目指すは運送業の地域貢献モデル ICT駆使しオートボディプリントやドローンの事業開拓も 吉秀トラフィック(京都府)

目次

  1. 1台のトラックから事業をスタート 二十数年で120台のトラックを所有する運送会社に成長
  2. 従業員一人ひとりの成長を支える教育体制を整える。無事故で1か月勤務した従業員には5kgの米を贈呈している
  3. 地域の子育て世代が育児と仕事を両立できる環境を整えるために、企業主導型保育園を運営
  4. 2009年以降、全車両にデジタルタコグラフとGPSドライブレコーダーを搭載し、業務効率化や安全運転強化、サービス向上を実現
  5. トラックは原則5年で更新 最新の機能を備えた車両を通じて、環境に配慮しながら事故リスクの低減を目指している
  6. グループ会社の株式会社ラッキーリバーを通じて新規事業を開拓 トラック車体のデザインプリント事業が着実に成長
  7. もう一つの柱としてドローン事業を推進 ドローンの教習所運営や屋根への遮熱塗料の吹付け塗装に取り組む
  8. グループの基幹業務の効率化や情報発信にもデジタル技術を積極的に活用 拠点やグループ会社間の情報共有のためにクラウドサービスを導入している
  9. 生成AIに学習させ 取引先への請求書メール送信を任せている
  10. 警察署と連携したデザイントラックを走らせるなど経営資源を活用した地域貢献に力を入れている
  11. 能登半島地震の被災地への支援活動にも積極的に取り組み、自衛隊から表彰を受けた
  12. デジタル化による業務改革で生み出した時間を新しい取り組みに振り向ける
中小企業応援サイト 編集部
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京都府南部の八幡市の運送会社、株式会社吉秀トラフィックが、安全な運送と地域貢献の実現にデジタル技術を積極的に活用している。所有する約120台のトラックにデジタルタコグラフとGPS搭載型のドライブレコーダーを装備し、基幹業務の効率化を図るために生成AIの活用にも取り組む。グループ会社の株式会社ラッキーリバーを通じて、大型のオートボディプリンターを活用したトラックのデザインプリント事業やドローン事業も展開し、新しい運送業のビジネスモデルの確立を目指して挑戦を続けている。(TOP写真:吉秀トラフィックが京都府警八幡警察署と連携して走らせているデザイントラック)

1台のトラックから事業をスタート 二十数年で120台のトラックを所有する運送会社に成長

吉秀トラフィックの吉川秀憲代表取締役
吉秀トラフィックの吉川秀憲代表取締役

「物流を通じて社会、環境、人の和に貢献したい。そう思って事業に取り組んでいます。経済や社会を維持、発展する上で物流業界が担っている責任の大きさをしっかりと受け止め、地域社会の一員として安心、安全、信頼を届ける存在であり続けたいと思っています」。京都府八幡市の株式会社吉秀トラフィックの本社で、吉川秀憲代表取締役は自らの大切にしている思いを語った。

2002年、京都市伏見区で、1台のトラックから事業をスタートした吉秀トラフィックは、二十数年で京都府八幡市に本社、滋賀県栗東市、埼玉県さいたま市に営業拠点を構え、約120台の車両を所有する運送会社に成長した。社名は自らの氏名の頭文字、吉と秀に、物流のグローバル化を見据えて新しい感覚を打ち出そうと英語の「トラフィック」を掛け合わせたという。2008年に開設した八幡市内の幹線道路沿いに広がる本社の敷地内では、本社オフィス、倉庫、トラックの駐車場のほか、災害時における緊急物資の輸送支援を視野に入れた自社給油設備をそろえる。

従業員一人ひとりの成長を支える教育体制を整える。無事故で1か月勤務した従業員には5kgの米を贈呈している

吉秀トラフィックのオフィス
吉秀トラフィックのオフィス

吉秀トラフィックは、研修や段取り力の強化など従業員一人ひとりの成長を支える教育体制を整え、2016年に新築した本社棟に広い打ち合わせスペースを設けるなど、働きやすい環境づくりに力を入れている。安全性優良事業所認定(Gマーク)も取得している。2022年には一般財団法人日本海事協会の働きやすい職場認証制度に登録した。年に2回定例会を開き、様々な視点から頑張っている従業員を表彰。無事故で1ヶ月勤務した従業員には5キロの米を贈呈している。米価格の高騰下、会社の負担は大きくなっているが、従業員のモチベーション向上にプラスアルファの効果が生まれている。

地域の子育て世代が育児と仕事を両立できる環境を整えるために、企業主導型保育園を運営

「吉秀みぎわ保育園」の外観
「吉秀みぎわ保育園」の外観

吉秀トラフィックは、物流業界における女性の活躍推進を重要なテーマと考えている。2018年には本社の敷地内に社会福祉法人と連携して企業主導型保育園「吉秀みぎわ保育園」(定員12人)を開設した。従業員だけでなく広く地域にも開放し、0歳児から2歳児を対象に保育を行っている。保育園を運営する背景には、子育て世代が育児と仕事を両立できる環境を地域で整えることに貢献したいとの思いがある。「園児たちが節分に豆まきに来てくれたり、ハロウィンにお化けの仮装で来てくれたりする時は、本当に癒やされます。従業員も自然と笑顔になりますし、保育園の存在は職場の雰囲気づくりに素晴らしい影響を与えてくれています」と吉川社長は表情をほころばせた。

