印鑑証明書
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事業上の契約や手続きにおいて、印鑑証明を求められることがある。そもそも印鑑証明とはどのような意義があり、どのような場合に必要になるのか。取得した場合、発行手数料はどのような勘定科目で会計処理をすればよいのか。順番にみていこう。

目次

  1. 印鑑証明とは?
    1. なぜ印鑑証明をする必要があるの?
    2. 印鑑証明が必要なシーンとは
    3. 認印と実印の違い
  2. 印鑑証明書を発行したときの勘定科目は?
    1. 「租税公課」として処理
    2. 「支払手数料」として処理することもできる
    3. 「雑費」としても処理できる
    4. どの科目で処理しても良い
    5. 具体的な仕訳例
  3. 印鑑証明書の発行手数料を計上するときの注意点
    1. 消費税が非課税であるため、課税取引と区分する
    2. 仕入れ額控除の対象に含めない
  4. 消費税の処理に注意すれば、印鑑聡明発行手数料の勘定科目は自由

印鑑証明とは?

印鑑証明書の発行手数料を解説する前に、印鑑証明とはどのようなものか、基本的な情報をお伝えする。

なぜ印鑑証明をする必要があるの?

印鑑証明をするためには、まず「印鑑登録」が必要である。印鑑登録とは、法人や個人の任意の印鑑と法人名や氏名、住所等を紐づけて管轄の役所に登録することだ。管轄の役所とは、法人の場合は法務局、個人の場合は市区町村の役所となる。

印鑑登録をすることによって、印影(印鑑を押した跡)と氏名等の情報がセットとなり、その印鑑を使用する者が、印鑑登録上の人物であることを公的に証明できるようになる。これが印鑑証明であり、その証明を表す書類を「印鑑証明書」という。また、登録された印鑑を「実印」ということが多い。

印影によって本人を確認するため、印鑑の種類や形状によっては登録ができないこともある。法人の場合は、商業登記規則第九条に以下の定めがある。印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであつてはならない。印鑑は、照合に適するものでなければならない

個人の印鑑登録は市区町村の条例に基づいており、たとえば東京都港区の印鑑条例によると、以下のような印鑑は登録ができないこととされている。

第七条 区長は、登録申請に係る印鑑が、次の各号のいずれかに該当する場合は、当該印鑑の登録をすることができない。
一 住民基本台帳に記録されている氏名、氏、名、旧氏(中略)若しくは通称の一部を組み合わせたもので表していないもの
二 職業、資格、その他氏名、旧氏又は通称以外の事項を表しているもの
三 ゴム印その他の印鑑で変形しやすいもの
四 印影の大きさが一辺の長さ八ミリメートルの正方形に収まるもの又は一辺の長さ二十五ミリメートルの正方形に収まらないもの
五 印影が不鮮明なもの又は文字の判読が困難なもの
六 その他登録を受けようとする印鑑として適当でないと区長が認めたもの

では、なぜ印鑑証明が必要なのだろうか。

たとえば法人が契約を締結する際に、契約相手が偽装している可能性があると考えてみよう。印鑑登録という制度がなければ、契約の当事者が正しいことを証明するために、相当のコストをかけなければならない。

常に法人の代表者など相応の契約権限がある者は、対面で、本人を証明できる公的な資料を持って契約手続きをする必要がある。また、その公的資料が偽造されたものでないものを確認する手段なども必要となる。印鑑証明という制度があれば、印鑑証明書と印影で本人であることが確認できるのである。

印鑑証明書は原則的に本人のみが取得できるものである。万が一実印が盗難にあっても、その印影の印鑑証明書を提示できないため、実印で契約が締結されることを防ぐことができる。

印鑑証明が必要なシーンとは

契約を締結する際に必ず印鑑証明が必要かというと、そういうわけではない。通常は重要な契約に限って印鑑証明を使用することになる。

そもそも契約は常に書面のみでするわけではなく、電子メールや口頭でも締結できる。契約の種類も、基本契約から物品の売買、借入、役務の発注等様々である。これらのすべてについて実印を押印した契約書を作成し、印鑑証明を求めると、時間を要する上に印鑑証明書の取得費用がかかってしまう。よって、重要な契約にのみ用いるのが一般的である。

重要な契約とは例えば、不動産など高額な物品の売買や、不動産の賃借、銀行借入、銀行口座開設等である。これらの契約は、誤って締結された場合の影響が大きいと考えられるため、契約の当事者を間違いなく確認する印鑑証明が必要になる。

認印と実印の違い

認印は、印鑑登録を必要とせず、印鑑を入手した時点で使用が可能となる。また、いわゆるシャチハタや三文判など大量に同じものが作成された印鑑でもよい。もちろん、その印鑑には何の保証もないが、本人確認したということを形式的に残すには十分とされている。荷物の受け取りや、一部の契約については、当事者が認めれば認印で足りることも多い。

印鑑証明書を発行したときの勘定科目は?

