WORDS by EXECUTIVE
(画像=mehaniq41/stock.adobe.co)

「リブラ発行前に規制当局の全ての懸念解消に尽くす」——。

個人情報流出問題で米議会や世界各国の金融当局から厳しい目が向けられていたFacebook。同社が発行を計画している暗号資産(仮想通貨)に対する風当たりも強かったことは記憶に新しい。

創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は規制当局側に配慮しながらの難しいかじ取りを迫られている。ただ2019年7月の電話会見では「どれだけ長い時間がかかるとしても」と語り、実現に向けた覚悟を改めて示した。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はザッカーバーグ氏の発言を追いながら、リブラ発行計画とその計画を取り巻く最新状況を解説する。

リブラ(ディエム)発行計画の現在とそのインパクト

フェイスブックが主導して立ち上げたリブラ協会は2020年12月1日、開発を進めていたデジタル通貨「Libra(リブラ)」の名称を「Diem(ディエム)」に変更すると発表した。リブラ協会はこの新しい通貨が金融の安定性にリスクを及ぼすことが懸念されていたため、ドル連動型のステーブルコインを2021年に発行することを目指している。

世界で20億人以上のアクティブユーザー数を抱えているFacebookがディエムを発行すれば、世界中で利用が一気に広まる可能性は十分にある。

暗号資産では一般的に仮想通貨の基幹技術として知られる「ブロックチェーン技術」が活用される。この技術を使えば銀行送金やクレジットカード決済を上回る信頼性と利便性が得られるとされる。さらに、口座が容易に開設できれば、発展途上国の国民からも支持を得られやすい。

こうした流れになれば、金融業界における既存の秩序は少なからず変容し、主軸通貨も脅かされる。そのため、銀行や金融当局のディエムに対する警戒感は並大抵のものではなかったが、現在は当局の規制についても寛容になってきているようだ。

「写真を送るかの如く簡単にお金が簡単に送れるようになることは、ビジネスにおける新たな機会を切り開くはずだ」。ザッカーバーグ氏は電話会見の序盤でこう強調し、この新通貨で世界が大きく変化する可能性を示した。

ただ冒頭で紹介した「どれだけ長い時間がかかるとしても」というザッカーバーグ氏の言葉からも分かるように、リブラの発行は目標の2020年から大幅に遅れている。現在、最短でも2021年1月に発行される予定だ。

前期の四半期決算では減益だが……

Facebookは2019年7月、2019年4〜6月期の四半期決算を発表した。純利益は前年同期比で49%減となり、その額は26億1,600万ドル(約2,800億円)まで縮小している。個人情報流出問題に関する米連邦取引委員会(FTC)への50億ドル(約5,400億円)の制裁金が影響した形だ。

ただもしこの個人情報流出という「事故」が無ければ、四半期決算の内容は決して悪いものではなかった。事実、売上高は28%増の166億2,400万ドル(1兆8,000億円)と伸びている。最新のFacebookの決算では、売上高は前年同期比22%増の214億7,000万ドル(2兆2,200億円)、純利益は29%増の78億4,600万ドル(8,116億円)だった。

2020年7月に約1,000社の企業によるFacebookの広告ボイコットがあったが、広告の売り上げがは22%増と好調。マーク・ザッカーバーグCEOは業績発表後の電話会見で、Facebookのアクティブな広告主は1,000万件を超えたと語った。Facebookの体力はまだまだあることを示した形だ。

こうした数字的な状況も、ザッカーバーグ氏がまだまだ強気で、そして腰を据えてリブラ発行に取り組める理由の一つとなっている。

Facebookと仮想通貨の未来を担うディエム

Facebookはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の世界で最大手の座を維持するが、ザッカーバーグ氏はディエムの発行と運営を成功させることで、FacebookをSNS企業から脱皮させ、一層飛躍させようとしている。

また別な視点で考えると、ディエム発行が実現して人々に広く使われるようになれば、人々にまだ少なからず「きな臭さ」を感じさせる仮想通貨や暗号資産のパブリック・アクセプタンス(社会受容性)も一気に高まる。

そういう意味では、ディエムはFacebookの未来だけではなく、仮想通貨の将来にも大きな影響を与える存在であると言える。

経営トップ、発言の真意
(画像=THE OWNER編集部)クリックすると連載TOPページへ飛びます