2009年以降、全車両にデジタルタコグラフとGPSドライブレコーダーを搭載し、業務効率化や安全運転強化、サービス向上を実現

吉秀トラフィックは、2009年から、すべてのトラックに走行速度、走行時間、走行距離などの情報を記録するデジタルタコグラフとGPS搭載型のドライブレコーダーを装備している。経営環境を悪化させた2008年のリーマン・ショックを「会社の課題を洗い出して改善する絶好の機会」(吉川社長)と前向きに考え、積極的なデジタル投資を決断したという。

GPSと連動した車両の動態管理システム
GPSと連動した車両の動態管理システム

GPSと連動した車両の動態管理システムを活用して各車両の走行位置を本社で常に把握している。各車両に最適な配送ルートを指示できることに加え、取引先から車両の到着予定時間などの問い合わせがあった時も迅速に回答できる。また、デジタルで蓄積した詳細な記録は、日報作成などの業務効率化に役立ち、従業員の安全運転に対する意識と技術の向上にも効果を発揮している。

トラックは原則5年で更新 最新の機能を備えた車両を通じて、環境に配慮しながら事故リスクの低減を目指している

吉秀トラフィックの社名をプリントしたトラック
吉秀トラフィックの社名をプリントしたトラック

吉秀トラフィックは、運送業務に使うトラックを原則5年で更新している。「設備投資は、コストを織り込んだ上で先を見据えて継続的に行うようにしています。トラックの環境保護や安全に関する機能は年々進化しています。常に最新の機能を備えた車両を従業員に提供することで、環境に配慮しながら事故リスクを低減することを目指しています」と吉川社長は言葉に力を込めた。

グループ会社の株式会社ラッキーリバーを通じて新規事業を開拓 トラック車体のデザインプリント事業が着実に成長

ラッキーリバーの代表取締役を務める吉秀トラフィックの吉川愛専務取締役
ラッキーリバーの代表取締役を務める吉秀トラフィックの吉川愛専務取締役

吉秀トラフィックはグループ全体で運送業と親和性が高い新事業の開拓に力を入れている。その中で、グループ会社の株式会社ラッキーリバーが手掛けるトラック車体のデザインプリント事業が着実に成長している。

大型オートボディプリンターを使ってトラック車体へのプリント作業に取り組む様子
大型オートボディプリンターを使ってトラック車体へのプリント作業に取り組む様子

ラッキーリバーは、吉川社長の妻の吉川愛専務取締役が代表取締役を務める。2017年に導入したインクジェット式の大型オートボディプリンターは、デジタル画像データに合わせたインクを対象物に吹き付けて画像を再現する機能を備えている。印刷したフィルムを貼り付ける従来の手法と比較すると工程数を大幅に削減できるので、1日程度で車体へのプリント作業を完了できるという。大型オートボディプリンターを使いこなして、短納期でトラックやバスなどの大型車両を「走る広告塔」に変身させるラッキーリバーの技術とノウハウは徐々に評判を呼び、全国の運送会社などから数多くの依頼が寄せられている。

ラッキーリバーのオフィス
ラッキーリバーのオフィス

もう一つの柱としてドローン事業を推進 ドローンの教習所運営や屋根への遮熱塗料の吹付け塗装に取り組む

ドローンを使って屋根へ遮熱塗料の吹付け塗装を行う様子
ドローンを使って屋根へ遮熱塗料の吹付け塗装を行う様子

もう一つの柱として育てているのがドローン事業だ。ドローンを活用した空撮や映像制作を請け負っているほか、国土交通省の許可を受けてドローンの教習所を開設し、二等国家資格や民間資格取得コースを設けている。2020年には八幡市と災害時の協力支援活動についての協定を締結。災害発生時にはドローンを使って上空から被害実態の把握などに取り組む体制を整えており、消防署員へのドローン操縦の指導も行っている。

2022年から農家を対象に、家畜小屋の屋根への遮熱塗料の吹付け塗装事業にも取り組んでいる。ドローンを使うことで足場を組んで屋根に登る必要がなく、安全、廉価、短期間で家畜小屋の遮熱対策ができることから農家の評価も高く、取引先は全国に広がっている。今後、新たな大型ドローンの購入も計画。蓄積した遮熱効果のデータを活用しながら事業を拡大していきたいという。一連の取り組みはホームページ作成システムを使ってホームページやSNSを通じて機動的に情報発信し、新たな取引先の開拓につなげている。「ドローンはアイデア一つで新しい事業を生み出すポテンシャルを持っています。エンターテインメント分野など運送業の枠を超えた幅広い事業を展開していきたい」と吉川専務は意欲を示した。

