
目次
- 製造ラインは全員が女性パート従業員 社会保険加入義務のない個人事業の形態を堅持する
- コロナ禍の2021年に事業継承を決断も、売上高半減し大赤字の苦境に陥る
- 部品ピッキングの新たな業務委託とコロナ後の本業回復で2025年の月間売上高はコロナ前の2倍に
- 子どもが病気でも急な休みがとれる会社へ、2010年から働きやすい職場を目指す
- 働きやすさ追求してICTを活用 クラウド型の業務改善プラットフォームで業務効率化に成果
- 生産実績や日報をデジタル化し紙書類を半減。タブレット入力で生産管理の手間を省く
- デジタル管理で納入先からの問い合わせにも即応 人の手間時間短縮の積み重ねが生産性を高める
- ICTを活用して「従業員のスキルアップを支援する人材育成システム」を検討し、会社と従業員が共に成長する未来を目指す
「子育て中の主婦でも働きやすい」と地域で評判の会社が、紀伊半島南東部に位置する三重県南牟婁郡(みなみむろぐん)紀宝町にある。パナソニックの各種警報装置やマンションのロビーインターホンなどに組み込む、プリント基板に電子部品を実装したモジュールを製造している竹鼻電器だ。1982年の創業以来、地域の主婦などのパート従業員だけで操業し、子どもの病気などでの急な休みへの対応や、退社時間を選択できる勤務システムの導入など、主婦が働きやすい職場づくりに力を入れてきた。最近はクラウド型の業務改善プラットフォームを導入して業務の改善・効率化を進め、働きやすい職場に磨きをかけている。(TOP写真:竹鼻電器の製造現場ではパートの女性従業員が自らの作業実績をタブレット端末に入力している)
製造ラインは全員が女性パート従業員 社会保険加入義務のない個人事業の形態を堅持する

竹鼻電器は創業43年の会社だが、事業形態は現在も個人事業のままだ。創業以前は数人のパート従業員を雇って「内職のような感じ」でブレーカーのコイルなどを製造していた。創業者の竹鼻基泰氏が、「設備を入れてやってくれないか」という当時の受注先の東海電工株式会社(現パナソニックエレクトリックワークス紀南電工株式会社)からの求めに応じて事業を始めた。その後事業規模が拡大し、パート従業員の数も増えたが、「夫の扶養の範囲内で仕事をしたい」というパート従業員のニーズに対応して、個人事業での経営を堅持している。厚生年金や健康保険の社会保険への加入は、常時5人以上の社員を雇用している個人事業は「強制適用事業所」となるが、社員4人以下の個人事業は「任意適用事業所」とされ、加入義務はない。このため、竹鼻電器は現在も社員は船津芳樹代表を入れて2人にとどめ、製造現場はすべてパート従業員でまかなう態勢を継続している。
コロナ禍の2021年に事業継承を決断も、売上高半減し大赤字の苦境に陥る

2003年に入社した船津代表が創業者の竹鼻氏から事業を引き継いだのは、コロナ禍の2021年4月のことだった。竹鼻氏の2人の息子が事業を継がないことが明確になったため、船津代表に後継の話があり、竹鼻電器の資産を評価に基づいて船津代表が買い取った。「コロナ禍で業績が落ち込んでいたし、すぐにイエスと言える話ではありませんでした。熟慮を重ねた結果、(竹鼻電器の後継者になることは)以前から私が希望していたことでもあり、パート従業員の生活を守るためにも、最後は事業を引き継ぐことを決断しました」と、船津代表は当時の複雑な心境を吐露(とろ)する。
事業継承を機に、受注先のパナソニック紀南電工が新工場に移転して空きスペースができた紀南電工の工場内に移転したが、コロナ禍で業績はどん底だった。自身の蓄えを切り崩してやりくりしていたものの、事業継承から8ヶ月後の2021年12月期決算は大赤字。船津代表は「最初の半年間は、売上が半減し、年内で事業をたたむことも考えるほどの厳しい状況でした」と、当時の苦境を振り返る。
部品ピッキングの新たな業務委託とコロナ後の本業回復で2025年の月間売上高はコロナ前の2倍に

そんな竹鼻電器を救ったのは、パナソニック紀南電工の新工場に倉庫から部品を出荷する部品ピッキングの業務委託を受けたことだ。竹鼻電器の製造ラインと同じフロアにある部品倉庫を新工場に移転する計画が難しくなったため、その倉庫管理と部品出荷業務を竹鼻電器が請け負うことになり、業績が底をついていた2022年1月から、竹鼻電器の新たな事業としてスタートした。
「委託業務なので安定収益となりました。同時にコロナも収束に向かい、本業も回復基調となり、製造委託を受ける製品も増えました」(船津代表)という。コロナ前は大手警備サービス会社向けセキュリティー機器の基板モジュール組立が主力だったが、コロナ後はマンションのロビーインターホンや非常警報装置向けが増え、今はそれらが主力製品となっている。売上高も2021年は月200万円を切る水準に落ち込んでいたものの、現在はコロナ前の月400万円の2倍の月800万円に増えた。
子どもが病気でも急な休みがとれる会社へ、2010年から働きやすい職場を目指す

