資産管理会社,設立,メリット
(写真=Phongphan/Shutterstock.com)

資産管理会社とは、現金や預貯金、債券、株式、不動産などの資産を管理することを目的としている法人のことだ。「資産は個人でも法人でも管理できるので、わざわざ資産管理会社を作る必要はない」と思うかもしれない。しかし、多額の所得税を払う経営者や資産家にとって、資産管理会社はなくてはならない存在だ。資産管理会社を設立するメリットとは、一体何だろうか。

それなりの財を成せば、資産管理会社を設立するのが常識

富裕層の間では、資産管理会社を持つのが常識になっている。なぜなら、長期に渡って大きなメリットがあり、万全の体制で資産を保全できるからだ。

そのため、インターネット上にも資産管理会社に関する情報が氾濫している。ただし、首を傾げてしまうような内容のものが混在しているのも確かだ。近視眼的な発想で、しかも平均的な給与所得者向けに資産管理会社の設立を指南しているケースが少なくない。

相応の資産を築いている人がその情報を鵜呑みにすると、資産管理会社のポテンシャルを生かし切れないおそれがある。

そこで、今回は資産管理会社がもたらすメリットや、それを通じてすべきこと、具体的な設立方法や資産管理方法などについて説明する。

そもそも資産管理会社とは?

一般的な会社は、株式の発行や融資などによって資金を調達し、それを元手に収益を上げて利潤を追求する。これに対し、資産管理会社はオーナーの資産をより有利に運用・管理することだけを目的としている。

つまり、いわゆる「プライベートカンパニー」であり、事業を通じた社会貢献やあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションなどを考える必要はない。あくまで、個人の資産を保全することだけを目指せばいいのだ。

プライベートカンパニーだからといって、一般的な会社と法的な扱いが異なることはない。法務局で法人登記を行えば、誰でも設立できる点も共通している。

2006年に新会社法が施行されて以来、制度上は資本金が1円でも株式会社を設立できるので、コスト負担は登記料や司法書士への報酬などにとどまる。自分の家族の名前を役員名簿に連ね、定款に事業内容(有価証券への投資、不動産の取引など、その法人を通じて具体的に行う資産運用の手法)を記せばいい。

ただし、巷でよく見かける資産管理会社の定款に関するアドバイスには、やや偏重的な内容のものが紛れている。「不動産投資を主とするつもりなら、有価証券への投資などは記載しないほうがいい」という内容のものだ。

結論から言えば、それは資産家へのアドバイスではなく、ごく一般的な給与所得者向けである。確かに所得がさほど多くない人なら、有価証券への投資で損失を出してローンの返済が苦しくなるリスクを考慮して、金融機関が追加融資(借入による新たな不動産の取得)に難色を示す可能性も出てくるだろう。

しかし、それなりの資産を築いている人がその保全を目的にプライベートカンパニーを設立するなら、金融機関が融資に応じないはずがないので、そういったことを気にする必要は一切ないだろう。むしろ、定款に記載しておかないことが、運用の選択肢を限定してしまうことにつながる。

資産管理会社がもたらす3つのメリットとは?

では、富裕層は資産管理会社を通じて、どのようなメリットを享受しているのだろうか。主なメリットは以下の3つだ。

①節税効果
②所得の分散効果
③相続発生前後における節税効果

中でも特に富裕層が重視しているのは、③だ。日本の法律では、相続財産に関して個人と法人を明確に区別しているからだ。

個人が所有する資産は、所有者が亡くなると相続人に受け継がれ、相続税が発生する。被相続人が亡くなったことを知ってから10ヵ月以内に納税資金を工面しなければならないため、不動産を売り急がなければならないかもしれない。

これに対し、法人が所有している資産なら、その代表者が死去したからといって同時に清算を求められたりはしない。期限を突きつけられることなく、相続人の数や各々の希望などを踏まえながら、より税負担の軽いかたちで相続手続きを進められるのだ。

このように、まずは大局的な観点で資産管理会社の活用を考えることを大前提としたい。そのうえで、残る2つのメリットにも着目するといいだろう。

1)法人の税制優遇を活用して節税できる

前述のとおり、日本の法律では個人と法人がはっきりと区別されている。それは税制においても言えることで、個人と比べて法人は間違いなく優遇されており、それを活用すれば節税を図れる。

しかも、従業員が1名しかいない零細企業であっても、法律上は法人として平等に扱われる。反対に、多くの従業員を抱えていても、法人登記を行っていなければ、あくまでその代表者の個人事業にすぎず、個人に対する税制が適用されるのだ。

