日本的経営
(画像=PIXTA)

「日本的経営」が効果的に機能したことにより、戦後日本は目覚ましい発展を遂げ、世界有数の経済大国になった。日本的経営は長期的視点に立ち、人間を中心に考えられており、価値ある経営手法と言える。しかし、時代の変化とともにデメリットが浮き彫りになりつつあるのも事実だ。

日本的経営が生まれた背景やその特徴、メリット・デメリットを理解し、新時代の「日本的経営」と比較しながら、良い部分を経営に取り入れてみてはどうだろうか。

目次

  1. 日本的経営とは?
  2. 日本的経営の特徴
    1. 企業別労働組合
    2. 年功序列制
    3. 終身雇用
  3. 日本的経営のメリット
  4. 日本的経営のデメリット
  5. 日本的経営の代表例
  6. 新時代の「日本的経営」
  7. 日本的経営の本質的価値を見直そう!

日本的経営とは?

日本における、特に昭和の高度経済成長期を支えた大企業の経営手法は欧米とは異なるとされ、「日本的経営」と呼ばれている。日本的経営の特徴は、「企業別労働組合」「年功序列」「終身雇用」という3つをキーワードで語られることが多い。これらは、主に企業の採用や賃金など人事労務管理の分野における慣行を指す。

日本的経営が誕生した背景には、戦後の日本に駐留したGHQや日本政府の政策が挙げられる。しかしそれ以上に、日本人特有の価値観や民族性が反映されていると言えるだろう。日本的経営は、経済性より人そのものを重視し、組織における人の存在や価値を優先することで、企業利益を向上させる手法である。

日本的経営という概念は、アメリカの経営学者ジェームズ・アベグレンの著書「日本の経営」で世界に紹介された。1955年から約1年間、アベグレン自身が日本の工場を現地調査して書かれたこの文献は、後の日本的経営に関する多くの海外文献で引用されている。アベグレンの著書では、日本的経営の3つの特徴を「三種の神器」と呼んでいる。

日本的経営の特徴

日本的経営
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アベグレンが著書の中で紹介した日本的経営の「三種の神器」について、それぞれの特徴を解説する。

企業別労働組合

企業の従業員などで構成される労働組合のような組織は、欧米にも存在する。しかし、欧米の労働組合が職業別・産業別に企業横断的に形成されるのに対し、日本の労働組合は企業や事業所ごとに形成されるのが一般的だ。

企業別労働組合の場合、企業や事業所の従業員であることが構成員の条件であり、ブルーカラーやホワイトカラーといった職種で区別されることはない。また、日本では企業と組合が「ユニオン・ショップ協定」を結んでいるケースが多く、この協定により雇用された時点で組合への加入が義務付けられ、組合を脱退した場合は解雇される。

労働組合を企業や事業所ごとに形成することで、組織運営の独立性が強まるほか、企業の実態に即した労使交渉を行えるというメリットが生まれる。企業の発展という大義名分のもと、企業と労働組合が運命共同体のような関係で生産性の向上や待遇の改善に取り組む姿勢は、戦後の日本経済の発展を支えてきたと考えられている。

年功序列制

年齢を重ねるにつれて企業内での序列が上がっていく年功序列制は、日本的経営を特徴付ける要素の一つと言えるだろう。年功序列制により、原則として賃金も勤続年数の増加にともなって加算されていく。

年功序列制が生まれた背景には、日本人の思想や生活に古くから馴染んでいる儒教の教えがあると言われている。儒教によって日本人には年長者を敬う国民性があるため、企業において年長者が自分より上のポストに就いていることは、当然のこととして受け入れられてきたのだろう。

年功序列制のメリットとしては、企業への帰属意識が高まることや、従業員の連帯感が強固になること、組織内の教育システムを構築しやすいことなどが挙げられる。いずれも勤続年数が長くなることによって生まれるメリットと言えるだろう。逆に、人件費の高騰やぶら下がり社員の増加、若年層における労働意欲の低下などは、発生しやすいデメリットである。

終身雇用

終身雇用とは、企業が定めた定年を迎えるまで、正社員がその企業で働き続けられるシステムである。法律や規則で定められているものではなく、企業が終身雇用を採用していることを判断する方法もない。あくまでも、日本独自の慣習として認識されているものだ。

終身雇用の考え方は、パナソニック(旧松下電器)の創業者である松下幸之助の経営思想から生まれたと言われている。1929年に発生した世界恐慌のあおりを受け、松下電器の工場の稼働率が低下した際、松下幸之助は「生産量が落ちても従業員は1人も解雇しない」との思いから、従業員全員の雇用を維持した。このことによって、松下電器は社員と世の中から大きな信頼を得て、その後急成長を遂げることになる。

