
この記事は2025年5月23日に「テレ東BIZ」で公開された「おいしさと手軽さを両立! 外食を進化させる新ビジネス」を一部編集し、転載したものです。
韓国料理店からラーメン店まで~プロの味を再現!料理の仕込み代行
東京・中野にある韓国料理店「豚大門市場」。ランチタイムは大勢の客でにぎわう。
人気メニューは魚介のうま味が詰まったスープで豆腐や野菜を煮込む韓国料理の定番「スンドゥブチゲ」(1,100円)。「ヤンニョムチキン」(1本350円)のタレは、コチュジャンをはじめ10種類以上の調味料を独自の配合で合わせた秘伝のタレだ。
「スンドゥブチゲ」など約20種類もの料理は、パックに入ったタレを使って調理している。
▼パックに入った10種類以上の調味料を独自の配合で合わせた秘伝のタレ

ただし、いわゆる「出来合い」ではない。この店専用に作ってもらったものだという。
「当店のレシピをすべてシコメルさんに持ち込んで、依頼したものを作ってもらって、(必要な分を)発注して届けてもらっています」(「豚大門市場」・松江芳栄さん)
手間がかかる飲食店の仕込みを代行するシコメルフードテック。店側が必要な量をスマホの専用アプリで注文すれば、翌日には配達される仕組みだ。
この店では2020年にシコメルを導入した。こだわりの味を守りつつ、仕込みにかかる時間を大幅に短縮できたという。
「開けてすぐ使えるので、スタッフの休憩時間がとれるし、よりお客様に向かえるようになったことは大きいです」(松江さん)
休憩が増えたことで従業員のパフォーマンスも上がる。シコメルが客と従業員、双方の満足度アップに役立っているのだ。
シコメルのサービスを使う飲食店が増えている。東京・池袋の「人類みな麺類とエスサワダ」の売りはモチモチの自家製麺と極厚のチャーシューが乗ったラーメン。特にチャーシューにはこだわっていて、毎日3~4時間かけて仕込むという。
一方、宅配便で届いたのは「チャーハンベース」と書かれた段ボール。この店では、麺やチャーシューの仕込みにとことんこだわる分、チャーハンはシコメルに発注している。これに自家製のチャーシューとネギを加えて炒めれば「チャーシューチャーハン」(690円)になる。
「先日もチャーハンを食べたお客様がおかわりをするなど、好評です。普通の業務用チャーハンではない」(店長・松田将史さん)
シコメルフードテックは東京の渋谷にある。6年前に創業し、従業員は40人。右肩上がりに急成長し、2025年5月期の売り上げは23億円の見込みだ。
社長・川本傑(41)は年に300日外食するほど、食に目がない。過酷な外食の現場をITの力で変えたいと一念発起し、2019年、シコメルフードテックを立ち上げた。
「(外食業界は)こんなにみんな一生懸命大変なことをやっているのに、長く働けないとか、給料が安いとか。飲食店はお客に喜ばれる職業なのに、そこが追いつかないというのは一番、『負』だと思っていました」(川本)
シコメルの仕込み革命~飲食店と食品加工工場をマッチング

シコメルの仕込み革命1~店のレシピを徹底的に再現
都内に5店舗を構える「酒場シナトラ」目黒店。シコメルの商品開発部長・佐々木淳と営業部・竹中忍が、料理長との打ち合わせでやってきた。
この店の看板メニューは「鴨のメンチカツ」(2個1,080円)。鴨と豚の合いびきで肉のうま味がより豊かな一品だ。2種類の肉をミンチにしてこねて形にするのに、毎日2時間はかかる。この仕込みを代行してほしいという。
▼「鴨のメンチカツ」この仕込みを代行してほしいという

「長年の課題で、飲食業界では仕込みの時間が長すぎます。調理の技術、接客のやり方など、違う部分の教育に時間を費やしたい」(総料理長・小林周さん)
まずは飲食店からレシピを預かり、「できるだけ生ハムを使う」「生クリームの脂肪分は35%」などと、こだわりなどを聞き取る。シコメルのオフィスには本格的なキッチンがあり、作業はまずレシピを再現する所から始まる。
担当するのは調理師免許を持つ開発メンバー。中でも面白い経歴を持つのが企画開発調理師の高政克昌だ。ドイツで10年間、シェフを務めていた。
▼担当するのは調理師免許を持つ開発メンバー

