(本記事は、川越 雄一氏の著書『スグできる!人材定着25の実践 -もう誰も潰さない!辞めさせない!ー』=労働調査会、2020年10月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
職場の雰囲気は新入社員の定着に大きく影響します。雰囲気はトップの考え方で決まりますから、採用後の早い段階で、トップ自身が雇用関係の在り方についての考えをキチンと伝えます。こうすることにより、新入社員だけでなく会社全体が安心感を持ちます。
雇用関係の在り方をキチンと伝えて実行する
会社の雰囲気を含めて社風を変えるには、まずトップが雇用関係の在り方をキチンと伝えて実行することが必要です。それも採用後早い段階で伝えます。
雇用関係の在り方で社風は変わる
例えば飲食店でも、店長の考え方や方針で、メニュー構成、内装、客層など雰囲気はガラッと変わります。雇用関係も同じようなものであり、トップが雇用関係の在り方をキチンと伝えて実行すれば雰囲気は変わります。雰囲気が変われば応募者も定着する人も変わります。もちろん、在り方ですから人それぞれで良いのですが、「法律・経営・人の気持ち」という3つの視点は欠かせません。これら3つのどこに重点を置くかで雇用関係の在り方が決まり、継続することにより社風が変わります。
採用後の早い段階で伝える
新入社員を採用後、早い段階でトップの考え方をキチンと伝えておくことが重要です。トップの考え方がキチンと伝われば、安心して勤めることができますし、仮に、その考え方に賛同できない人は辞めていきますが、それで良いのです。逆に、トップの考え方がキチンと伝わっていなかったり、フラフラしていると新入社員はもとより既存の従業員も不安がります。そしてその不安は不満となります。確かに、3年間というのは定着を働きかける時期でもありますが、定着しそうもない人を見極める時期でもあるからです。私は、新入社員をまず3年間定着させることが重要だと主張していますが、それはトップが考える雇用関係の在り方に合う人というのが前提です。
例えばこのような場面で伝える
考え方を伝える場面としては次のようなことが考えられます。朝礼の場や新入社員歓迎会におけるあいさつです。同時に全従業員にも伝わりますから、考え方を伝える効果は高まります。このようなことは新入社員だけでなく既存の従業員にとっても重要なことです。もちろん、言動と行動は一致させることが必要です。そうしないと「社長は言うばっかり」と鼻で笑われます。思っていても言葉にしないと相手には伝わりにくい時代です。今は家族間でもそうですから、従業員とはなおさらです。
雰囲気はトップの考え方で決まる
良くも悪くも会社の雰囲気はトップで決まります。雰囲気を悪くするのは一瞬でできますが、良くするのは一朝一夕にはできませんから、社風を変えるようなつもりでコツコツ時間をかけて取り組むことが必要です。
社風を変えるくらいの覚悟も必要
雰囲気を良くしようと思うなら、社風を変えるくらいの覚悟も必要です。「言行不一致」、つまり口先だけでは見透かされますから、トップ自身が理想とする雇用関係の在り方をキチンと伝えて実行することが必要です。よく親子は鏡といわれますが、労使も鏡です。親子がそうであるように、従業員を見ればトップが分かりますし、トップを見れば従業員が分かります。つまり、小さな会社であれば、良くも悪くもトップの考え方や姿勢が雰囲気となり、それらをコツコツと積み重ねて社風となります。
トップは会社の雰囲気に気づきにくい
会社の雰囲気を直接数値化したものはありませんから、トップは会社の雰囲気に気づきにくいのです。一般的に会社の雰囲気はトップが考えているより良くないものです。従業員も宮仕えの身ですからトップの前では従順をつくろいますし、「うちの雰囲気はどう?」と、聞いたところであまり意味がありません。従業員も普通の感覚であれば、仮に雰囲気が悪くても面と向かって「悪い」とは絶対に言わないからです。定着の悪い会社の従業員ほど、その傾向は強くなりやすいものです。
既存の従業員を大切にする