法人登記を行っていれば法人税法の対象となり、税負担が大きく変わる。年収5,000万円(課税所得4,000万円)以上の個人に課される所得税の税率は45%(2019年9月時点)で、住民税と合わせると55%に達する。

一方、法人税の実効税率は所得400万円以下が21.421%、400万円超~800万円以下が23.204%、800万円超が33.585%となっている(東京都のケース)。同額の所得であっても、個人が得たものとして申告すれば半分以上を税金として徴収されるが、法人が得たものとすれば7割近くを手取りとすることができるのだ。

2)所得分散効果で所得移転が円滑に

個人事業であっても、専従者に給与を支払っていたり、アウトソーシング(外注)を行っていたりすれば、その分を経費として所得から差し引ける。とはいえ、法人のケースと比べれば、それらがもたらす節税効果は限定的と言わざるをえない。

その点、法人が得たものとすれば、家族などを従業員としたうえで、それぞれに給与を支払うことで所得を分散できる。

資産管理会社を設立すれば、個人事業の場合よりも所得分散を図りやすいことに加えて、贈与税を気にすることなく、次の代へ所得を移転できることも見逃せない。生前贈与の非課税枠は年間110万円で、個人間でこれを超える所得移転を行うと、最高税率55%の贈与税の課税対象となる。

しかし、家族を役員にして報酬を支払うという形で所得移転を進めていけば、結果はかなり違ってくる。むやみに高い報酬にしなければ、贈与税よりも税率の低い所得税によって税負担を抑えながら所得を移転できるのだ。

3)相続対策に活用できる

前述のとおり、富裕層の多くが資産管理会社に対して求めることは、相続対策だ。相続発生前に進める資産移転もその一手であり、家族に役員報酬を支払うことで納税資金を確保することもできる。

繰り返しになるが、相続税には「被相続人の死去を知ってから10ヵ月以内」という納税期限が定められている。多くの富裕層は、相続税評価額が最も高くなる現金・預貯金のウェイトを減らして不動産などに投資しているので、容易には現金化しにくいケースも少なくない。

不動産は現金・預貯金と比べて相続税評価額が低くなるとはいえ、相続税の課税対象となれば、納税資金をキャッシュで用意しなければならない。しかし、相続が発生する前から資産管理会社を活用して手を打っておけば、大慌てしなくて済む。

いずれ相続人となる配偶者や子どもを役員にして役員報酬を支払い、それを蓄えておけば納税資金として使える。このことからも、資産管理会社はできるだけ早く設立し、将来に備えておきたい。

また、資産管理会社の株式を相続する際にも、節税を図ることができる。設立から3年以上経っている法人の株式を相続した場合は、不動産と同じ算定方法を用いられるので、その分相続税評価額を抑えられる。

法人の特典「経費」は不動産取引で特に有利に

①で触れた節税効果は、所得税と法人税の税率の違いによるものだけではない。個人と比べて法人は経費として計上できるものが多く、収益から損金を差し引くこともできる。

特に不動産取引に関しては、法人のほうが明らかに有利だ。個人が不動産を売却した場合は、「売却代金-(取得費用+売却時の経費)=譲渡所得」と計算され、その金額に対して所得税と住民税が課される。

その際に適用される税率は、不動産を所有していた期間によって変わる。5年超なら「長期譲渡所得」として15.315%の所得税と5%の住民税(合計20.315%)が適用され、5年以内なら「短期譲渡所得」として30.63%の所得税と9%の住民税(合計39.63%)が課せられる。

つまり、個人所有の不動産を5年以内に転売するのは避けたほうがいいということになる。しかし、法人所有のケースでは実効税率35%の法人税が適用されるので、5年以内の売却でも個人所有のケースより有利だ。

また、不動産を個人で所有して他人に賃貸している場合、得られた家賃収入はすべて所有者の所得と見なされる。一方、法人の所有としたうえで、家族を役員に据えて役員報酬を支払っておけば、その人件費を経費として計上できるので、その分課税所得が減り、節税につながるのだ。

さらに、法人所有にしていれば自宅として使用している不動産であっても減価償却が認められるうえ、ローンの支払利息も経費として計上できる。日本では、個人よりも法人のほうが社会的信用度が高いため、税制上も圧倒的に有利なのだ。

