、業務プロセスを評価したりする。必要に応じて、責任者との面談も行う。問題点が発見された場合、追加で調査を実施することもある。
分析・評価
内部監査が終了したら、調査結果をまとめる作業に入る。公平性・客観性を重視し、分析・評価を行う。分析・評価結果の証拠となる資料も提示できるよう整理しておく。
報告
分析・評価した内容を、経営者や経営幹部に報告する。具体的な経営改善につなげるには、経営者や経営幹部だけでなく、各部門・各部署の責任者にも報告することが望ましい。
改善提案
内部監査の目的は、組織の成長発展を支えることだ。目的達成のためには、問題点を指摘するだけにとどまらず、改善提案まで行うことが大切だ。各部門・各部署の責任者とも相談しながら、具体的な改善策を出すことが望ましい。
また、改善提案のあとは、実際に改善がなされたかどうかを確認することも重要だ。このように、問題点の把握と改善を積み重ねていくことで、組織は健全に成長することができるだろう。
内部監査が必要になる場面
いずれ上場を見据えているなら、内部監査はさらに重要な意味を持つ。
有価証券上場規程第207条では、上場審査の項目に「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」があるからだ。
内部監査に関する上場審査のポイント
「上場審査に関するガイドライン」によると、コーポレート・ガバナンスと内部管理体制に関する審査では、主に新規上場申請者の企業グループにおける内部監査体制や、その経営活動その他の事項に関する法令等を遵守できる体制などについて検討するとされている。
「新規上場ガイドブック」によると主な審査ポイントは以下のとおりだ。
・内部監査に関して公正かつ独立の立場から実施可能な体制が構築できているか
・内部監査の専門組織を有する場合は、その組織が特定の事業部門に属していないか
・専門組織でないときは、内部監査が自己監査にならないよう手当てしているか
・法令等を遵守する体制として、内部監査、監査役監査等の監査項目に経営活動に関する法規制等の項目が反映されているか
上記は審査項目のごく一部であるが、内部監査の体制や実施状況について細かくチェックを受けることがわかる。
(参考)日本取引所グループ:「上場審査等に関するガイドライン」
(参考)日本取引所グループ:「新規上場ガイドブック」
内部監査と法定機関の違い
内部監査と似た言葉はいくつかあるが、その1つに法定監査がある。法定監査とは、法令等で義務付けられた監査のことだ。
監査役や監査役会、監査委員会、監査等委員会とは、いずれも取締役等の職務執行の監査などを担う機関である。すべて会社法に定められた法定機関であり、法令の定めがない内部監査とは異なる。
これらは会社法第326条~第328条によると、原則として定款による任意設置であるが、取締役会設置会社・会計監査人設置会社には監査役、大会社(監査等委員会・指名委員会等設置会社を除く)には監査役会を設置する義務がある。
監査委員会や監査等委員会は、それぞれ指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社に置かれる機関であり、法定監査機関と内部監査の業務には重複する部分もある。
しかし、内部監査が法令に定められていない以上、法定監査機関と連携する義務はない。
この点について一般社団法人日本内部監査協会や公益社団法人日本監査役協会では、内部監査と法定監査機関の連携が重要だと認識している。
(参考)一般社団法人日本内部監査協会:「内部監査基準」
(参考)公益社団法人日本監査役協会:「監査役等と内部監査部門との連携について」
内部監査の必要性
内部監査について直接定めている法令はないが、内部監査の目的である内部統制については、会社法や金融商品取引法に根拠がある。それぞれの法律を通して内部監査の必要性に触れていく。
内部監査が必要な根拠1.会社法
会社法第362条第4項第6号では、取締役会の権限として「業務の適正を確保するための体制の整備」が掲げられ、内部統制の根拠として扱われている。同法第5項によると、この体制に関する整備は大会社に義務化されている。
内部監査が必要な根拠2.金融商品取引法
金融商品取引法第24条では、有価証券報告書を提出しなければならない会社に対し、「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制」について評価した内部統制報告書の提出を義務付けている。
内部統制報告書とは、有価証券報告書などの適正さを確保するための書類であり、監査法人の監査を受けてから金融庁に提出しなければならない。日本版SOX法と呼ばれる内部統制報告制度に関する定めである。
内部監査とコーポレートガバナンス・コードの関係
コーポレートガバナンス・コードが求める内部監査についても確認しておこう。
コーポレートガバナンス・コードとは、会社の持続的な成長と企業価値の向上のために、ガバナンスの在り方を上場会社向けに示したものである。内容は5つの基本原則と、それを具体化した原則・補充原則で構成される。
内部監査により適切な情報開示等を達成
コーポレートガバナンス・コード基本原則3「適切な情報開示と透明性の確保」の原則3-2では、「外部会計監査人及び上場会社は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべきである。」としている。
その補充原則で、取締役会と監査役会の行うべき対応として、「外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保」を掲げている。
また、基本原則4「取締役会等の責務」の原則4-13では、取締役と監査役は、その責務を果たすため能動的に会社の情報を入手すべきこと、会社側は、それを支援する人員体制を整えるべきことが示されている。
ここでも「上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべき」とされている。
このことから内部監査部門には、適切な情報開示や透明性の確保などについて、社内外の法定監査機関と連携することが求められているとわかるだろう。
ちなみに、コーポレートガバナンス・コードは上場会社であっても強制されるものではない。実施しない場合はその理由を報告すればよく、上場する市場によって報告しなければならない原則の範囲が異なる。
本則市場及びJASDAQの場合は基本原則・原則・補充原則、マザーズの場合は基本原則の区分に従って理由を説明しなければならない。
内部監査に求められる独立性
2015年に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は、2019年に「コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」と題した意見書を公開した。
これによると、内部監査がCEOの指揮命令下にあるケースが大半である現状を踏まえ、「内部監査が一定の独立性をもって有効に機能するよう、独立社外取締役を含む取締役会・監査委員会や監査役会などに対しても直接報告が行われる仕組みの確立を促すことが重要」と示されている。
上場審査にも、公正かつ独立の立場から内部監査を実施できる体制が構築できているかという審査ポイントがあったように、内部監査と独立性は切り離せない関係のようだ。
(参考)金融庁:「コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」
内部監査の整備は専門家に
内部監査を適正に行うには、内部監査部門の能力アップも不可欠である。専門家による研修をはじめ、公認内部監査人(CIA)や一般社団法人日本内部監査協会による内部監査士といった資格取得で、内部監査のレベルアップを図るのもよいだろう。
不安があるようであれば、必要に応じて内部監査の体制を専門家に相談してみてほしい。
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文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)