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坂本経営会計事務所は、群馬県前橋市で中小・零細企業、個人向けに会計業務、税務関係の申告業務、経営支援を個人事業で営んでいる。事務所名にあえて「経営」を掲げ、「事業経営のパートナー」をうたっている点が最大の特徴で、30年を超える歴史の中で常に中小・零細企業の経営を支援する姿勢に徹してきた。一方、会計事務所は顧客から100パーセントの信用を得ることが不可避であり、情報セキュリティー対策を強化し、クラウド型のウイルスセキュリティー支援サービスの導入に踏み切った。(TOP写真 整然と資料ファイルが並ぶ坂本経営会計事務所の事務フロア)
中小企業2社での経験を経て会計事務所を開業 中小・零細企業への的確なアドバイスに生きる

坂本経営会計事務所は税理士の資格を持つ坂本清氏が1992年、38歳で立ち上げ、開業した。坂本氏は大学新卒で前橋市内の会計事務所に入所。4年の勤務を経て、中小企業への転職という新たな道を選択した。この判断について、坂本氏は「4年間の勤務を経て、会計事務所の仕事は大体マスターできたと考え、何か物足りなさも感じていた。当時は年齢が若かったこともあり、何でもチャレンジしようという気概が強く、中小企業に入って事業経営の実務を経験しようと決断した」と振り返る。
この転機こそが、「事業経営のパートナー」という会計事務所としての独自色を打ち出した、今日に至るまでの坂本経営会計事務所の運営につながっていく。坂本氏の中小企業での勤務は流通関係と製造関係の2社で、それぞれ経営全般と会計関係の業務に携わった。この2社での経験が会計事務所として中小・零細企業に対する的確な事業経営へのアドバイス、あるいは寄り添う姿勢に生かされてきた。それは事務所名にあえて「経営」をつけた点にも強く表れている。
この点を、坂本氏は「自分自身は中小企業での経験があり、中小企業の内実はよくわかっている方だと思う。このため、顧客の企業に対しては個別具体的に、この業種なら何に最低限取り組まなければならないかアドバイスできる。例えば、粗利益率をどのくらい出していけば利益が出るか。そのためにはどういった取り組みを考えなければならないかをより具体的にアドバイスする」と言う。
坂本氏はさらに「ひとくくりに会計事務所といってもそれぞれ事務所独自の帳簿の形式があり、その作り方は習得していても、個々の企業に応じた帳簿を作成できる人材は意外に少ない。さらに、経営支援にしても教科書的な助言だけに終始してしまう可能性も多い」と指摘する。
ゼロからの起業の後押しが信条 中小・零細企業に寄り添い、コロナ禍で持続化給付金の申請を無料化 納税功労で「旭日双光章」を受章