印鑑証明書の発行手数料は支払先が役所であるにもかかわらず、「発行手数料」という名称のため、どの勘定科目を使用したらよいか悩むこともある。

「租税公課」として処理

印鑑証明書を取得するには、印鑑を登録している役所で手続きをする必要がある。このとき、数百円程度の取得費用がかかる。この費用を会計処理する際の勘定科目はどうしたらよいのだろうか。

印鑑証明書の取得費用は、一般的には「租税公課」とすることが多い。租税公課とは、租税と公課の2つから成る。租税とは、国税や地方税、その付帯税である。公課とは、国や地方自治体等に払う手数料等の金銭のことである。つまり租税公課とは、国や地方自治体等に納付する税金や手数料等を指す。

たとえば印紙税、事業税、自動車税、交通違反金、謄本や納税証明の取得費用などは租税公課とすることが多い。法人税申告書の別表五(二)に租税公課の金額を記載する部分があるなど、集計しておくと便利なこともある。

「支払手数料」として処理することもできる

印鑑証明書を発行するのは法務局や市区町村の役所であり、その取得費用は発行者への手数料とも考えられる。よって、印鑑証明書を取得した場合の費用を「支払手数料」とすることも可能である。

「雑費」としても処理できる

雑費という勘定科目は、他の勘定科目に当たらないものや、重要性が低い雑多なものを処理する際に用いる。印鑑証明書の取得費用は数百円程度であり、重要性が低いと考えられるので、雑費としても差し支えない。

どの科目で処理しても良い

前提として、勘定科目の選択は企業の自由であり、ある取引について、対応する勘定科目が法令や会計基準で定められているわけではない。一方で、適切な勘定科目を使用することは、他社との比較や、過去の自社との比較、予算管理などの経営管理上において重要となる。

同じ取引を同じように処理するため、「勘定科目取扱要領」等において、どのような取引の時にどの勘定科目を使うかを定めておくとよい。その基準をもとに、常に同じ科目で処理をすることを推奨する。

具体的な仕訳例

印鑑証明書を取得する場合、法人であれば通常は収入印紙を購入し、収入印紙を申請書に貼付して法務局に提出する。個人の場合は役所の窓口で手数料を払うことが多い。収入印紙を450円分購入し、印鑑証明書を取得した際の仕訳を見てみよう。

法人の印鑑証明書を1枚取得するために、450円分の収入印紙を購入した。

借方貸方
租税公課450現金450

通常は購入してすぐに使用すると想定されるので、購入時に費用としている。

仮に収入印紙をストックしておく場合は、以下のような処理とすることもある。

借方貸方
前払費用450現金450

ストックした収入印紙を使用したときに、以下の仕訳をきる。

借方貸方
租税公課450前払費用450

なお、法人が重要な契約をする際、法人の印鑑証明書と併せて代表者や取締役個人の印鑑証明書を求められることがある。いずれも、重要な契約の締結に際して契約相手との関係上必要になるという性質は変わらない。よって、法人契約で用いる個人の印鑑証明書の取得費用も、法人の印鑑証明書取得と同様の会計処理をしてよい。

印鑑証明書の発行手数料を計上するときの注意点

会計上の処理と税務上の処理は別であるため、注意が必要な点が2点ある。

消費税が非課税であるため、課税取引と区分する

印鑑証明書の発行手数料は、法務局や地区町村への払いであり、先述のとおり「公課」に該当する。租税公課のうち、租税は消費税の課税対象ではない。これを消費税「不課税」という。また、公課である手数料は消費税の課税対象となりうる取引だが、消費税法等で特別に課税対象としないこととされている。これを消費税「非課税」という。消費税が課税される事業者であれば、計上する際は消費税処理に注意が必要である。

国税庁ホームページ

とくに、通常の会計ソフトにおいては、勘定科目ごとに消費税の設定がされていることがある。租税公課は消費税が課税されない設定になっているはずである。しかし、支払手数料や雑費については、消費税が課税されるものとして設定されていることが多い。租税公課相当の費用を支払手数料や雑費として処理する場合は特に、消費税を不課税あるいは非課税として処理することを忘れないでいただきたい。

仕入れ額控除の対象に含めない

消費税の計算は、事業年度内の売上にかかる消費税から、仕入や経費等にかかる消費税を差し引いた残りを納付するものである。たとえば、消費税率が10%の場合、年間売上が1万円のときに受け取る消費税は1,000円、年間経費が4,000円のときに支払う消費税は400円である。この状態で消費税を申告した場合、納税額は1,000円から400円をひいた600円となる。

仕入税額控除とは、消費税を申告・納税する際に差し引く、仕入や経費等に係る消費税のことである。上記の例では400が仕入税額控除にあたる。印鑑証明書の取得費用は非課税であるため、経費に含まれていても仕入税額控除の対象にはならず、消費税計算に含めてはならない。

消費税の処理に注意すれば、印鑑聡明発行手数料の勘定科目は自由

印鑑証明の意義から、具体的な会計処理や注意点をみてきた。主に、金融機関との取引や不動産の売買や賃借などの重要な契約に際して、法人や個人の印鑑証明が必要となる。いずれにおいても印鑑証明書の取得費用に関する勘定科目は、租税公課が一般的だが、支払手数料や雑費など、法人が自由に選択してよく、消費税に注意が必要となる。

印鑑証明書を取得した際には、正しい経営管理や税務申告と納税のためにも、正しい会計処理をしていただきたい。

文・新井良平(バックオフィスLABO代表)

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