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目次

  1. 創業は1928年 道内屈指の老舗建材商社に成長 発寒物流倉庫を拠点に独自の物流システムを構築 各建築現場へ迅速な納入を実現
  2. 札ベニグループ、2028年へ向け経営再構築開始 将来は創業家にこだわらない社長選任も視野に「家業から企業へ」の脱皮を目指す
  3. EVを家庭用蓄電池に活用するV2H事業に本格参入 大手自動車メーカー系販社提携で販路拡大 2025年度は前年の倍の販売目指す
  4. 2024年に持ち株会社を設立しグループ経営体制へ移行 M&Aで事業領域を拡大 建築関連資材サプライヤーの総合企業目指す
  5. 受発注・在庫管理システムを2025年2月に刷新 見積書や伝票の仕様を統一して属人的仕様を排除
  6. 営業の課を廃止して縦割り組織を解消 2025年度中にフリーアドレスに移行も検討 どこでも仕事ができる環境整備
  7. 売上高100億円企業を視野にグループ経営強化とともに就労環境改善 女性管理職も積極登用し復職に備え育休中のテレワーク環境準備
中小企業応援サイト 編集部
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2025年に創業97周年を迎える北海道の老舗建材商社の株式会社札幌ベニヤ商会はいま「家業から企業へ」を合言葉に経営改革に取り組んでいる。推進役は近く6代目社長に就任する今井伸孝代表取締役専務だ。創業以来の自社物流体制のさらなる効率化を目指して受発注・在庫管理システムを刷新。2024年には持ち株会社「サツベニホールディングス株式会社」を設立して札幌ベニヤ商会を中軸としたグループ3社の分業体制に移行した。2028年の創業100年を見据えて住宅関連資材の総合企業を目指す。老舗にありがちな属人的な作業環境を見直し、万全のセキュリティ対策とICT活用による業務全般の見える化も、生産性向上に欠かせない重要施策と位置付けている。(TOP写真:発寒物流倉庫 仕入先に頼らない独自の物流システムを構築。札幌市の発寒(はっさむ)物流倉庫はその拠点だ)

創業は1928年 道内屈指の老舗建材商社に成長 発寒物流倉庫を拠点に独自の物流システムを構築 各建築現場へ迅速な納入を実現

「会社は90歳になっても変化をいとわず、時代や顧客の求めに応じて変化していきます」という今井多嘉士社長
「会社は90歳になっても変化をいとわず、時代や顧客の求めに応じて変化していきます」という今井多嘉士社長

札幌ベニヤ商会は今井多嘉士代表取締役社長の祖父、謙輔氏が1928(昭和3)年に創業し、合板など建築資材の需要拡大を追い風に道内はもとより樺太(からふと)や東京まで営業範囲を広げた。父親の日東士(ひとし)氏が跡を継いだ1936年からは合板や内装建材の卸事業にも乗り出して、1954年には株式会社化した。

その後も木製サッシや木製ドアの開発販売など業容を広げ、創業80周年の2008年に多嘉士氏が社長に就任。「(顧客の)倉庫となって配送業務の代わりができるよう受発注体制を整備してきた」(今井多嘉士社長)建材のほか金物、住設、インテリアなど住宅関連製品を幅広く取り扱い、図面に基づいて積算まで請け負う住宅関連資材の老舗商社として知られるようになった。

札幌市の北東に位置する発寒物流倉庫は、各地の建築現場への朝イチ納入を実現するため搬入トラブルが発生しないよう迅速かつ細心の配送体制を整えた、同社の心臓部といえる物流拠点だ。顧客のあらゆるニーズに応えるため日夜万全の受発注・配送システムを運用している。

経営理念は、「一、お客様に感謝 一、仕入先に感謝 一、社員に感謝 一、株主に感謝」の“4つの感謝”である。常に感謝の気持ちで仕事に向かい、顧客や仕入先からの信頼を得て社会に貢献し、社員の幸福と会社の繁栄を図る姿勢が初代から続く札ベニグループの行動規範になっている。

札ベニグループ、2028年へ向け経営再構築開始 将来は創業家にこだわらない社長選任も視野に「家業から企業へ」の脱皮を目指す

「私が営業本部長になって営業体制を刷新しましたが、若い人を中心に自分でやるしかなくなった」と話す今井伸孝専務
「私が営業本部長になって営業体制を刷新しましたが、若い人を中心に自分でやるしかなくなった」と話す今井伸孝専務