その上で、坂本氏は30年を超えて会計事務所を続けてきた理由を「とにかくゼロから始めてどんどん伸びるような企業が大好きだった。今もうちの事務所の顧客で結構な利益を上げている企業は、借金を抱えて起業し、成長してきた企業が多い。そういった経営者を応援していくのが楽しみだった」と語る。
こうした坂本経営会計事務所の中小・零細企業に寄り添う姿勢の一端は、新型コロナウイルス対策として政府が打ち出した持続化給付金について、坂本経営会計事務所は「原則無料」で積極的に顧客の申請手続きを担ったことにも表れている。「顧客には飲食店も多く、コロナ禍でお客は全く来なくなり、経営が立ち行かなくなる中で、できる限りサポートしたいとの判断から無料化した」と坂本氏は振り返る。
また、税務ボランティアの長年の実績や功績が高く評価され、坂本氏は群馬県功労者や国税庁長官・財務大臣表彰など数々の公的表彰を受けている。極め付きは2023年秋の叙勲・褒章で納税功労が認められ、皇居において当時の岸田文雄首相から「旭日双光章」を受章した。
クラウド型のサービス導入でセキュリティー不安を解消へ 事業承継も見据え更新
一方、坂本経営会計事務所が現在抱えている課題は事業承継にある。2025年に72歳となる坂本氏は「健康なうちはまだまだ仕事を続けていきたい」とし、「顧客に正確な情報と早い情報を与えるよりシンプルな手法で、顧客の求めに応じたい」と意欲的だ。
坂本経営会計事務所は現在、群馬県内と埼玉県内の一部に約100件の顧客を抱え、坂本氏と税理士資格を持つ子どもを含む4人で事業に当たっている。「ゆくゆくは娘が引き継ぐことになるだろう」と坂本氏は語る。このため、事務所の今後については「自分で勝手に事業を拡大するようなことはせず、まずは娘本人の意向をなるべく酌んでいかなければならない」と娘さんの意向を尊重する。
こうした方向性は、資料管理、顧客へのデータ提供など坂本経営会計事務所の今後の業務の進め方にも当てはまってくるとみられる。実際、坂本経営会計事務所は情報セキュリティー対策強化のため、2022年にクラウド型のウイルスセキュリティー支援サービスの導入に踏み切った。
それまでは15%近くの税理士が加入している情報処理サービスを提供する民間の計算センターが無償で提供するウイルスセキュリティーソフトウェアを使っていた。ただ、計算センターの情報処理サービスはほとんど利用していなかったこともあり退会し、新たにクラウド型のセキュリティー支援サービスに切り替えた。
新たに導入したセキュリティー支援サービスは、ウイルスの隔離・削除やスパイウェアの検知、検出、削除を行うネットワークのウイルス対策、フィッシング対策などをクラウドサービス運用者がトータルで管理・監視する。坂本氏は「会計事務所は顧客から100パーセントの信用を得ることが不可避であり、ウイルス対策をしっかり対応していないと、万が一の際は顧客に対して何も言い訳できない」と語る。さらに、「今後のことを考えると、業務運営は娘が決めることになるだろうから、クラウドサービスを利用した方が良いと考えた」とセキュリティー対策にクラウド型を選択した理由を話す。
会計事務所開業時からできる限りデジタル化した データのネット接続に保守的だった姿勢にも変化

一方で、坂本氏は「業務にインターネットを活用することに実は自分は保守的な姿勢だった」と語る。「顧客のデータを扱っている以上、データをインターネットに接続することには懐疑的で、データはすべて専用のパソコンに保存してきている」とも言う。それは「膨大な資料を抱え、それを活用するのがある意味で仕事を進める上でのノウハウになっているため」と語る。
ただ、クラウド型のウイルスセキュリティー支援サービスの導入を機に、ネット接続への保守的な考え方も変わってきた。坂本氏は「顧客データの保存については『この辺までは大丈夫』という範囲を少しずつクラウドサービスに拡大しようと考えている。従来のようにデータを専用パソコンに保存し続けるのは不便で使いづらい。クラウドサービスなら安心してネット環境を利用できるようになった」と話す。
坂本氏はネット接続に保守的だったと自認する半面、業務のデジタル化については会計事務所開業時から「できる限り合理化できるものはデジタル化で対応してきた」という。いまはDX(デジタルトランスフォーメーション)が盛んに取り沙汰されているものの、「自分はMS-DOSの時代から業務のデジタル化に取り組んできた」と語る。
その背景には二人の兄の存在がある。長兄は大手総合電機メーカーに勤務し、坂本氏は長兄に30数年前に贈られたパソコンと専用ソフトを使って表計算をし、会計事務所開業時から顧客への資料作りに活用していた。坂本氏は先駆的に業務にデジタル技術を活用していたことに触れる。もう一人の兄は大手半導体メーカーのエルピーダメモリで社長を務めた坂本幸雄氏で、その影響も受けた。
坂本氏は業務を通じて、この30年余りの間のデジタル技術の進歩には目を見張るものがあると認識している。この点、坂本氏は「自分は昔から資料をもらってパソコンに手入力すると頭に入るので、今もそれを続けている。一方、娘の手法は自分と全く異なり、資料を複合機でスキャンしてデータを作っており、こんな風に時代が変わってきたのかと実感している」という。この時代の変化を今後の事業承継を重ね合わせると、坂本経営会計事務所のこれからの業務においては、ICT(情報通信技術)の活用が加速することも予想され、次の時代への確かな歩みが始まりそうだ。
企業概要
会社名 | 坂本経営会計事務所 |
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住所 | 群馬県前橋市三俣町1-36-13 |
電話 | 027-223-2362 |
創業 | 1992年 |
事業内容 | 企業・個人向けの会計業務、税務業務、経営支援 |