節税
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

「中小企業を経営するなら節税は必須」と経営者なら一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、「なぜ必要なのか」まで理解している方は少ないかもしれない。今回は中小企業にこそ節税が必要な理由を再確認するとともに、どんな中小企業でも必ずできる節税策を3つに絞って解説する。今後の経営の一助になれば望外の喜びだ。

目次

  1. 中小企業に節税策が欠かせない4つの理由
    1. 法人の税負担は中小企業の方が重い
    2. 資金調達が難しい
    3. 経営の血液であるお金がなくなったら「即死」
    4. 法人税と法人住民税は経費にならない
  2. 誰でもできる中小企業の節税策3選
    1. 1.青色申告による節税
    2. 2.役員報酬での節税
    3. 3.交際費で節税
  3. 節税策で見るべき3つのポイント
    1. 1.「繰り延べ」は効果薄い
    2. 2.自社に合うかを考えよ
    3. 3.限度を超えた節税策は行わない
  4. 自社にとって適切な節税策を見極める

中小企業に節税策が欠かせない4つの理由

節税の必要度合は、大企業の方よりも中小企業の方がはるかに高いのが現実だ。なぜだろうか。これには次の4つの背景がある。

法人の税負担は中小企業の方が重い

法人の税負担は法人税の実効税率で考えるのが一般的だ。法人税の実効税率は次の算式で計算する。

〔法人税×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+地方法人特別税率〕÷(1+事業税率+地方法人特別税率)

そして、2020年12月期時点で、法人税の実効税率は次のようになっている。

  • 外形標準課税非適用法人(資本金1億円以下):34.59%
  • 外形標準課税適用法人(資本金1億円超):30.62%

資本金1億円以下の法人は中小企業に該当する。実際には、住民税率・事業税率は所得額によって変わるため、実効税率が33.58%になることもあるが、それでも大企業よりも実効税率は高くなっている。大企業になると外形標準課税により、従業員への給与や資本金額といった付加価値的な部分にも課税されるため、単純に比較することはできない。しかしそれでも、資本力の弱い中小企業には3~4%高い実効税率はかなりの税負担だ。

加えて、この実行税率には消費税負担は加味されていない。消費税は、売上高が1000万円を超えた翌々事業年度から納付するのが原則だ。しかし、売上高1000万円を超えた企業が等しく納税をしているかというとそうでもない。中小企業の大半は国内を市場とする消費税の課税事業を営んでいるため、消費税の納税義務を負う。

目を転じて大企業はというと、海外と取引する事業を営むがゆえに納税義務者でありながらも消費税が還付される企業が少なくない。つまり、消費税の納税義務という点においても中小企業の方がより負担が重い。さらに、社会保険負担も考えると、中小企業の税負担は「34.59%以上だ」というのが実態なのである。

資金調達が難しい

大企業の中には上場している企業も多い。上場企業は不特定多数の投資家から資金を調達しやすい。また、大企業は信用力があるため、銀行からの融資も得やすい側面を持っている。

一方、中小企業の出資者はオーナー社長一家であるため、企業のお金はオーナー一家の資金力に依存しやすい。第三者に出資を募ると経営権の問題が生じるため、資金繰りに窮しても簡単に出資を募ることはできない。また、融資も企業業績や返済実績が審査の対象となるため、黒字経営を続け、計画的に融資の準備をしている企業でなければ融資を受けられないのが現実だ。

つまり、中小企業は大企業に比べて資金調達が難しいのである。

経営の血液であるお金がなくなったら「即死」

経営者は自己の努力の結果でもある売上や利益に目が向きやすい。しかし、より真剣に向き合わなくてはならないのは「資金繰り」だ。なぜかというと、お金は会社経営の血液だからだ。

売上はモノやサービスを提供してすぐ入金があるわけではない。大抵1~3ヵ月後に振り込まれる。しかし支払いは待ったなしだ。家賃は前払いで払わなくてはならない。水道光熱費や通信費の支払いを滞れば経営に支障が出る。固定資産税や法人税などは期限後に納付すると延滞税がかかる。取引先からの支払いが遅れたり、倒産したりすれば途端に自社の経営が窮することになる。

このように、経営を実際に左右するのは資金繰りなのだ。資金繰りを安定させるためには現金が必要であり、現金を確保するには売上を伸ばすだけでなく、支出を減らすことが必要である。

法人税と法人住民税は経費にならない

現金を確保するには支出を減らすことが重要だ。しかし、支出には「利益を圧縮して節税する」「経営を支える基盤となる」という効果もあるため、削減には慎重にならなくてはいけない。

ただ、今すぐにでも圧縮したほうがいい支出もある。その一つが法人税だ。なぜかというと、法人税法上の経費にならないからだ。また、法人税の課税所得を基礎に計算される法人住民税も経費にならない。つまり、法人税と法人住民税はいくら支出しても節税効果は0円なのだ。見方を変えると、この2つの削減は資金繰りの改善につながりやすいということである。

誰でもできる中小企業の節税策3選

節税の重要性が分かったうえで、中小企業向けの税金対策を3つ紹介する。これらはどんな業種でもすぐに実践できるのでぜひ試してほしい。

1.青色申告による節税

一つ目の税金対策は、青色申告による節税だ。「青色申告なんてできて当たり前でしょ?」と思うかもしれない。実際には「正規の簿記の原則(複式簿記)で記帳すること」「青色申告承認申請書を事前に提出する事」「期限内申告をすること」をしなければ青色申告をすることはできない。

