人材不足解消にもつながるエイジフレンドリーな職場作りとは?

目次

  1. 高年齢労働者の労災が過去最高を記録
  2. 高年齢労働者の労災の原因は?
  3. 高齢者の労災防止対策が努力義務化される方針
  4. シニアが安心して働ける職場作りの具体策
  5. 人材不足解消や生産性向上につながる安全対策を進めよう

高年齢労働者の活躍が進む一方、高齢者の労働災害も増えています。シニアが多く働く職場や、今後、シニアの登用を進めたい企業にとっては、高年齢労働者が安心して働ける職場作りは急務です。そこでこのコラムでは、高年齢労働者の労働災害に関する現状と、仕事中の事故のリスクを下げるための具体策を紹介。さらに、高年齢労働者にとって働きやすい職場環境の整備に活用できる補助金についてもお伝えします。

高年齢労働者の労災が過去最高を記録

総務省の調査によると、2024年、65歳以上の高齢者の数は前年から2万人増加して3625万人に達しています。また、働く高齢者の数も、2023年に914万人になり、過去最高を更新しています。

そして、高年齢労働者の活躍が進む中で、シニアの労働災害も増えています。2023年、仕事中の事故で死亡したり、4日以上休んだりするけがや病気を負った60歳以上の数は3万9702人に上り、8年連続で増加。その数は、労働者全体の約3割を占めています。高年齢労働者は、労災によるけがの治療のため休む期間が若年層に比べて長くなる傾向もあり、高齢者の労災は労働者本人だけでなく、企業の人員体制にも大きな影響を及ぼしています。

高年齢労働者の労災の原因は?

労災は、年齢を重ねるほど起こりやすく、60代以上の労災発生率は、30代と比較して男性で約2倍、女性で約4倍に上ります。その主な原因は、高齢者の身体機能や体力の低下です。加齢に従って骨折しやすくなることも、大きなけがが発生する理由のひとつ。足のもつれなどによる転倒や転落、また、動作の反動や重いものを持ち上げるなどの無理な動作によって、腰や腕を痛める事故も多く起こっています。

また、定年後に未経験の仕事に従事し、高齢で不慣れな業務をスタートすることも、労災につながる要因です。業務中に事故が起こっても、痛みや体調不良は加齢によるものとみなされ、労災認定をしてもらえずに体調が深刻化する「労災かくし」も起きており、問題視されています。

高齢者の労災防止対策が努力義務化される方針

厚生労働省は2020年、高齢者を活用している企業や、今後雇用を予定している企業に向けて、事業主と労働者に求められる取り組みを伝える「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を公表。企業に、高年齢労働者の就労状況や業務内容などの実情に応じて、労災防止対策に積極的に取り組むよう求めています。

さらに厚生労働省は、高年齢労働者の労災を減らす目的で、企業に対して、高年齢労働者の身体機能の低下などに配慮した職場環境の改善や作業の管理を、努力義務化する方針を示しています。

通院しながら働く人が労働者全体の4割を占めるという状況を受け、治療と仕事の両立を支援する措置も、企業の努力義務となる方向です。法律の改正については2025年以降、検討が進む予定ですが、高齢者が働く中小企業には今後、シニアの労災防止策が法対応としても求められる見込みです。

シニアが安心して働ける職場作りの具体策

では、高年齢労働者が健康で安全に働ける職場を作るためには、具体的にどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。「エイジフレンドリーガイドライン」で示されている具体策や、実際に企業で採用されている取り組みも含めてお伝えします。

職場環境の改善

高年齢労働者が働く上での安全性を向上するため、作業環境を改善する設備や、身体機能の低下を補う装置を導入しましょう。

階段の手すりや、通路の照明、防滑素材を採用した床などの採用によって、労働者の移動中や運搬中の事故を軽減できます。作業台の高さや位置を調整するなどの、無理な作業姿勢や、体に負担のかかる動作を減らす取り組みも有効です。介護など、人の体の持ち上げ等のケアが必要な作業は、リフト、スライディングシートの導入によって、抱え上げの負担を減らすことができます。