今井社長の長男、伸孝氏が入社したのは2002年。現場や営業部門で経験を積んで2016年に専務、2018年に代表取締役専務に就任。現在は6代目となる次期社長候補として経営全般をみている。最大の課題は2028年の創業100周年に向けた札ベニグループの経営体制再構築だ。「当社は代々今井家の経営が続いていて、まだ『企業』になっているとはいえない。『家業から企業へ』が私のミッションです。今後の社長は創業家にこだわる必要はないと思っています」(今井専務)。「4つの感謝」を軸に業容の拡大を図り、「家業」からの脱却を目指している。

事業面では、祖業である建築資材販売の枠にとらわれず事業拡大を進めてきた。なかでも力を入れてきたのがEV(電気自動車)に搭載されたバッテリーの電力を家庭用電力に活用するV2H(ビークル・ツー・ホーム)事業だ。

EVを家庭用蓄電池に活用するV2H事業に本格参入 大手自動車メーカー系販社提携で販路拡大 2025年度は前年の倍の販売目指す

匠モデルV2H 大手自動車メーカー系販社と提携しV2H事業の本格展開に乗り出した
匠モデルV2H 大手自動車メーカー系販社と提携しV2H事業の本格展開に乗り出した

V2HはEVと家庭用電力をつなぐ装置を設置することで、深夜の割安な電力をEVのバッテリーに蓄電して、日中の家庭用電力やEV走行に利用。光熱費の削減を可能にするとともに、停電時の予備電源としても活用できる省エネシステムだ。EVの普及や新築住宅の省エネ基準適合の義務化が2025年4月にスタートしたこともあって今後の需要拡大が見込まれる市場だけに、パナソニックやオムロン、家電販売店など参入企業も増えている。

札幌ベニヤ商会はV2Hシステムを販売するニチコン株式会社の特約代理店となっており、グループ会社の匠株式会社が北海道日産自動車株式会社のEVを使用したモデルハウスを建設しV2Hの本格的な販促を開始。2024年7月には北海道三菱自動車販売株式会社とも提携した。

今井専務はV2H事業を札ベニグループの第2の柱として軌道に乗せたい考えだ。2024年度は20システムを販売、2025年度は倍増を見込んでいる。需要は政府の補助金政策次第で大きく変化しかねないが、今井専務は「金融機関や自治体などからの引き合いが増えています。セカンドカー向けにV2H需要の開拓余地は大きい」と期待を寄せている。

北海道の新築分譲マンション戸数は、2024年に前年比6割減の890戸と初めて1000戸を切った。戸建てを含めた総数でも約2万8200戸(前年比2%減)で3年連続減少という厳しい状況だ。今井専務も「2%減という数字はあまり落ちていないようにみえるが、世帯構成の変化で床面積はどんどん減っていて、建材の需要も減少しています」と道内建築業界の将来性について危機感を抱いている。だからこそ、「EV×建築=蓄電池」というコンセプトで新規需要を掘り起こしたい考えだ。

2024年に持ち株会社を設立しグループ経営体制へ移行 M&Aで事業領域を拡大 建築関連資材サプライヤーの総合企業目指す

新しいグループ経営体制に移行して最初の新年交礼会
新しいグループ経営体制に移行して最初の新年交礼会

令和6年(2024)年3月1日には持株会社「サツベニホールディングス株式会社」を設立し、傘下に札幌ベニヤ商会、V2Hシステム販売の匠、工務店向け建築資材販売会社の道央機器株式会社を置く新たなグループ経営体制に移行した。分業体制で新規事業に打って出やすい経営環境を整備するとともに、屋台骨の建築資材関連事業領域を広げる狙いがある。

新築着工数の減少傾向が続くなかで、付加価値住宅の需要は高まっており、大手ハウスメーカーは省エネ・耐震住宅Zeh(ゼッチ)に代表されるGX(グリーン・トランスフォーメーション)対応住宅への取り組みを強化。今井専務は「V2HはGXの重要な要素になり得る」と見込んでいる。

持株会社化のもう一つの狙いは、サッシや屋根など複数の専門業者をM&Aで取り込んで、建材・建設の総合企業グループへの変身を加速することだ。「持株会社化したことで、札幌ベニヤの企業文化に縛られずグループ企業ごとにM&Aをやりやすくなり、全体で活性化できればいいんです」(今井専務)という考えでグループ全体の成長ビジョンを描いている。現在、3件のM&A事案が進行しているという。

