ヤマト運輸
(画像=RobbinLee/stock.adobe.com)

業界大手のヤマト運輸が2019年9月の中間決算で34億円の赤字に転じた。第二四半期は赤字に転落し、第三期の四半期決算でも黒字幅は縮小しているようだ。それにより、決算時点で通期の業績予想を下方修正した。

一方で、ライバルの佐川急便は堅調に業績をあげている。興味深いのは、増収にも関わらず、利益が下がっているという状況だ。ヤマト運輸は、なぜ赤字に転落したのだろうか。今後の宅配需要の増加でヤマト運輸の復活はありえるのだろうか。

目次

  1. ヤマト運輸が半期決算で35億円もの赤字
  2. 堅調な流通業界。他社は堅調に推移
  3. ヤマト運輸はなぜ赤字に苦しむのか
    1. DM(ダイレクトメール事業)の不振
    2. 大口顧客の出遅れ
    3. 人件費の高騰
  4. ヤマト運輸の未来は?これから劇的復活する?
  5. コロナで活気づく物流、ヤマト運輸は苦境を抜け出すことができるか

ヤマト運輸が半期決算で35億円もの赤字

ヤマト運輸の赤字決算のニュースは、業界に衝撃を与えた。2019年度の第二四半期決算の累計の実績が、売上高8001億円に対し、親会社に属する純利益ベースでは、34億円の赤字に転じたのだ。昨年が99億円の黒字だったことを考えると、旧転落と言っても過言ではないだろう。売上高は前年比+1.4%と、わずかながら増加しているのに対し、営業利益では-73.5%、経常利益では-88.0%と、利益の大きな減少が目立っている。ヤマト運輸の「儲ける力」に異変が起こっているのだ。

この状況は一時的なものではないかもしれない。第三四半期の決算を見ても、第三四半期までの累計で、売上高は1兆2577億円と横ばいなのに対し、営業利益は-32.6%、経常利益は‐36.4%と、大きなマイナスとなっている。親会社に帰属する当期純利益は314億円の黒字に戻しているとは言うものの、厳しい状態が続いているのだろう。実際決算説明会では、2019年度の予想を下方修正し、営業利益は200億円の下方修正となっている。

堅調な流通業界。他社は堅調に推移

それでは物流業界自体が厳しいのかと言われれば、そういうわけではなさそうだ。

物流業界の市場規模は、すべての物流を含めると、24兆円と巨大な産業だ。さらに、ここ数年は、毎年堅調に推移している。自動車産業やエレクトロニクス向けなど、大きな分野が好調というのもあるが、個人向けの物流においても、「ラストワンマイル」需要が高まっていることで、需要は堅調に推移していると言われている。実際、ヤマト運輸が得意とする、「ラストワンマイル」分野の市場規模は、2020年には2兆円を超えるといわれており、こちらも堅調に推移しているのだ。

さらに、他社の状況を見ても、ヤマト運輸だけが苦しんでいることがわかる。ライバルともいえる佐川急便を運営するSGホールディングスは、第三四半期の決算を見ると、売上は+5.5%、営業利益は+3.2%と、絶好調とは言えないまでも、堅調に推移していると言えるだろう。なかでも、主力であるデリバリー事業は、+6.4%の増収、+3.1%の増益となっている。

同じく、ゆうパックを扱う日本郵便も、郵便事業において第三四半期までの累計で、+0.7%の増収、+37.3%の増益となっている。つまり、他社の事業は好調に推移しており、ある意味で、ヤマト運輸の一人負けとなっている状況なのだ。ヤマト運輸に異変が起きていることに間違いはないだろう。

ヤマト運輸はなぜ赤字に苦しむのか

では、なぜヤマト運輸は赤字に苦しんでいるのだろうか。その要因を分析してみよう。

DM(ダイレクトメール事業)の不振

まず、営業収益の面で見てみよう。営業収益はプラスだったが、中身をみてみると、すべて順調というわけではなさそうだ。

第三四半期時点の営業収益を見てみると、デリバリー事業で+98億円、ノンデリバリー事業で-97億円の、トータルで+1億円となっている。このうち、ノンデリバリー事業の減収は、引っ越しサービス休止によるもの(-47億円)と、スポット売上の反動や新規の遅れによるもの(-57億円)だそうだ。

一方デリバリー事業を見てみると、宅急便については、単価向上(+76億円)と、ネコポスの増加(+61億円)が増収に寄与しているものの、DM便の減少で-40億円の減収となっている。デリバリー事業においては、DM便事業が不振となっているのだ。

さらに中身を見てみると、DM便は単価こそ前年同期比+6.5%と上がっているものの、数量が-19.1%減と、単価の上昇ではカバーしきれないほど落ち込んでいる。日本郵便のゆうメールの扱いが-1.8%、郵便の取り扱いが-0.5%と微減と留まっているのとは対照的だ。

マクロの動向から考えると、ペーパーレス化が進む昨今、郵便物やDMが爆発的に増えることは考えづらい。そういう意味でいうと、郵便やゆうメールからいかにシェアを奪うかがカギになってくるが、決算から判断するに、この部分については抜本的な対策は打てていないといえるだろう。

大口顧客の出遅れ

デリバリー事業で見ると、確かに、DM便以外では+137億円の増収となっており、これは決して悪い数字ではないかもしれない。しかし、本当にこれは、「好調」と言えるのだろうか。同決算期で比較すると、SGホールディングスはデリバリー事業で+349億円もの増収を見せている。他社に比べて、ヤマト運輸は、デリバリー事業においても遅れをとっている可能性があるのだ。

