
企業にとってマーケティングは、収益につながる重要な活動だ。効果的な方法でマーケティングを行うには、定義や種類をきちんと理解しておく必要がある。そこで今回はマーケティングの基礎知識に加えて、流行りのマーケティング手法やプロセスなどをまとめた。
目次
そもそも「マーケティング」とは?
まずは、「マーケティング」という言葉が何を意味するのかを紐解くために、日本マーケティング協会とアメリカマーケティング協会による2つの定義を紹介しよう。
日本マーケティング協会によるマーケティングの定義
企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動のこと。
アメリカマーケティング協会によるマーケティングの定義
顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって、価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動、または一連の制度やプロセス。
これらの定義の共通点は、マーケティングにおいて最も重視するものは「顧客」という点だ。マーケティングを行うものを「マーケター」と呼ぶが、マーケターは顧客のニーズを十分に理解し、価値のある商品やサービスを適切なターゲットに提供しなければならない。
そのための商品開発や販売戦略、広告宣伝など、一連のプロセスの計画と管理がマーケティングの意味と言えるだろう。
マーケティングとリサーチ・広告活動はなにが違う?
マーケティングという言葉から、「リサーチ」や「広告活動」を連想する人もいるだろう。しかし、これらはマーケティングそのものではなく、マーケティングに含まれる活動と言ったほうが正しい。
例えば、リサーチは市場調査やアンケート、グループインタビューなどによる顧客ニーズの把握が目的であり、広告活動はテレビCMやネット広告など使った商品のプロモーション活動である。つまり、リサーチや広告活動はあくまでもマーケティングを構成するプロセスであり、マーケティングの代名詞としての言葉ではないため注意が必要だ。
経営学の大家であるピーター・F・ドラッカーは、「マーケティングの理想は、販売を不要にするものである」と主張している。買う気のない顧客に対し、一方的に商品やサービスを売り込むのではなく、自然と売れる仕組みを構築する活動がマーケティングの本質と言えるだろう。
企業活動におけるマーケティングの必要性
積極的にマーケティングに取り組むと、企業はターゲットとなる顧客に最適化された商品やサービスを提供できるようになる。これこそが、企業活動においてマーケティングが必要になる理由だ。
代表的な顧客のニーズ2つ
顧客のニーズには、顧客が自覚している「顕在ニーズ」と、顧客が自覚していない「潜在ニーズ」の2つがある。顕在ニーズに対するアプローチはそれほど難しくないが、潜在ニーズに対してはそう簡単にはいかない。この潜在ニーズを探るために、企業はマーケティングのプロセスの一環として、インタビューや行動観察などの消費者調査を行う。
現代にはさまざまな属性の消費者が存在するが、このような調査の結果を活かせば、ターゲット層が求める商品・サービスの形が次第に見えてくるはずだ。特に最近では、インターネットやITの普及によって、消費者ひとり一人の属性やニーズが把握できるようになってきている。
マーケティングの代表的な種類
次は、マーケティングの代表的な種類を見ていこう。最近ではインターネットを活用したマーケティングが主流となっているが、手法や媒体によって内容が異なることに注意したい。
マーケティングの種類 | 概要 |
---|---|
・Webマーケティング | インターネット上で行われるマーケティングの総称。自社サイトやネットショップなどを立ち上げて広告を利用し、顧客の購買活動を促す。 |
・コンテンツマーケティング | オウンドメディアやブログなど、さまざまな媒体を活用したマーケティング。訪問者にとって適切で価値のある一貫したコンテンツを制作し、見込み客を獲得して利益に結びつける。 |
・インフルエンサーマーケティング | インフルエンサーと呼ばれる、SNSで大きな影響力をもつ個人を利用したマーケティング。自社商品の写真掲載やアピールを依頼して、SNS上に投稿してもらい、それを見た消費者の需要を喚起する。 |
このように、インターネットを使ったマーケティングだけでも複数の種類がある。それぞれの特性を理解した上で、自社商品やサービスの購入にしっかりと結びつく手法を選ぶことが重要だ。
いま流行りのマーケティングとは?
