「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)

目次

  1. 2020年5月に経営破綻した旧レナウンのスーツ縫製子会社の事業を協力会社3社が引き継ぐ
  2. 「ダーバンの技術を絶やしてはいけない」 大磯会長と荒木社長の思いが一致し、「日本一のスーツ工場」を目指す
  3. 2020年12月に独自ブランド「宮崎ファクトリー」を立ち上げ、自立した企業として技術を磨き、ダーバンのスーツ生産へ貢献
  4. 日本では数少ないスーツの一貫生産が強み 納期の異なるオーダー品と既製品を同一ラインで混流生産するノウハウもある
  5. 「オーダー品の短納期を担保する混流生産は他では真似できない」 メンズファッション協会の技術遺産認証も受賞
  6. 従来の高度な生産管理システムを生かすため、新たなネットワークを構築してオッジ・インターナショナルのネットワークと連係
  7. 設立初年度(2021年8月)から黒字化 2024年8月期は初年度比1.5倍の売上
  8. 新たにカジュアルとレディースにも挑戦 新たな飛躍に向けたトップ二人の思いは一致している
中小企業応援サイト 編集部
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豊かな自然の緑に囲まれた宮崎県日南市。この温暖な南国の地に、日本のメンズファッションを代表するブランド「ダーバン」の伝統を守り続けている縫製会社がある。ダーバンを展開していた老舗アパレル大手の旧レナウンが経営破綻した2020年に、旧レナウンの子会社だった地元のスーツ縫製工場を協力会社3社で買収し、事業を引き継いだ株式会社宮崎ファクトリーだ。日本では数少ないスーツの一貫生産工場としての強みを生かし、新生ダーバンのスーツ生産を引き継ぐ一方で、オーダースーツの独自ブランドの立ち上げや、カジュアル、レディースなど製品の幅の拡大を目指し、日本人の体形にフィットするスーツを仕立てる伝統技術の継承と、縫製技術の高度化に挑んでいる。(TOP写真 独自ブランド「宮崎ファクトリー」の店舗で大磯貴弘会長(左)と荒木幸三社長(右))

2020年5月に経営破綻した旧レナウンのスーツ縫製子会社の事業を協力会社3社が引き継ぐ

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
工場の門に書かれた「宮崎ファクトリー」の社名

宮崎ファクトリーの前身は、旧レナウンが主力ブランドであるダーバンのスーツ生産子会社として1974年に宮崎県北郷町(現日南市)に設立した株式会社ダーバン宮崎ソーイングだ。ピーク時には、「ダーバン」「アクアスキュータム」ブランドのスーツを年間約20万着生産し、旧レナウンの高級スーツ部門を支えていた。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアパレル需要が落ち込んでいた2020年5月、突然の悲報が舞い込んだ。親会社の旧レナウンが民事再生法の適用を申請し、即日受理されたのだ。子会社のダーバン宮崎ソーイングも債務返済のめどが立たなくなり、同年6月に民事再生法の適用を申請した。

ダーバン宮崎ソーイングの引受先は現れなかったが、「ダーバン」「アクアスキュータム」事業は大阪のアパレル大手、小泉の子会社であるオッジ・インターナショナル(現レナウン株式会社)への譲渡が2020年8月に決まった。ファミリーソーイング、日南ファミリーソーイング、日南トローザーソーイングの協力会社3社が共同で、ダーバン宮崎ソーイングの事業を引き継ぐ新会社として宮崎ファクトリーを同年9月8日に設立。オッジ・インターナショナルからの生産委託を受けて、ダーバン宮崎を解雇された従業員約40人を再雇用し、休業中だった協力会社の従業員と合わせて約190人体制で生産再開にこぎつけた。

「ダーバンの技術を絶やしてはいけない」 大磯会長と荒木社長の思いが一致し、「日本一のスーツ工場」を目指す

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
「好きな仕事をやっている毎日が楽しい」と口をそろえる大磯貴弘会長(左)と荒木幸三社長(右)