竹鼻電器の最大の強みは、パート従業員に働きやすい職場を提供していることだ。元々パート従業員に依存する経営形態だったが、「子育て中の主婦でも働きやすい職場」を本気で目指したのは、船津代表が実質的に代表の役割を担うようになった2010年以降だ。中小企業向け働き方改革関連法案が施行されたのが2020年4月だから、政府の働き方改革が本格化する10年も前のことだ。
「ハローワークから『勤務時間は相談できますか』との問い合わせが多かったのを受けて、そうしたニーズに応えることによって気持ちよく働いていただけると考えました」。船津代表は、働きやすい職場づくりに乗り出したきっかけをこう話す。
勤務時間は、午前9時から午後2時40分までと、同3時50分までの二通りから選択できるようにし、こどもの病気などでの急な休みも皆でカバーし合うことによって応えられるようにした。こうした働きやすい職場環境が口コミで広がり、最近は紀宝町以外の近隣都市からもパートの応募が寄せられるようになった。2025年からは、ホームページに竹鼻電器の働きやすさを訴求するYouTubeのアニメ動画も掲載している。今のところパート従業員の採用に困ることはないが、将来的には動画の効果にも期待している。
働きやすさ追求してICTを活用 クラウド型の業務改善プラットフォームで業務効率化に成果

働きやすい職場づくりには、ICTを活用した業務の効率化も寄与している。2018年にクラウド型勤怠管理システムを導入し、タイムカードをなくして勤怠管理をデジタル化。2023年1月には、ほとんどを紙書類への手書きで行っていた生産実績や日報の作成・管理、資産管理、在庫管理の業務全般をデジタル化するため、クラウド型の業務改善プラットフォームを導入した。
従来の製造現場では、全員が日報を手書きして紙書類で保管していた。業務改善プラットフォーム導入後は、製造現場に設置している20台のタブレット端末に仕事が完了した実績をその都度入力。日報もタブレットで入力し、デジタル保存する形に変わった。倉庫からパナソニック紀南電工に部品を出荷する部品ピッキング業務では、7人のパート従業員が1台ずつタブレットを持ち、ピッキング作業完了ごとに結果をタブレットで入力。1日の業務内容をデジタルで保存・管理ができるようになった。手書きの紙書類で管理・保管していた資産管理と在庫管理も、業務改善プラットフォームでデジタル化した。
生産実績や日報をデジタル化し紙書類を半減。タブレット入力で生産管理の手間を省く

「従来は紙書類があふれており、管理が大変でした。紙書類の発生も半分以下に減りましたし、納入先からの問い合わせの際も検索すればすぐに回答できます。製造現場での入力も簡単で、日々の生産実績もすぐに取り出せるようになりました」。船津代表は、業務改善プラットフォームの導入効果を高く評価している。
紙書類のプリント枚数は、生産実績や日報などを手書きの紙書類で管理していた時の月2,000枚から1,000枚以下と半分に減少した。用紙代とコピー代合わせて月8,000円程度の経費削減につながっているが、仕事量が増えているため「実際には半減以上の効果が得られている」(船津代表)と見ている。
デジタル管理で納入先からの問い合わせにも即応 人の手間時間短縮の積み重ねが生産性を高める

従来、納入先から問い合わせが入った際には、仕事の手を止めて紙書類を繰っていた。今は検索すればすぐに出てくるため、探すのにかかっていた時間は大幅に短くなった。船津代表は、「手書きや書類探しなど人の手による手間の時間を短縮できた効果は大きいと思います」と話す。その手間の時間短縮の積み重ねが生産性の向上につながっている。従業員も「紙への手書き記入がなくなりましたし、仕事の過去実績を探すのも自分でできるので仕事は楽になりました」と話しており、業務改善プラットフォームが働きやすい職場づくりを前進させているのは間違いないようだ。
ICTを活用して「従業員のスキルアップを支援する人材育成システム」を検討し、会社と従業員が共に成長する未来を目指す

「地域の主婦の方々に働きやすい職場を提供していくためには、会社が成長していかねばなりません。そのためにはパートであっても従業員がスキルアップしていくための人材育成の仕組みが必要と考えています」。船津代表はこう話す。
業務のICT化は、2024年から給与計算ソフトを導入し、給与振込はインターネットバンキングで行っており、「可能な範囲で進めてきた」(船津代表)という。残されているのは、「従業員のスキルアップを支援する人材育成システム」としており、ICTを活用して会社と従業員が共に成長していく未来の姿を思い描いている。
企業概要
会社名 | 竹鼻電器 |
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住所 | 三重県南牟婁郡紀宝町神内108-2 |
HP | https://www.takehanadenki.com/ |
電話 | 0735-32-2782 |
創業 | 1982年 |
従業員数 | 37人 |
事業内容 | 電子部品の組立、部品出庫業務など |