
目次
- 先進的な4温度帯同時配送を1990年代前半に実用化、温度管理に厳しい荷主から高く評価
- 創業者急逝で急きょ、女婿の小野光治会長が事業を引き継ぎ、異温度帯同時配送の事業化に乗り出す
- 1台のトラックでの異温度帯の小口共同配送を提案。運送コスト削減し、荷主企業からの評価高まる
- 異温度帯の小口共同配送が時代の要請にマッチ。2024年8月期売上高は35年前の20倍に伸びる
- 配車業務をデジタル化する配車情報管理システム導入し、配車時間を半減、残業を大幅に減らす
- トータルセキュリティーシステムでセキュリティー対策を強化。請求書発行のデジタル化や配車書類などのペーパーレスを検討
- 早くから健康経営に取り組み、2022年から4年連続で健康経営優良法人認定を取得
- 「時代に合った求人活動」として、SNSでの情報発信を開始。最近は20代ドライバーも入社
- 山本奈美社長の「売上最大、経費最小」経営で収益改善。5ヶ所分散の配車センターなど集約へ
定温・冷蔵(チルド)・冷凍・超冷凍という四つの異なる温度帯の食品輸送を1台のトラックで行う異温度帯同時配送をいち早く実用化し、成長を続けている運送会社が京都府南部の久御山(くみやま)町にある。現在、食品の小口荷物の異温度帯の同時配送(異温度帯同時共同配送)を提案して配送コストの大幅な削減や二酸化炭素(CO2)の排出抑制などの地球温暖化対策に寄与し、荷主企業から厚い信頼を得ているフジモト運輸株式会社だ。ICT化への取り組みも早く、2011年から配車情報管理システムを導入し、小口共同配送の輸送品質向上と効率化を実現。最近は深刻化するドライバー不足に対応してSNSでの情報発信を強化し、成果を上げている。(写真TOP:食品異温度帯同時配送のイメージ=フジモト運輸のホームページより)
先進的な4温度帯同時配送を1990年代前半に実用化、温度管理に厳しい荷主から高く評価

フジモト運輸の最大の強みである異温度帯同時配送は、先代社長である小野光治会長が社長就任直後の1990年代前半に実用化した。1台のトラックの積載庫を可動式の中仕切りで冷凍と冷蔵の二層式にした。さらに、「シッパー」という温度管理ボックスにドライアイスを入れて冷凍室に超冷凍スペースを、冷えすぎない工夫をしたシッパーを冷蔵室に入れて定温のスペースを作り、定温(18度程度)、チルド(5度前後)、冷凍(マイナス20度)、超冷凍(マイナス30度)の4温度帯での同時配送を可能にした。
当時は現在のようなバン型の冷蔵車や冷凍車を導入する運送事業者は稀(まれ)だった。そうした時代にあって、1台のトラックに定温から超冷凍まで異なる4温度帯の機能を持たせたのだから、先進的な取り組みだったことは間違いない。小野会長は、「今では温度管理へのニーズはより厳格になっており、温度管理に厳しい荷主さんからは高い評価をいただいていると思っています」と話す。
創業者急逝で急きょ、女婿の小野光治会長が事業を引き継ぎ、異温度帯同時配送の事業化に乗り出す

同社の創業は、1937年(昭和12年)にさかのぼる。小野会長の義父である藤本新治氏が創業者で、友人からの依頼で運送事業を引き継いだのが始まりだ。1973年に藤本運輸株式会社を設立し、法人化したものの、経営環境は厳しかったという。創業者の女婿(じょせい)である小野会長は、自衛隊の幹部候補生を経て京都の酒類輸入商社に勤めていたが、1990年に藤本氏が急逝(きゅうせい)したため、生前の義父の強い希望を受けて事業を引き継ぐことを決断した。
同社は創業者の時代から、1980年代に一世を風靡(ふうび)した洋菓子チェーン・タカラブネを主力顧客とする食品の低温食品配送事業者だった。このため、社長就任後の小野会長は、酒類商社時代から懇意にしていた総合商社を営業で訪問した際に、冷蔵品も冷凍品も同じトラックで配送する異温度帯同時配送のヒントを得て、早速事業化に取り組んだ。
1台のトラックでの異温度帯の小口共同配送を提案。運送コスト削減し、荷主企業からの評価高まる


同時に小口荷物の共同配送に乗り出した。小口共同配送は、荷主企業が独自に手配するチャーター便では荷物量が少なく、コスト的に割に合わない小口の荷物を、他の荷主の荷物と積み合わせることで、トラックの積載率を高めるとともに荷物の集配送単価を引き下げ、運送コストを削減するサービス。運行するトラックの台数を減らし、CO2排出量の抑制効果も期待できた。
しかも、フジモト運輸は異温度帯同時配送であるため、荷主側はどんな温度帯の商品でも共同配送を活用できる利点がある。近年は大手食品事業者による流通革命などによって卸問屋が減少し、中小事業者でも商品を販売先までダイレクトに届けるケースが増えており、異温度帯同時配送による小口共同配送へのニーズが高まり、右肩上がりで需要は拡大している。
異温度帯の小口共同配送が時代の要請にマッチ。2024年8月期売上高は35年前の20倍に伸びる