松下電器のエピソードからもわかるように、終身雇用の下では企業と労働者の間に信頼関係が生まれやすい。また、従業員を長期的に育成することができるというメリットもある。一方で、雇用の流動性が乏しいため、業界全体の成長が停滞しやすい。従業員の労働意欲が低下することも、リスクとして挙げられるだろう。

日本的経営のメリット

日本的経営
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企業別労働組合は企業や事業所ごとに従業員で形成された組織であるため、組合側は企業の経営状況などをある程度把握していることが多い。したがって、組合と企業の交渉においては、無理な要求をされにくいことが企業側のメリットと言えるだろう。話し合いをスムーズに進められるため、交渉も現実的な着地点に落ち着きやすい。

年功序列制や終身雇用により、数十年単位のスパンで働くことが当たり前と考えられていることも、日本的経営のメリットだろう。短期間では習得しにくいような専門スキルなども時間をかけて習得させられるため、長期的な視点で人材育成プランを考えることができる。

また、一つの企業で長く働き続けられることは、従業員にとっても安心感を得られる要素となる。年功序列制と終身雇用により、自分だけでなく家族にも安心感が生まれ、企業に対する忠誠心も自然と高まるだろう。真面目で勤勉な日本人が、企業に対して高いロイヤリティを感じれば、生産性の飛躍的な向上も期待できる。

日本的経営のデメリット

年功序列制や終身雇用により、労働者が企業に長く在籍し続けることで、組織そのものが硬直してしまうリスクがある。業界内における労働者の流動性が乏しければ、企業内に新しいアイデアが生まれにくくなったり、事業がマンネリ化してしまったりすることもあるだろう。

企業にとっては競争力が低下するおそれがあり、時代の変化にも対応しにくい。人材が流動せず業界全体が閉塞すれば、企業としても業界としても将来の見通しが立てにくくなる。

年功序列制のデメリットとしては、年長者の賃金の高コスト化が挙げられる。年功序列制では年齢を重ねるにつれて賃金も上昇するが、年齢に比例して個人の労働生産性が高まるわけではない。

一定レベル以上の役職者であれば、長年の経験から得た判断力などで組織管理能力を発揮することも十分できるだろう。しかし、年功序列制を採用している企業では、賃金に見合った能力を伴わない従業員が一定数生まれるリスクもある。

年功序列制や終身雇用は、自分の能力や実績がすぐに賃金に反映されないという不満を若手従業員に抱かせかねない。どれだけ頑張っても年齢を重ねることでしか報われないという仕組みは、若手従業員のやる気を減退させる要因にもなり得る。

日本的経営の代表例

従業員を大切にするという考え方を貫き、現在でも日本的経営の精神を持つ代表的な企業としては、前述のパナソニックが挙げられる。創業者の松下幸之助が、世界恐慌の際に大規模なリストラを進言されながらも、従業員を1人もクビにしなかったというエピソードは、現在も語り継がれている。

高度経済成長期を支えてきた大企業の一つであるトヨタも、人を大切に育てる経営を特徴とした企業である。優秀な人材がクオリティの高い製品を作り、それによって事業がうまく進んでいくという考え方が根底にある。従業員が自主的に組織する「トヨタ生産方式自主研究会」は、トヨタの風土が企業内に浸透していることを表している。

大手電気機器メーカーのキヤノンは、日本的経営の考え方をもとに独自の行動指針を掲げている。中でも新家族主義と健康第一主義は、組織における強い集団性や行動性を生み出し、従業員のロイヤリティを高めている。

新時代の「日本的経営」

日本的経営
(画像=Joseph Sohm/Shutterstock.com)

少子高齢化による高齢者の増加と円高による賃金の高騰という、雇用における大きな2つの問題を解消すべく、1995年に日経連が発表した経営改革ビジョンが「新時代の日本的経営」である。「人間中心の経営」「長期的視点に立った経営」といった、従来の日本的経営が持つ良さを残しつつ、無駄な部分を徹底的にそぎ落とそうという考えから作られたビジョンだ。

その報告書では、「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」という3種類の雇用形態を組み合わせた、効果的な雇用ポートフォリオ概念の導入を提唱している。20年以上も前に提唱された概念ではあるが、時代の変化に対応できる雇用システムのベースとして、現在も多くの企業で活用されている。

日本的経営の本質的価値を見直そう!

日本的経営は、長期的な視点に立ち人を大切にするという、日本社会の価値観を反映した経営の考え方である。日本的経営の特徴として、企業別労働組合・年功序列制・終身雇用が挙げられる。

これらの慣習が持つメリットは、日本経済の発展を支えてきた企業経営のベースであり、普遍的な価値を持つと言えるだろう。効率化や合理化が求められる時代において、日本的経営の本質的な価値を見直してみてはいかがだろうか。

文・THE OWNER 編集部

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