東京都、職場における熱中症対策強化に関する勉強会を開催、6月からの熱中症対策義務化に向けて具体的な対策方法など解説
「職場における熱中症対策強化に関する勉強会」の様子

東京都は、今年6月から労働安全衛生規則の一部が改正され、職場における熱中症対策が義務化されることを受け、「職場における熱中症対策強化に関する勉強会」を5月19日に開催した。今回の勉強会では、熱中症対策義務化の背景や義務内容および東京都の熱中症対策総合事業について説明するとともに、労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター ばく露評価研究部長の齊藤宏之氏を招き、職場における具体的な熱中症対策方法について解説してもらった。

東京都では、2050東京戦略において「命を守る熱中症対策」を掲げ、エッセンシャルワーカーなどの暑さ対策に取り組んでいる。昨夏の東京の平均気温は平年に比べて2.1度高く、また、全国の職場での熱中症による休業4日以上の業務上疾病者の数は、昨年には1000人を超え、うち約30名が死亡しており、熱中症リスクが高い屋外労働者や高温環境下での作業従事者等のエッセンシャルワーカーの労働環境における対策が急務となっている。こうした中、今年6月には、労働安全衛生規則の一部が改正され、職場における熱中症対策が義務化される。そこで今回、東京都は、熱中症リスクを軽減し、安全な労働環境を確保するため、エッセンシャルワーカーなどの事業者が適切な対策を講じるための知識や具体的な方法を学ぶことができる勉強会を開催した。

東京都、職場における熱中症対策強化に関する勉強会を開催、6月からの熱中症対策義務化に向けて具体的な対策方法など解説
厚生労働省 労働基準局安全衛生部労働衛生課 中央労働衛生専門官の高松達朗氏

勉強会ではまず、厚生労働省 労働基準局安全衛生部労働衛生課 中央労働衛生専門官の高松達朗氏が、熱中症対策義務化の背景や具体的な義務内容などについてオンラインで説明した。「近年の夏季(6月~8月)の気温上昇にともない、職場での熱中症による死傷者数は増加傾向にある。業種別の死傷者数の割合(2019年~2023年計)を見ると、トップが建設業、次いで製造業、運送業、警備業、商業だった。月別では、6月から増え始め、8月にピークを迎える。時間帯別では、15時台が最多で、14時台、11時台、9時台以前と続く。最近では朝から気温が上昇するため、9時台以前でも注意する必要がある。年齢別では、65歳以上が最も多く、次に45~49歳、50~54歳、55~59歳、60歳~64歳の順となった」と、集計データを基に職場における熱中症の災害発生状況について解説。「こうした状況を踏まえて、厚生労働省では、『職場における熱中症予防基本対策要綱』を策定し、熱中症予防対策の取り組みを推進している。同対策要綱では、まず第1に、WBGT基準値(暑さ指数)を活用し、熱中症予防対策を行うことを推奨している。対策方法としては、『作業環境管理』『作業管理』『健康管理』『労働衛生教育』『救急処置について』の5項目にまとめている。また、毎年5月~9月の期間には『STOP!熱中症 クールワークキャンペーン』を実施している」と、熱中症予防に向けた厚生労働省の取り組みを紹介した。

「一方で、職場における熱中症による死亡災害は3年連続で30人を超えており、死亡者の約7割は屋外作業であるため、気候変動の影響によって今後さらなる増加が懸念される。特に、死亡災害のほとんどが『初期症状の放置・対応の遅れ』であることから、現場において、死亡に至らせないための適切な対策の実施が求められる。そこで今回、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処することで、熱中症の重篤化を防止するため、職場での熱中症対策を罰則付きで義務付けることとした」と、職場における熱中症対策の義務化に至った背景を説明。「具体的には、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、『熱中症の自覚症状がある作業者』および『熱中症のおそれがある作業者を見つけた者』がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知することを義務付ける。また、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知することを義務付ける。なお、熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT(湿球黒球温度)28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものと定義している」と、義務内容について詳しく教えてくれた。

東京都、職場における熱中症対策強化に関する勉強会を開催、6月からの熱中症対策義務化に向けて具体的な対策方法など解説
東京都環境局気候変動対策部環境都市づくり課長の吉野正禎氏