安全衛生教育の強化

労働環境の整備と同時に、高年齢労働者自身と、管理監督者や周囲の従業員の安全に対する意識を向上するために、安全衛生教育を行いましょう。

高年齢労働者に対しては、映像や写真も用いた研修等で、身体機能の低下によるリスクや作業上の危険、また生活習慣改善など、健康や体力維持の方法についても理解を促しましょう。再雇用や再就職で未経験の仕事に従事するケースは特に、作業に関する丁寧な教育や訓練が必要です。

業務の教育や管理を行う監督者や、高齢者と共に働く労働者に対しても、高年齢労働者の特徴や事故のリスク、また高齢者に合った作業内容について周知する教育を実施しましょう。

熱中症対策

熱中症を防ぐための対策も重要です。通気性の良い制服や、扇風機付きの作業着、ネッククーラーの使用などの工夫で、体への負担を軽減しましょう。こまめな休息や水分補給時間の確保、涼しい休憩場所の整備も必須です。

警備など、野外や高温になる場所での仕事では、心拍数増加などの熱中症の初期症状を検知できる着衣型のデバイスも有効です。業務の環境や働く人の体調の変化を把握することで熱中症を予防できます。

高齢者の体力作りをサポート

高年齢労働者の長期的な活躍を促すために必要なのが、健康状態や体力の定期的な確認と、健康づくりの支援です。法律で定められた雇い入れ時、および定期の健康診断は必ず実施しましょう。また、体力チェックを行うことで、ひとりひとりの体力に合った業務に従事させることができます。体力チェックは、労働者自身の体力の把握と、身体機能維持への意識向上にもつながります。

また、運動プログラムや、トレーナーによる運動指導会などによる運動機会の提供によって、労働者の健康維持や、体力向上を実現できます。健康経営や働く人の病気予防の観点からも、健康促進の取り組みを進めましょう。

労災が起きた際の迅速な対応も重要

職場環境整備や安全衛生教育、健康づくりの施策を行うと同時に、労災発生時に、迅速に対応できる体制を整えることも重要です。労災が起きた際、労働者に対する適切な対応や給付、保障を行うとともに、再発防止のための原因究明や対策をすみやかに進めましょう。労災発生時の適切なフォローが、社員からの信頼や、働くモチベーションを維持する上でも欠かせません。

エイジフレンドリー補助金の活用

高年齢労働者の活用を進めたい中小企業をサポートするのが「エイジフレンドリー補助金」です。エイジフレンドリー補助金は、中小企業が行う高年齢労働者の労働災害防止対策や、コラボヘルス等の労働者の健康保持増進の取り組みにかかる費用を補助する制度です。2024年度は、取り組みの内容に応じた、次の3つのコースが用意されました。

高年齢労働者の労働災害防止コース…高年齢労働者にとって危険な場所や、負担の大きい作業を解消するための取り組み等に対して補助を行う。
補助率:1/2 補助上限額:100万円

転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース…労働者の身体機能低下による転倒や腰痛といった行動災害を防止するため、身体機能維持・改善のための運動プログラムに基づく身体機能のチェックや、運動指導にかかる費用を補助する。
補助率:3/4 補助上限額:100万円

コラボヘルスコース…コラボヘルス(医療保険者と事業者が連携して労働者の健康づくりの施策を効率的に実行すること)など、労働者の健康保持増進のための取り組みを補助する。
補助率:3/4 補助上限額:30万円

なお、エイジフレンドリー補助金の交付には、企業の規模や高年齢労働者の雇用状況、取り組みの内容などに関する審査があります。労災防止のための設備・装置の導入や、運動指導、健康づくりを進める際に、活用しましょう。

人材不足解消や生産性向上につながる安全対策を進めよう

年齢に関わらず安心して働ける環境を整え、高年齢労働者を積極的に採用することで、人材不足を解消できます。シニアの身体的特徴をふまえた労働環境の整備は、高齢者以外の従業員の仕事上のストレス軽減や、生産性向上にもつながるでしょう。法改正による高齢者向けの職場環境改善の努力義務化に備えるためにも、働く人の安全・安心を守る取り組みを進めましょう!

人材不足解消にもつながるエイジフレンドリーな職場作りとは?
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営
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