マーケティング手法には流行があり、現時点で注目されやすい流行りの手法を選ぶことが成功につながる。流行りのマーケティングを上手く活用すれば、ターゲットとなる顧客を絞り込んだり、低コストで高い効果を得たりすることが可能だ。
そこで次からは、いま流行りのマーケティング手法について解説する。
SNSマーケティング
SNSマーケティングとは、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用したマーケティング手法である。Webマーケティングの一種であり、SNSを通じて企業と顧客の距離を近づけられる点が特徴だ。
SNSを上手く活用すると、既存顧客と新規顧客の両方の関心を惹ける。さらに、商品やサービスに対する消費者の反応をダイレクトにつかめる点も、SNSマーケティングならではの魅力だろう。
ただし、SNSの使い方を誤ると、炎上などのネガティブな形で話題となってしまう恐れもある。特に過激な意見や情報の発信は、炎上のリスクを大きく高めるため、ブランドイメージの低下につながりかねない。
なかには、故意に炎上を引き起こす「炎上マーケティング」と呼ばれる手法もあるが、炎上を一度でも起こすと顧客から敬遠されてしまう可能性があるため、基本的には消費者(ユーザー)と上手く付き合うことが重要だ。
O2Oマーケティング
O2Oマーケティングとは、オンライン(Webサイトやスマートフォンアプリ)からオフライン(実店舗)へ訪問者を誘導させるマーケティングである。ちなみに、O2Oとは「Online to Offline」の略語だ。
現代の消費者にとって、スマートフォンはどこにいてもインターネットにアクセスできる便利なツール。オンラインにいる時間はますます増えており、日常的な買い物もECサイトで済ますことが可能となった。しかし、実店舗でしか商品やサービスを提供できない場合は、どうしても消費者に実店舗まで足を運んでもらう必要がある。
そこで登場したのが、このO2Oマーケティングだ。O2Oマーケティングでは、例えばWebサイト上でクーポン券を発行したり、ネット上で予約できるシステムを構築したりすることで、消費者を実店舗へと誘導している。飲食店や美容サロンなど、特にオフラインのみでサービスを提供する事業者にとって、いまやO2Oマーケティングは欠かせないWeb戦略と言えるだろう。
動画マーケティング
動画マーケティングとは、テレビのコマーシャルや動画配信サイトを活用したマーケティング手法である。小学生がなりたい職業の1位がYoutuberになるなど、いまや消費者にとって動画の視聴は生活の一部となってきている。
動画コンテンツは視覚と聴覚の両方に訴えられるため、消費者の印象に残りやすい。Forrester Research社の調査によると、1分間の動画の訴求力は180万文字のテキストに相当し、これはWebページ3,600枚分に相当すると発表されている。テキストベースのオウンドメディアやブログと比べて、動画コンテンツの情報量が圧倒的であることが分かるだろう。
動画マーケティングを成功させるには、商品やサービスのありきたりな紹介に留まるのではなく、一風変わったコンテンツやインパクトのある表現を取り入れることが重要だ。印象に残る動画コンテンツを提供できれば、それを見た消費者がブログやSNSなどで口コミを投稿し、その情報がさらに多くの人に拡散されていく。
商品やサービスがインターネット上で話題になることは、いまや顧客獲得のための重要なステップだ。市場にアプローチする前の段階で、まずは動画マーケティングによるアピールを成功させれば、商品やサービスに対して好意的なイメージを消費者に植え付けられるだろう。
マーケティングの流れとは?基本的なプロセスとポイントを解説
最後に、企業がマーケティングに取り組むプロセスを紹介しよう。目的や事業規模によって流れは多少異なるが、基本的には以下のようなプロセスで進められる。
【STEP1】市場調査
市場における顧客のニーズを探るために、まずは市場調査を行う。
具体的には、消費者に対するアンケートや、官公庁が公開している統計データなどを活用しながら定量的・定性的なデータを集める。また、このときには競合となる企業についても調査を実施する。
市場調査を行う際には、ビジネス業界でよく用いられているフレームワークの活用が効果的だ。例えば、以下のようなフレームワークを活用すると、情報収集や分析の正しい方向性が分かりやすくなる。
フレームワークの種類 | 概要 |
---|---|
・3C分析 | 「顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)」の3つの観点から、市場を分析するためのフレームワーク。現時点でのマーケティング環境を、抜け漏れなくチェックできるようになる。 |
・STP分析 | 市場の細分化に用いる分析手法。「セグメンテーション(Segmentation)・ターゲティング(Targeting)・ポジショニング(Positioning)」の3つのプロセスで、マーケティング環境を分析する。 |
・PEST分析 | 「Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)」の4つの観点から、外部のマクロ環境を分析するためのフレームワーク。 |
フレームワークは決して万能ではないが、ほかにも競争要因を分析する5フォース分析などさまざまな種類があるので、効率的にマーケティングを進める手法としてぜひ取れ入れたい。
【STEP2】広告宣伝活動
市場調査の後に商品やサービスが完成させたら、次は「広告宣伝活動」を行う。
代表的なものとしては、テレビや新聞などの従来の媒体を使った方法が挙げられるが、インターネットの普及により広告宣伝活動も多様化してきている。例えば、Webサイトに表示されるバナー広告や、検索結果の一覧に表示されるリスティング広告、SNSのタイムラインに表示される広告など、広告宣伝活動の選択肢は非常に多い。
それぞれ異なる特性をもっているため、商品・サービスのターゲット層を意識しながら、より効果的な手法で広告宣伝活動に取り組むことが重要だ。
【STEP3】効果検証
広告宣伝活動を終えたら、最後に「これまでの活動が売上に結びついたか?」を検証する。具体的には、マーケティングに要した費用と、それにより得られた売上を算出して、費用対効果を細かく分析する必要がある。
仮にマーケティングの費用対効果が低い場合には、市場の変化や顧客の反応を敏感に察知しながら、改善を繰り返すことが必要だ。つまり、【STEP3】の後はもう一度【STEP1】に戻り、常に効果的なマーケティング手法を見極める必要があるので、マーケティングには多くの時間・労力がかかることは事前に覚悟しておかなくてはならない。
マーケティングは「顧客を理解すること」から始めよう
自社が提供する商品やサービスによって、実行すべきマーケティング手法は異なる。どのマーケティングを選んでも多くのコストが発生するものの、将来の売上につながる戦略であるため、コストではなく「投資」という視点をもって取り組むべきだ。
その際、市場や競合の分析に取り組むことは当然であるが、何より顧客を理解する姿勢を崩さないことが、マーケティングを成功させるポイントになる。
文・村上英輝(フリーライター)