
目次
- 退職した総合ビル管理会社の得意先に背中を押され、2009年に新会社を設立
- あわだたしい船出で会社の設備調達に苦労。「ご支援いただいた人、会社に感謝」
- 消防設備と給排水設備の両方の自社対応点検を強みに、売上高は5倍に成長
- 従業員の健康管理を重要な経営課題とし、2021年から5年連続で健康経営優良法人に認定
- ICT活用し働き方改革。消防設備点検報告書作成システムで作成業務時間を半減
- 顧客管理システム導入して社内全体の業務負担を軽減、今後はクラウド化し一段の負担軽減へ
- 勤怠管理システム導入によって有休取得率高まる。さらにICT化進め、現場従業員の付帯業務負担を減らす
- ASEANに目を向け、ビル管理に関心の強い若者の就業・技術指導とともに現地への事業進出も
京都市伏見区に本社を置く総合ビル管理・メンテナンス会社である株式会社チームクオリティは、設立16年目のまだ若い会社だ。京都の総合ビル管理会社の役員を務めていた田中善和代表取締役が2009年に創業し、社名に込めた「クオリティ(品質)を追求する誠実で丁寧な仕事」をモットーに事業を進めてきた。その経営姿勢が顧客の信頼を高め、業績は順調に拡大してきたが、業界では人手不足問題への対応が重要課題となっている。このため同社は、ICTを活用した働き方改革や健康経営に力を入れ、従業員重視の経営による持続的な成長を目指している。(TOP写真:高いクオリティを追求するビル・マンション管理の現場スタッフ)
退職した総合ビル管理会社の得意先に背中を押され、2009年に新会社を設立

チームクオリティの設立は、田中社長が以前勤めていた会社の得意先であったビルやマンション管理会社関係者やオーナーから背中を押されたのがきっかけだった。田中社長が2009年6月の退職前に得意先へ挨拶回りをした際、「田中さんに辞められたら困る。自分で会社を作って仕事を継続してほしい」と言われることが多かった。自ら会社を起こすことは頭の片隅にもなかったが、中には「何も決まっていないのに、仕事の発注をしてくれるところもあり、お客さまの期待に何とか応えていきたいと考えるようになりました」と、田中社長は当時の思いを語る。
そのため、十分な設立準備が整わない中で、退職2ヶ月後の2009年8月にチームクオリティを設立するというあわただしさだった。退職する際に、気心の知れた部下3人に声をかけたのをきっかけに仲間は6人集まり、新会社はスタートした。田中社長は、「お客さまの期待に何としても応えていかなくてはならないとの思いと、6人の仲間たちの生活や将来のことを考えると、本当に大きなプレッシャーの中での出発でした」と振り返る。
あわだたしい船出で会社の設備調達に苦労。「ご支援いただいた人、会社に感謝」

当面の仕事があって、仲間がいても、会社の設備はないないづくしで整えるのには苦労した。2009年といえばリーマン・ショックの翌年で、経済環境は最悪だった。複合機のリースにしても、信用がないから契約できない。「最終的には友人の会社社長が付き合いのある複合機メーカーを紹介してくれ、その友人が保証人になって契約できました。その時の友人と複合機メーカーには、今でも感謝しています」(田中社長)
仕事に必要な2台の軽自動車は昔から付き合いのある自動車販売会社に頼み、オフィスに必要な机や事務機器はリサイクルショップを回って調達した。田中社長は、「その時にご支援いただいた人や会社との出会いがあったからこそ、現在のチームクオリティがあるんです」としみじみ語るが、それは田中社長の誠実な人柄と厚い人望、仕事に対する熱意と信頼が、背中を押してくれた顧客を含めた多くの出会いを引き寄せたともいえる。
消防設備と給排水設備の両方の自社対応点検を強みに、売上高は5倍に成長


同社の事業は、ビルやマンションの管理会社やオーナーの委託を受けて行う消防設備点検・防火防災管理や、給排水設備の点検・清掃、エレベーターなど昇降機設備点検・電気設備点検・共用部清掃などの総合ビル管理業務が主体で、それぞれ設備の故障や劣化に対応するメンテナンス・改修工事も請け負う。「当社はマンションの管理業務が多いが、マンションには必ず消防設備と給排水設備があります。この消防と水設備の両方の点検業務を自社の社員で対応しているところは必ずしも多くはないんです」(田中社長)という。消防と水設備に自前で対応できることがチームクオリティの強みとなり、経営理念に掲げる「誠実、最善、懸命なサービス」によって顧客の信頼を高めてきたといえる。
チームクオリティの業績は、設立初年度の2010年6月期こそ期中からの事業開始ということもあり赤字となったものの、2年目には収支トントン、3年目は累積損失を消して黒字転換し、その後は順調に推移している。積極的な営業活動はほとんどしていない。既存取引先からの紹介や取引先のビル・マンション管理会社の管理物件拡大に伴う発注件数増加などによって事業を拡大し、2024年6月期には売上高約5億円と、設立2年目の約1億円から5倍に成長した。
従業員の健康管理を重要な経営課題とし、2021年から5年連続で健康経営優良法人に認定