ホームページ作成システムを使って編集作業を行う様子
ホームページ作成システムを使って編集作業を行う様子

グループの基幹業務の効率化や情報発信にもデジタル技術を積極的に活用 拠点やグループ会社間の情報共有のためにクラウドサービスを導入している

吉秀トラフィックは、グループの基幹業務の効率化や情報発信にもデジタル技術を積極的に活用している。滋賀県と埼玉県の拠点やグループ会社間の情報共有のためにクラウドサービスを導入し、物理的な距離を意識することなく文書や画像をやり取りしている。打ち合わせや会議は、Web会議システムや電子黒板を組み合わせて効率的に運営。本社から外出している時も、通信環境が整っていればクラウドストレージに蓄積している情報にいつでもアクセスして仕事をこなせるようにしている。「運送業では、ドライバーと運行管理職の連携が何より重要です。連携の質を左右する人同士のコミュニケーションを円滑にするために、ICTやデジタル機器を効果的に活用していきたい。常に情報を収集し、現場の声を重視しながら新しい技術を導入していきたいと考えています」と吉川社長は話した。

生成AIに学習させ 取引先への請求書メール送信を任せている

生成AIと応答を繰り返して業務を指示する様子
生成AIと応答を繰り返して業務を指示する様子

2025年4月には基幹業務で生成AIの活用を開始した。「社内にプログラミングの知識を持つ従業員がいないこともあり、最初はうまく使い込ませるのか不安もありました。ですが、担当者が生成AIの活用に前向きなこともあり、徐々に会社の業務を任せることができるようになっています」と吉川専務。

吉秀トラフィックは、取引先と相談しながら、以前は郵送していた紙の請求書をデジタルに切り替える取り組みを進めている。生成AIを導入してから約3ヶ月かけてやりとりを繰り返し、PDF化した請求書を取引先ごとに自動でメール送信できるよう、AIを学習させた。現在、取引先の半数に相当する約100通の請求書のメール送信を生成AIに任せている。「すべての取引先に紙の請求書を印刷、封入、郵送していた時と比較すると請求書関連業務に要する時間は半分程度になりました。ペーパーレス化の推進と郵送料の削減にもつながっています」と吉川専務はうれしそうに話した。生成AIは海外に送るメールの文章の翻訳などにも使っている。他にも活用方法を考えていきたいという。

警察署と連携したデザイントラックを走らせるなど経営資源を活用した地域貢献に力を入れている

八幡警察署と連携して走らせているデザイントラック
八幡警察署と連携して走らせているデザイントラック

吉秀トラフィックは、トラックやオートボディプリンターなどの経営資源を活用した地域貢献にも力を入れている。これまでに京都府や八幡市の名所をデザインしたトラックの走行などを通じて観光振興に貢献。また、京都府警八幡警察署と連携して交通安全や特殊詐欺への警戒を呼び掛けるデザイントラックを走らせている。トラックのデザインは毎年更新し、側面には標語、後部には地元の小学生から募った交通安全ポスターコンクールの優秀作品をプリント。毎年1月には受賞者を招いてデザイントラックの出発式を行っている。コロナ禍の時は、医療従事者の応援メッセージをトラックにプリントした。

能登半島地震の被災地への支援活動にも積極的に取り組み、自衛隊から表彰を受けた

(左)警察署や自衛隊から贈られた感謝状、(右)八幡警察署と連携して行ったデザイントラックの表彰状
(左)警察署や自衛隊から贈られた感謝状、(右)八幡警察署と連携して行ったデザイントラックの表彰状

2024年1月1日に能登半島地震が発生した際は、発生4日後に京都市からの災害支援物資をトラックに積載し、石川県七尾市までの緊急輸送を実施した。さらに被災地の人々を励まそうと、トラックの車体に「北陸の1日でも早い復興を。共に乗り越えよう!京都から応援しています。」とメッセージをプリントした。この取り組みは被災地の人や支援関係者から大きな反響を呼んだ。その後も支援を継続し、8月31日までの間に陸上自衛隊の宇治駐屯地(京都府)から金沢駐屯地(石川県)までの間で約1500トンにのぼる燃料を輸送した。支援活動における吉秀トラフィックの機動力と柔軟な対応力は高い評価を受け、自衛隊から感謝状が贈られた。「社会貢献を通じて人と社会に寄り添う物流企業としてこれからも歩んでいきたい」と吉川社長は話した。

デジタル化による業務改革で生み出した時間を新しい取り組みに振り向ける

ICTや生成AIの活用を単なる業務効率化にとどめることなく、働き方そのものを見直すきっかけにしている吉秀トラフィック。業務改革によって手に入れた時間を、将来を見据えた新しい取り組みに振り向けていきたいという。「ICTを、現場の負担を減らしながらより良いコミュニケーションと働きやすさを実現する、人を支えるツールとして活用していきます」と話す吉川社長。デジタル技術の活用を通じて人と会社の更なる成長を目指す。

駐車場に並ぶ株式会社吉秀トラフィックのトラック
駐車場に並ぶ株式会社吉秀トラフィックのトラック

企業概要

会社名株式会社吉秀トラフィック
本社京都府八幡市下奈良新下10-1
HPhttps://yoshihide-trf.biz
電話075-971-3500
設立2002年11月
従業員数78人
事業内容  一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、オートボディプリント、ドローン関連、倉庫業