受発注・在庫管理システムを2025年2月に刷新 見積書や伝票の仕様を統一して属人的仕様を排除

属人的な仕事を排除し業務フローの“見える化”を徹底することで生産性向上を追求する
属人的な仕事を排除し業務フローの“見える化”を徹底することで生産性向上を追求する

経営体制の変革とともに取り組んでいるのが業務の生産性向上だ。創業以来こだわってきた自社物流を支える受発注・在庫管理システムを2025年2月に刷新した。同社の強みである仕入先と一体化した製品納入体制に磨きをかけるため、業務処理の効率化をさらに向上させるのが狙いだ。

市販パッケージ導入後も、見積書や伝票など形式がまちまちだったり手書きが残っているなど効率化できていない部分が多かったが、新システムではこれを徹底的に見直した。同社独自の業務フローにも柔軟に対応できる機能を生かして、二重入力の手間を省くなど業務のデジタル化による生産性向上を追求した。

「顧客や仕入先との打ち合わせ時間は削れないから、それ以外の無駄な時間を削れるだけ削ろうとしました」(今井専務)。見積書も伝票も手書きを禁止して仕様を統一。長年残っていた属人的な仕事のやり方を排除して見える化を目指した。効果が出てくるのはこれからだが「(慣れないうちは)使いにくくてもまずは使い続けること」と従業員に号令をかけている。

営業の課を廃止して縦割り組織を解消 2025年度中にフリーアドレスに移行も検討 どこでも仕事ができる環境整備

ソフトボール大会 他業種の仕入先と一体化して顧客に最適なものを提供するために、仕入先企業を招いたソフトボール大会には200人が参加する
ソフトボール大会 他業種の仕入先と一体化して顧客に最適なものを提供するために、仕入先企業を招いたソフトボール大会には200人が参加する

新システムの効果を最大化するために営業部の縦割り組織も見直した。課を廃止して、営業部門の壁をなくすことで仕事を全体で必要に応じて分担し属人的な仕事への逆戻りを防ぐ一方、ノートパソコンでどこでも仕事ができるようにして作業効率を上げる狙いがある。属人的な仕事につながりやすい専用デスクを廃止して「今年度中にはフリーアドレスにしたい」(今井専務)と考えており、見える化の定着を図る予定だ。

他業種にわたる多くの仕入先との関係を大事にしてきた同社の名物行事が仕入先各社とのソフトボール大会で「45年ほど続いていて、今では参加者約200人の大きなイベントになりました」(今井専務)。迅速に最適な資材を顧客に提供するために欠かせない交流イベントとして定着しているようだ。

売上高100億円企業を視野にグループ経営強化とともに就労環境改善 女性管理職も積極登用し復職に備え育休中のテレワーク環境準備

本社外観 働き方改革やSDGsなど働きやすい職場環境の整備にも取り組む
本社外観 働き方改革やSDGsなど働きやすい職場環境の整備にも取り組む

業務効率化の推進とともに、働き方改革とSDGsの取り組みも進めている。時間外労働が恒常化していた建築関連業界だが、「残業は、今は月20時間もない程度。2024年からようやく土日の休みが取れるようになった」(今井専務)。働きがいのある職場作りの一環として、女性の管理職登用にも積極的で係長や主任が4人、事務職から希望して営業に転属した女性も活躍しているという。産休や育休も取得しやすく整えてきたが、「育休で長期間休んでからの復職は仕事の状況が変わっていて大変なので、育休中に短時間でも仕事を継続したいという要望があります。2025年度中には実施してみたい」(今井専務)。家庭での業務に支障のないようデータ管理システムやパソコン、セキュリティ対策などテレワークに向けた環境整備に取り組む方針だ。

2025年3月にはM&A推進による業容拡大や業績目標などを軸とする経営方針を策定した。2026年2月期の売上高は51億円(前期は47億円)を見込むが、当面の売上目標を「100億円企業の仲間入り」に置いている。「100億円をキーワードにグループ経営の収益力を高めていきます。まずは創業100周年に70~80億円には持っていきたい」(今井専務)。M&Aによる売上増を視野に業績拡大にもどん欲に取り組む。

企業概要

会社名株式会社札幌ベニヤ商会
本社北海道札幌市中央区北6条西19丁目23番6号
HPhttp://www.satsubeni.jp/
電話011-621-1251
設立1928年6月
従業員数28人
事業内容 建築資材および関連製品の販売、建築、不動産販売、蓄電池システム販売など