特に、宅急便事業は、単価が+2.8%と上昇しながら、取り扱い個数は-4.3%と減少している。小口が-4.8%と減少しているのは、台風等の影響もあり、一概に不調とはいえないが、大口が-3.8%と減少しているのが気になる部分である。大口は2018年3月期の中頃から、ずっと前年割れを続けている状況だ。

その理由の1つにアマゾンや楽天といった大手通販会社との関係性がある。特に、ヤマト運輸はアマゾンの取扱量が多いことで知られていた。そのアマゾンの取り扱い高が、最近減少しているというのだ。2017年4月にはアマゾンの配送の70%近くを担っていたヤマト運輸だが、2019年5月時点では、3割にとどまっており、半分以上の減少となっている。

この背景に、アマゾンの構造が変わりつつあることがあげられる。アマゾンでは、「デリバリープロバイダ」と呼ばれる、独自の配達網を築きつつある。デリバリープロバイダとは、アマゾンからの配達を請け負う小口業者であり、数社あると言われている。このデリバリープロバイダの比率が、2017年時点ではほぼゼロだったのが、2019年には40%にまで増加しているのだ。

さらに、アマゾンは「アマゾンフレックス」というサービスの導入を開始している。これは、ドライバーとアマゾンが直接契約を結ぶ方法になる。アマゾンにとっては、中間業者を通さないことで、配送コストを削減することができる契約方法だ。品質面の課題はあるにせよ、コストメリットを考えると、こちらも今後増加していくことが考えられる。

アマゾンだけではない。楽天も2018年に、「ワンデリバリー」構想を立ち上げ、自前物流を強化しはじめたほか、送料を無料にするような取り組みも始めている。このような大口顧客が独自物流を築き始めたことが、特に大口に強いヤマト運輸を苦しめているといえるだろう。

人件費の高騰

最後に、利益面でヤマト運輸を苦しめているのが、人件費の高騰だ。第三四半期までの累計で、人件費は前年比+245億円となっており、売上増収分を吹き飛ばしている。ただ、これは、ヤマト運輸だけの問題ではない。SGホールディングスも人件費は108億円増加しており、業界全体の問題になっているのだ

物流業界は、トラックのドライバーが収益源となる、労働集約産業だ。そのため、人件費率が経費の中でも大部分を占めている。そして、昨今の労働力不足もあり、ドライバーを中心とした人件費が高騰していることが、業界全体の利益を圧迫しているのだ。実際、一般貨物自動車運送業においては、2014年度の人件費が38.8%だったのが、2016年度には39.6%まで上昇している。

さらに、ヤマト運輸は、2017年に、残業代未払問題を起こしてから、この部分には慎重に取り組むようになっている。その結果、人件費が増えて利益を圧迫しているのも見逃せないところだ。

ヤマト運輸の未来は?これから劇的復活する?

苦境に苦しむヤマト運輸だが、これからの復活はあるのだろうか。予想してみよう。

ヤマト運輸は、第三四半期決算時に、「YAMATO NEXT100」という、ヤマト運輸の目指すべき姿を発表した。その中で、デリバリー事業の構造改革として語られているのが、「宅急便のデジタル・トランスフォーメーション」と、「ECエコシステムの確立」、そして「法人向け物流事業の強化」だ。

デジタル・トランスフォーメーションは、生産性の向上を目指した仕組みであり、これが機能すれば人件費の高騰はある程度抑えることができるだろう。ECエコシステムは、EC事業者向けに導入した新しいサービスで、EC大手との協業を目指しているシステムである。こちらについても成功すれば、ある程度の売上増は見込めるかもしれない。法人向け事業の強化においては、組織変更などをベースにしており、こちらもある程度の効率化が期待できるだろう。

しかしながら、本質的な部分の「大口顧客の減少」「人件費の高騰」に立ち向かえるかは悩ましいところだ。特に、アマゾンや楽天などのビジネスモデルが変化しており、そもそも狙いとしていた部分の需要が少なくなる可能性も否定できない。2019年11月には、ヤマト運輸がアマゾン向けの運賃を値下げしたというニュースも流れたが、人件費が高騰している中での値下げは、自殺行為と言えるかもしれない。

このように、現在ヤマト運輸は、非常に難しいかじ取りをしていると言っても過言ではないだろう。先が見えづらいDM事業からの撤退など、さらなる抜本的な改革も検討する必要がある。もちろんデジタル改革による効率化などが成功したうえでのことである。

コロナで活気づく物流、ヤマト運輸は苦境を抜け出すことができるか

第二四半期では赤字に転じたヤマト運輸。第三四半期では再び黒字になったとはいえ、前年比ベースでは大きく利益を落としている。人件費の高騰、大口顧客の減少、DM事業の不振など、現状はあらゆる面で苦境に立たされており、構造の見直しを迫られているといえるだろう。

一方、ここに来てコロナウイルスの影響でオンラインでの購買が増加。物流業界は活気づいている。ヤマト運輸も2020年5月の宅急便の取扱い実績は前年同月比19.5%増の1億6498万7396個と大幅に増加したと発表している。

果たしてヤマト運輸は今後この波に乗って構造改革を進められるのだろうか。今後の動向に注目したい。

文・THE OWNER編集部

無料会員登録はこちら