「鴨のメンチカツ」は衣をつける前、種までの仕込み代行だ。高政の試作品を試食した開発メンバーと川本は、「味の再現性はかなり高い」「ジューシーさ、鴨の味も残っている」と高く評価した。
シコメルの仕込み革命2~大量のデータベース
神奈川を中心に5店舗を構える居酒屋「太陽ホエール」がシコメルに依頼したのは、「冷やし肉詰めピーマン」(2個350円)に詰める「肉みそ」の仕込みだ。
▼依頼したのは「冷やし肉詰めピーマン」に詰める「肉みそ」の仕込み

シコメルで行われていた肉みそについての会議で、参加者が画面を見ていた。
「データベースです。過去、どの工場で、いくらくらいで出来上がったかが全部入っています。どこの工場に依頼したらどれぐらいで出来上がってくるかが分かるので、これが僕らの宝物、ビジネスの肝になっている」(川本)
店から依頼された仕込みを実際に行うのは全国に200以上ある提携工場。そうした工場でこれまでに作ってきた約7,000品目のデータをもとに、どこにオファーしたら最適の味、価格でできるかを判断している。
今回の「肉みそ」は福島・郡山市のメーカー「商工給食」に実際に足を運んで依頼した。
この会社では主に学校給食や仕出し弁当を作り、配達している。レシピを伝えるとすぐに試作が始まる。社長・宮川卓也さんらとは、「ひき肉は皮入りか皮なしか」など、細部まで詰める。シコメルはデータベースの中から、炒め物を得意としている過去の実績を評価し、ここを選んだという。
冷やした「肉みそ」の試作品を袋詰めにしたら、東京のシコメルへ送る。届いたサンプルを持って、開発メンバーが向かったのは発注元の「太陽ホエール」横浜南幸店だ。
店の運営会社の幹部が味をチェックしたところ、評価は「70点、もう少し」だった。
100点になるまで何度も試作を重ねることで、仕込み代行への信頼を勝ち取ってきた。
「人生をかける価値がある」~料理の仕込み代行誕生秘話
シコメルフードテックのもう1人のキーパーソンが、共同創業者で会長の西原直良だ。「僕が高校3年生の時の1年生で入ってきたのが川本社長です」と言う。
▼シコメルフードテックのもう1人のキーパーソンが、共同創業者で会長の西原直良さん

実はこの2人、大阪府立天王寺高校野球部の先輩と後輩、西原はファースト、川本はキャッチャーだった。
その後、西原は大学に進学するが「大学2回生の夏に中退して、資本金300万円で有限会社を作った」。西原は大学を中退し、韓国食品の輸入卸の会社を起業。川本も大学に通いながら西原のパートナーとして働くようになった。
「将来、起業したいと思っていたので、先輩が先行してやっているのはめちゃくちゃ僕には良かった」(川本)
大阪の繁華街・難波。当時2人はこの町でビジネスに奔走していた。
「当時、僕たち若かったので信用がない。現金で仕入れて、ずっとお金なかった」(西原)
「商売は厳しいですね、若かったからできましたけど」(川本)
韓国居酒屋、キムチ専門店など次々と飲食事業を立ち上げていくが、どれも成功には至らなかった。大学卒業を迎えた川本は西原と離れ、就職することを決意する。
「このまま会社にいることももちろんできましたが、もっと組織ができていて、起業家を輩出しているような会社を見に行きたい。また西原とビジネスをやる時に、その経験を持って帰ってくるということができればいいなと思っていました」(川本)
川本が就職したのは多くの起業家を輩出する「リクルート」だった。入社してすぐ不動産サイト「SUUMO」の立ち上げに参加。3年目には関西支社の営業成績で年間トップを獲得するなど、着実に実績を積んでいった。
一方、西原は韓国食品などを作り、レストランに納入する工場を立ち上げ、ようやく軌道に乗るようになった。
別の道を歩み出して10年がたった2018年、転機が訪れる。西原が川本に「飲食店の仕込みの代行をもっと大規模にやる方法はないかな?」と相談を持ち掛けたのだ。
離れた後も時々会ってビジネスの話をしてきた2人。このとき川本に、あるアイデアがひらめいた。自分たちで工場を増やさなくても、全国の食品工場と飲食店を結びつける仕組みをつくれば、新しいビジネスになるかもしれない――。
「食品工場のプラットホームをつくるというのは、幅が広いし、掘れば深い。人生かける価値があるなと思いました」(川本)
川本は「リクルート」を辞め、2019年、西原とシコメルフードテックを立ち上げた。
大阪・関西万博でも活躍~一流の味を販売する新ビジネス
2025年4月に開幕した大阪・関西万博では、世界各国の食も楽しめる。中でも行列ができるほど人気なのがチェコパビリオン。
客の目当てはダンプリングというチェコ料理。チェコのソウルフードだ。「野菜を詰めたダンプリング」(2,600円)など、珍しい料理を目当てに連日、客が押し寄せている。
▼チェコのソウルフード「野菜を詰めたダンプリング」

