携帯電話料金
(画像=bongkarn/stock.adobe.com)

日本の携帯電話料金は世界の主要都市と比べても高額で、家計を圧迫する1つの要因となっている。新たに首相に就任した菅義偉氏は、これまで積極的に携帯電話料金の値下げに向けた発言をしていることで知られ、大手3社が今後、大幅な値下げに踏み切ることになるのか注目される。

主要6都市において日本の携帯電話料金は高い?低い?

日本の携帯電話料金は高い。総務省が2020年6月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査~令和元年度調査結果~」によると、スマートフォン用として提供されている月20GBの大容量プランの月々の支払額では、主要6都市の中で「東京」が最も高額となっている。

主要6都市を比較

実際に各国の主要6都市における月20GBの月々の支払額を比較してみよう。

東京(日本):6,877円
ニューヨーク(アメリカ):6,865円
ソウル(韓国):6,004円
デュッセルドルフ(ドイツ):4,179円
ロンドン(イギリス):2,700円
パリ(フランス):2,055円
※出典:総務省

月5GBプランの料金では、ニューヨークよりは低いものの、ほかの4都市よりいずれも高額となっている。では、そもそもなぜ日本では携帯電話料金がこれほど高いのだろうか。どのような背景があるのか探っていこう。

日本の携帯電話料金が高い理由

日本の携帯電話料金が高い理由はいくつかあると指摘されている。主な理由の1つ目は市場の寡占状態が続いているということだ。そして2つ目の指摘は、携帯電話各社が過度に利益を追求しているというものである。

携帯会社三社で暗黙の了解がある?

現在、日本において総務省が携帯電話サービス向けの周波数を割り当てているのは、主にNTTドコモとKDDI、ソフトバンクの3社だ。参入企業が少ないと健全な価格競争が行われにくくなる上、この3社に関してはお互いが他社の利益を圧迫しないよう暗黙の配慮をしていると指摘する専門家もいる。

2つ目の指摘は、携帯電話各社が過度に利益を追求していることについては、公共のものである電波を使って行うビジネスでは、消費者に対する還元を重視すべきという考え方は従来からある。

このほか、携帯電話の端末料金と通信料金をセットにした料金体系が消費者の通信負担料を分かりにくくし、結果として値下げに対する圧力が抑制されてきた側面も指摘されている。(ちなみに通信と端末の分離は2019年10月の電気通信事業法改正ですでに義務化されている)

「4割値下げできる余地」と指摘してきた菅氏、強行姿勢続く

前項で説明してきたようなことを、菅氏もこれまでにたびたび指摘してきた。官房長官時代の2018年には携帯電話料金について「4割値下げできる余地がある」と述べ、大手3社に対して料金プランを変更するよう圧力をかけた。

値下げについて発信し続けてきた菅氏

しかしその後も、大手3社の営業利益が高水準を維持していることから、値下げの余地があることについて継続的に発言をしてきた。首相就任直前には、競争が働く仕組みを徹底することや、電波利用料の見直しも必要であること、などについても語っている。

電波利用料の見直しは、携帯電話大手にとっては相当の圧力だ。電波利用料を値上げするということは、実質的に携帯電話会社のコストが上がるということになる。電波利用料を「人質」に菅氏は値下げを迫っている構図だと言える。

このような発言をしてきた菅氏が首相に就任後、KDDIとNTTの社長は相次いで値下げに言及した。ソフトバンクも大容量プランの価格設定を月額5,000円以下まで下げる計画を検討中とされ、菅氏の圧力は一定の効果を発揮しているとされる。

政権側は、中途半端な値下げでは矛を収めるつもりはないようだ。9月中旬に菅首相が武田総務相と面会後、総務相は「1割程度の引き下げでは改革にならない」と述べている。

就任後早々の実績にしたいという思惑もある?

新首相に就任した菅氏にとって、携帯電話料金の値下げについては、就任後早々の実績にしたいという思惑もあると考えられる。携帯電話料金が下がれば家計の負担減に直結する。実現すれば、国民からの支持が高まることは容易に想像できる。

少し話は逸れるが、このような菅氏の姿勢が鮮明になっていることに伴い、インターネット上では同じく公共の電波を使っているNHKに対する疑問の声も増えてきた印象を受ける。

主には、テレビを所有するだけで受信料を支払わなければならない現在の制度に疑問を呈する声だ。スマートフォンなどの普及で誰でも簡単にさまざまな情報にアクセスできるようになったいま、これらの料金制度に菅政権がどう切り込んでいくのかにも注目が集まる。

菅政権の歩みはスタートしたばかりだが、当初から携帯電話料金の値下げに強力に取り組んでいるところをみると、携帯電話料金の値下げは新政権の「看板政策」と呼んでも差し支えないだろう。あなたがもし携帯電話大手3社のいずれかと契約しているのであれば、その料金が値下げされるかは菅氏の手腕にかかっている。今後の菅政権の動き、そして携帯電話大手の動向に関心を寄せておこう。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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