「旧レナウンの民事再生法の申請には驚きましたし、目の前が真っ暗になりました。しかし、46年にわたってダーバンブランドのスーツをつくり続けてきたダーバン宮崎の技術は残していかなくてはいけないという同じ思いのパートナーと出会い、今は好きな仕事をやっている毎日が楽しいですね」。宮崎ファクトリーの大磯貴弘代表取締役会長と荒木幸三代表取締役社長の経営トップ二人は、異口同音(いくどうおん)に「毎日が楽しい」と話す。

「旧レナウンが経営破綻しても、ダーバンブランドは残ると確信していました。ダーバンが残れば、ダーバン宮崎はなくてはならない存在だと思っていました」。20年前に義父が経営するファミリーソーイングの経営を引き継いだ荒木社長は、ダーバン宮崎が持つ高い縫製技術の価値を熟知していた。それでも旧レナウン、ダーバン宮崎が相次ぎ経営破綻し、事業の先行きに不安を持たなかったわけではない。

父母がそれぞれ経営していた日南トローザーソーイングと日南ファミリーソーイングの事業に関わって1週間ほどで、旧レナウンの経営破綻に遭遇した大磯貴弘会長の不安はなおさらだった。しかし、「ダーバンの技術を絶やしてはいけない」という服づくりが大好きな二人の思いは同じ。共に新たな一歩を踏み出す最良のパートナーを得て、「日本一のスーツ工場」を目指している。

2020年12月に独自ブランド「宮崎ファクトリー」を立ち上げ、自立した企業として技術を磨き、ダーバンのスーツ生産へ貢献

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
ファッションルームに置かれている独自ブランド商品

宮崎ファクトリーは、「自分たちがやりたいことができる会社」を経営ビジョンに掲げて発足。設立から間もない2020年12月、工場内に独自ブランド「宮崎ファクトリー」のオーダースーツを販売する店舗「ファッションルーム」を設けた。宮崎ファクトリーのホームページでは「日本人は丸みを帯びた特有の体型をしています。そんな日本人にフィットする丸みを帯びた立体的なフォルムのスーツを仕立てられるのが『宮崎ファクトリー』の魅力です」と利用者に寄り添う姿勢を明確にしている。

「お客さまを採寸し、パターン(型紙)を引き、縫製して売る。従来はなかったお客さまとの接点が生まれ、スーツ販売の一連の流れを知ることは、私も従業員も勉強になります」と、荒木社長は独自ブランドを立ち上げた理由を説明する。

自立した企業として成長していくためには、顧客のニーズや評価に直接触れることによって、企画力や技術を磨いていく必要がある。「自分でパターンを引くことはスーツを深く知ることにつながるし、ダーバンのスーツ生産にも生きると思います」(荒木社長)として、スーツだけでなくジャケットやレディースにも商品の幅を広げている。

日本では数少ないスーツの一貫生産が強み 納期の異なるオーダー品と既製品を同一ラインで混流生産するノウハウもある

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
自動化が難しい縫製工程
「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
自動裁断システムに型紙をセットしているところ

宮崎ファクトリーの最大の強みは、日本では数少ないスーツの一貫生産ができることだ。生地の受け入れから検反(生地の品質検査)、型紙作成、裁断、縫製、仕上げ、検査、出荷の全ての工程を、一つの工場でこなしている。しかも、納期の異なるオーダー品と既製品を半々の比率で同じ生産ラインに流す混流生産を行っており、季節によるオーダー品と既製品の比率変動にも対応できる。

裁断は自動裁断システムで自動化しているため、オーダー品と既製品のシステムを分けて運用しているが、仕立て上げるまでに約300もの工程があって自動化の難しい縫製部門は生産管理システムによる指示に加えて、従業員の長年の経験と技術が、時には日々変化する生産体制を支えており、そこには「長年蓄積してきた生産ノウハウがある」(大磯会長)という。

「オーダー品の短納期を担保する混流生産は他では真似できない」 メンズファッション協会の技術遺産認証も受賞

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
職人技が支える縫製工程

「その生産ノウハウは、旧レナウンが構築した生産管理システムと生産現場の職人が融合しながら、長年の経験を積み重ねてつくり上げてきたものです。オーダー品と既製品を混流生産するためには、納期の短いオーダー品が既製品を途中で追い越していく必要があります。オーダー品の短納期を担保する混流生産は、他の縫製工場では真似できないと自負しています」と、荒木社長は胸を張る。