青色申告の適用を受けた法人は、次のような特典が認められる。

・30万円未満の固定資産の即時償却
原則、10万円以上の固定資産はすぐに経費にならない。いったん資産として計上した後減価償却を行うことになる。しかし、青色申告の適用を受けると、30万円未満の固定資産は使用時点で全額経費にすることができる。

・損失の繰越控除・繰戻還付
ある事業年度で損失が発生したら、その損失は翌事業年度以後10年間(2018年3月13日以前に発生した損失は9年間)、繰り越すことができる。これにより、翌期以後には利益が発生したならば、繰り越した損失と相殺して課税所得を圧縮し、税金を減らすことができる。

また、中小企業は、前事業年度の黒字と本事業年度の赤字を相殺して法人税の繰戻還付を受けることも可能だ。

・法人税額の控除
中小企業が青色申告をするなら、新品の機械や装置を購入した時、取得価額の7%を法人税額から控除できる。対象となるのは70万円以上のソフトウェア、160万円以上の機械装置、貨物運送用の3.5トン以上の普通貨物自動車などだ。製造業や小売業、卸売業の企業には活用のしがいがある。

この他、従業員の給与の引き上げを行ったときにも一定額の税額控除ができる。   

2.役員報酬での節税

役員報酬の設定の仕方次第で法人税を節税できる。その一方、役員報酬から所得税・住民税・社会保険が源泉徴収される。つまり高ければ高いほど個人の公的負担が重くなるのだ。役員報酬は高くすればいいというものではない。そのため、事前にいくつかパターンを用意して法人・個人両方の課税額がどれくらいになるかを試算するとよいだろう。このとき、「経常利益+役員報酬」でシミュレーションするとわかりやすい。

なお、特段他に節税対策をしていない中小企業では、次の金額が役員報酬のおおよその目安となる。

  • 「経常利益+役員報酬」が1000万円前後…役員報酬は200~300万円
  • 「経常利益+役員報酬」が2000万円前後…役員報酬は500~600万円または900~1000万円
  • 「経常利益+役員報酬」が3000万円前後…役員報酬は1000~1300万円

この他、家族を役員・従業員にして役員報酬や給与を支払うのも節税策となる。ただし、勤務実態がないと税務調査でひっかかる原因となるので慎重に検討したい。

3.交際費で節税

交際費は原則法人税法上の経費にならない。しかし、昨今の税制改正により、中小企業の交際費については、1事業年度あたり800万円まで、または支出した金額の半分までのいずれかを全額経費にしてよいとされている。実際には、年間800万円までの枠を選択して交際費を経費にしている中小企業が多い。

ただし、無条件で認められるわけではない。特に接待については、どの取引先の名称や参加者の人数や氏名、その関係性を記録に残さなくてはならない。

節税策で見るべき3つのポイント

上記の他、「会社役員の自宅を社宅にする」「出張旅費規程を設ける」「棚卸資産や減価償却資産を見直す」といった方法も節税には有効だ。ただ、すべての節税策を実行すればよいわけではない。税金対策の採用においては、次の3つのポイントを念頭に置いて選択してほしい。

1.「繰り延べ」は効果薄い

節税策として謳われているものの中には所得や税額の減額ではなく単なる納税の繰延にしかならないものもある。例えば、補助金の圧縮記帳だ。この制度は、補助金を受給した時、課税による効果半減を避けるべく、圧縮記帳を行って課税を抑えるというものである。圧縮記帳、確かに節税効果はあるが一時的なものに過ぎない。翌事業年度以後は圧縮した分の納税を行うことになる。そして、全体でみると納税額は変わらない。つまり、圧縮記帳は税金の繰延にしかならないのだ。

一時的な資金繰りをしのぐためなら活用のしてもよいが、恒常的な節税を期待するなら少し慎重になった方がいい。

2.自社に合うかを考えよ

節税には資金繰り改善になるといえど、無理は禁物だ。そもそも固定資産がなくてもいい事業にもかかわらず経費を圧縮すべく無理に30万円未満の資産を購入したり、現金が少ないのに不要な交際費を支出したりすればムダが増えるだけでなく資金繰りに困ることになる。また、事務作業の手間も余分にかかる。

節税は「自社の事業ありき」だ。自社の事業内容を見てから自社に合った節税策を選ぶようにすると無理もムダもなくなる。節税も節約やダイエットと同じで、「無理なく続けられることが肝心」なのである。

3.限度を超えた節税策は行わない

節税は大事だが、限度を超えないようにしたい。特に違法行為である脱税にならないよう注意しなくてはならない。また、税法の目的から逸脱した節税行為である租税回避についても慎重でありたい。昨今の税務調査や税制改正においては、「合法だから問題ない」という考え方だけでなく「節税目的の行為でないか」「営利目的である企業としての経済的合理性をなしているか」を問う傾向にある。決して「法律の範囲内だからまぁいいか」ではないのだ。

節税のやりすぎは税務調査で済まされず、税務訴訟に発展することがある。そうなると時間とコストを余計にかけ、ムダが増えることになりかねない。顧問税理士に相談しつつ、度を越えた節税にならないように注意した方が良い。

自社にとって適切な節税策を見極める

中小企業にとって命の源ともいえる「資金」をうまく回し、円滑に経営をするためには節税が重要である。青色申告や適切な役員報酬、交際費の経費計上はどの企業でも取り組める節税策であるが、度を越えた節税策はかえって企業にとってマイナスとなる場合もあるため、慎重に検討し無理なく取り組める範囲で行うのが良いだろう。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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