「“社員様は神様”くらいの勢いで取り組んでいます」。こう言って田中社長が思わず哄笑(こうしょう)したのは働き方改革への取り組みのことだ。「若い従業員に仕事を頑張ってもらい、新しい世代に会社に入ってきてもらうには、私たちのような昭和世代の考え方は通用しません。従業員が気持ちよく働けることは、お客様の満足度を高め、必ず会社にプラスになります」(田中社長)と言い切る。
同社がいち早く健康経営に取り組んできたのは、働き方を時代に合わせて見直していくためでもある。従業員の健康管理を重要な経営課題と捉え、健康診断の充実と全員受診や適切な働き方、長時間労働者への対応などに取り組み、健康を従業員個人の問題とせずに企業の責任として捉えてきた経営姿勢が認められ、2021年から5年連続で日本健康会議の健康経営優良法人(中小規模法人部門)に認定されている。
ICT活用し働き方改革。消防設備点検報告書作成システムで作成業務時間を半減

ICTを活用した業務のデジタル化も、働き方改革の一環だ。2016年には消防設備点検の点検結果報告書作成システムを導入し、手間のかかる報告書作成業務を簡素化・効率化した。消防設備の点検では、その結果を管轄消防署に提出することが義務付けられている。同社の場合、月150~200件、年間では2,000件以上の報告書を作成し、提出する義務がある。それまではエクセルで作成していたが、システムには法令に準拠した報告書の書式が搭載されているため、報告書作成作業を正確かつ効率化し、顧客ごとの管理もできる。
「エクセルでは1件当たり30分以上かかっていた報告書の作成業務が半分程度に短縮できた」(田中社長)というから、担当者の業務はそれだけ軽減されたことになる。
顧客管理システム導入して社内全体の業務負担を軽減、今後はクラウド化し一段の負担軽減へ

2017年には、顧客管理システムを導入した。契約内容から建物の設備概要、定期点検・メンテナンスの履歴、鍵の場所・入館方法まで顧客情報が一元管理されているため、顧客から緊急で依頼が入った場合でも、出先の担当者が会社に電話すれば、必要な顧客情報を事務スタッフが伝えることができるようになった。
特に24時間体制で対応している入居者からの電話代行サービスでは、電話受付担当者がそのビルやマンションの現地対応担当者に迅速に正確な情報を伝えることができるため、スピーディーな対応が可能になった。入居者からの電話は、夜間だけでも月100~150件程度。田中社長は、「従来はエクセルで作成した顧客台帳で顧客情報を確認していたが、システム導入後は瞬時に必要な顧客情報を呼び出せるようになり、電話受付担当者はミスなくスムーズに業務をこなせるようになりました」と導入効果を評価した上で、「今後はビルやマンション担当者がどこにいてもスマートフォンで顧客情報を確認できるようにすれば、社内全体の業務負担をさらに減らすことができると考えています」として、システムをクラウド化する計画だ。
勤怠管理システム導入によって有休取得率高まる。さらにICT化進め、現場従業員の付帯業務負担を減らす

2022年に導入した勤怠管理システムによって、従業員全体の勤務状況や有給休暇取得予定が見える化された。特に有休取得に当たっては、仲間の勤務予定を事前に把握できるため、自分の休みを決める際には、早めに決めてとりやすくなった。管理部門の事務効率向上とともに、有休取得率も上がってきたという。
今後のICT化では、人事評価やスケジュール管理のシステム化を検討している。「われわれの仕事は従業員が実際に現場に行って作業する必要があります。このため、現場で仕事をする従業員のストレスを軽減することが重要となります」(田中社長)として、現場従業員が負担に感じている事務処理などの付帯業務の軽減に向けてICT化を進めていく方針だ。
ASEANに目を向け、ビル管理に関心の強い若者の就業・技術指導とともに現地への事業進出も

「日本は少子化で人口は増えませんし、われわれの業界もこれからは国内だけでという時代ではありません」。田中社長は、総合ビル管理事業も経済成長著しいASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に目を向けていくべきと主張する。
国内で深刻化する人手不足問題に対応する人材確保への側面もあるが、ベトナムなど日系企業が多く進出している国も多く、「総合ビル管理業務は地味な仕事ではありますが、私たちの技術が現地に貢献できることもあるのではないかと考えています」(田中社長)とみている。
現地の日系企業が所有するオフィスビルのビル管理業務への需要があり、同時に現地の若者にはビル管理業務の技術や知識を日本で学びたいというニーズもある。「日本のビル管理技術に関心を持つ若者に、当社で学んで技術をつけていただき、将来はそうした人材とコラボして東南アジア市場に出ていくことも考えていきたいと思っています」。田中社長は、海外人材の受け入れ・技術指導が、ASEANへの事業進出につながる未来図を描き始めている。
企業概要
会社名 | 株式会社チームクオリティ |
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本社 | 京都府京都市伏見区横大路下三栖里ノ内33-1 |
HP | https://www.team-q.jp/ |
電話 | 075-623-4060 |
設立 | 2009年8月 |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 消防設備点検、防火防災管理、給排水設備点検、貯水槽清掃、排水管洗浄清掃、昇降機設備保守点検、電気設備点検、24時間緊急対応、管理会社の休日・時間外電話代行、消防設備・給排水設備電気設備などの改修工事など |