サブスクリプションサービス,新聞,定期購読
(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

「サブスクリプション(subscription)」とは、“定期購読”という意味である。現在、国内ではBtoC向けサブスクリプションサービスが台頭しており、とくにこの1年ほどで、さまざまなメディアにおいて“サブスクリプション”や“サブスク(略称)”というキーワードが盛んに取り上げられている。

サブスクリプションサービス自体はまったく新しい概念ではない。もともとの単語の意味のとおり、新聞や雑誌は、古くから「定期購読(サブスクリプション)型」で提供されており、ウイルススキャンソフトなど定期更新のあるソフトウェアでも「サブスクリプション型」の課金形態が存在している。
このように、これまでにもサブスクリプションサービスは存在していたが、“サブスクリプション”がキーワードとしてメディアで盛んに取り上げられるようになったのは2018年頃からである。今では、車のサブスク、ファッションのサブスク、音楽のサブスク――など、さまざまなジャンルで“サブスク”が急速に広がっているが、最近言われるサブスクリプションサービスとこれまでのサブスクリプションサービスとは何が違うのであろうか。

まず、新聞やウイルススキャンソフトなどのこれまでのサブスクリプションサービスが、“定額で定量のサービス”なのに対して、現在マーケットに登場しているサブスクリプションサービスは、“定額で使い放題”“定額で選び放題”といった定額以上のオトク感が大きい点が違っている。
細かなことを言えば、これまでのサブスクリプションサービスも“定額で定量のサービス”ばかりではない。例えば、新聞には常に新しい情報が更新され、ウイルススキャンソフトも最新の対策にアップデートされるため、常にコンテンツが更新される付加価値サービスと捉えられなくもない。
しかし、現在注目されている新たなサブスクリプションサービスは、“サービスコンテンツ”だけではなく、“定額で使い放題”“定額で選び放題”といった“ユーザーの利用”に対して付加価値を設定している点が違っている。つまり新たなサブスクリプションサービスは、価値を付与する対象を“モノ”だけではなく、利用する“コト”(もしくは利用する“ヒト”)にまで広げているところが、これまでのサブスクリプションサービスと根本的に違う。

サブスクリプションサービスに新たに取り組む企業が増加している理由に、消費者の財布事情による消費行動の変化、つまり“所有から利用へ”シフトしていることが挙げられる。エンドユーザーがモノの所有に執着しなくなり、コト(目的)達成のためのサービスとしてモノを利用するようになってきている。ここに商機を見出し、既存の「モノ(売切型)マーケット」とは別の「コト(サブスクリプション型)マーケット」に参入する企業が増加している。
次に、テクノロジーの視点では、2010年前後からECサービスが普及したことで、顧客の利用動向がサイト閲覧履歴や商品購入履歴から可視化できるようになったことが挙げられる。この情報を活用して、ユーザーが欲する商品やサービスの情報を先回りして、ダイレクトメールやその他広告手段で発信する、いわゆる“レコメンド機能”が開発された。このレコメンド機能により顧客との継続的な関係を構築しやすくなったことで、サブスクリプションサービスに新たに取り組む企業が増加している。

現在のサブスクリプションサービスの代表例は月額定額の映像・音楽配信サービスである。国内における当該マーケットの規模は非常に大きく、当社のカテゴリ別年間推計額(BtoC向け)では断トツでトップである。
同サービスの特徴は、“コンテンツを消費してもなくならない”ことが挙げられる。1曲・1作品あたりの仕入コストが高額であるため、簡単に黒字化できるビジネスではないがコンテンツの複製が簡単であり、生産コストが掛からない点は大きなメリットであり、デジタルコンテンツは月額定額の使い放題サービスに適したサービスといえる。
規模が拡大しつつあるサブスクリプションサービスには、衣料品や食品、スペースなどの定額利用サービスがあり、衣料品であれば「ファッションコーディネート」、食品であれば「フードロス対策」、スペースであれば「遊休資産活用」など、さまざまな課題解決型のサービスを提供する事業者が現れている。ただし、デジタルコンテンツとは異なり、1回の利用ごとに製造・仕入コストが発生するものが多く、一人当たりの利用回数が嵩むほど黒字化が難しくなり、仕組みやルールが非常に複雑であることから、サービスがうまくいかずに中止する事業者も現れている。

キーワードとしては充分なほどメディアから注目されている“サブスクリプション”だが、実際はまだまだ成功パターンが完成されたビジネスモデルではなく、マーケットとしては黎明期である。ただし、課題解決型サービスの登場やコト消費への対応など、社会・消費者ニーズとも合致しており、これから様々なサービスの登場を期待できるため、今後もサブスクリプション市場には注目していきたいところである。

2019年10月
研究員 丁田 徹也