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目次

  1. ノーコードが注目される理由
  2. ノーコードを導入するときの注意点
  3. ノーコードを導入するステップ
  4. ノーコードツールの種類
  5. ノーコードについての誤解
  6. まとめ

プログラミングの知識がなくても、ちょっとしたソフトウェアを手軽に作成できる技術として「ノーコード(No Code)」があります。本格的なソフトウェアを開発することは難しいものの、事務作業を効率化するようなちょっとしたアイデアを形にするだけであれば、開発にかかる時間やコストを削減できるため注目されています。

ノーコードが注目される理由

ソフトウェアを開発するときは、「プログラミング言語」と呼ばれる言語を学び、その言語でコンピュータに指示をする「ソースコード」を書く方法が一般的です。しかし、このプログラミング言語を学び、ソースコードを書くことは初心者にとってハードルが高いものです。 ノーコードでは、プログラミング言語を学ぶ必要がなく、手軽に実装できます。このようなノーコードがなぜ注目されているのか、ビジネスを取り巻く環境の変化について解説します。

DXへの取り組みの広がり

これまではIT化やデジタル化といった言葉が使われていましたが、現代は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が注目されています。企業などの組織がデジタル技術を活用して業務を効率化するだけでなく、新たな価値を生み出すことを指し、「変革」や「革新」というキーワードが使われます。 経済産業省による「DXレポート」(※)で使われた「2025年の崖」という言葉もあり、競争力の維持や強化のためにもDXに取り組むことが不可欠だとされています。

※DXレポート

これまでのソフトウェア開発では、ベンダーに依頼して開発を進めていましたが、開発に時間がかかることから、変化への対応が遅れることがありました。しかし、ノーコードでは、プロトタイプを手軽に作成でき、業務内容を短時間で自動化できることから、市場の変化に柔軟に対応できる可能性があります。 特に、IT人材が不足していると言われる現代において、優秀なプログラマーや開発者の確保が困難になる中、ビジネスパーソンが自分で開発を進められることから注目されています。これまでソフトウェア開発を専門にしてきたプログラマーにとっても、自らの業務の効率化やちょっとしたビジネスに活用できます。

開発に求められるスピードの変化

ノーコードでは、ボタンや入力欄といった要素をマウスのドラッグ&ドロップで配置し、ボタンが押されたときの処理を並べます。この処理を並べる操作も、やりたいことを順に並べるだけで完結することが多く、修正や機能追加も自分でできることが特徴です。ソースコードを書かなくてよいことからプログラミング言語を学ぶ必要もありません。これにより開発のスピードが上がるため、ビジネスの変化に速やかに対応できます。 また、アイデアがあれば多くの人が開発できることから、自らのアイデアを形にしやすくなります。隣に座る同僚が使っているノーコードを見た人が、それを参考にして自分にとってより使いやすいツールを作成するかもしれません。

人材不足で求められる生産性の向上

ノーコードを使うとさまざまなアイデアを誰でも実現できるため、従業員に求められるスキルも変化します。情報システム部門などではプログラミングやITスキルを持つ人が重宝されていましたが、ノーコードが広がると、それを支援するコミュニケーション能力や、ビジネスに関する業務知識が求められます。 このようなスキルを持つ人材は不足していますが、既存の従業員にとっては新しいスキルを習得できるチャンスでもあり、モチベーションの向上にも寄与します。さらに、業務を効率化できると時間の有効活用につながり、全社的な生産性の向上も期待できます。

ノーコードを導入するときの注意点

ノーコードにはメリットもありますが、どんな企業においてもメリットだけがあるわけではありません。特に企業がノーコードを導入する際には、デメリットやリスクもあります。

技術的な限界とツールに依存するリスク

ノーコードに取り組むときは、ノーコードツールと呼ばれるツールを導入します。多くの企業からさまざまなノーコードツールが提供されていますが、その多くは一般的な企業でよく使われる機能や用途に特化しています。このため、複雑な要件や専門的な要望には対応できません。大規模なシステムでは、ノーコードツールの機能や性能では限界があり、専門的なプログラミングが必要です。 また、ノーコードツールに互換性はなく、あるツールで開発したシステムはそのツールに依存することを意味します。将来的に他のOSやツールにシステムを移行しようと考えたときはゼロから作り直すため、コストや手間が増えます。このように特定のツールに依存することは、逆に柔軟性が失われるリスクがあることを意識しなければなりません。

カスタマイズの難しさ

ノーコードツールは、利用者が簡単に使えるように設計されていますが、カスタマイズできる範囲には制限があります。複雑な機能を追加したり、独自のデザインを適用したりしようとすると、思い通りには実現できないことが多いものです。 特に、業務内容に合わせた処理を実現しようとすると、ノーコードでは限界を感じることがあります。このため、企業によっては、ノーコードからローコード、またはフルコード(これまでのシステム開発)に切り替えることもあります。

