矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

25日、ソフトバンクグループの定時株主総会が開催された。孫氏は、前期は9,600億円を越える当期損失となったものの財務改善のための資金調達が順調であること、保有株式の株式価値は新型コロナウイルス感染拡大前の水準より増えたことを強調、経営再建に自信を見せた。
実際、先月までにアリババ株1兆2,300億円、通信子会社ソフトバンク株3,102億円を売却、2日前の23日にはTモバイルUSへの出資分24%のうち16%を親会社ドイツテレコムに2兆2,000億円で売却することを発表済だ。

2013年、ソフトバンクは米通信3位のスプリントを買収、米通信市場に参入する。当時、「世界最大のモバイルインターネットカンパニー」を目指すと標榜した孫氏は、既にこの時点で4位のTモバイルUSとスプリントを合併させ、首位のベライゾン、2位のAT&Tに対抗する第3極構想を持っていた。
孫氏のプランは米当局の厳しい規制に阻まれ頓挫する。また、水面下の交渉においても合併後の経営権を巡ってドイツテレコムとの厳しい対立があったという。

ところが、2017年に交渉を再開すると孫氏は経営権の放棄を受け入れ、翌年には合意に達する。ビジョンファンドの設立が2017年であったことを鑑みると、もはや孫氏の関心は通信事業会社の経営にはなく、投資家として保有資産の最大化をはかることに移っていたのだろう。その意味でスプリントへの投資は結果的に正しく現在のソフトバンクグループに貢献したと言える。

しかしながら、ビジョンファンドの前期収支は1兆3,646億円の赤字、苦境は続く。5月18日の決算説明会で孫氏は「ビジョンファンドの投資先88社のうち15社程度は倒産する可能性がある」と表明、あわせてファンドの人員削減にも言及した。一方、「15社は大きく成長、10年後にはファンドが出資した企業価値の90%をこの15社が占める」とも語った。
ファンドである以上、リスクがあって当然である。とは言え、ソフトバンクグループの一般株主にとって、同社の株価を左右するファンドの中身に関する情報があまりに少なすぎる。

株主総会の冒頭、孫氏は「危機は新しい日常を生む」と力強くメッセージした。19世紀のコレラは下水道整備を促すことで安全な水をもたらした。1920年代の世界恐慌は公共事業が克服、結果、ダムと道路を整備することで電気と自動車のインフラをつくった。そして、2020年、人と人の接触を制限する新型コロナウイルス危機がデジタルシフトを加速する、と。
異論はない。投資会社としての投資方針も明確である。しかし、それゆえにもう一段の透明性に期待したい。足元では不正会計が露呈し経営破綻に至った独フィンテック大手「ワイヤーカード」とソフトバンクグループ関連会社との関係も取り沙汰される。孫氏、そして、ソフトバンクグループの信用回復のためにも、「ここまでやるか」と唸らせるほどの情報開示に期待したい。

今週の“ひらめき”視点 6.21 – 6.25
代表取締役社長 水越 孝