雰囲気を良くするには、まず、新入社員より影響力の大きい既存の従業員を大切にすることです。正確に言えば、既存の従業員に会社から大切にされていると感じさせることです。そうなれば、自然と社内の人間関係も良くなりますし、既存の従業員が新入社員に優しく接するようになります。優しく接してもらえると新入社員も安心感を持ちます。このようなことが会社全体の雰囲気を良くします。雰囲気を悪くするのは一瞬ですが、良くするのは一朝一夕にはできません。しかし、取り組まなければ何も変わらないのです。
新入社員定着に影響の大きい職場の雰囲気
雇用関係において、労働時間や賃金が大切なのは当然ですが、職場の雰囲気はもっと大切です。毎日の大半を過ごす職場ですから、雰囲気が合わなければ早期離職も当然です。
会社もいろいろ、雰囲気もいろいろ
雰囲気というのは、その職場や、そこにいる人たちが自然に醸し出している感じ、また、ある個人がまわりの人たちに感じさせる特別な気分なり空気感です。そして職場の人間関係は、雰囲気の良しあしを決める大きな要素です。雰囲気は目に見えるものでもなく、理屈でもなく人が感じ取るものです。私は仕事柄、いろいろな会社をご訪問しますが、事務所に足を一歩踏み入れた瞬間、全身に雰囲気を感じます。おそらく、読者の皆さまも他社をご訪問なさったときはそうだと思います。
離職理由の第2位は人間関係
雰囲気を構成する大きな要素である人間関係が定着に大きく影響しています。内閣府の「平成30年版 子供・若者白書」によれば、初職の離職理由(複数選択可)トップ3は、①「仕事が自分に合わなかったため」が43・4%で最も多く、②「人間関係がよくなかったため」が23・7%、③「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」が23・4%となっています。調査対象は16歳から29歳までの男女(有効回答数10 ,000)です。年代が違えば多少の違いはあるでしょうが、どの年代もだいたい同じような傾向だと思います。
良い雰囲気が少々の不満はカバーする
社内の雰囲気が良ければ少々の不満はあっても辞めないものです。仕事の内容が多少合わなくても、労働条件が少々悪くても「いろいろあるけど、まっ、いいか」ということにもなります。新入社員に限らず従業員が100%満足する会社はないと思います。しかし、不満はあったとしても、満足が多少でも上回れば、そう簡単には辞めません。採用時に多少のミスマッチはあって当然です。前述した調査において離職理由の第1位は「仕事が自分に合わなかったため」となっていますが、そもそも自分にピッタリ合う仕事などないと思います。だからこそ、そのようなミスマッチをカバーするためにも、人間関係の良い雰囲気が重要なのです。
川越社会保険労務士事務所所長。
小さい頃より一人で静かに遊ぶのが好きで、大きくなったら警察の鑑識係のような仕事に就きたかった。しかし、20歳前につまずき、今でいうところのニート状態に。その間、もっぱらパチンコ生活。どうやらこのとき一生分やったようで、今はまったく関心がない。その後立ち直り、役所の臨時勤務などを経て、宮崎の中小企業(建設資材 卸売業・総務職)に約11年間勤務。そのとき中小企業における雇用の実態を肌で感じ、その経験が今の労務指導に活かされている。
平成3年に社会保険労務士を開業し、現在宮崎県内を中心に130社を超える企業の労務指導に携わる。「人を大切にする経営学会会員」。
平成16年1月から月に2本のペースで始めた経営者向けメールマガジン「割烹着社労士・川越雄一・労務のかくし味」は現在までに380号を超え、その切り口が中小企業にぴったりと全国の経営者に愛読されている。
◇著書・執筆:
『小さくてもパートさんがグッとくる会社』労働調査会(2015/10/30)ISBN978-4-86319-508-0
『ベテラン社員さんがグッとくる“終わった人”にさせない会社』 労働調査会(2016/11/8) ISBN 978-4-86319-581-3
『欲しい人材がグッとくる 求人・面接・採用のかくし味』 労働調査会(2018/11/27) ISBN 978-4863196711
『65歳超入門~隠居するにはまだ早い!』産業能率大学出版部 (2019/6/29) ISBN 978-4382057722
◇雑誌:企業実務、エルダー、月刊人事マネジメントなど
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