人気のチェコパビリオンに川本がやってきた。実は煮込んだ肉とダンプリングの仕込みはシコメルが手掛けている。チェコ人の調理スタッフが集まらず、急きょ、シコメルに仕込み代行を依頼したという。
「連日お客が殺到しててんてこ舞いですが、シコメルのおかげでなんとか乗り切っています」(「チェコパビリオン」ヤン・ヘルマネク総料理長)
▼「シコメルのおかげでなんとか乗り切っています」と語るヤン・ヘルマネク総料理長

「(2024年の)年末に何回かやりとりをして、正月早々に試食品を持ってきてくれたので、シェフに食べさせることができました。スピード感がとても早かった」(「同」・藤田佳子さん)
ドイツでシェフをしていた前出・高政の経験から、肉まんに近いと判断し、中華まんが得意な工場に仕込みを依頼。来日したシェフに試作品を食べてもらいOKをもらったのだ。 家族でチェコからやって来たという客は「日本の食品会社が作ったんだね。チェコの文化、味もそのままで素晴らしいよ」と感想を話していた。
さらにシコメルは、料理人がいなくても飲食店が経営できる画期的なサービスを立ち上げた。
そのサービスを導入している東京・荒川区のスナック「街中スナックARAKAWA LABO本店」。地域交流の場として2022年にオープンした。若者からシニアまで、客層は幅広い。
人気のメニューはイタリアンの有名シェフが手掛けた「クアトロ・フォルマッジ」(1,500円)などのピザ。
▼イタリアンの有名シェフが手掛けた「クアトロ・フォルマッジ」

シコメルから買ったもので、焼くだけでいいから、料理人はいらない。
「スタッフは料理未経験でOK、採用がすごく楽です」(「街中スナック」代表・田中類さん)
シコメルでは、飲食店向けに有名シェフが監修した250種類以上の調理済みの料理を販売している。売り上げの2%がシェフに還元されるという。
外食の進化はますます加速している。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~

1店舗から持てるセントラルキッチンを謳う外注オンラインサービス。依頼ごとに試作を重ね、再現性が高い商品を提供している。会長の西原氏は、大学を中退したあと、輸入食品卸売業の会社を創業。17年で外食店舗1,300店舗と取引を。
西原氏はファーストで、2歳年下の選手だった現社長の川本氏はキャッチャーだった。2人の友情は今も続いている。「チュクミのタレは20種以上の材料を使うため計量だけで時間がかかってしまう、極小店にはありがたい」シコメルは、大規模店には向かない。チュクミの味が漂う中小店に向いている。
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<出演者略歴>
川本傑(かわもと・すぐる)
1983年、神奈川県生まれ。2003年、高校の先輩・西原直良と飲食店買い物代行を始める。2008年、大学卒業後、リクルート入社。2019年、シコメルフードテック設立。2023年、社長に就任。
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