セキュリティ面の課題

ノーコードツールでは、システム開発についての知識がない従業員によって開発されるため、セキュリティについての意識が疎かになることが多いものです。クラウドで提供されているノーコードツールであれば、扱うデータが外部のサーバーに保存されることもあり、適切に管理されていないと、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。 特に、機密情報や個人情報を扱うときは、情報漏洩への対策が必須です。ノーコードツールを提供する企業によっては、ツールそのもののセキュリティに対する機能が不十分な場合もあり、ツールを選定するときは機能面だけでなくセキュリティ面も意識します。

人事異動などでの保守の継続

プログラミングの知識がない従業員が開発すると、不適切な設計や実装になるリスクがあります。これにより、「期待した速度が得られない」「想定外の操作に対して正しく処理されない」などの不満がよく出ます。 また、設計などについての資料を作成することなく開発を進めてしまうと文書として記録が残りません。人事異動や退職などで前任者がいなくなると、システムを引き継ぐことが困難になることも予想されます。ノーコードを使うときは、業務知識を保有しているだけでなく、適切なデータ構造などの設計や、保守を考慮した実装、資料の作成を意識することが求められます。

不十分なサポート体制

初めてノーコードを利用するときは、トラブルへの対応や機能の使い方に関するサポートが欲しいものです。しかし、ノーコードツールを提供する企業によっては、サポート体制が十分でないものもあり、ツールを導入したものの問題解決に時間だけがかかることは多いものです。 利用者の少ないツールを導入してしまうと、ツールの使い方について公開されている資料が少なく、疑問が出たときに解決できないこともあります。開発元に問い合わせても返信が遅かったり、適切な回答が得られなかったりする場合もあるため、事前にサポート体制を確認しておくことが求められます。

ノーコードを導入するステップ

上記のようなリスクや注意点を理解したうえで、ノーコードツールを組織に導入するときは、どのような手順で導入するのかを決め、計画的に進めなければなりません。具体的な手順について解説します。

目標設定とニーズ分析

ノーコードに限らず、新しいツールを導入する第一歩は、何のために導入するのか、目標や目的を明確にすることです。どの業務を効率化したいのか、そのニーズを分析しないと、どのような機能が必要なのかがわかりません。これが決まらないと、最適なツールは選択できません。 また、導入時の目標を達成できたか、その効果を測定する指標を検討します。作業時間の短縮なのか、コストの削減なのか、顧客満足度の向上なのか、それを明確にしておかないと延々と業務改善を繰り返そうとしてしまい、本来の目的を見失ってしまいます。

適切なツールの選定

目標が明確になると、それを満たすノーコードツールを選定します。同じような機能を実現できるツールは複数あるため、費用だけで選ぶのではなく、使いやすさや学習コスト、サポート体制、コミュニティなどを総合的に検討して判断します。可能であれば、それぞれのツールのデモを見るだけでなく、トライアル期間に試して使用感を確認することも重要です。

従業員の教育と支援

導入しても使いこなせないと意味がないため、従業員への教育を実施します。このとき、1人で取り組むのではなく、チームを組んで全員の知識レベルを揃えておくことで、人事異動や退職などのリスクにも備えられます。知識のある従業員が社内にいれば、社内でのワークショップを開催したり、困ったときに相談できる環境を整えたりする方法もあります。 特に、ノーコードツールを初めて使う従業員には、基本的な使い方やよく使われる実装方法を教えなければなりません。このとき、ツールの公式ドキュメントやチュートリアルを参照するだけでなく、ツールによってはオンラインでの講習やウェビナーなどが提供されており、これを活用できることもあります。

プロジェクト管理と評価

開発プロジェクトでは、その進捗状況を把握するために、目標に対する完成度合いを管理します。途中で課題や問題点が出てきたら、必要に応じて方向性や計画を見直すために、打ち合わせなども実施します。 これは初期の開発段階だけでなく、実際の運用が始まったあとも同じです。保守対応にかかる時間なども含めて継続的に確認し、使い勝手などの改善を続けることが満足度を高めることにつながります。

フィードバックと改善

ツールを導入して終わるのではなく、利用者からのフィードバックを収集、分析し、改善を続けます。その内容によっては、ツールだけで解決するのではなく、業務手順の見直しも考えられます。 フィードバックの収集には、アンケートを回収する方法のほか、ミーティングなどを開催して意見交換をする方法もあります。