続いて、東京都環境局気候変動対策部環境都市づくり課長の吉野正禎氏が、東京都が取り組む熱中症対策総合事業の概要を紹介した。「建設業や運輸業、清掃・リサイクル分野など、屋外や高温環境で働く労働者は、熱中症のリスクが特に高く、早期かつ実効性のある対策が求められている。東京都では『2050東京戦略』の一環として、これらのエッセンシャルワーカーの命を守るための熱中症対策を強化し、エッセンシャルワーカーの業界団体、その他熱中症リスクが高い業界の団体・事業者を対象に、専門家の助言に基づく熱中症対策総合事業を推進している」と、熱中症リスクが特に高いエッセンシャルワーカーへの対策が急務なのだと訴える。「熱中症対策総合事業は、『熱中症対策アドバイザー派遣事業』と『熱中症対策ガイドライン作成補助事業』の大きく2つのステップに分かれている。まず、『熱中症対策アドバイザー派遣事業』では、専門家の派遣や現場での対策助言、WBGT測定支援を通じて、業界団体などにおけるエッセンシャルワーカーの熱中症対策を推進する。次に、『熱中症対策ガイドライン作成補助事業』では、安全な労働環境を確保するためのガイドラインの策定・普及を支援する。この事業では、ガイドライン策定・普及費用の2/3を補助する」と、熱中症対策総合事業を通じて業界全体での熱中症対策の底上げと、効果的な普及啓発を図っていく考えを示した。

東京都、職場における熱中症対策強化に関する勉強会を開催、6月からの熱中症対策義務化に向けて具体的な対策方法など解説
労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター ばく露評価研究部長の齊藤宏之氏

そして、労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター ばく露評価研究部長の齊藤氏が、職場における熱中症対策の義務化に向けて、具体的な対策方法について解説した。「人間は、高温な環境に長時間さらされる暑熱ばく露があると、体温が上昇し、心拍数上昇および皮膚血管拡張反応によって血圧が低下し、熱失神を発症する。また、発汗反応によって血中の塩分が不足すると熱痙攣を起こす。さらに脱水が進行して汗を描けなくなると熱疲労になり、体温上昇が止まらなくなる。最悪の場合、熱射病を発症し、死亡もしくは重篤な後遺症のリスクが高まる」と、熱中症が起こるメカニズムについて紹介。「このメカニズムのどこかで流れを止めることができれば、熱中症を予防または重症化を防ぐことができる。まず、最初の暑熱ばく露への対策としては、WBGT(湿球黒球温度)を用いた暑熱ばく露の評価と軽減が重要になる。WBGT測定値が基準値を超えた場合、ミストファンや防暑服・防暑グッズなどを活用した熱中症対策が有効である。また、休憩所の設置・整備と休憩タイミングも非常に重要となる。特に、WBGT値が基準値を大幅に超過しているときには、休憩間隔の短縮や休憩時間の延長、暑さのピーク時間帯の作業中止、早朝・夜間などへのシフトを検討してほしい」と、まずは暑熱ばく露を軽減してほしいと訴えた。

「発汗による体温上昇への対策としては、水分・塩分の定期的な摂取が有効となる。厚生労働省では、0.1~0.2%の食塩水を20~30分おきにコップ1~2杯摂取することを推奨している。また、のどが渇いてからではなく、定期的に水分を摂取しやすい環境を整えることも大切である。さらに、熱に慣れ、当該作業に適応させる暑熱順化の取り組みも熱中症対策に欠かせない。例えば、仕事後にジムに通ったり、ウォーキングやジョギング、半身浴などで汗をうまくかいて、暑くなる前、暑熱作業をする前に、体内の熱を放出する働きを目覚めさせることが必要になる」と、体温上昇を抑えるための対策方法を紹介。「持病のある人や体調不良、不摂生リスクなど、作業者の健康管理も重要である。体調管理の先進事例としては、ウェアラブルデバイスの着用やスマートウォッチとスマートフォンの連携によって作業者の心拍数を管理するケースも出てきている」と、普段からの健康管理も重要なのだと強調した。「そして、万が一、作業員が熱中症になった場合、現場で救急措置ができるように備えておく必要がある。そのためにも、社内で熱中症に関する教育をしっかり行うと共に、各事業場に熱中症予防管理者を置き、組織として熱中症対策への意識を高めていってほしい」と、熱中症は組織で対策・対応することで確実に重症化を防ぐことができるとアドバイスを送っていた。

東京都=https://www.metro.tokyo.lg.jp/
東京都熱中症対策ポータルサイト=https://wbgt.metro.tokyo.lg.jp/