「死んだらあげるよ」という言葉は、往々にして耳にするものの、いざという段になると多分に誤解を生む可能性を秘めている。なぜならそれが「相続」なのか、「遺贈」なのか、はたまた「死因贈与」を指しているのか、明確ではないからだ。

大抵の場合、「あげる」と告げた本人も、これらの違いを意識していないはずだ。ところが事業承継などでは、これらの違いがときに権利関係にも影響してくる。将来の相続人に迷惑をかけないためにも、本稿では「相続」と「遺贈」そして「死因贈与」について学び、それぞれの使い分けを確認しておこう。

似て非なる「死因贈与」と「遺贈」

相続,遺贈,事業承継
(画像=PIXTA)

死因贈与と遺贈が異なる点に、死因贈与は契約であり、遺贈は契約ではないことが挙げられる。「贈与」という言葉が示すように、死因贈与は贈与契約の一種なのだ。

契約は基本的に、一方の者が申し出たことをもう一方が承諾することによって成立する。つまり死因贈与とは、財産を持っている人が「自分が死んだときに財産をあなたにあげる」という申し出をして、財産を受け取る側がそれを了承することで成立する。

これに対して、遺贈は遺言による贈与のことを指す。死因贈与のように生前における両者の合意は想定されていない。そのため、遺言の存在が必須条件となる。財産を受け取る側は、遺贈者が亡くなってから初めて遺言の存在を知ることもある。

遺言は書き方ひとつで効果に差が出る

遺言書を作成するときに「A社株式を甲に相続させる」と書くか、「A社株式を甲に遺贈する」と書くかによって、実際に甲さんがA社の株式を受け取れるかどうか、結果が異なってくるケースもある。

これは相続と遺贈の法的性格の違いから生じるものである。遺言に「A社株式を甲に相続させる」と記載した場合には、財産の承継はあくまで相続であり、法的には「一般承継」として扱われる。ところが、遺言に「A社株式を甲に遺贈する」と記載した場合には、財産の承継は贈与や売買と同じような「特定承継」として扱われる。

この違いがもたらす結果を理解するためには、「株式譲渡制限」について説明しておく必要がある。株式会社では、予期せぬ者が株主とならないように「株式を譲渡するときには会社の承認を受けなければならない」という内容を定款で定めることができる。このような定款規定を設けている会社を「株式譲渡制限会社」と呼んでいる。

株式譲渡制限における「譲渡」というのがポイントで、相続などの「一般承継」は譲渡に該当しないが、贈与などの「特定承継」は譲渡に該当する。つまり、相続の場合には会社の承認がなくても、株式を承継できるのに対して、遺贈の場合には会社の承認がないと株式を承継できないのである。

「相続させる」と「遺贈する」の違いは他にも

株式譲渡制限と同様に、株式会社では閉鎖的な会社運営を望む者に配慮して「相続人等に対する売渡請求」という制度を設けている。つまり、相続により株式を取得した者に対して、その株式を会社に売り渡すように請求できる制度を認めているのだ。

この「相続人等に対する売渡請求」は「相続させる」タイプの遺言で承継した株主に対しては主張できるものの、「遺贈する」タイプの遺言で承継した株主に対しては主張できない。このような違いは上述の株式譲渡制限とともにしっかり把握しておきたいところだ。

事業承継に際しては「相続」・「遺贈」・「死因贈与」の使い分けを

以上のように、「相続」と「遺贈」と「死因贈与」では、それぞれの法的な性格や、また、その効果が異なってくる。自社株式を身内に引き継がせたいのか、第三者に引き継がせたいのか。また、生前贈与と比較してどちらが適しているのかなど、総合的に勘案して事業承継の方法を考えなければならない。(提供:ZUU online