スグできる!人材定着25の実践 -もう誰も潰さない!辞めさせない!ー
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(本記事は、川越 雄一氏の著書『スグできる!人材定着25の実践 -もう誰も潰さない!辞めさせない!ー』=労働調査会、2020年10月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

採用直後に比べるとだいぶ会社に慣れてきた新入社員ですが、だからこそこの時期には貸し借りなしのイーブンな関係を意識する必要があります。また、一方的な関係では長続きしませんから、潤滑油であるお互い様感覚も重要です。信頼関係がありそうでないのがこの時期です。

貸し借りなしを意識する

雇用関係は、借りて不仲になるよりも、いつもニコニコその都度決済です。つまり、貸し借りなしのイーブンな関係が大原則です。そのためには、雇用関係において優位な立場にある会社が、貸し借りなしを意識すべきです。恩恵的に貸しをつくる場合も、その見返りを求めるべきではありません。

雇用関係の貸し借りとは

イーブンというのは、お互いに貸し借りなしで対等というような意味です。会社の立場から、ここで「貸し」とは、法律や就業規則上で行う必要はないのに新入社員のため恩恵的に行うこと、「借り」とは、その逆で会社に義務があるのに行わないことをいいます。また「借り」は新入社員に無用な隙を見せることにもなります。しかし、多くの場合、会社は新入社員に対して「貸し」の意識は強いものの、「借り」の意識はありません。お互いに立場が逆ですから、新入社員の意識も逆になりやすいのです。ちょうど、お金の貸し借りにおいて、借りた人に比べて貸した人は何倍も忘れにくいのと同じようなことです。

法令順守できていないことに賛同を求めない

経営をしていますと100%法令順守できないこともあります。しかし、守れないことを正当化し、それを新入社員にも賛同させることは慎むべきです。このこと自体が、新入社員に対して借りをつくることになるからです。また、会社の隙を見せるようなもので雇用関係は限りなく甘くなります。例えば、終業時刻を過ぎても、30分程度は手当なしに働いてくれる場合もあります。しかし、それを当然のことのように賛同を求めても、顔では納得したように装いますが、腹の中では「私にそんなことを言われても……」です。

貸しに見返りを求めない

新入社員への貸しはその場限りとし、見返りを求めるべきはありません。貸し借りのうち、貸しについては、後々会社に負担がついて回ることもないので良いのですが、「その代わり」を求めると恩着せがましくなります。恩着せがましいことをすると、ケチな会社だというレッテルを貼られてしまいます。見返りというのは、例えば食事をご馳走したから、残業や休日労働をすすんでやってもらうように仕向けたりすることです。このようなことをすると、せっかくのご厚意なのに「えっ!?」ということになりかねません。

イーブンな関係+お互い様感覚

雇用関係も貸し借りだけだとギクシャクしますから、潤滑油としてのお互い様感覚も持ちます。また、会社として少々のことは割り切るなど、損して得とれ感覚も必要です。

貸し借りだけだとギクシャクしやすい

雇用関係は3次元で捉えるべきです。3次元というのは、法律、経営、そして人の気持ちという3つの視点から考えるということです。ここが、人の気持ちがあまり関係しない、2次元で済む、経理や会計業務と大きく違うところです。法律も守り労働条件も悪くないのに、定着の悪い会社で特徴的なのは、「人の気持ち視点」が不足していることです。経理や会計業務の延長線で、貸し借り感覚だけで雇用しようとするから、雇用関係がギクシャクしてしまうのです。

お互い様感覚が潤滑油になる

雇用関係には、イーブンな関係に加えてお互い様感覚も必要です。いわゆる潤滑油です。お互い様というのは待遇と仕事のバランスです。中小企業でも2021年4月から適用される「同一労働同一賃金」は、処遇と仕事のバランスです。処遇以上に小難しいことを求めるからギクシャクしやすいのです。中小企業に入ってくる人は、そう突拍子もないことは考えていませんから、お互い様感覚を潤滑油に、処遇が悪いぶん、思いやりや良い雰囲気をつくれば新入社員の納得感も得られます。