この生産ノウハウと、肩の丸みなどを日本人の体形に合うように縫製する職人の技によって高い品質を維持してきた。こうした同社のスーツ縫製技術は、日本メンズファッション協会が次の時代に伝承すべき技術を認証する2022年の「MFUマイスター《技術遺産》認証」を受賞している。

従来の高度な生産管理システムを生かすため、新たなネットワークを構築してオッジ・インターナショナルのネットワークと連係

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
受注データを基に型紙を作成するCAD・設計部門

宮崎ファクトリーは、高い技能を有する職人とともに、縫製工場としては高度な生産管理システムも引き継いだ。しかし、同システムは旧レナウンが構築したもので、新たな取引先となるオッジ・インターナショナルとの間では従来のネットワークのままでは使えないため、旧レナウン時代と同等の仕組みを再構築する必要があった。

引き継いだ生産管理システムは、全国の百貨店などの顧客からの受注データを基に効率的な型紙作成を行うCADシステムを始め、生地や裏地を型紙通りにカットする自動裁断システム、生産ラインのコントロールや納期管理など受注から出荷までを一貫管理するシステムで、スーツ生産の要(かなめ)を担うものだ。このため、同システムはそのまま生かした上で、オッジ・インターナショナル側のネットワークと連係させる必要があった。

オッジ・インターナショナル側の機密保持やセキュリティ確保などで課された多くの制約をクリアするために、宮崎ファクトリーとして新たなネットワークを構築。UTM(統合脅威管理)システムとウイルス対策ソフトを組み合わせて、2020年9月の宮崎ファクトリー設立から約半年後に双方向ネットワークの連係を完了。同時に、使えなくなった旧レナウン時代の給与計算システムも新しいシステムに切り替えた。

これらは、変更点が多岐にわたり、しかも細かいところまでノウハウが必要なため、総合的な知見を持ち様々なノウハウを持ったシステム支援会社のサポートを得て進めた。

設立初年度(2021年8月)から黒字化 2024年8月期は初年度比1.5倍の売上

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
宮崎ファクトリーのスーツ工場外観

宮崎ファクトリーの業績は、発足初年度の2021年8月期に上着ベースで年間3万6000着を生産。売上高10億円で黒字化した。2024年8月期は、同4万4000着の生産で売上高15億5000万円を計上した。「年間4万~4万5000着程度の生産で収益を確保できる水準になっている」(大磯会長)という。

新たにカジュアルとレディースにも挑戦 新たな飛躍に向けたトップ二人の思いは一致している

「ダーバン」の伝統を守るスーツ縫製会社 経営破綻した旧レナウン子会社を協力会社3社が再建し新分野にも挑戦 宮崎ファクトリー(宮崎県)
効率的な混流生産を支える役割を持つ最大数万着の保管能力を持つ巨大倉庫

「カジュアルやレディースにチャレンジしようと思っています」。荒木社長はターゲットを広げる成長戦略を描いている。まずはカジュアルジャケットとパンツのセットアップで、レナウンには「中国の委託先と同じ料金でもカジュアルにトライしたいとの意向を伝えています」(荒木社長)。また、レディースに強いアクアスキュータムもあるため、レディースの製品化にも動き出している。

「カジュアル工場でフォーマルをやろうとしても無理ですが、フォーマル工場でカジュアルはできます。スーツ需要には一定以上のニーズは必ずあると思いますし、そうしたうちにカジュアル、レディースにも商品の幅を広げて様々な分野に挑戦していきたいと思っています」。大磯会長はこう話し、荒木社長の戦略を後押しする。宮崎ファクトリーの新たな飛躍に向けたトップ二人の思いは一致している。

企業概要

会社名株式会社宮崎ファクトリー
住所宮崎県日南市北郷町郷之原乙3663
HPhttps://miyazaki-factory.jp/
電話0987-55-3211
設立2020年9月
従業員数190人(協力工場含む)
事業内容  紳士服、女性服などアパレル(服装雑貨、装身具などを含む)の製造・販売