ノーコードツールの種類

ノーコードを実現するツールとして、さまざまな企業から多くの製品が提供されています。どのような特徴や用途があるのか、その種類について解説します。

アプリ操作の自動化

異なるアプリケーションやサービス間でのデータの連携や操作の自動化を実現するツールです。Excelなどの表計算ソフトのマクロでは、アプリケーション内での自動化だけですが、ノーコードツールを使うと複数のアプリケーションでも連携して自動化できます。 Windows 11が標準で搭載するPower AutomateなどRPA(Robotic Process Automation)と呼ばれる自動化ツールもこの一種で、手作業で取り組んでいた業務を効率化するために使われます。

Webサイトの作成

Webサイトを作成するときは、HTMLやCSS、JavaScriptなどを使って作成することが基本です。しかし、これらの知識がなくても、ノーコードのWebサイト構築ツールを使うと、配置したい要素をドラッグ&ドロップすることでWebサイトを作成できます。 たとえば、StudioWixJimdoなどのサービスを使うと、WordやPowerPointなどを使うようにコンテンツを配置し、デザインを直感的に変更できます。

アプリの開発

スマートフォンアプリやWebアプリをノーコードで開発できるツールもあります。使いたい機能を画面に配置するだけで、ちょっとしたアプリであれば簡単に公開できます。 それに加え、ノーコードでも複雑な機能を持つアプリを開発できるようになってきています。たとえば、日本発のサービスとしてkintoneがあり、RICOHでは「RICOH kintone plus」というツールを提供しています。特に最近では、Difyのようにチャットボットや文章の要約など、生成AIを活用したアプリを開発できるサービスが注目されています。

アンケートなどのフォームの作成

アンケートや申込フォームなど、利用者からのデータを手軽に収集するために、フォームを作成することはよくあります。Google Workspacesでの「Google Forms」やMicrosoft 365での「Microsoft Forms」のように、オフィス製品に付属している機能もありますし、テンプレートが用意された専用のフォームを使うこともできます。 そして、収集したデータの管理や分析もこれまでは専用のデータベースを使用していました。しかし、ノーコードツールを使うと、手軽にさまざまな種類のデータを管理できるだけでなく、分析結果を綺麗に表現できるツールが用意されていることが多いものです。

ノーコードについての誤解

ここまで解説してきたことを読むと、ノーコードを導入すると多くの業務を改善できると考える人がいるかもしれません。しかし、導入したものの価値を活かせないことも多いため、注意したい誤解について紹介します。

誤解1)ノーコードは誰でも簡単に使える

ノーコードはプログラミングの知識がなくても簡単に使えることから、誰でもできると考えがちです。確かにプログラミングの知識がなくても使えるように画面などは工夫されていますが、業務内容や作業手順を正確に把握しておくことは重要です。 それ以上に、「どのようにデータを管理することが最適なのか」を理解していることが求められます。適切なデータ構造になっていないと、複数の場所で同じデータを保持することになり、更新が大変になったり、漏れが発生したりします。 このため、まったくの初心者がすぐに使いこなせるわけではありません。

誤解2)ノーコードはどんな業務にも対応できる

ノーコードツールを使うと、さまざまな業務を自動化できます。実際、表計算ソフトは多くの業務で使われていることが多く、それを自動化する程度であれば、システム開発は不要であることも少なくありません。そして、これまでのマクロを使っても似たようなことが実現できます。 しかし、もっと複雑なシステムや特殊な機能を求めるのであれば、ノーコードツールやマクロを使っても実現は難しいことがあります。あくまでも一般的なビジネスで使われる機能などに特化しているため、すべての開発要件を満たすのは難しいものです。 このため、従来の開発手法が必要な場面はまだまだ多くあり、ノーコードはあくまでも補完的に使うことが求められます。

誤解3)ノーコードを使うと安価に開発できる

ノーコードツールを使うと、これまでのシステム開発会社に支払っていたような費用が不要になり、開発コストを削減できると考える人がいます。確かに、初期投資は少なく済むことが多いものの、長期的に運用することを考えると、月額のライセンス費用が発生することがあります。 また、作成した仕組みを維持する従業員の時間も奪います。ノーコードツールを使う人を教育するには時間がかかりますし、うまく動かないと実務担当者が対応しなければなりません。また、人事異動や退職が発生すると、その引き継ぎが難しいこともあります。 これまでシステム開発会社が適切に運用してくれていたトラブル対応や、長期的なコストを考えたときに、果たして安価に開発・運用できるのかについては注意が必要です。

まとめ

ノーコードは、プログラミングの知識がない人々でもソフトウェアを簡単に開発できる手法として、ビジネスの現場で急速に普及しています。メリットはあるものの、デメリットや注意点があることも事実です。最大限活用するためには、その特徴を正しく理解し、活用するようにしましょう。

ノーコードとは
執筆者
増井 敏克
増井技術士事務所 代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級に合格し、公益財団法人日本数学検定協会認定トレーナーとしても活動。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発をおこなっている。『IT用語図鑑』など著書多数。