雇用関係は損して得とれ

雇用関係はお互い様ですから、損して得とれ感覚も必要です。雇用関係を法律どおりにやろうとすれば、限りなくセコセコした関係になります。雇用関係の法律はハードルが高いといわれますが、実は最低基準です。それなのに、法律違反しなければ良いと、あれこれ策を練って、いくらか得をしたところで新入社員の納得は得られにくいのです。そして、せこい会社だと思われ、分からない程度に手を抜かれて、目に見えない損をしてしまいます。つまり、少々のことには目をつむるくらいの割り切りも必要なのです。

一方的な関係は長続きしない

信頼関係は相手が感じ取ることですから、会社からの一方的な押しつけでは新入社員のホンネが伝わりにくくなりますし、他社の切り取り情報を鵜呑みに施策を講じても見切られてしまいます。

信頼関係は相手が感じ取ること

入社3カ月を過ぎますと、身内のような感覚になりますが、それはあくまで会社の認識です。考えてもみてください。今は雇用関係にありますから少なからず主従の関係にありますが、つい最近まで見ず知らずの仲です。表面上はともかく、そう簡単に信頼関係ができるはずはないのです。もちろん、こちらの事情を分かってくれているだろうと思いたいところですが、相手はどう考えているかは分かりません。ですから、会社や業界の事情を一方的に押しつけるべきではないのです。

新入社員のホンネが伝わりにくくなる

新入社員も入社後の期間が経てばたつほど会社の雰囲気に慣れてきます。慣れるということは、新入社員のホンネが会社に伝わりにくくなるということでもあります。入社時には「ちょっとおかしいな」と思っていたことも、口にして良いことと悪いこと、言って良い人と悪い人を推し量るようになるからです。もちろん、ある程度そのようなことは必要なのですが、度を過ぎるとホンネを会社に伝えないまま「今ならまだ間に合う、今のうちに転職」ということになりかねません。

他社の切り取り情報を押しつけると見切られる

マスコミが人物の発言や写真・映像など、その一部だけを切り取って視聴者に誤解を与えるような報道を切り取り報道といいます。これと同じで、例えば同業者から「うちでは、こうしている」という一部の情報を鵜呑みにして、「それでは、うちでも」と新入社員に押しつけたりする会社もあります。しかし、会社は氷山のようなもので隠れて見えない部分のほうが圧倒的に大きいのです。ですから、全体を見ずして表面だけ真似をしたところで「前提条件が違うでしょ」と見切られてしまうのは必定です。

スグできる!人材定着25の実践 -もう誰も潰さない!辞めさせない!ー
川越 雄一 (かわごえ ゆういち)
昭和33年7月  宮崎市生まれ
川越社会保険労務士事務所所長。

小さい頃より一人で静かに遊ぶのが好きで、大きくなったら警察の鑑識係のような仕事に就きたかった。しかし、20歳前につまずき、今でいうところのニート状態に。その間、もっぱらパチンコ生活。どうやらこのとき一生分やったようで、今はまったく関心がない。その後立ち直り、役所の臨時勤務などを経て、宮崎の中小企業(建設資材 卸売業・総務職)に約11年間勤務。そのとき中小企業における雇用の実態を肌で感じ、その経験が今の労務指導に活かされている。

平成3年に社会保険労務士を開業し、現在宮崎県内を中心に130社を超える企業の労務指導に携わる。「人を大切にする経営学会会員」。
平成16年1月から月に2本のペースで始めた経営者向けメールマガジン「割烹着社労士・川越雄一・労務のかくし味」は現在までに380号を超え、その切り口が中小企業にぴったりと全国の経営者に愛読されている。
 
◇著書・執筆:
『小さくてもパートさんがグッとくる会社』労働調査会(2015/10/30)ISBN978-4-86319-508-0
『ベテラン社員さんがグッとくる“終わった人”にさせない会社』 労働調査会(2016/11/8)  ISBN 978-4-86319-581-3
『欲しい人材がグッとくる 求人・面接・採用のかくし味』 労働調査会(2018/11/27)  ISBN 978-4863196711
『65歳超入門~隠居するにはまだ早い!』産業能率大学出版部 (2019/6/29) ISBN 978-4382057722

◇雑誌:企業実務、エルダー、月刊人事マネジメントなど

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