
目次
- 「自分が入りたいと思える施設を目指して」施設長・和田真由華さんの想い
- 全館バリアフリー・Wi-Fi完備の快適な住環境で業務のデジタル化にも対応
- 開設と同時に見守りシステム導入で夜間の安心とスタッフの負担軽減を両立
- 夜間のスタッフは少人数での対応が必要だが、見守りシステムの効果は想像以上でスタッフの心理的負担も軽減
- 見守りシステムは入居者の個室の無線コールボタンと連動 映像はNASに転送され自動保存、事故時の原因究明にも活用
- デジタル技術でスタッフが働きやすい職場環境を実現
- 入居者に日中のレクリエーション活動とアニマルセラピーでコミュニケーションをはかり心身の健康をサポート
- アニマルセラピーの効果にも着目し、中庭でメスのミニチュアホースを飼育している
- 地域に根差した福祉サービスをネットワークで連携 福祉サービスの充実につながるデジタル技術の活用を検討
和歌山県和歌山市を東西に流れる一級河川、紀の川の北側に広がる同市福島の住宅街に、入居する高齢者が明るく楽しく健康的に暮らすことができるように、充実したレクリエーションやアニマルセラピーといった様々な取り組みを進めている有料老人ホームがある。社会福祉法人福美会が運営する「有料老人ホームソーラス」だ。この施設では、アニマルセラピーやレクリエーションの充実に加え、ネットワークカメラや無線コールボタン、スマートフォン、パソコンを連携させた「見守りシステム」を導入。24時間体制で入居者の生活を支えるスタッフの負担軽減にも大きく貢献している。(TOP写真:社会福祉法人福美会が運営する有料老人ホームソーラスの2階の共用スペースに集う入居者)
「自分が入りたいと思える施設を目指して」施設長・和田真由華さんの想い
「入居している高齢者の皆さんにかつての自宅と同じように穏やかで安心して生活していただけるようにスタッフ一同、心をこめてサービスを提供しています。自分自身が齢を重ねた時に入居したいと心から望むことができる、そんな施設を目指しています」。1996年に設立された福美会の創設者を祖父に持つ有料老人ホームソーラスの和田真由華施設長は、穏やかな表情で自らの仕事に対する思いを話した。
和田施設長は、施設長としての職務をこなしながら現場でも活躍している。「生まれた時から祖父と祖母に可愛がられて育ったこともあって、物心ついた頃から大人になったらお年寄りの役に立つ仕事に就きたいと思っていたんです。今の仕事は自らの天職だと思っています」と語った。
全館バリアフリー・Wi-Fi完備の快適な住環境で業務のデジタル化にも対応


有料老人ホームソーラスは、鉄筋造2階建てで延床面積約約1,200平方メートル。全館バリアフリーで30室を備える。1997年から2020年までデイサービスセンターを営んでいた建物を増改築した上で、2023年12月から有料老人ホームとして新たなスタートを切った。1階に福美会の事務室、ホール、中庭、浴室、11室の個室など、2階には食堂・居間、スタッフルーム、19室の個室などを配置している。建物のリノベーションプロジェクトは和田施設長が中心になって推進した。全館にWi-Fiネットワークを完備するなど、今後の業務のデジタル化に対応できるように設備を整えたという。
開設と同時に見守りシステム導入で夜間の安心とスタッフの負担軽減を両立

ソーラスの開設と同時に導入して活用しているのが、入居者の個室のネットワークカメラ、無線コールボタン、スマートフォン、システム管理用のパソコンが連動した見守りシステムだ。スマートフォンやパソコンなどの使い慣れた端末と連携して使うことができるシステムなので、スムーズに導入できたという。各部屋のネットワークカメラを通じてスマートフォンから映像の確認や通話をすることもできる。個室にカメラを設置することについては、手厚い見守りにつながることを入居者本人、家族に説明し、納得してもらった上で運用している。
夜間のスタッフは少人数での対応が必要だが、見守りシステムの効果は想像以上でスタッフの心理的負担も軽減

システムが大きな効果を発揮しているのが、昼間よりも少人数のスタッフで対応しなければならない夜間の見守り業務だ。ソーラスでは福美会が運営する訪問介護ひだまりに所属する8人のスタッフが、ローテーションで夜勤についている。2階のスタッフルームから目視で確認できない24室にネットワークカメラを設置しており、ベッドセンサーも一部の部屋で導入している。入居者が就寝している間、夜勤担当者はスタッフルームから管理用パソコンの画面を通じて1階と2階の各部屋の入居者を見守っている。各部屋の状況を映像でリアルタイムに把握することで、安否確認のための一定時間ごとの巡回業務の負担を軽減している。
「私自身、デイサービスセンターなどで高齢者福祉の現場の仕事に携わっていた経験が長く、現場の大変さはよくわかっているので、スタッフに同じ苦労をさせたくないという思いで見守りシステムを導入しました。効果は予想以上です。特に夜間は、1ヶ所で30人近い入居者の皆さんを見守ることができるので大きな負担軽減につながっています。夜間の巡回は入居者の皆さんの就寝を妨げないようにしなければならないなど気を遣うことが多いので、そのような心理的負担からもスタッフを解放することができました」と和田施設長は話した。
見守りシステムは入居者の個室の無線コールボタンと連動 映像はNASに転送され自動保存、事故時の原因究明にも活用