現在の山本奈美代表取締役社長が就任したのは2021年1月。小野会長の長女で、2002年頃からフジモト運輸の経理部門に勤務していた。2011年からは冷蔵・冷凍食品配送子会社であるホウキ運輸株式会社の社長を務めており、当時社長だった小野会長が高齢を理由に会長就任を決めた際、「私が継がないと誰もいない」と事業継承を決断した。
「当社は食品配送でも小口荷物の異温度帯同時配送に特化して、荷主企業さんや大手物流事業者さんの信頼を高め、事業規模を大きくさせていただきました。2024年8月期の売上高は年間12億円超となりましたが、これは先代が経営を引き継いだ35年前(1990年)に比べて約20倍の伸びです。いかに先代が開発・提案してきた異温度帯同時配送による小口共同配送のビジネスモデルが時代の要請にマッチしていたか、ということを物語っていると思っています」。山本社長はこう話し、先代が築いてきた事業基盤をベースに持続的な成長を目指している。
配車業務をデジタル化する配車情報管理システム導入し、配車時間を半減、残業を大幅に減らす

小口荷物の異温度帯共同配送はフジモト運輸の評価を確たるものとしたが、その配車業務は複雑だ。事業拡大に伴って取引先が増え、荷物量が大きく伸びる中で、より正確で効率的な配車業務が求められるようになり、専門知識を持つベテラン従業員に頼っていた複雑な配車業務をICTで簡素化した配車情報管理システムを2011年に導入した。
この配車情報管理システムでは、受注情報をパソコンに入力して配車割付画面に移動させると、自動的に共同配送コースごとの配車割付が行われる。それまでは受注情報を配車担当者がボードに書き込み、荷物の個数や重量、温度帯など詳細な配送条件についての専門知識を基に配車割付していたが、システム導入後は手書きボードの代わりに4台のディスプレイ画面に全車両の配車予定一覧が表示されている。また、配車漏れや誤配車の心配がなくなった上に、配車時間を半分に短縮し、配車担当者の残業時間を大幅に減らす効果があったという。
トータルセキュリティーシステムでセキュリティー対策を強化。請求書発行のデジタル化や配車書類などのペーパーレスを検討

最近はランサムウェアやスパムメールが増えているため、その対策として、UTM(統合脅威管理)によるトータルなセキュリティーシステムを導入し、自社とともに荷主企業も含めてネットワーク上の脅威から守るセキュリティー対策を強化。ネットワーク接続の記憶装置を導入して、万一の際に備えたデータ保全体制も整えた。
2024年には人事・労務の業務効率化に特化したクラウド型の労務管理システムを導入し、2025年1月から給与明細をデジタル化した。今後のICTについては「身の丈に合った形で進めていきたいと思っています」(山本社長)とした上で、請求書発行のデジタル化や配車書類、配車台帳、日報などのペーパーレス化を検討していく考えだ。
早くから健康経営に取り組み、2022年から4年連続で健康経営優良法人認定を取得
フジモト運輸は、近年注目度が高まっている健康経営に力を入れている。従業員の健康増進を重視する取り組みが評価され、2022年から4年連続で日本健康会議の健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定を取得している。
「従業員の健康は会社の健康」との考えから、いち早く「従業員の健康を大切にする経営」に取り組んできた。そのきっかけは、先代の小野会長の玄米を発酵させた健康食品との出会いだった。事業を引き継いだ1990年代初めのことだ。自身で効果を確認したのち、1995年からは従業員の健康増進のために、年2回外部から講師を招いて従業員とその家族を対象に「健康講座」を開催し、参加者には玄米発酵健康食品2箱(1万円相当)を無償提供している。
「時代に合った求人活動」として、SNSでの情報発信を開始。最近は20代ドライバーも入社


運送業界は、慢性的なドライバー不足に直面している。フジモト運輸も例外ではない。そこで山本社長は「時代に合った求人活動が必要」と考え、2023年からSNSを活用した情報発信を始め、インスタグラムとYouTubeで若者に訴えかけている。
インスタグラムには求人情報や会社紹介に加えて、若手や女性、ベテランドライバーのインタビュー動画を投稿しているほか、YouTubeには「フジモト運ちゃんねる」を開設。従業員のインタビューとともに、「健康経営」などをテーマとした山本社長のインタビューもアップしている。求人に応募してきた若者が「インスタを見て風通しの良い会社だと思いました」と面接で答えるケースも増えた。「これまでは若いドライバーの採用に苦労しましたが、最近は20代ドライバーも入社してくれるようになりました」と、山本社長は顔をほころばせる。
山本奈美社長の「売上最大、経費最小」経営で収益改善。5ヶ所分散の配車センターなど集約へ

フジモト運輸は、近畿圏を主体に「365日24時間」体制による食品の異温度帯同時配送の小口共同配送を武器に、グループ会社や協力会社を含めて合計100台以上の冷蔵・冷凍トラックを運用するまでに成長した。
山本社長は就任以来、「故稲盛和夫氏が主宰した盛和塾で学んだ『売上最大、経費最小』の教えを大事にして経営にあたってきました」。その結果、収益の改善は進み、銀行からの評価も高まっているが、本社周辺の5ヶ所に分散している配送センターや駐車場の集約という経営課題に直面している。最近はインターネット通販事業者などの倉庫、商品出荷、運送を集約した物流代行サービスも伸びており、倉庫の拡充などサービス体制の整備も重要課題だ。
「私は『人間として正しい方を選ぶ』という盛和塾の教えを守って、経営判断してきました」と語る山本社長。フジモト運輸を次世代への持続的な成長に導くために、どのような施策を打ち出すか注目したい。
企業概要
会社名 | フジモト運輸株式会社 |
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住所 | 京都府久世郡御山町市田新珠城225-1 |
HP | https://www.fujimotounyu.co.jp/ |
電話 | 0774-66-5253 |
設立 | 1973年1月(創業1937年) |
従業員数 | 100人 |
事業内容 | 一般貨物自動車運送事業、第一種貨物利用運送事業、倉庫業など |