相続時の無用な争いを回避できる

相続の話に戻ろう。資産管理会社で不動産などを所有していれば、相続税を節税できることに加えて、遺産分割協議も円滑に進めやすくなる。

言い換えれば、資産管理会社は相続を巡る争いを回避する手段にもなり得るわけだ。その法人の株式を分け合うという相続なら話もこじれにくいし、不動産の相続にしても個人所有のケースのように、「10ヵ月以内にすべての相続人が納得するかたちで分け合う」という難題を突きつけられることもない。

「金持ち喧嘩せず」ということわざがあるが、争いごとは「百害あって一利なし」ということを悟っているのが真の富裕層だ。争いの火種になりかねないことは、あらかじめ排除しておくのが鉄則であり、相続人が複数存在する場合は、資産を法人所有で管理するのが常識となっている。

ただし、相続対策として資産管理会社を活用する際は、注意すべきポイントがある。本来、中小企業(非上場)のオーナーが後継者に事業を継承する際は、それに伴う相続税や贈与税の納税が猶予もしくは免除されるという「事業承継税制」が適用される。

団塊世代が後期高齢者になるにつれて、世間では中小企業の事業承継が相次いでいる。このような社会的変化を受けて、より円滑な事業承継を促す目的で設けられたのが同税制だ。

しかし、その法人の実態が資産管理会社であると税務当局が判断すると、同税制が適用されない場合がある。資産管理会社だと見なされるのは、後述の「株式保有特定会社」もしくは「土地保有特定会社」に該当するケースだ。

資産管理会社を通じた資産の海外逃避とは?メリットと落とし穴

ここまでは国内の税制にスポットを当てて資産管理会社の活用法について見てきたが、海外の税制にまで視野を広げる富裕層も少なくない。課税が免除もしくは大幅に軽減されるタックスヘイブン(租税回避地)だけでなく、海外には日本よりも税制優遇が手厚く、資産を保全しやすい国や地域が数多く存在するからだ。

資産の一部を海外で所有する富裕層は少なくないが、2017年度の税制改正で「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の適用範囲が広げられたことに注意したい。以前は海外で設立した資産管理会社が現地で課される法人税率が20%以上であれば、この税制は適用されなかった。

ところが、現在は20%以上であっても、海外で設立した資産管理会社の実態がペーパーカンパニーであると国税当局が判断すると、「タックスヘイブン対策税制」が適用される。これが適用されると、海外で設立した法人が所有する資産で得られた運用益は、個人(法人への出資者)の所得と見なされてしまうのだ。

法人への出資者の雑所得として扱われ、15.105~55.945%の累進税率が課されるのだ。個人名義で海外資産に投資して得られた運用益には対しては一律20.315%の分離課税が適用されるので、「タックスヘイブン対策税制」が適用されるケースに限っては、法人所有がむしろアダとなりかねない。

資産管理会社を活用するうえでの注意点とは?

これまで見てきたように、資産管理会社を活用するか否かで、納める税金の総額にはかなりの差が生じる。稼ぐ力は同じでも、個人所有のままのAさんと法人所有に変えたBさんでは、手元の資産はもちろん、次の代へ残せる財産にも大きな差が出てくるだろう。

悩ましいのは、資産管理会社を活用する人が増えれば増えるほど、税務当局による監視も厳しくなることだ。露骨な課税逃れと見なされる行為に対しては、厳しいペナルティが待っている。

特に気をつけたいのは、管理会社が所有している資産のうち、一定の割合以上を株式もしくは不動産が占めているケースだ。その割合が大きすぎると、税務当局が「株式保有特定会社」もしくは「土地保有特定会社」と見なして課税を強化する。

具体的には、「株式および出資(株式等)」が50%以上を占めていると、「株式保有特定会社」と判断されてしまう。「株式および出資(株式等)」と見なされるのは、証券会社が売買を仲介する株式や外国株式、株式制のゴルフ会員権で、匿名組合への出資や投資信託は対象外だ。

「土地保有特定会社」については、その法人の従業員数や業種、総資産額などによって異なるが、不動産の占める割合が70%もしくは90%に達していると課税が強化されると考えていい。ただし、該当するからといって、慌ててそのウェイトを下げるのも考えものだ。

急激に所有比率を下げて課税を逃れようとする行為を、税務当局は「株特はずし」や「土地特はずし」と呼んでマークする。したがって、所有比率に変更に関する正当な理由について、明確に説明できる証拠をそろえておく必要があるのだ。

要するに、資産管理会社を利用した露骨な課税逃れに対し、税務当局は厳しく対応するということだ。あくまでも、「その法人が純粋に営む事業として資産運用を行っている」というスタンスを示すことが肝心である。

文・大西洋平(ジャーナリスト)