見守りシステムは、入居者の個室の無線コールボタンと連動している。コールボタンを押すとパソコンだけでなくスタッフが所有するスマートフォンにも個室の番号、入居者名を通知する仕組みになっているので、夜勤担当者はスタッフルームから一時的に離れている時でも、スマートフォンから個室の映像を見て状況を確認した上で迅速に対応することができる。
ネットワークカメラの映像は、館内に設置しているNAS(ネットワーク接続型ストレージ)に転送されて保存される仕組みになっている。「目の届きにくいところを映像で全て確認、保存できるようになったので非常に助かっています。万が一、転倒などの事故が発生した時は、事故が発生した瞬間の映像を基に原因を究明することで、再発の防止につなげることができます。入居者の家族の方にも事故が発生した時の状況を映像で詳細に確認してもらうことができるので、善後策を一緒に考える上でも大きな効果が期待できます」と和田施設長。入居者とスタッフの心理的安全性を確保する上で、ネットワークカメラの映像は大きな役割を果たしてくれているという。
デジタル技術でスタッフが働きやすい職場環境を実現
ソーラスは、見守りシステム以外でもインターネット回線を活用することでスタッフが効率的に仕事をこなせるようにしている。事務所の固定電話機にかかってきた外線電話をスマートフォンに転送できるようにしているほか、玄関の電子錠もスマートフォンを使って開閉できるようにしている。「働きやすい職場を作る上で、デジタル技術には本当に助けてもらっています。スタッフが館内を無駄に動き回ることなく、目の前の仕事に集中して取り組むことができる環境をこれからも整えていきたい」と和田施設長は話した。
入居者に日中のレクリエーション活動とアニマルセラピーでコミュニケーションをはかり心身の健康をサポート


ソーラスは、デジタル技術を活用する一方、入居者に明るく楽しい日常生活を提供するために日中のコミュニケーションとレクリエーションに力を入れている。レクリエーションは、毎日の生活にメリハリをつけ、認知機能や身体機能を維持・向上し、気分を穏やかにする上で効果が高い。入居者に自発的に参加してもらえるように様々な工夫を凝らしている。食堂やリビングとして活用している2階の共用スペースで、毎日、簡単な体操や折り紙などの創作活動を行っているほか、朝と夕方のウォーキングに参加するごとに「ソーラスポイント」としてシールを1枚提供。集めたシールの枚数に応じてお菓子や飲み物などをプレゼントしている。
アニマルセラピーの効果にも着目し、中庭でメスのミニチュアホースを飼育している

動物と触れ合うことで心身に癒やしを与えるアニマルセラピーの効果にも着目し、中庭で「寿(ことぶき)」と名付けたメスのミニチュアホースを飼育している。ミニチュアホースは性格も穏やかで「ことちゃん」の愛称で親しまれ、入居者は天気の良い日は、中庭のウッドデッキからエサをあげたり語り掛けたりしながら触れ合いを楽しんでいる。入居者の家族からも人気で、「ことちゃん」の話題で家族の会話が弾むことも多いという。
「日中に身体をしっかりと動かして会話を楽しむことで夜は熟睡していただけます。夜中に目を覚まさないことで寝不足を回避することが、日中の活動の充実とその夜の熟睡につながるという好循環を生み出しています。入居者の皆さんに元気に毎日を過ごしていただくと同時に、スタッフも生き生きと仕事ができるようにデジタル技術の活用だけでなくアナログの取り組みも大事にしています」と和田施設長は笑顔を見せた。
地域に根差した福祉サービスをネットワークで連携 福祉サービスの充実につながるデジタル技術の活用を検討

福美会は、有料老人ホームソーラス、訪問介護ひだまりと共に、和歌山市福島内で居宅介護支援事業所のケアプランニングセンターソーラス、認知症対応型共同生活介護施設(グループホーム)の寿寿ソーラスをそれぞれ1999年、2012年から運営している。それぞれの施設は専用のネットワークで接続して情報のやり取りをしている。
ケアプランニングセンターソーラスは介護保険についての相談や申請代行、ケアプランの作成などに対応している。寿寿ソーラスは認知症のある高齢者を対象に、9人を単位にした共同住宅の形態で生活面のケアとサポートを提供。入居者は家庭的な雰囲気の中で、介護スタッフとともに家事やレクリエーションを楽しみながら毎日を過ごしている。

「社会の高齢化は今後も加速し、高齢者介護の重要性はこれからもますます高まります。人口減少で現場の担い手の確保が厳しくなっていくことを考えると、デジタル技術を活用して業務を効率化することを考えないわけにはいきません。地域で暮らしてきた人たちが年齢を重ねた後も自分らしく穏やかな生活を続けていけるように、充実した福祉サービスをこれからも提供していきたい」と福美会の小畑誠造理事長は抱負を語った。福祉サービスの充実につながるデジタル技術の活用を今後も検討していきたいという。
地域に根差した高齢者向けの福祉サービスを提供している福美会。介護現場の人手不足や業務負担の課題に対し、ICTとアナログの両輪で解決を図る福美会の取り組みは、他の中小規模の福祉施設にとっても大きなヒントがある。
企業概要
法人名 | 社会福祉法人福美会 |
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本部 | 和歌山県和歌山市福島296-3 |
HP | https://fukumikai-wakayama.com |
電話 | 073-452-0807 |
設立 | 1996年12月 |
職員数 | 23人 |
事業内容 | 有料老人ホーム、指定居宅介護支援事業所、訪問介護、認知症対応型共同生活介護施設の運営 |